少女の本格的な出番は本編終了時空を予定していますので、今回のは先出しみたいなものです
後書きで少女関連の設定アリ
「……はぁ。もう帰ったから、出てきていいわよ」
ノーアポでやって来た二人組を見送った私は、閉ざされた扉の向こうに声を掛ける。
あぁもう、なんだって私がこんなことを……、と。
そうボヤキながら腕を組み、扉をじとりと見つめていれば、そろり、そろりとおっかなげにゆっくりとドアノブが回され、扉が開かれていく。
私はそんなドアの緩慢な解放を見ながら、普段からそれくらい臆病な子だったらもうすこし可愛げがあるのに、などと思った。
「……本当、ですね?」
「ホント、ホント。今ウチに居るのはアンタと私の二人だけ」
少しだけ開かれた扉の隙間から、冷たくてそれでいてトロンと甘い、一見して二律背反的な声が聞こえてきた。
例えるのならば、冷徹な戦乙女のそれと、あどけない幼女のそれとが混在しているような音色だ。
食べ物で例えればそれは、アイスクリームがピッタリか。ヒンヤリ冷たくて、今の時期にピッタリ。つい食べ過ぎてしまいそうになるけど、お砂糖たっぷりで甘すぎちゃって、気を抜いちゃえばすぐにファットに一直線。
「七夜さん……。個体名、遠野志貴さんは、そこにはいらっしゃらないということでよろしいと?」
「あぁもう、しつこいわね! 居ないっつってるでしょ!」
何度言っても信じられない、と同じようなことを尋ねてくる声の主に私は苛立ち、思わず声を荒げる。
途端、シン、と扉の隙間から投げられる声が止まった。
私は、ようやく観念したか、と。
はぁ、と大きめなため息を一度吐いて。
「……嘘だったらあなたの配信機材、全部ショートさせます」
「私ってどんだけ信用されてないのよ!」
思わずの追加攻撃に、がっくり、と肩を落とした。
「……どうやら本当に居ないみたいですね。個体仮称名、藍染ノエル。嘘をついていなかったみたいですね、偉いですよ」
「へーへー、そりゃあどうも」
ガブリ。
今のやや攻撃的な気分を発散するべく、冷蔵庫から取り出したアイスクリームを大口で頬張りながら、雑な返答を返す。
表面にはキャラメル風味のチョコレートがコーティングされていて、中身はバニラなアイス。ついでにおまけのキャラメルエッセンスが注入されている、ちょっとお高めなアイスクリームだ。
感想としてはお値段相応に甘くて品もあって、普通に美味しい。普段の私的にはもうちょっとビターな味が好みなのだが、今は糖分で自分を甘やかしてあげたい気分なのでこれくらい甘ったるくてちょうどいい。
エアコンがガンガンに効いている部屋の中。大きなソファにガバっと身体を投げ出して、雑でお下品な体勢で、獣のようにアイスを楽しむ。
これこそ文明人の幸福である。
口うるさい人間は電気の使い過ぎで地球温暖化がどうの、とか。それで野生動物が追いやられて、だとか言ってくるが、知ったものか。
私に言わせれば、弱い奴が悪いんだから。弱い獣はさっさと淘汰されて、強い人間様の幸福の一助になっていればいい。
……と。
この私に、ずいぶんな不信を抱いてくれやがったメスガキはというと。
「……硬い、です」
対面の床にキレイに正座なんてしながら、その手に持つアイスを齧っては、その硬度のせいで嚙み切れないらしく、首をかしげていた。
「なぜ人間は食品として不適切な硬度をわざわざ付与しているのですか……? きわめて非効率的です。信じられません。あむ……、硬い……」
「噂によると釘とか打てるらしいわよー、それ」
彼女が持つアイスは、この国特有の小豆を原料としたもので、巷ではその硬さで人を殺せる、だとか、銃弾を弾く、だなんてネタにされている一品だ。
名前はわかりやすく、小豆製の棒アイスなので小豆棒。棒、のところを簡素に読み上げるのが主流で、みんなしてそれをあずきボー、なんて読んでいたりもする。
英語圏出身な身としては、ボー、というより、バーの方がしっくりくるが、まぁジャパンの商品だしね。
「食べ物で、釘……?」
ちゅぽ、とやや下品な音を立てながら口に咥えていたアイスを取り出し、まじまじと信じられないものを見る様にして翳す幼女。
まぁ、気持ちはわかる。フランス出身の身としては身近なお菓子というのは焼き菓子がメインであったが、それらと比べたってあまりにそのアイスは硬すぎる。
「奥歯でかみ砕くか、ゆっくり舐め溶かして食べれば?」
「そうするしかなさそうですね……。……、つめたい」
「そりゃアイスだしねー」
ぺろぺろ、と小さな舌先でアイスの表面を猫のように舐め始める彼女。自然と憎たらしい口はきけなくなる。
(黙っている分にはまだ、可愛げがあるんだけどねー)
ヒンヤリとしたアイスの表面に、すぐさま舌がくっついてしまったのか「むむむ……」と難しい顔をしている幼女を見て苦笑する。
アイスを手でちょっと遠ざければ、パッとすぐにくっついた舌先は剥がれる。
それに気分を良くしたのか無表情に少しの満足さを足したような顔を彼女は浮かべた。まぁ、無表情なことに変わりはないのだけれども。
(志貴君も変なのばっかりに好かれて大変ねー)
心の中で、この世界で唯一の同郷である文学少年の顔を思い浮かべる。
幼女は先ほどの扉前の攻防でもわかる通り、どういう訳か志貴君に対し、特別な思いを持っているようだった。
その想いがどれくらい、なんて具体的な数値はわからないけれども。
直接顔を合わせるのは勇気がまだ出ないから、と隠れ続けるくらいには意識しているらしい。
「……なんですか、じっと見て」
「んーん、なんでも」
じ、と目の前の幼女の姿を再確認するようにして見つめる。
座っているから正確な数値はわからないが、身長は百四十くらいか、それよりもやや小さいほど。
顔立ちはムカつくことながら極めて整っていて、ある種の芸術品の様だ。
特徴的な白く長い髪は腰のあたりまで伸びており、特別、結ったりなどはしていない。
パッと見では小学校高学年ほどの容姿であるのだが、浮かべる表情があまりにも冷たく、大人び過ぎているために、プラスで四、五歳ほど上に捉えてしまいそうになる貫禄がある。
まぁざっくりというのならば、要は非常に愛らしい、お人形のような幼女だ。非常にムカつくこと、この上ない。
(まぁ、志貴君って別にロリコンじゃないでしょーし。変なことは起きないでしょ)
彼女が抱く想いがどういった種別のモノなのかは私にも判別がつかないが、たとえそれが禁断のソレだとしても、当の相手が変態じゃなければ成り立つはずもなし。
恨むのならば、もう少しばかり大人びた、ザ・お姉さんのような見た目でない自分を恨べばいい。
こちとら、あっちの世界でも私ルートと呼べるものが万に一つも生まれえなかったってんだ。
ポッと出のガキンチョに先を越されたらたまったもんじゃないっての。順番を守れ、っつー話。
(……そーいや)
そこで、彼女の顔を見つめていた私はふと、とあることに気が付く。
(志貴君が連れてきた女の子。なんていったっけ……、かぐや、だったっけ?)
配信者として伸びるには? と聞きに来たあの元気いっぱいな少女の姿を思い返す。
あの活発さ、目の前の幼女とはまさしく正反対と呼ぶにふさわしい暴れ具合であったのがだ……。
(なーんか、似てるのよね)
私には、あの少女と目の前の幼女との姿とが、どこか一致して見えて仕方がない。
私は……。
「なんですか、さっきから。見過ぎです……。アイス、交換したいんですか? ダメですよ、いやしんぼですね」
「誰がよ!」
と。
思索を深めようとする直前、声を掛けられ現実へと引き戻された私は幼女の物言いに反発する。
それから対抗として手に持つキャラメル味のアイスを全部、口の中へと放り、さっきまでの思い付き何て、すぐに忘れ去ってしまうのだった。
〈記録〉謎の少女について
外見は幼い少女のもので、容姿は極めて整っており、星を連想させる可憐さを持つ。
特に目立つのは髪の毛であり、シルクの如き白髪を腰のあたりまで伸ばしている。
表情は常に氷のように無で、声のトーンも平坦がデフォルト。会話中ではニコリとも笑わず、読書やゲーム中などでもそれは変わらない。
同居人の女曰く、AIの方がまだ人間味がある、とのこと。
唯一、彼女が感情を露わにするのは、七夜こと遠野志貴関連の動画を見ている時であり、その時だけは感情の堰が敗れたかの如く、その容姿に見合った言動を繰り返すようになる。
彼女曰く一生の推し、とのことだが、どのような経緯でその思考に至ったかまでは未だ不明である。
少女はどのように獲得したのかは不明だが、デジタル方面にめっぽう強く、ハードからソフトまで、あらゆる分野で熟練の技術者顔負けの知識と技術を示す。
同居人のノエルと出会ったのは志貴がこの世界に来てからすぐのことで、この世界では比較的機械に疎い立場である彼女が問題なく配信者活動を行えたのも少女の協力があってのことであった。
少女はノエルの住むマンションの一室にて彼女と共同生活を行っており、家から出ることは極めて稀である。
室内では基本的には寝ているか、あるいは起きている時にはどこからか入手した七夜の戦闘のキャプチャ映像をループ再生で眺めては、満足げに頷き、これまたどこからか手に入れたサイリウムを両手に推し活に励んでるとのこと。
ノエルは「動かないでいると奇妙だし、動き出しても奇妙なの、ホントやめてほしい」とそう思っているが、配信業に彼女の存在は不可欠のため文句を言わず耐え忍んでいる。
学校には行っておらず、興味本位で少女の身辺調査を行ったノエルだが、戸籍そのものが見つからなかった。
腐っても代行者である彼女が調べたというのに痕跡一つ見当たらないので「あっ、こりゃ厄ネタだわ」と弱者特有の嗅覚を発揮させたノエルは以降、詮索を辞めている。
……余談だが、少女は意外にも熱心なツクヨミユーザーらしく、定期的にあちらの世界に足を踏み入れては、満足そうに帰ってくる。
彼女が用いるアバターはどうやらノエルのトラウマを少し刺激してしまうらしく、一緒にログインすることは殆ど無い。
曰く「あのクソったれの祖の化け物と、ところどころモチーフが一緒じゃないのよ!」だとか。
名前はまだない。
ノエルは「名前がないと呼びづらいじゃない!」と適当に名付けようとしたが、少女は断固拒否を行い、今に至る。
曰く、「名前を付けてもらえるのならば、他の人が良い」とのこと。
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ぶっちゃけたテーマとして、七夜といえば……なロリっ娘を出したい! けど、設定的に難しい! と苦心した結果だと思ってください