ヤニねこの大家さんはいかにして大家さんになったかの話   作:namamugi

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10話 ヤクねこ&ハメねこ、入居する

翌日、やってきたのはヤクだけではなかった。見覚えのない黒髪の獣人が後ろから付いてきている。

「えーと、そっちの子は?」

アパートに入ってきたところで声をかける。ヤクは頭が痛そうな様子で答えてきた。

「すいません。なんか話したら、こいつ、自分も住むとか言い出して付いてきちゃって……」

「お、おう?」

「はーい! ハメちゃんでーす。よろしくね、大家ちん」

黒髪の獣人……ハメちゃん? が元気よく後ろから続けた。

ヤクの後ろを、どこかオドオドした様子で付いてくるのと、元気よく挨拶してきた2つの印象がイマイチ噛み合わず、一瞬混乱するが、ヤクは慣れているのか、特に違和感を覚えている様子もない。

まあ、にゃがみ原には色んな獣人がいるのだし、そういう子もいるのだろう。おう也は一人で納得すると、言われた言葉を咀嚼した。

「ええと……つまり、そっちの子と二人で一緒に住むってことか?」

「あ、いや、こいつは別の部屋でお願いしたいっす。うるさいんで。後これ、言われてた書類っす」

突き放すように言いながら、ヤクが記入済みの書類を差し出してくる。

その横から、ハメちゃん? はヤクに言われたことなど気にした様子もなく、明るく言ってきた。

「ハメちゃん、人気配信者で、みんなの天使だからー、変な人と一緒に住んでたりすると、恋人か!? って疑われちゃうのー」

「お前の方がよっぽど変だろ……」

はあ、と最後にヤクが溜息を吐きながら付け加えた。

おう也はイマイチ二人の関係を計りかねつつ、一旦わかる範囲で答える。

「ええと……い、今風の子なんだな。住んでくれるのは歓迎なんだが……色々書類の用意とかあって、すぐってのはちょっと難しい……」

「書類はもう用意してきたよー。ヤクが貰ったやつコピーしたの!」

「おお、そいつは助かる」

差し出された書類を受け取り、ざっと目を通す。と、

「……ええと、ハメ、子さん? 苗字が書いてないが……」

「ハメちゃん、パパもママも獣人だから、苗字ないよ」

「…………?」

言われたことの意味がわからず、頭に疑問符を浮かべながら動きを止める。助けを求めるようにヤクの方を見ると、ヤクはあっさりと言ってきた。

「あ、これ冗談とかじゃないっすよ。マジっす。それでテストとかでも点引かれてたんで」

「そ、そうか……。そういうもんなのか……書類通せるかな……はは……」

他に何と言ったらいいか分からず、一旦大家としての懸念を呟く。ハメちゃん……ハメ子は肩を竦めると、続けて言ってくる。

「もう少ししたら自分で申請して苗字もつけられるんだけどねー。そしたらハメちゃん、愛天使ハメ子になる予定なんだー」

「……ええと、い、今風だな」

他に何とも言いようがなく、曖昧に笑って誤魔化す。

そのまま、ゴホン、と一度咳払いをすると、ヤクから受け取った書類を手に続けた。

「それじゃあ、越司丸……いや、益子さん。書類はこれで受け取るからな」

咄嗟に言い直す。同じアパートに苗字のない住人がいるのなら、可能な限り苗字で呼ぶことは避けた方がいいだろう。

「あ、自分、さんはいらないっすよ。大家さんの方がずっと年上ですし。ヤニねこ先輩と同じで、ヤクねことかでも大丈夫っす。好きに呼んでください」

「そ、そうか? じゃあヤク。明日また来てくれたら準備しておくから」

「っす」

「ハメちゃんはー?」

「おう、そっちも確認しておく」

「よろしくねー。パパとママには今週中には引っ越すって言っておくから」

そう言われて、ふと思いいたる。当たり前だが、ハメ子にも家族がいて、今住んでいる家があるはずだ。

「……そう言えば、そっちのハメ子さんは何歳なんだ? ヤクと同じくらいに見えるが……」

「ハメちゃんって呼んで! ハメチャンネルだから!」

「ハ、ハメちゃんか……この年になってそれはちょっと辛いな……」

苦笑いしていると、横からヤクが呆れたように言ってきた。

「真に受けなくていいっすよ。学校だとハメねこ呼びしてるやつが多いんで、それで良いんじゃないっすかね」

「お、おお。じゃあハメねこで行こう」

そんなやりとりに、ハメ子改めハメねこは「ハメちゃんでいいのになー。可愛いし」等と言いつつ、答えてくる。

「年はハメちゃん、ヤクと同じだよー。あ、けど天使だから実質年齢なんてないかも!」

「いや……ってことは……ハメねこは学生なのか? い、いや大丈夫か? 親御さん心配するんじゃないか!?」

慌てて言う。そもそも卒業して独立したヤニねこや、両親と仲が拗れて自宅から追い出されたような形のヤクとは違い、普通の家族で学生なら、そうそう一人でアパートに越してくるのが容易いこととは思えない。

だが、おう也の懸念を他所に、ハメねこは何ということもなく、あっさりと言ってきた。

「パパとママはハメちゃんがやりたいって言ったらいいよーって。うちは昔からそういうのうるさく言わないんだー。ハメちゃん、超人気配信者だからお金も結構自分で稼いでるし」

「お、おお……。なんていうか……今風、なのか、これも……」

やはり他に言葉が思い付かず、そう言うと、隣からジト目で呆れたようにヤクが付け足した。

「いや、違うと思うっす。単にこいつんちが色々いい加減なだけっすよ」

 

かくして、コーポ大谷は、更に二人の獣人を迎えたのである。

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