次回がまあまあ長くなりそうだから、頭の部分だけ別に切ったと思ってください
「それじゃあ、また明日」
「うん、また明日」
アパートへと到着した俺達はあの金属製の階段を登り、それぞれの部屋の前へと帰ってきていた。
彼女の持つビニール袋から俺の分の賄いが入ったタッパーを受け取り、左手に抱る。ほんのりと温かいが大分冷めてしまっているのでレンチンでもしたいものだが、当然レンジなど持っていないので諦めるしかなさそうだ。
ポケットに入れておいた自室の鍵を取り出し、ドアノブに差し込み回す。
カチャリ、と心地よい開錠の音が……、音が。
「しない……?」
「どうしたの?」
「あ、いや。なんか今朝急いでたからか鍵を閉め忘れてたっぽい」
「えぇ……? 不用心なんじゃない?」
返す言葉もない。
まぁ強いて言うのなら、盗むようなモノなんて本当に何一つ置いていないから盗みに入られても大丈夫ではあるってのはある。言葉の通り、もぬけの殻だもんな。
とはいえ流石に初っ端から鍵をかけ忘れるのはダメだろう。
「もう、気をつけなね?」
「あぁ、そうするよ」
そう二人、顔を合わせて苦笑をして今度こそ「また明日」と別れの挨拶を口にしドアノブを捻る。
きぃ、と鈍い音を立てて抵抗なく回っていくドアノブ。
ぎぎぎと蝶番が唸りながら奥開きの扉は開き、室内と室外との境界は失われていく。
そして……
「――っ!」
扉を開いた瞬間、室内に人影を捉えた俺は滑り込むように室内へと入り込む。
姿はハッキリとは見えない。昨夜、真っ先に知ったこの部屋の事情なのだが、天井の明かりの電球が切れてしまっているのだ。
それでも真っ暗でないのはカーテンすらないから月明りが差し込むおかげだろう。
部屋の中央で、こちらに背を向けながら何かを――おそらく缶ビールか何か――口に運んでは、床に置いたスナック菓子を口へと放っている何某か。
おそらくホームレスか何かが鍵のかかっていない部屋を見付けて、寝床にしようとしたのではないか。これといった荷物が一切ない部屋だから、ただの鍵の賭け忘れだと勘違いしたのだと予測できる。
足音は立てない。呼吸音も消す。心音すらも必要ない。
イメージは地面に落ちる羽のように、触れるのが先か、風で舞うのが先かの一瞬勝負。
念のため、ポケットからあのナイフを取り出し握りこんだ。一応、刃はまだ出さない。そんなヘマをするつもりはないが、怪我をさせては面倒だ。
玄関入り口からヤツの位置まで凡そ五メートルほど。
そのくらいの距離、移動は一瞬で終わった。
「――動くな」
ピタリ、と人影の後ろに回り込み刃をしまった状態のナイフを首へと宛がう。
左手は反撃を抑え込むために影の肩の周りに回し入れ、両足で初動に必要な腰回りも抑え込んだ。
完全に、これでコイツの動きは封じ込められた。
何かしようとするならば、それよりも先に俺が先手を打てる体勢。起き上がるのならば腰を、振り向くなら首を、反撃するのなら腕を、動き回るならば前進とを攻めればいい。
そして自身の安全を確保した俺は、いったいどんな奴が俺の部屋に入り込んできたのかと確認しようとして……
「ギャーっ!?」
「うるさッ!?」
そして突然の叫び声に耳が行かれそうになる。
耳がキンキンするようなほどに甲高い声ではないが、どちらかと言えば耳障りだと言える程度には癖のある声。
その声に、俺はなんだかすごく聞き馴染みがあって……。
そして、その声の主の顔を確かめてその既視感に納得する。
「……何してんですかノエル先生」
プルプルと震えながら青ざめた表情を浮かべる茶髪の妙齢の女。
ちらり、と怯えがちにこちらへと目線を向ける彼女。
それは今日、学校で懲りずに教育実習生として登場しクラスの男子の視線を根こそぎ奪っていった藍染ノエル、その人なのであった。
「……代行者って、もうちょっとくらいマシだと思ってたんだけど」
「……言わないでください。あれでもシスターノエルは、シスターノエルなりに頑張っているんですから」
「でも素人の志貴に速攻で抑え込まれてるわよ? いくら奇襲とは言えさ」
「……」