ヤニねこの大家さんはいかにして大家さんになったかの話   作:namamugi

12 / 18
11話 ハメねこ&ヤニねこ、動画を撮る

「すいません、ちょっと帰って考えさせてもらいますね」

「あ、いや、ありがとうございます。要望に答えられず、すいません」

「そんな、大家さんのせいじゃないですよ、あ、あはは……」

そう言って力なく笑いながら内見者は帰っていった。

それを見送ってから、はあ、と溜息を吐く。

三人の獣人を店子として受け入れてから数週間が経ち、何人かの内見者があったが、一向に次の入居者が決まらない。

おう也自身がそもそも普通に働いている都合上、どうしても案内出来る日や時間帯は限られてしまうし、仲介業者に内見対応まで丸投げできるほど余裕もない。

おまけに、内見まで辿り着いたとして、案内の時にはほぼ確実にヤニねこ、ヤクねこ、ハメねこがいる。

恐ろしいことに、内見者が来るまでにどれだけキレイに掃除しても、無駄だった。

案内した後に庭に戻ると、タバコの吸い殻がゴッソリ落ちている。得体のしれない臭いが漂っていることもある。挙句の果てには内見中にドタバタという物音と共に、凄まじい音量の叫び声が聞こえることすらあったのである(これは後に、ハメねこがゲームに負けて煽られたから叫んでいたと証言が得られた。注意したが、本人は全く記憶にないらしく、なんかの勘違いじゃない? と平然と言ってきた)。

これでは内見者に選ばれようはずもない。

「にゃ。また決まんなかったにゃ。大家は案内下手くそだにゃ」

後ろからヤニねこが声をかけてくる。

「誰のせいだと思ってんだ」

憮然として言い返す。

庭に落ちていた吸い殻の銘柄は大体がメビウス……以前ヤニねこに奢らされたものだった。

「大体お前、そりゃタバコは禁止じゃないが、せめて吸殻を庭に落とさないくらいの配慮はだな……」

「部屋だとニャーが掃除しないとキレイにならないけど、庭なら大家が掃除するからニャーが何もしなくてもキレイになるにゃ。こっちの方がお得だにゃ」

「お前がするべき苦労を俺に押し付けてるだけだろうが!」

おう也が一際大きな声で言うが、ヤニねこはそれを気にした様子もなく、どこ吹く風だ。むしろ、ニヤッと笑って言い返してくる。

「にゃー。大家が案内下手くそな責任をニャーに押し付けてるだけだにゃ」

「ぐぬ。ああ言えばこう言いやがって……」

庭に吸い殻を捨てるのとはまた全然別の話で、話をそらされているのは明らかなのだが、実際、案内した結果入居してくれていないという現状を考えると、その可能性も否定は出来ないのが辛いところではある。

(……い、いや、落ち着け俺。こいつが庭に吸い殻を捨てるのと、俺の案内が下手なのは別問題だろ)

ヤニねこはそんなおう也の様子にフフン、と言わんばかりに笑ってくる。

「にゃ。ニャーならすぐに決めてやるにゃ」

そう言われては、おう也としても、黙ってはいられない。

「ほー。そこまで言うならやってもらおうじゃねえか」

売り言葉に買い言葉だ。ヤニねこはそれを聞くと、待ってましたとばかりに、指を1本立てた。

「にゃ。じゃあ一人決まるごとに家賃1ヶ月免除にゃ」

「ぐっ。こいつ、足元見やがって……。まあいい、出来るもんならやってみろ。実際に契約まで決まったらだぞ! 問い合わせだけじゃ駄目だからな!」

「にゃ」

スタタタッとヤニねこがアパートの一室……ハメねこの部屋の前に移動する。

「お、おい……」

そしてそのまま、おう也が止める間もなく、扉を開けた。

「ハメ、動画撮るにゃ」

「ちょっ、な、何急に!?」

部屋の中からハメねこが顔を出して返してくる。ゲームをやっていたのか、コントローラーを抱えている。

「にゃ。大家が一人入居が決まるごとに家賃1カ月免除してくれることになったにゃ。協力するにゃ」

「お、おい、他のやつもやるなんて聞いてな……」

戸惑うおう也を他所に、二人の話はどんどん進んでいく。

「ど、動画撮るってどういうこと?」

「にゃ。ハメねこは動画に詳しいって、ヤクから聞いたにゃ。アパートの宣伝動画を撮って、一緒に家賃免除させるにゃ」

「つ、つまりハメちゃんに大家さんから案件ってこと? あなた……ええと、ヤニねこ先輩と一緒に撮るの?」

「にゃ」

「あ、案件? いや、なんか話が変わってきて……」

おう也が呟いている間に、ハメねこはスマホと、スマホを付けて伸ばす棒を持って出てきた。

「よ、よし、任せて。ハメちゃん、動画も、結構出してるから詳しいよ! ええと、宣伝動画なら汚いところは映さないようにしないと……」

「にゃ。大家は映しちゃダメにゃ」

「いや、俺は身なりちゃんとしてるぞ! ……してるよな? この間も職場の同僚に清潔感あるって言われたし……。いや、ってか、お前の方がよっぽどだろうがヤニねこ! 今すぐ風呂入って洗濯して、家の掃除して、身なり整えて来い!」

「にゃー」

「あ、ちょ、ちょっと、ここで騒がないで! ハメちゃんのキレイな部屋が埃で汚れちゃう!」

 

 

「はーい、みんなーこんハメー! 今日はなんと! 案件頂いちゃったので、獣人でも住める激安アパートを紹介しちゃいまーす!」

切り替わりが凄い。

動画を撮り始めたハメねこを見て、おう也が真っ先に抱いた感想がそれだった。

さっきまで、どうやら初対面らしいヤニねこを前に一歩引いたような態度だったのに、撮影が始まるや、一瞬で高い声の派手な印象に切り替わっている。

「にゃー」

「こっちは、アシスタントのタバコ大好きヤニっち! 今日はお手伝いしてもらいまーす」

「にゃー」

つい先程まで、どこか戸惑いながら、ヤニねこ先輩、と恐る恐る呼んでいたのが、いきなり『ヤニっち』呼びである。

これもまあ、今風と言えば今風なのだろうか。あるいは、ヤクの言ってた通り単にいい加減なのか……。

「じゃあ早速、大家さん、お部屋の案内お願ーい」

「お、おお……ええと……ちょっと待っ……」

「カット! そこは元気に『任せてくれ! 最高の部屋を紹介するぜ!』でしょー? テンション上げてこー」

思わず口ごもったおう也に、ハメねこが苦言を呈する。

「そ、そういうもんなのか……?」

「そうそう。見てる人が楽しくなるようにしっかりとね!」

たしかに、見てる人間が興味と関心を持つようにする、という点では明るく楽しく見える方が大事なのかもしれない。

ハメねこの今のテンションも、それで作り出したものなのだろうか。

「う、うむ……。あ、そうだハメねこ、一応だが、獣人でも住める、じゃなくて、獣人歓迎、にしてくれないか?」

「大家はいちいち細けえにゃ」

「それだとフツーの人はあんまり見てくれないかもだよ?」

「まあ細かいが……一応、そこが一番強調したいとこなんだ、頼む」

手を合わせて頭を下げる。ハメねこはふーん、と感心したような呆れたような声を出しながら、肩を竦めた。

「しょうがないなー。じゃあもう1回、最初から行くよ!」

「にゃ」

「はーい、みんなーこんハメー……」

 

アパートの全景を撮り終える頃には、三十分ほど経っていた。いったん休憩ということで、おう也が茶と茶菓子を出す。

そして茶菓子が綺麗になくなった頃、ハメねこが立ち上がった。

「じゃあ続けて部屋の中ね。どこの部屋撮ろうか?」

「ニャーの部屋撮るにゃ?」

「ダメダメ。あんなの撮ったら宣伝じゃなくて営業妨害だよ!」

「……ヤニねこ。最近見てなかったが、お前の部屋どうなって……」

冷たい汗を流しながら言う大家を気にせず、ハメねこが考えながら続ける。

「じゃあ、この隣の空き部屋ね。大家ちん、鍵ちょうだい」

「お、おう。あんま汚すなよ」

言いつつ鍵束の中から、隣の部屋番の鍵をハメねこに渡す。ハメねこはそれをさっと受け取ると、そのまま再びスマホと棒(自撮り棒というらしい)を持って、外に出た。

「はーい、みんなー続けてお部屋の紹介だよー。このお部屋の鍵を貰ったから入ってみるねー。こっちがお風呂で、こっちがトイレ! キッチンはこっち! 水回りもちゃんとキレイだねー」

「けど壁は薄いにゃ。ハメねこが夜中に騒ぐのが響くにゃ」

「ちょっとヤニっち、それだと別の意味に聞こえるじゃん! ハメちゃん天使だから騒がないし、ゲームも負けないもん」

「宣伝なのに壁薄いとか言うなよ……」

 

予定していた(ハメねこが提案していた)撮影が一通り終わったところで、庭に戻る。

結構時間かかってしまったし、昼飯でも奢ってやろうかと思っていると、ハメねこがヤニねこにスマホのカメラを向けた。

「じゃあヤニっちから最後に、このアパートの魅力をどうぞ!」

「にゃ。タバコが吸えるとこにゃ。おまけに庭に捨てると大家が掃除してくれるから手間いらずだにゃ」

「おい」

やっぱり奢るのはやめようか。そう思っているところにヤニねこが続ける。

「大家は小煩いけど、家賃滞納しても三日くらいは待ってくれるにゃ。オススメにゃ」

「待つなんて言ってねえし、そもそも宣伝動画で家賃滞納を勧めるな!」

そんな姿を見て爆笑するハメねこ。やっぱり奢るのはなしだな、とおう也は心に決めた。

 

結局、動画は投稿されなかった。

その後、駅までの道のりの説明等も撮りはしたし、ハメねこの手慣れた編集で、軽快なBGMやテロップの付いた動画は、おう也から見てもかなり良くできていた(ハメねこには一食奢ろうと思えた)のだが、「よく考えたら、これ投稿したらハメちゃんの住所バレちゃうじゃん!」とのことで、ハメねこ自身がNGを出したのだ。

おう也としても、ここまで見栄えのする動画になったのは、ほとんどハメねこの腕のおかげだったので、異論はなかった。

しかし、この決定後3日間、ヤニねこから「投稿すれば三人は入居が決まったはずだから、三ヶ月家賃負けろにゃ」と言われ続けて、もう二度とヤニねこに変な賭けは持ちかけまいと誓うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。