ヤニねこの大家さんはいかにして大家さんになったかの話 作:namamugi
一週間後。おう也は改めて、ハメねこの部屋に訪れていた。
「ハメねこ、この間の動画のことなんだが……」
「この間? ああ、あの宣伝の。どしたの?」
「色々調べたんだが、動画での宣伝っての自体は結構どこでも当たり前にやってるみたいでな。お前が住んでるってのを分からないようにして、音声とかもなしで、部屋の紹介だけの動画にして、不動産屋とかに渡せないかと思って……」
おう也の話を聞きながら、ハメねこは呆れたように椅子を回し、振り返った。
「あー、ダメだと思うよ。それじゃ写真と変わんないし。あれはハメちゃんのハメチャンネルで、ああいう実況入れてやるから宣伝の意味があったんで、それだと、いいとこ全部無くしちゃってるようなもんだもん。色んなアパートと普通に横並びに見られたら、結局フツーのアパートってことになっちゃうから」
「そ、そうなのか? 近所のアパートも、部屋だけ映した動画を出してたんだが……」
「だからダメなの。ここフツーのところ……よりちょっと下くらいなんだから、おんなじことしたって、もっと下に見えるだけだよ」
「そ、そうか。ちょっと下くらいか……」
内心、普通よりちょっと上だと思っていたおう也としては密かにショックを受ける。
ハメねこはそれに気付いたのか気付いていないのか、立ち上がってゴソゴソと棚を探っていく。
「やるんならもっとバズれることしないと! 例えば――これとか!」
バッと差し出してきたのはゲームのコントローラーだった。たしか、ハメねこが遊んでいたものだ。
「これは……格ゲーか?」
「そ! 大家さんがプロ並みのゲーマーってアパート、良くない?」
ハメねこが勢いに乗って言ってくるが、おう也としては戸惑うばかりだ。頬をかきながら言い返す。
「いや、ゲームなんて学生時代以来ほとんどやってないぞ……」
「これから上手くなればいいんだよ! ほら、コントローラー持って!」
「う、うむ……」
「なんていうか……普通に下手だね。ちゃんとコマンドも出せてないし」
1時間後。一人目にはどうにか勝ったものの、二人目を相手に何度かコンティニューした末、ゲームオーバーになってしまった画面を見ながらハメねこが言ってくる。
おう也は、はあ、と息を吐きつつコントローラーをハメねこに返しながら言った。
「だから、学生時代以来だって言っただろ……その学生時代も友達にゲームセンターにつき合わされたくらいでほとんど操作も分からなかったぞ」
「この時代にガン待ちした挙句にコマンド失敗してボコボコにされる人なんて見せられるとは思わなかったけど。しかも激弱CPU相手に」
ハメねこが呆れたように続けてくるが、おう也としては唇を尖らせるしかない。
「他に知らないんだよ……。学生時代も、とにかく飛び道具で相手を飛ばして、対空で落とすことさえ出来れば勝てるって言われてたんだ」
「うーん。古のゲームの民って感じ」
「まあ最近のゲームなんてほとんど分からないから、それで合ってるんだろうな」
「しょうがない……ハメちゃんが特訓してあげようか?」
言いながら、預けたコントローラーをおう也に押し返し、棚の中からもう一つ、新たなコントローラーを取り出してゲーム機に繋げる。
「いや、特訓して上手くなってからゲームの上手い大家のいるアパートとして動画撮って宣伝するんじゃ遠回り過ぎるだろう。時間もかかりすぎるし、今回は諦めて別の手を探すよ」
おう也は押し返されたコントローラーを再びハメねこに預けた。すると今度は逆にハメねこが唇を尖らせて言ってくる。
「えー。いいと思うんだけどなー、プロゲーマー並みの大家さんがいるアパート」
「ははは……。逆にアパートが全室埋まって、自由な時間が増えたら少しずつやってみるよ。今はちょっとな」
「むー。じゃあ今日のとこはハメちゃんと対戦で勘弁してあげる」
もう一度、ハメねこからコントローラーを押し付けられる。
おう也は頬をかきつつ、答えた。
「お前このゲーム結構やってるんだろ? 俺じゃ勝負にならないと思うぞ」
「もちろん、ハンデは付けてあげるから」
そう言うと、おう也が答えるのも待たず、ハメねこは新たなゲームモードを起動した。
結局、おう也はそのまま半日近くずっとゲームをすることになった。
負ける度にハンデを一つずつ強くしていったのだが、結局、最大ハンデになっても勝てなかったのだ。
それでも惜しいところまでは行ったせいで、「弱過ぎ。最大ハンデでハメちゃんに勝てるまで対戦ね」と言われた時も、まあ次くらいには勝てるだろう、と甘く考えてしまったのがさらなる間違いの始まりだった。
そこから延々と対戦を続け、ハメねこの癖を読んでようやく一勝をもぎ取った頃には、すっかり日も傾いていた。
しかも、「今の人読みだから! ズルだからもう1回ね!」と言われ、更にそのまま何戦か続けることになり、ボコボコにされた挙句にようやく解放されたのだ。
結局、ほとんど一日を使ったというのに、当初の目的だった動画も出来ず、大家として考えれば、何の成果もない休日だった。
それでも、意外なことに、それほど悪い気分ではなかった。
学生時代以来だったゲームは相変わらず下手くそだったが――まあ、こんな休日も悪くないだろう。