妖怪のせいじゃない! 作:覇道
イカカモネ議長、トキヲウバウネ、ゴゴゴ・ゴッドファーザー、そして空亡。世界の存亡を揺るがした苛烈な激闘の記憶は、季節がめぐるうちにどこか遠い日の夢のように薄れ、天野ケータにはごくありふれた、何の波乱もない日常が戻っていた。
平穏な日々の中でもケータは数多くの妖怪たちと友達になり、妖怪マスターまであと一歩といったところまで来ていた。
「ふぁ~、日向ぼっこは最高だニャ~ン……」
「もう……ジバニャンは仕方ないなあ」
午後三時を過ぎた教室の床、西日が長く差し込む板張りの上で、ジバニャンが気の抜けた毛玉のように伸びている。ケータはちらりと遠くの席で友達と喋っているフミちゃんへと目をやる。
さくらニュータウン中学校、一年二組。出席番号一番、天野ケータ。一番なのは小学校の頃から相変わらずだ。クマとカンチは三組になった、別々のクラスになってしまい少し寂しい。
それでもフミちゃんと同じクラスだったのは最高だ。しかし席替えのくじ運が悪く、ケータとフミちゃんの席は対角線上の端と端。遠く離れたフミちゃんの後ろ姿を眺めるだけで一ヶ月が過ぎ去っていた。
「あーあ。早く席替えの日、来ないかな」
憂鬱とともに愚痴を吐き出す。目の前にふわふわと浮かぶ、ソフトクリームのような形をした妖怪──ケータの執事のウィスパーは慰めるような視線を向けた後口を開いた。
「ケータくんが入学してからちょうど一ヶ月。学校の恒例行事としても、そろそろのはずでうぃすよ!」
「だよね! 次こそフミちゃんと隣になれたら最高なんだけどな」
その淡い期待が通じたのか、五月の第二週、月曜のホームルームで担任がおもむろに銀色のくじ箱を抱えて教壇に立った。
一人一人、くじ箱の中に手を突っ込んで番号が書かれた紙を引いていく。ケータは友達であるツチノコや座敷わらし達の力を借りるか迷ったものの、最終的に自力でくじを引いた。
「はい、じゃあ移動して」
がたた、と床を擦る机の音が響く。歓声と落胆が入り混じる教室で、ケータが引き当てたのは十四番。廊下側の前から三番目、悪くない。
だが問題はそこではない。祈るような思いで見守る中、フミちゃんが向かったのは廊下側の一番後ろの席だった。
小さく微笑むフミちゃんが見える。隣ではない。けれど、以前の絶望的な距離に比べれば遥かに近い。思わず小さく拳を握りしめると、振り返ったフミちゃんと視線がぶつかり、悪戯っぽく笑いかけられた。心臓が跳ねる。
「おやおやケータくん、顔がだらしなく緩みきってますよ」
「う、うるさいなあウィスパー!」
教室のざわめきが落ち着き、全員が新しい席に収まった時、教卓に残された箱を覗き込んでいた担任が、怪訝そうに眉を寄せた。
「あれ……一枚余ってるな」
指先で摘み上げられた白い紙片が広げられる。
「三十六番。……うちのクラス、三十五人だよな?」
七人×五列。教室に並ぶ机の数も、配られたくじの数も、三十五でぴったり合うはずだった。
「前のクラスの予備でも混ざったか。まあいいや」
担任は紙を無造作に丸め、足元のゴミ箱へ放り込んだ。誰も気にも留めず、午後の授業の準備を始めた。ケータも、その時はただの数え間違いだとしか思っていなかった。
異変に気づいたのは、その日の放課後だった。宿題のプリントを机の引き出しに忘れたことに昇降口で気づき、茜色に染まり始めた廊下を引き返した時だ。
「まったく、ケータくんはおっちょこちょいですねえ……」
「そう言うならウィスパーも帰るときに言ってよお!」
「早く帰ってチョコボー食べながら昼寝するニャン……」
運動部の掛け声が、夕暮れのグラウンドから薄いガラス越しにくぐもって響いている。誰もいない教室に入り、自分の机からプリントを回収してカバンに突っ込んだ。ふと、振り返る。
机が、一つ多い。一番後ろの窓際。七×五の長方形からはみ出して机と椅子が一組、ぽつんと置かれている。
確かに学校の教室には余った机が一つ二つあることもある。でも大抵は教室の隅とか廊下とかに寄せられていて、天板がうっすらほこりをかぶって白くなっている。
けれどその机は天板がきれいだった。
ふと、席替えの時に番号の紙が一枚だけ余っていたことを思い出す。言葉にできない、けれど確かな違和感。
「なんだろう、この机……」
「ははーん! ピンときましたよケータくん! これはあれですね、机を増やす妖怪の仕業ですね」
「そんな妖怪いるの?」
「いるに決まってるじゃないですか。妖怪はなんでもいるんですから」
ウィスパーは得意げに妖怪パッドを取り出した。この瞬間のウィスパーは、いつもちょっと誇らしげだ。自分にしかできない仕事があるって顔をしている。
画面を指でつつく。とん、とん、とん。
「机、増える、教室──と」
とん。画面が切り替わる音がした。ウィスパーの指が止まる。
「……ありゃ?」
「どうかしたの? ウィスパー?」
「おかしいですねえ。机、複製、家具、増える……該当なし。検索結果ゼロ件でうぃす」
「壊れてるんじゃないの?」
「失礼な。この妖怪パッドは最新型ですよ。まあ、たまにはこういうこともあります。ほら、電波とか」
「……妖怪パッドに電波?」
「あります。たぶん」
ケータは訝しみながらも、妖怪ウォッチのサーチライトを点灯させ、青白い光を机の周囲に当てた。反応はない。レンズを透かして見えるのは、夕暮れの埃が光の粒になって漂う無人の空間だけだった。
「……いないみたい。おかしいなあ」
「机なんてどうでもいいから早く帰るニャン!」
「わ、分かったから引っ張らないでってばあ……」
ズボンの裾をジバニャンに引っ張られ、ケータは促されるように教室を後にした。帰り際にもう一度だけ振り返ってその机を見ると、夕方の光が天板に当たって白く反射していた。
二週間後、また席替えがあった。担任の先生は席替えが好きらしい。
またくじを引いて、またがたがた机が動いて、また全員が座った。ケータは今度は真ん中の列の前から二番目になった。フミちゃんは斜め後ろの席、この分なら次は隣になれるかもしれない。
そして先生がまた首をかしげた。
「あれ、二枚余ってる。三十六番と、三十七番」
教室が水を打ったように静まる。先生は眼鏡のブリッジを押し上げ、最後列の窓際へ目を向けた。
「……お前ら、机増やした?」
誰も答えない。というより、誰も意味が分かっていないのだろう。振り返って教室の一番後ろを見ると、窓際の列のさらに外側に机が二つ並んでいた。
……また増えてる?
「ウィスパー、やっぱりおかしいよ。本当に心当たりないの?」
「う、うーむ……しかし、パッドにはそんな妖怪の情報は……」
正直ウィスパ―の言うことはあまり信用ならないけれども、ウォッチで照らしてみてもやはり妖怪がいる様子はない。
「まあいいや。後で倉庫に戻しとくか」
先生はそう言って授業を始めた。けれどやはり気になって、その日の休み時間、ケータは前の席のクラスメイトに聞いてみた。
「ねえ、あの後ろの机さ、いつからあったっけ?」
前の席のクラスメイトはちらっと後ろの席を見て、すぐにケータに向き直った。
「え? 元からじゃない?」
「元から?」
「うん。なんか前からあった気がする」
隣の席のクラスメイトにも聞いたが同じ答えだった。斜め後ろのフミちゃんにも聞いた。「うーん、元からあったと思うよ」と言われた。誰も疑問に思っていない。
その週、ケータは教室に入るたびに机を確認し続けた。
朝の登校時、中休みのチャイム、昼休み、放課後。机の数は三十七のまま動かなかった。ケータが見張っている間は何も起きないまま。
「ケータくん、最近なんだかずっと教室の後ろばかり見てるよね?」
フミちゃんにそう尋ねられた時は心臓が止まるかと思ったが、「ちょっと考え事!」と誤魔化した。机が増えるのを見張っているなどと説明できるはずもない。
木曜日、ケータは「居残り自習」を口実に、七時前の最終下校時刻ギリギリまで教室に居座ってみた。
夕日が落ち、校庭の部活の声が消え、廊下の水銀灯が落とされる。六時四十五分、見回りに来た当直の教師に「天野、もう鍵を閉めるぞ」と肩を叩かれ、無念の思いで校門を出た。
そして金曜の朝。教室の最後列には三十八個目の机が、何食わぬ顔で佇んでいた。
放課後、ケータたちは誰もいない教室にいたが、ウィスパーは一時間くらい妖怪パッドを叩き続けている。ケータはその間、窓際に座って、増えた3つの机を見ていた。
天板は、3つともきれいだ。
「ガブニャン、違います。増殖能力はありますけど、あれは自分が増えるだけですよねえ」
「うん」
「ちらかし家来、違います。あれは物を散らかす妖怪ですから、増やすのとは別ですね」
「うん」
「フクリュウ、違います。ハラオドリ、関係ありません。……ムダヅカイ、違いますねえ」
とん、とん、とん。ウィスパーが妖怪パッドをたたく音だけが教室に響く。
「うーん、そもそも教室で机だけを一つずつ増やす理由がないんですよねえ」
「理由?」
「そうです。妖怪には理由があるんですよ、ケータくん」
ウィスパーが指を止めて、こっちを向いた。ふわふわとケータの周りを飛び回りながら意気揚々と語りだす。
「腹が減ったとか、寂しいとか、構ってほしいとか、いたずらしたいとか。ろくでもない理由でも、必ず何かあるんです」
「なるほど……」
「……ケータくん。これは、妖怪の仕業ではないかもしれません」
「ええっ! 妖怪のせいじゃない!? そんなことあるの?」
「今までも、似たような理不尽な怪異はあったでうぃすよ。あの異様に長いトンネルとか、どこまでも続くあぜ道とか……」
「まあ、確かに……」
妖怪のせいではない。その結論が出たところで、ケータは頭を抱えてしまった。あの不思議なトンネルやあぜ道は、関わらずに逃げ出すことができた。けれどここは、これから一年間毎日を過ごす自分たちの教室なのだ。見て見ぬふりをして机が増え続けるのを放置するわけにはいかない。
「とにかく、何か手を打たなきゃ! ジバニャン、あの机にひゃくれつ肉球だ!」
「オレっちの扱いが雑ニャン! ……まあいいニャン、ひゃくれつ肉球──ッ!」
ジバニャンの拳の連打が机の脚に炸裂した。だが、どすどすと鈍い音が響くだけで、まるで頑丈なゴムマリを殴っているかのようにジバニャンの拳は弾き返され、天板には傷ひとつ付かない。
「ふぎゃっ……か、硬いニャン……! あの机、ただの机じゃないニャンよ!」
息を切らして床にへたり込むジバニャンを見て、ケータはすぐに次の作戦へ切り替えた。
「まあ、だよね。次行こ、次!」
「そうですね」
「二人とも、ぶっ飛ばされたいニャンか!?」
怒り心頭のジバニャンを片手でなだめながら、ケータはポケットからメダルを引っ張り出した。
「頼むよ、俺の友達! 出てこい、ブシニャン!」
ウォッチにメダルを装填すると、眩い光とともに誰かが現れる。光の中から現れたのは、水色と金の鎧を纏い、三日月の兜をかぶった猫又の武士だった。着地と同時に砂埃ひとつ立てず、ケータの前に参上する。
「お呼びでござるか!」
「ブシニャン! いきなりでごめん、あの机……斬れる?」
ブシニャンが顔を上げ、最後列の窓際へと鋭い眼光を向けた。西日を浴びた三つの天板が、揃って白く光っている。
「机を、でござるか。拙者、家具に刀を向けたことはござらぬが……」
呟きながらも、ブシニャンはすでに立ち上がっていた。すり足で間合いを詰め、低く腰を落とす。教室の空気が、ぴんと張り詰めた。
「なるほど。確かに、ただの机ではござらぬな」
「分かるの?」
「刀は正直でござる。強敵の相手には、鞘が鳴る」
ブシニャンが鯉口を切る。かちり、と微かな金属音が響いた瞬間、ブシニャンの姿がかき消えた。ケータの目が追いつくよりも速く、残像が机の向こう側へと抜けている。遅れて空気が裂ける音が響き、天板が斜めに滑り落ちた。机は縦横に両断され、四つの木塊となり、がらんと乾いた音を立てて床に転がった。
「うわあ、すごい! 一刀両断だ!」
「大したことではござらぬ」
「これで一件落着でうぃすね! いやあ、やはり最後はワタクシの助言が――」
高らかに胸を張るウィスパーの声が、唐突に途切れた。床に散らばった木片が、蠢いていた。転がるのではない。床の上を生き物のように滑りながら、互いの断面へと吸い寄せられていく。ぱちり、と木と木が隙間なく噛み合い、継ぎ目が煙のように消える。四本の脚が床を踏みしめ、天板がその上に乗ると、かたん、と何事もなかったかのように元の形に戻った。傷ひとつない。
「……ええ、うそでしょ?」
ケータの背筋を、冷たいものが駆け上がった。
「……ふむ」
ブシニャンだけが眉一つ動かさず、再び鯉口を切る。二度目の斬撃は、一度目よりもさらに鋭く、縦に真っ二つ。落ちた破片は、磁石のように引き合って瞬時に元通りになった。三度目、今度は目にも留まらぬ乱れ斬りでサイコロ状に細切れにされたが、結果は同じ。四度目を放とうとしたブシニャンを、ケータが慌てて制止した。
「待って、もういいよブシニャン!」
ブシニャンは静かに刀を鞘に納めた。息ひとつ乱れていなかったが、その眉間には深い皺が刻まれていた。
「面目ない。拙者の刃では、埒が明かぬようでござる」
「ううん、ブシニャンのせいじゃないよ。ありがとう!」
メダルの光の中に帰っていくブシニャンを見送り、ケータは床にしゃがみ込んで机の脚を撫でてみた。さっきまでバラバラだったはずなのに、継ぎ目の感触など微塵もない。斬られた木片は、自分が机のどの部分だったのかを最初から知っているみたいだ。
「……単純に形が残らないくらいバラバラに消し飛ばしちゃえば、戻りようがないんじゃない?」
「なるほど、木っ端微塵でうぃすね! ……いやいや無茶ですよ! ブシニャンの名刀でも無理だったのに、そんなことができる妖怪なんて――」
「いるよ」
ケータは迷わずポケットの奥からメダルをつまみ出した。斬るんでも、壊すんでもない。分子ごと消し飛ばせる、桁外れの科学力を持った妖怪だ!
「妖怪メダル、セットオン!」
ウォッチから召喚音が重厚に響き渡り、教室の窓ガラスがビリビリと震える。
「俺の友達、出てこい! ロボニャンF型!」
今度は光の中から、青と白と銀に輝く金属の装甲が現れた。体全体からがプシューと蒸気を吐き出し、鮮烈な青い光が灯る。
「ロボニャンF型! あの机を跡形もなく消し去ることってできる?」
「ふむ……対象を分析する」
両目から赤いレーザー光が走り、三つの机を上から下まで精密になぞった。数秒の沈黙ののち、ロボニャンF型は機械的な動作で首を傾げた。
「……奇妙だな」
「えっ、何が?」
「一見ただの机、材質も単なる木材。破壊は極めて容易だ」
「でも、いくら細かく斬ってもすぐに元に戻っちゃうんだよ!」
「この物体は、形状の復元データが外部に保存されている」
ウィスパーがぎょっとして叫んだ。
「外部!? どこにあるんでうぃすか、そのデータ!」
「不明だ。少なくともこの空間ではない」
「ロボニャン。形の記録が残ってても、その記録より細かく壊しちゃえばどうなる?」
ロボニャンF型の目が、チカチカと高速で点滅した。
「……理論上、破壊は可能だ。記録されているのは『木製の机』という分子構造。原子・素粒子レベルまで分解すればいい、容易いことだ」
「……よくわからないけど、よし、やってみて!」
「了解。全員、最低三歩以上退避してくれ」
ケータとウィスパー、ジバニャンが慌てて黒板の前まで駆け戻る。ロボニャンF型の両腕の装甲がガチャリと左右にスライドし、内側から青白く発光する砲口がせり出した。キィィィンと耳鳴りのような充填音が、教室の床を伝って足裏を震わせる。
「危ないニャン! あれ絶対、教室ごと木っ端微塵になるニャン!」
「出力を〇・〇三パーセントに設定。教室への余波は完全にゼロです。ご安心を」
「〇・〇三パーセントでその音なの!?」
「──分子分解ビーム、照射」
轟音はしなかった。
閃光が奔った瞬間、三つの机が白く透き通るような光に包まれ、ふっ、と輪郭がほどけた。木が焦げる匂いも、破裂音もない。ただそこにあったはずの物体が、極小の光の粒へと変わっていく。夕暮れの教室の中を金色の塵が静かに舞い上がった。
ケータ達は息を呑んでそれを見つめていた。散らばった粒は二度と寄り集まることはなく、床に落ちるて積もることまなく、夕暮れの空気に溶け込むように拡散し、やがて完全に掻き消える。
「ミッション完了、アイルビーバック」
「やった! ありがとうロボニャン!」
「容易い御用だ」
ロボニャンF型は静かに腕の装甲を格納し、満足げに光の中へと消えていった。
教室の一番後ろ、窓際の列の外側。そこにはもう何もない。七×五の綺麗な長方形の机だけが、西日の中に整然と並んでいた。
「やりましたねケータくん! いやあ、ワタクシの的確な助言があればこそでうぃすね!」
「ウィスパーは横で騒いでただけニャン!」
ケータは笑いながら二人のじゃれ合いを聞き流し、最後にもう一度だけ教室の後ろに目をやった。何もない。何もないのが当たり前のはずなのに、そこだけ切り取られたみたいにぽっかりと不自然な空白が広がっているように見えた。
翌週の月曜日、異例の速さで三度目の席替えが行われた。担任が銀色の箱の中を覗き込み、ケータは息を詰めてその表情を見つめる。
「……よし、三十五枚ぴったりだな。はい、じゃあ移動!」
余ったくじは一枚もなく、机は三十五個のままだ。
ケータは机に突っ伏して、大きく息を吐き出した。隣の席のフミちゃんが「ケータくん、大丈夫?」と笑いかけてくれたので、「なんでもないよ!」と慌てて笑顔を作る。内心で派手にガッツポーズを決めると、これまでの緊張が心地よい脱力感へと変わっていくのが分かった。
放課後、ケータは机が三十五個のままなのを最後に確認した後、ジバニャンと並んで団々坂を下り、かつてのぼせトンマンと対峙した銭湯『さくらの湯』に向かっていた。ここ最近の騒動で疲れた体を癒し、洗い流したくなったからだ。
「結局さ、あの机ってなんだったんだろうね」
「知らないニャン。消えちゃったんだから、もうどうでもいいニャンよ」
「まあ、そうなんだけどさあ……」
これから先、『妖怪のせい』では片づけることのできない数々の怪異に遭遇することを、ケータ達は知るよしもない。