親愛なる隣人(笑) 作:TMG chicken
「へ、変態だ」
「変態が二人いるぞ」
「「変態じゃない!!」」
カメラを向けながらそうざわめき出す野次馬たちに、僕と鎧の男は同時に叫んでいた。
そしてそのことに気がつくと、また睨み合いに戻った。
「君、そんな鎧を着て何をしてるんだ?」
「見たらわかるだろ、強盗だよ」
「それは犯罪じゃないか」
「お前の公然わいせつも犯罪だろうがぁ!!」
鎧の男は怒っているのか尻尾をバシバシと地面に叩きつけながら、僕のスーツを指さして叫んだ。
感情に任せて尻尾が動いているということは、神経が接続されているのか?
「ぼ、僕がデザインしたわけじゃない!」
「でもそれを着て外に出る選択をしたのはお前だろぉ!」
「うっ」
その指摘に、僕は何も言い返せなかった。
顔を隠すだけなら、紙袋に穴でも空けて被るだけで良かったんだ。
ゴブリンの厚意を無下にはできないと思って着たのが間違いだった。
「うう、こんなスーツ、もう早く脱ぎたいよ……」
「ここでか!?」
「ここでとは言ってない!!」
やってられるか! こんな漫才!
僕は地面に叩きつけられた尻尾をウェブで固定すると、シンプルに真正面から殴りかかった。
しかし、鎧の男は僕の拳を片手で軽々と受け止めた。
「なっ――!?」
僕の肉体は強化されているはずだ、ビルの間のスイングに耐えうるほどに。
そんな僕のパンチは、まともな人間に受け止められるはずがない。
緑色の鎧から、モーターか油圧シリンダーか、何かしらの駆動音が聞こえてくる。
「パワードスーツ……!?」
「お前のタイツと違って、こっちは金のかかったスーツなんだよ!!」
機械の尻尾はいとも簡単にウェブを引きちぎると、鎧の男によって僕に向かって振り落とされる。
「ぐっ――」
逃げようとするも、僕の片手は鎧の男に掴まれたままで動けない。
尻尾の尖った先端が、僕の顔面に迫る――!
「これしき!」
開いているもう片方の手で、尻尾を掴んで、顔面に突き刺さる寸前で止める。
だが、これで僕の両腕は封じられた。その反面、鎧の男の左腕は、まだ空いている。
鎧の男はにやりと笑うと、その左腕を、大きく振り上げた。
『胴体がガラ空きだ!』
突如、耳元でゴブリンの電子音声が流れる。
僕が今使えるのは、足だけ。
無防備な胴体に、全力で蹴りを叩き込む――!
「グエッ!?」
鎧の男は、振り上げた拳を使うこともできず、後ろに飛ばされていった。
その胴体を覆う鎧には、ヒビが入っている。
「テメェッ! このスーツ高かったんだぞ!?」
男は胴を指さしながらそう叫んだ。
僕の攻撃は、普通に通るようだ。
『これで、わかったね』
「ああ」
耳元の音声に、僕は頷いて返事をする。いや、頷いてる姿は見えてないか。
掴まれた手を振り払えなかったことから、パワーは鎧の男のほうが強い。
でも、予備動作を先に行っていた向こうよりも早く攻撃できた僕のほうが、スピードは上だ。
さらに、相手の力の源はあのスーツみたいだから、あれさえ破壊できれば、僕の勝ちだ――!
『つまり、君と死ぬほどやった避けゲーと同じだね』
避けゲーなら、ネッ友のゴブリンと何度でもやったことがある。
この戦い、勝てる!
「高いスーツねぇ。それに、尻尾……。君ってもしかして、
「舐めやがってェエエエエエ!!」
挑発に乗ったケモナー男は、起き上がってそのまま突進してくる。
わかりやすい直線的な動き。
避けるのは、死ぬほど簡単。
「ふっ!」
衝突寸前で、横に跳ねる。
射程が長い尻尾にさえ気をつけていれば、避けるのは容易だ。
ウェブシューターを構えて、男の両足を糸で絡める。
急に足が動かなくなった男は、つまずいて地面に転げ落ちる。
「どうしたんだい? 猿のコスプレしてるなら、こんなのくらい簡単に避けると思ったんだけど」
「猿じゃねぇ、
ケモナー――じゃなかった、サソリ男は、尻尾で僕のウェブを引き裂くと、起き上がって再び突進を始める。
「単調だね、スコーピオンくん!」
そうは言ったものの、同じ手が二度通用するとは限らない。
僕はスコーピオンが近づく前に、ビルの壁に飛び移ってできる限りの高さに登った。
そして、地面に転がっていたATMの破片にウェブを繋げて、メテオハンマーの要領で振り回す!
「うごぉッ!?」
メテオハンマーは見事に、スコーピオンの左足の鎧を砕いた。
左足のパワードスーツが機能を停止したのか、スコーピオンはバランスを取るのに苦戦してフラフラしている。
しまいには、尻尾を左足の代わりに地面に突き刺して支えとするくらいだ。そこまで、あの鎧が重いということだろう。
「まだ、まだァ!」
鎧がボロボロになっても、スコーピオンはまだ戦うつもりのようだ。
「そんな装備で大丈夫か?」
「人をおちょくりやがってェ!!」
「そこは『大丈夫だ、問題ない』でしょ」
スコーピオンは僕がそんな軽口を叩いている間に、欠けた鎧の破片を掴んで僕に向かって放り投げた。
上半身のパワードスーツはまだ機能しているようで、投げ込まれた破片は僕の頭のすぐ横の、煉瓦でできたビルの壁に見事に突き刺さった。
『君ちょっと煽りすぎ! 戦いに集中して!』
しまった。対戦ゲームの感覚で相手を煽ってたけど、ここは現実だ。
相手が起これば怒るほど見境がなくなるし、互いに中距離攻撃を行ってる今は、周りの誰に被害が出るかわからない。
甘かった!
「――ちょっと本気モードで行くよ!」
狙うのは、スコーピオンが破片を拾うためにかがむその一瞬。
破片を掴んだその手を、ウェブで地面に固定する。
「なっ――」
手を固定されて、胴体は起こせない。尻尾は、体を支えるために地面に突き刺さってすぐには抜けない。
完全に、無防備な状態だ。
そんな状態の横っ腹に、スイングして全力の蹴りを叩き込む!!
「今度は、当たれぇええ!!」
初っ端に繰り出して、見事に避けられたこの蹴り。
だけど、動けなくなっている今なら――!
「グッハァ――!?」
僕の蹴りは、直撃した。
スイングによる振り子の原理で加速した僕の蹴りは、スコーピオンの鎧を、粉砕した。
スコーピオンはそのまま吹き飛んでいった。地面に突き刺さった尻尾も勢いで周りの地面をえぐり取りながら抜け、そしてアスファルトの地面の上でしばらく転がった後、車にぶつかって停止した。
『……僕が言うのもあれだけど、ちょっと、やりすぎかな?』
舐めすぎてたから気を引き締めてたけど、今度は力を込めすぎてしまったかもしれない。
それだけ、僕が手に入れた力が恐ろしいってことか……。
僕はまだ、この力の限界を試したことがない。
どれほど強いパンチを出せるか、全力で走ったらどれくらい速いか、まだ自分ではわからない。
「……生きてる?」
動かなくなったスコーピオンを見て、僕は不安に襲われた。
力を制御できなかったか?
僕が、殺してしまった?
「スコーピオン……?」
帰ってきたのは、かすかな呻き声だった。
「……やっぱり、ケモナーはしぶといね」
「ケモナー、じゃ、ねぇって……!」
スコーピオンは、動かなくなったパワードスーツの重さに負けたのか、起き上がるのに苦戦している。
動力が亡くなったのか、尻尾も力なくぶら下がったままで動かない。
「……しばらく休んでた方がいいよ」
僕はスコーピオンの四肢をウェブで固定すると、元いた場所に戻ろうと跳び上がってスイングを始めた。
心臓がバクバクと鳴り響いている。
僕は、危うく人を殺すところだった。
人を殺そうとしたあいつは、殺されて当然の男だったかもしれない。
でも、僕は危うく、人を殺すところだったんだ。
あいつのように。
「――ぁ」
先程、おじさんを殺した男がいたところ。
そこには、ウェブに貼り付けられたジャケットが残っているだけで、男はいなかった。
「逃げられた、か」
後少しのところまで追い詰めたのに、どうすることもできなかった。
『仕方ないよ。邪魔が入ったんだから』
「二度とないチャンスだった」
『今日はもう見つからないよ。帰ってゆっくり休んだほうがいい』
あの男に、僕の姿を見られた。
これからあいつは、自分を狙う者がいると知って警戒するだろう。
そうしたら、あいつを見つけるのはますます難しくなる。
僕は、唯一のチャンスを逃してしまったのだ。
筆が遅すぎるせいで、ストックがあと1話しかないです……