女神転生で終末箱庭ゲーム実況 作:RTSは奥深い
薄い氷の上に置かれる世界。
幾ら壊れようと氷の地平線に果ては見えず。
水中には陽日を浴びようとして溺れるもの達がいる。
ならばその身を刮げ落として身軽となり、薄氷の上に舞い戻ったものが居ても……。
……然程可笑しな噺でもないだろうに。
「かーじのぉぉぉおお!」
「ステイステイステイ! 一旦落ち着…きッ…なって!!」
「だってMs.ユキ、ガジノ"がッッッ!!!」
「そんな誰かの命が無くなりそうな反応しないでよー仮にも聖女なんだから」
どうしてこんなことに。
と、人生でため息を吐きたくなる事が珍しくない人ほど、この言葉を脳裏に浮かべると言ったのは誰だったか。
〈ラッシャセーラッシャセー! 楽しいマネー&タイム! ジッサイタノシイ! スゴクタノシイ! アナログ、デジタル、ARVRetrで天然オイラン以外はなんでもあるスゴイカジノ! 人も悪魔もオキャクサマ! みんなで遊ぼうハコニワカジノ!〉
「どう見ても聞いても怪しさ全振りじゃん。古き良き田舎町みたいなハコニワからコレはダメだって。町おこしでダメな企業引き入れちゃった山奥の村みたいになってるじゃん」
「良いんですよここから発展して行けば! だから先ずは三ヶ月くらい試遊して──」
「ダメでーす。二度と帰って来ない第一犠牲者のそれだから。先ずは頼んだ仕事が終わるか異端の弾圧終わらせてくださーい」
「それならいっそ一緒に入りましょうよー…タノシイですよぉ…ゼッタイタノシイ…もう分かる、私にはワカル……あれこそ
「こんな千年王国はイヤだねー」
ゲーミングに輝き、デジタルでサイバーチックで、それから怪しげなエセ日本風の客引き文の暖簾が垂れ下がったコレまでとは随分と毛色の違う10…15…20階は有りそうな建造物を前に、私はまたもやため息を吐いた。
なんだろうなーこの状況。やっぱり聖女がヘドバンでパチ台壊そうと頭振った時に顎にクリーンヒットして、目覚めた時に聖女が膝枕してた辺りから流れ変わっちゃったかな。
「ごめんなさい〜! 怪我はディアで治しましたが……まだ痛い所はありませんか?」
「あー大丈夫。視界の半分が埋まってるのに精々罪悪感を感じるくらいかな。ごめんね膝枕なんてさせちゃって」
「い〜え〜。お怪我がないならそれで…あ、ちょっとご相談いいですか?」
「おー唐突だね…なに? 自己紹介も無しに相談なんて」
「あ、ごめんなさい、私はマリア。マリア・トールマン。K教で聖人認定されたりもしたちょっぴりすごいデビルバスター……バスターです! ですです!
Ms.ユキですよね? お仲間さんが言ってましたが、なんでも終末を乗り越える為の箱庭?を建設してらっしゃるとか……ご相談はそこで、その終末が訪れる日まで其方の庭で居候しても宜しいですか? あ、もちろんタダとは言いませんよ!」
「その条件ならオッケー宜しく。あ、でも泊まりたい理由と何をしに日本に来たかも教えてくれると仲良くなれると思うんだけど、どう?」
「わお、お話はやーい! ありがとうございます! 日本に来た理由はこの街に無駄に力のある異端者達が居て、その罪を取り調べる為でしてー……お恥ずかしながらー……お小遣いを全てパチでスったので泊まれる場所がないのです!……てへへ?」
なーんて。気さくだしお茶目な聖女らしい?良い人なんだけど、賭け事を前にするとね……いやでも5万しか無かったからオールインで増やそうとするのはちょっと気持ち分かるけどさ。本当にちょっとね。
なので流れが変わったのはこの辺り……いやそれよりも前……不良がパチやって潜伏しようと提案した時か……それとも……やめやめ、考えてたらキリがない。
かれこれ元オカルト部現調査隊を向かわせて1時間。この
本当は戦力の逐次投入とかやりたいないんだけどね……ほら、今回は頭役の黒箱が《遊ンデ休ンデイッテネ》って言って使い物にならないから。
だから夜8時にも関わらず、ハコニワ暮らしのマリアさんの為にもみんなが集まり調査をしている訳だ。休ませたいならこんなもんを夜中に出すんじゃないよホント。
「あ! ユキ、ユキ! 帰ってきましたよ! アレは相当楽しかった顔です!」
「げっそりしてるやん」
「いーや私には分かりますね! アレ…は……淫……ん"ん"の罪を犯して来た魂です! エッ…な事をしたからあーなってるだけだと思います!」
「ハイテンションで喋りたいか淫語を口にするのを恥ずかしがるかどっちかにしろー?」
「ド派手に遊びたい気持ちとちょっと罪深なオイタをした魂に反省するよう促したい気持ち、心が二つあります〜!」
「マリアさんってスゴイよね、俗な心と清らかな心が見事に両立してるもん」
「へへ、シスターマリアって言ってもいいんですよ? 虚飾に飾っちゃっても…いいんですよー?」
「相手から敬われるのは美徳でも自分から催促するのは罪判定するのは正直者なのかジョークの類いなのか……」
この人の何が困るって話してて楽しいから無限に話してられそうな所なんだよね。女は3人揃うとなんとやらと言うけど、この人の場合一人で3人分担ってる気がする。話しかけなくても勝手に面白い事言い始めるから。
「調査隊の皆様、中は如何でしたか?
そして切り替えはハッキリしてるし、仕事は出来るんだよな……なんだろうね、この人。
ありがたいし付き合い易いけど、掴みどころはない。食わせ者っぽい気もするし天然にも思えるし、イマイチ住民なのか仮なのかも判断に困る……居るのは異端を取り調べる間だけだから、仮でいい筈なのに身内だと思いたがる辺り、私は既に彼女の魅力に当てられてるかも。
頬を叩きちょっと気分転換。
それから調査隊のリーダーと話してる聖女の一歩後ろに立った。
「ああ…聖女様。問題はありませんでした……ただ、酷く疲れたような…リフレッシュ出来たような……悔しいやら楽しいやら、一言では言えそうにありません」
「え〜とても楽しそう〜じゃなくて……落ち着いて、先ずは何をやったか、事実を振り返ってください」
「はい……先ず一階にはスロットやルーレット、パチンコを始めに様々なアナログ寄りの物が……」
「行きましょうMs.ユキ。これは私達が直接出向くべき案件です」
「2階にはメダルゲームやアーケードを始めとした古今東西のゲームコーナーが……」
「早く行きましょう。私ド○クエの天空のつるぎが刺さった奴を一度やってみたかったんです。FG○のACやガンダ○のACも興味あります。やりましょう、かつて修行の為に諦めた幼年期を取り戻しに」
モンスターロードは兎も角FG○とガンダ○は別に私ら若い時にやってた訳じゃなくない? 私はどっちかと言うと衣装カードを揃える方をやってたけど……マリアさんって趣味が男の子だなぁ。ドラゴン○ー○のドッカンバトルとか好きそう。
「ああ…ありましたね、それらも全て……楽しかったですよぉ…へっ」
「あるって! あるって言ってますよ! あーもー! 早くしないとずっと優越感の籠った眼でマウント取られます! 私嫉妬バリバリになっちゃいますよ、いいんですか!?」
マリアさんは説明を聞いただけでその場で足踏みを始め出した。
コレはまずい、こうなったマリアさんは何を言っても駄菓子屋や寿司屋に走り出し止まらなかった実績がある。ありし日の日本文化を前にしてワクワクが止まらなくなってしまったんだ。
「3階は……漫喫Lv.100で……4階は…」
「あーもう大丈夫。兎に角テンションの上がる場所って事ね。分かった、ご苦労様、これからここで遊ぶ時は入退で名前を記入してチェックアウト管理、黒箱に任された仕事以外は好きに来てよし。但しサボりや夜の7時以降も居たら罰として入場制限。後は細々と決めようOK?」
「了解です……LI○Eで皆に広めておきます……」
最低限指示を出し小走りに先に行くマリアの後ろをついて行く。
ホント、どうしてこんなことに……如何やって作ったかは今まで山や川を生やした時点で深くは問わないとして、可笑しいとは思わないのだろうか。
あの箱がどのようにしてここまで日本文化に深い物が出てくるのだろう……とか、これ盗作や無断コピーとかに該当しないよね……とか。
「うはーァァ!!!」
「お邪魔しまー…うお、マジで喧しい」
「すご…安っぽいものからお高そうな台まで!! あ、見てくださいユキ。これ1600年のとある聖職者が税金逃れで作ったアルカナカードのデザインです。こっちのトランプや銃の飾りも……贋作ですけど、美術品としても歴史的にもかなり価値ありますよ。多分この施設文明保護関連じゃないですかね。あ! パーカーのディーラーとしてお人形が! かわいい!」
「あー…反応する前に俗になったな…」
何回見ても出鱈目でへんてこりんな建造物だけど、1階を見た感じ中身はどうも娯楽関係に特化してありとあらゆる人類の文化を集めましたって感じだった。
うーん…やっぱりノアの方舟なのかなここ。確定じゃないけどやってる事はそれだよね。
「ッ!! ユキ、一緒ポーカーやりましょう! 私のフォーカードを味合わせてあげます!」
「役言っちゃってるぞー。因みにディーラーのアナライズは?」
出たカードは……役がわからないな。これ強いの? ブタなの?
取り敢えず勝負する事にしつつ、マリアさんはアナライズの結果を聞くとちょっと落ち込んだ様子を見せた。
「マネカタ。悪魔ではなく死んだ人の魂。迷える魂が土に宿り人の形を取ったゴーレムに近い存在。リンボみたいな異界を彷徨ってる魂と同じ気配を感じます。弱いし無害ですよ」
「人の魂? 縛られてるとか?」
「先ず、私が救うには色々手遅れですね! 可哀想ですが私は神の子じゃありませんし……長い年月で意思も摩耗した魂に洗礼を施すのは無責任な救済ですから。せめて何処の冥界に行くか、はたまた仏教の輪廻転生を望むか聞いてからじゃないと。
あ、縛られてますけど大したものじゃないですよ? 服を着せられて服が勝手にディーラーっぽくマネカタを動かしている感じでしょうか」
「ほーん、此処に居る理由は?」
「フォーカード、勝ちましたー! ふふふ、イェイyea。
魂なんてそこら辺にありますよ。ここ最近は自殺が多いから尚更です。自殺は大罪、ダメ絶対。なのにやってる人が多すぎてマリアは悲しいです。しくしく」
泣いてるフリ……と見せかけてちゃんと涙が出てる辺り、本当に悲しくは感じてるらしい。
楽しみながら悲しんでるのは情緒不安定が過ぎると思うけど、そんな事よりマネカタディーラーが親切にも役の対応表を渡してくれたのが意外だった。
初心者に優しいマネカタだ…沼にハマらせてやろうという魂胆を感じる。
「役の表ですか、ありがとうございます……笑って泣いて忙しそうだね、マリア。2枚交換」
「5枚交換! それは最近の悲しい出来事が多い世間に問題があるんですよ。私は周りが幸せで楽しいことだけあればいいのに、そんな些細な願いを押し潰すくらい世界が悲しいんです」
「それ憂鬱の大罪じゃないの? そこら辺どう? 勝負、チップ30」
「しょーぶ! チップせんぶー! それはもう憂鬱なのでー…普段は健全に私一人分の幸せと悲しみだけ抱えてるんです。他人のものを勝手に取ったら泥棒。感情も例外はなく、全てを背負っていいのは入信の時に原罪の強制譲渡許可証を渡されてる神の子だけ!」
「勝負続行で。そんな利用規約みたいな……スリーカード、私の勝利。ほな……」
「あああ没収しないでーぇぇ!!! 入信も契約なんだからそんなものなんですよぉ本質が同じならそこに隔たりを持たない方が気持ち楽に生きられるんだからそうするのが自然だと思います! だから持ってかないで私の全財産んんー!!!」
「まだ一階なのに全財産をチップにする方が悪くない? それさ」
5枚交換で見事ブタを揃えた聖女から両腕をショベルにしてガーっと全て剥ぎ取りつつ、それからマリアさんは2階に登らずに一階をうろちょろしていた。
アレだけ行きたがってたのに意外にも思うかもしれないが、マリアさん曰く「遊んでてそこにいくのは早いと悟ったんです……足るを知る聖女なのが私」とのこと。
まぁ、全財産スッたんだからそりゃそうか。折角黒箱から報酬貰ってやっていた研究で稼いだ分がパーである。
可哀想なので300円だけ与えてちょっとだけ2階で遊んで来たら?と言ったら酷く喜んでたので、この子はこのくらいが丁度良いのだろう。なのでしばらくお小遣いの管理は私がやる事にする。だからそんなに潤んだ眼で私を見ないように。
「……だめ?」
「ダメだよ。すぐ全財産賭けちゃう癖が治るまでこれね」
「うわぁ〜ん…」
「あーこら泣かないで……なんか世間の自殺者の件で流してた涙より多くない?」
なんだかなぁと、私はやっぱり掴めない彼女に首を傾げながらも彼女の財布を硬く結び握るのだった。