総耶って勝手に地方だと思っていました(旧作の三咲町と同じとばかりに)
ガッツリと都心らしいので、一部これまでの話を修正する予定です(が、本編には一ミリも関係ないのでご心配なく)
なお、地方から引っ越してきたなどの言い訳はそのまま引き続き使用していますので悪しからず
「じゃあアレは?」
「アレ……?」
諌山さんの発言にそうオウム返しをする。
アレとはいったい何なのか。諌山さんは懇切丁寧に、説明をし始めてくれた。
「スマコンって要はコンタクトレンズじゃん? つまりは薄ーいフィルム状なわけよ」
「ふむふむ」
「だからそれを目に付けるんじゃなくてさ。実際に使っている眼鏡のレンズに張り付けるってタイプの商品があるんだよね」
「あー、あったねぇ。そんなヤツ」
「大体みんな、スマコンの上から眼鏡をかけたり、そもそも度入りのスマコンを使うからあんまり有名じゃないんだよね。真美ってばよく覚えてたね」
いやー、と二人に褒められて満更でも無さげな表情を浮かべる諌山さん。
なるほど。つまり、新たに別の眼鏡をかけることなく、あくまで今使っている眼鏡にプラスアルファの機能を上乗せする、そんな商品があると。
って……。
「……それだよ、諌山さん!」
「ひゃっ、遠野君!?」
ガタン、と俺は自身の興奮を抑えきれず席を立ちあがり目の前に座る彼女の両の手を持ち上げた。この昂りを直接伝えるように、ぎゅうと彼女の手を握る。
(まさか、そんな都合のいい製品があるだなんて!)
一度は縁無き未来の技術か、と諦めてしまったが故にもしかしたら、といった可能性に浮かれた俺は興奮してしまう。
通常、普通のコンタクトならば眼鏡の内側に入ってくるから、コンタクト自体の死の線で俺の視界は覆われてしまうことになる。そんなことをしてしまったら常時、死の線に俺は晒されてしまうことになり、すぐにでも頭がパーだ。
だが眼鏡の外側となるなら話は別だ。眼鏡の外なら死の線は見えない。
この、魔眼殺しの眼鏡を外すことなく、その上で未来の超技術を楽しめるだなんて……。
「まぁ、やっぱ普通はスマコンとかスマートグラスを買うし、わざわざそう言うのを買う人って少ないからちょっと高いんだけどね」
「スマコンが大体、十万円くらいだとして、そっちだと十五万くらいだっけ?」
「くっ、高い……!」
具体的な金額に尻込みをする。
しかし、やはり欲しい。
せっかくだから俺も空中に浮かぶテレビ画面だとか、仮想世界のツクヨミとやらに行ってみたい。というか、それくらい楽しませてもらえないと本当にあのネコに良いようにされているみたいで癪だ。
十五万円、十五万円か……。
生まれてこの方ずっとお小遣い生活の俺にはちょっと想像できない金額だ。有馬の家に居た頃もそうだし、遠野の屋敷に戻ってからは俺の財布は情けないことに妹の秋葉に握られてしまっていた。
何とかならないものか。
「あのぉ……、そろそろ離してもらえると。すっごく助かるかなぁ、なんて思ったり、思わなかったり……」
「あっ、ごめん!」
金の工面を脳内で行っていた俺はそろり、と申し訳なさそうにそう話しかけてくる諌山さん。
どうやら俺は興奮して握ってしまった手をずっと握り続けてしまっていたらしい。
慌てて俺は手を離し、彼女に謝罪した。
「……遠野君ってば顔に似合わず肉食系?」
そんな俺たちの様子を見てクスクスと笑いながら茶化してくる綾紬さん。顔に似合わずって、俺ってばそんなに草食系に見えるのだろうか。アルクェイドやシエル先輩にも前に言われた気がするんだが。いや、ナヨっとしているのは自覚しているんだが。
「真美は彼氏持ちだから、そこんとこよろしくね?」
「いや、ホントにごめん……」
「良いって、良いって! 知らなかったんだしさ、顔上げてよ!」
そう諌山さんが言ってくれるのなら、と俺はゆっくりと下げた頭を上げる。
しかし本当に申し訳ない。そもそもが知り合って数時間で手を握る、って時点でどうかしているのに、それに加えて異性の、更には恋人もいるような人の手を握るなんて。
「お詫びってわけじゃないけどさ。何か俺にしてほしいことがあったら言ってくれると、助かる」
「えー。急にそんなこと言われても……」
ただいくら諌山さん本人が許してくれたとは言え、それでおしまいじゃあ俺が俺を許せない。
困惑気味な表情を浮かべながら、「うーん、うーん」と何かないかと思案する諌山さん。
暫くして彼女は何かを思い付いてくれたのか、「あっ!」と声をあげながらポンと両の手を合わせた。
「それじゃあ遠野君の恋愛遍歴教えてよー。お詫びとして、さ?」
「俺の恋愛? そんなの、面白くないだろうけど」
「いやいや、人の数ってのはイコール恋の数! 結局、コレより面白い話題も存在しないって!」
そう言うモノ……なのか? 他人の恋愛の話なんか聞いても楽しくなんかなんともなさそうだが。
「あー、私も興味あるかも。遠野君って、なんかモテそうだし」
「私も、割と……。引っ越しとかしてるし、もしかして遠距離恋愛とか?」
「別にモテないよ……。普通だよ、普通」
綾紬さんと酒寄さんも興味が引かれたのか、こちらをジッと見つめてニコリと笑う。動物園の動物になったような気分だ。もしくは映画館のスクリーン。
これから面白いモノが見れるぞ、と期待に瞳を輝かせている。
女子って本当に恋バナが好きな生き物なんだな。てっきり空想の中だけだと思っていた。
しかし諌山さんが聞きたい、というなら話さないわけにはいかない。何でも良いから、と言ったのはほかならぬ自分自身なんだから。
「まぁ、別にいいけどさ。……とは言っても俺、恋人とかこれまでで一人しかいないぞ」
「いいのよ、いいのよ一人さえいてくれたら! なんならいなかったらいなかったで、それはそれは美味しいんですけどね?」
「はぁ……」
じゅるり、と垂れる涎をふき取るような仕草をする諌山さん。大好物を前にした獣の如し、だ。
俺にはよくわからん感性である。
「で、その人とはまだ続いてるの?」
「あー、うん」
「それじゃあ引っ越す前のとこの人なの? 彩葉の予想通り、遠距離恋愛とか?」
「まぁ、そうなる……のか?」
「おー、遠距離恋愛! なんか燃えるねぇ。手紙とかやり取りしちゃうの!?」
「……圧が凄い」
女子三人寄ればなんとやら。そこに恋バナとか言う油まで挿してしまったら、もう止まらない。
ぐい、ぐい、ぐい! と三人がそれぞれ少しずつ寄ってきて俺は質問攻めにあう。
いつの時代でも学生は娯楽に飢えているらしい。それは十五年以上後でも変わらないようだ。
「出会いはどんな感じ? やっぱクラスメイトとか!? はたまた幼い頃に結婚の約束をした幼馴染とかだったりして!」
「いや真美、それは漫画の読みすぎだって。きっと部活とかで一緒になったこと少しずつ話すように……、とかだよ」
「遠野君、彼女さんの写真とか持ってないの?」
「写真……?」
写真って、アルクェイドの?
どうだろう。あんまり俺は写真を撮るようなタイプじゃないから撮ってない気もするし、覚えていないだけで一枚、二枚くらいは記念に撮っていてもおかしくない気もする。
俺は携帯の写真フォルダを開き、ここ数か月の写真を確認する。
と言っても、目的のアルクェイドの写真はすぐには見つからず、バスや電車の時刻表だとか、学校の掲示物だったりとかのメモ代わりの写真ばかりが出てきてしまった。
……と。
「あった……」
暫く探し、ようやくアルクェイドの映っている写真を発見。
これは、あぁそうか。初めて一緒に買い物に行ったときに、記念にと二人で並んで撮影したんだったか。
「見せて見せてー」
「私も見たいな」
「あ、私も」
そうおねだりしてくる三人に「はい、どうぞ」と携帯をそのまま手渡す。もちろん、画面には先ほど見つけたばかりのアルクェイドとのツーショットを表示させて。
どれどれ、とまるで骨董品の目利きをするように目を凝らしながら画面へと視線を落とす諌山さんたち。
そして……
「ぎょえーッ!?」
「えっ、急にどうしたの!?」
信じられないものを見てしまったような、真に驚いた表情をして口を大開にする諌山さん。
他の二人も彼女ほどの大げさな反応はしていないが、しかし信じられない、といったような表情を浮かべている。
「急にどうした、じゃないよ!? 何なの、この金髪美人は!? 遠野君の彼女が外国人の美女だなんて聞いてないよ!?」
「いや、そりゃあ言ってないし」
「言ってよ!!」
「そんな無茶な……」
バッ、と画面上のアルクェイドの顔を指さし叫ぶ彼女。驚きのあまり、言動が支離滅裂だ。
「いやぁ、これは私もビックリだよ。生きてて見たことないし、こんな美人……」
「人間ってより、お人形みたい……。写真だとすっごい笑顔だけど、もし真顔だったら疑ってたかも」
実際は人間でも人形でもなく、吸血鬼ですって言ったらどんな顔をされるのだろう。もちろん言わないけれども。
しかし、あれだ。
言われてみれば俺はアルクェイドの美貌に慣れてしまいすぎていたが、彼女はそう言えばとてつもない美人なのだった。
俺としては顔が綺麗、ってのよりもその中身の突飛さのが印象に強いからつい忘れてしまっていた。
「どうやって知り合ったの!? 普通に暮らしてて会わないでしょ、こんな人!」
「どうやってって……、えっと。街で偶然見かけて、追いかけて、そして……」
まさか家に押しかけて十七分割にしました、なんて言えるはずもなく。
「声をかけた、みたいな?」
「まさかのナンパ!? やっぱ遠野君、メチャクチャ肉食系じゃんか!!」
マイルドに誤魔化してみたが、どうやらあまり意味は無かった様子。いや、そりゃあそうだ。彼女たちの反応の方が正しい。
俺がアルクェイドを殺してしまった、という殺したという部分の強烈さに目が行きがちだが、普通に考えて街中で見かけた女を追いかけている時点でヤバすぎるのだ。
「はえー。人間、見た目によらないって言うけどねぇ」
「まさか遠野君がナンパ師だっただなんて」
「人聞きが悪い! 俺が声をかけたのはアルクェイドただ一人だ!」
「一人居る時点でもう十分だよ……」
……と、楽しい転校初日の休み時間はこうして恋バナで消化されていく。
少し俺が思い描いていた未来の世界での生活とは違うかもしれないが、こういう時間の過ごし方も別に嫌いではない。
そうこうして、気が付けば休み時間も残り五分となり、各々が昼食を終え完全に雑談へと移動していた。
「あっ、ちなみにだけど私は今フリーで、彩葉は……」
「私はヤチヨ一筋」
雑談へと移動していた、とはいっても一度色恋の方向へと舵を切ったからにはそう簡単には逃げ出せないと、いまだ少し恋色の会話を続けている。
というか、美人な綾紬さんに恋人がいないこともびっくりだが、それ以上に酒寄さんだ。
そんな具体名を出されましても……。
「……誰?」
この俺にわかるわけがないのだ。誰だ、ヤチヨって。クラスにそんな男子はいただろうか。
「はぁっ!? ツクヨミどころか、あの月見ヤチヨを知らないっての!? 控えめに言って人生の大半を損しているよ!?」
「うおっ!?」
だがどうやらそんな俺の態度が地雷だったのか、酒寄さんが一気に爆発する。今日一番の大きな反応だ。さっきまでの恋バナなんて比にならない。
そもそも酒寄さんて、こんなに感情を表に出すことあるんだ。
勝手な印象だが、彼女はどこか誰に対しても一線を引いて、ここまで自分を曝け出すことなんてないと思っていた。
いや、中の良さそうな諌山さんや綾紬さんとのさっきまでのやり取りを鑑みるに、その予測は大きく外れてはいないと思うのだが。
それだけ彼女にとって大きな存在なのか。
ヤチヨ……、月見ヤチヨって。
「ヤチヨはまず八千歳のAIライバーで、歌って踊れる大天才! そんでもってさっき言ったツクヨミの管理人もしていて……」
「はーい、オタクをまろび出すのは程々にねー。ごめんね遠野君、彩葉ってばヤチヨが関わると途端に人が変わるんだ」
「あ、うん……。みたい、だね」
見ていればわかる。今の酒寄さんは、なんかヤバい。
「はぁ……」
そんでもってそんな酒寄さんを見てなぜか慈しむような表情を浮かべながら声を漏らしている綾紬さんも同じくらいヤバい。
もしかしてこの中で一番のバランサーって諌山さんなのだろうか。
――結局、酒寄さんの暴走は授業開始直前のチャイムが鳴るまで続くのだった。
そしてその日の授業が全て終わり、これからあのアパートに帰るとなった時。
トントン、と隣の席に座る酒寄さんが俺の肩を軽く叩いて来たのでそちらを向く。
「遠野君、お金欲しいんでしょ? ……私のバイト先、興味ない?」
「あー、やっぱ志貴じゃああの目に貼る奴はダメだよね。下手したら視界全部が死の線だらけになるし」
「よしんばそのツクヨミとやらに行けても、今度はそちらの世界の死の世界を垣間見ることになりそうですしね」
「どうにかなりそうでよかったぁ。人間ってホント、こういうコトに備えて! みたいなの作の好きよねー」
「だからこそきっと、人間は今日まで発展できたんでしょう」
「あちらの世界での十五万円。レートはこちらの十万円があちらの五千円であることを鑑みるに、必要な金額は三百万円ですか。琥珀?」
「はいな!」
「あれでも兄さんは遠野家の長男。それ相応の暮らしをしていただかなければ、我が家の格が疑われます。わかっていますね?」
「了解ですとも! 至急、用意いたします! 大きさのほどは如何ほどに?」
「そうね……。とりあえずあちらの世界での百万円くらいをお願い」
「いやー、愛されてるなぁ私! というか、あの日にごねて写真撮ってよかったー!」
「五月蠅いですよ」
「なぁにシエル? 負け惜しみ?」
「ふん、好きに取りなさい。余裕ぶっていられる今が花ですよ」