女神転生で終末箱庭ゲーム実況 作:RTSは奥深い
《葛葉一族所有霊地「御岳山」に潜伏し日本政府の侵食を狙っていた高位悪魔「ビシャモンテン」他三体を調伏》
《サンフランシスコ秘匿条約に基づき米国の大祓いに参加。米国側の悪魔祓い70名と共に「魔人衆」討伐へ。内42体を単身で撃破》
《三度に渡る東京受胎、及び海外遠征中のロンドン受胎、これを阻止》
《狂人らによる大霊脈を素材とした九頭龍の召喚を阻止》
以上の大功を以って其方を「十六代目」として葛葉レイメイの名と共に授け、東京の守護者に認定す。
────力があれば、忌子と蔑んだ過去すら忘れ去られるらしい。
「…………」
「ひっ……!」
新たな幼き住民を向かい入れたハコニワ。
これまで以上に活気と生きる為の努力に溢れる場所を、一人の男が猫と共に散策していた。
「………」
「葛葉、子供に怖がられてショックでも受けたか?」
「…………」
「我らは始めに力の差を見せつけた。骨のある二人を除けば、ここには多少力があるだけの奴か先日まで搾取されていただけの子供……刺激が強すぎたのよ」
目深に被る男がそれでもと不満気な顔をする。黒猫もそれを認めると、はぁと呆れて男の身体をヒョイと昇り、肩車をされてるような姿勢になって、にゃあと鳴く。
「我は黒猫だからな。こうすればお主への恐怖も紛れよう。最近の言葉で言えば
「…………」
ホントかぁ?と疑いつつも、男は試しにそのまま散策を続ける事にした。
無害な者しかおらずとも、仮の拠点にするなら一通り地形と霊脈の流れは把握しておくべきだ。そのついでに人から情報の一つでも落ちれば上出来だろうと歩いてみれば、一目に悲鳴を出していた子供達が二つ見直してから悲鳴を上げて逃げていく。
「…………」
「なんだ、もういいのか?」
男が黒猫を下ろすのにそう時間は掛からなかった。悲しいが、可愛さで命の危機は誤魔化せないのだ。
「ほらあそこあそこ……」
「うわ、本当に居ますね……」
「どーもー不審者がうろついてるって通報を受けて来ましたー」
「………!?」
そして、しまいには逃げ出した子供達が二人の女性を連れて来たではないか。
葛葉、人生で初めて不審者として通報される。ちょっとしょんぼりとした気分になった。
「なにしてるんですか葛葉さん」
「語るまでも無いが、この異界の調査だ。貴様らは一度見逃してやったが、だからと言って何もせず油断する気もない。羽を休む止まり木が腐ってないか、こうして見て回っている所だ」
「それそれはー…勤勉というか、疑い深いと言いますか。そんなに強くなっても小細工一つの有無に注意を払うなんて、丁寧なお仕事をされてるんですね?」
「……………」
呼ばれた女の片棒がぽむぽむと近づき、刀の間合いに態々入ってからコチラに語り掛けた。
律儀で、豪胆で、器用な事だった。蘇生の秘物も無しに油断を誘う歩みで自分達は大丈夫だと身体を張って、しかし突然斬りかかれば背後で覗き見している幼子等が逃げられるように魂の内で術を編んでいる。
はてさてどれだけ昔の術だったか。人類に通信によって共通認識を一律化し、術が固有の名を忘れる前の、自分と相手の双方に欠ける日の本の金縛りなぞ、今時使う物好きが居るとは。
戦争に負けて日本各地の霊術の殆どを接収されたとはいえ、今では倉の奥に閉まってるような物だというのに、勤勉なものだとゴウトは鳴く。
「……むー。自分じゃなく猫ちゃんが代わりに話してる辺り、呪言の対策ですか? それとも単に言いたい事を先回りされてるだけ? そろそろ私の眼を見て、自分の口から話しても良いとは思うんですけどねー?」
「知れた事を。本当にそう思うならその妖気を引っ込めてから言え」
「そう言われましても、私の"これ"は体質……魂質? ですからして〜」
抜かしよるわとゴウトは呆れる。
神の子を産んだと言われる存在を見立てて"再現"されでもしないと出来ない存在の癖して、師の一人も仰げた事がないと宣うとは。産まれ持っての物と言えど、躾くらい行き届いているだろうに。どうも日本に来てたら好き放題弛んだ日々を送ったと見える。
「訓練ぐらいしとるだろ。三味線を引くのも程々にせよ」
「あれ正座してるみたいでイヤなんですよ。そっちこそそんなに強いのに対策装備の一つもないなんて不用心じゃないですか。だからってそんな前時代的な対策……あ、お金なかった口ですか? 私は無かった側なんですけど。ケチ臭いんですねーあそこ」
仕方ねーだろ呪い無効のやつは貸し出してて出る時手元に無かったんだから。と男が言いたげだったが、ゴウトが先に鳴いたのでその口を閉ざした。悲しきかな、普段喋ってないと挙句に口が開かないのだ。
「力のある逸品を着け過ぎれば打ち消し合う。悲しい事に枠が足りなかったのだ」
「そんなゲテモノ付けるからそうなるんですよ。そっちの吸血鬼のー…欠片?は兎も角として、そのお札巻かれた斧なんていつ使うんですか。デメリットの方が大きいですよね」
「最終手段」
ゴウトがおいと言いたげに顔を見上げたが、このまま井戸端会議をしていて子供達の仕事を邪魔するのも忍びない。というか、いつまでも話に盛り上がって情報を抜かれてる様子を見る趣味も無かった。
「あ! 初めて喋りましたね! でしたら喋る気が変わらぬ内にお聞きしたい事があるんですよ〜! "お名前、なんて呼べば良いですか"? いつまでも黒猫の人と呼んでちゃ不便ですから」
「十六代目。猫はゴウト。では」
男はサッサと話を切り上げる為、端的に話を終わらせた。
この異界は無害だが、あの女はどうもきな臭い。奴の痕跡が無いかだけでも早々に調べてやる必要があったから。
「──あ! 泊まる家は自由に決めて下さいねー! お客用はないのでー、適当に子供達の部屋でも、私の部屋でもご自由にー!」
「……なあ聖女、私は?」
「女として終わってるので無しです」
「ん? もしかして今インモラルな夜の話してた?」
「ん? 男女でお経唱えながら前遊だけして全回復する技知らないんですか?」
「ん? 普通に知らない…なに、やった事あるの?」
「いやないですけど。あの人なら効率重視でやるかなって」
「いやー無いって。自分から子供達を怖がらせるような人じゃないよ」
「えー…野生児っぽくて私は良いと思いますけどねぇ…?」
「モテモテだな? 葛葉」
「態と聞かせてる話に脈はないだろ」
実に姦しい二人組から離れ、黒猫が揶揄うように男へとヤジを飛ばす。
最後の話が半分冗談で半分は情が移ってここに留まってくれたら良いという願望なのは見え透いていた。お互いそれを理解しての掛け合いだった。
「どう見る?」
「黒猫のおっさんが鼻伸ばして俺の攻略ヒント溢してたことか?」
「違う! あの聖女とやらだ!」
男が肩を竦め、辺りを見てから猫を肩に乗せて木々に飛び乗り──次々と跳び渡る。
ここからは密談。ついでに駆け足で異界に生っている山々の調査だ。
話振りでなんて事ないように扱ってはいるものの、山を5つ、川を5つ抱いているのに、ここまで悪魔の影一つ出て来ない異界は異常である。異界という現実よりも魔界に近付きやすいあり方の癖して現実よりも魔界に遠くなければ成り立たない状態。
「悪い事に幾らでも使える万能の母体だな。メシア教に渡れば忽ち腹に悪魔や聖女の10や20は詰めこむ事になるんじゃねーの? 俺がここに送るんならそりゃ態とだね! そんでメシア教との結託の証にする! そしたら自分らのハコニワの席を確保だ! はー趣味悪〜!」
「お主はそう見るか……我からすれば、奴は蝶よ花よと育てられた箱入り娘だな。世間を知っているようで実際に体験した事は少なかろう。磨けば、或いはお主を超える力を秘めている」
「そうなる前に死ぬぜあれは。いざや世界の終わりとなったら船から飛び出して一人で泳いででも洪水を止めに行くタイプだ」
「ほう?──お主と同じだな」
無害でも異常。ハコニワの本体を見ても全てを見通せなかった以上、少しでも情報を仕入れたいのは本当の事だった。
────……。
川に流れる葉を踏み、反対岸に渡る。僅かな揺らぎ。仙術を珍しく失敗かと眼を配る。
まだまだ修行不足と考え……猫の重さの分か。そう考え直す。つまりいつもと違う条件だから失敗したという事実だった。猫に悟られぬ範囲で反省し、限界に挑戦する為足を速める。日々是修練なれば。
「呵呵! 俺はそもそも船に乗ってねーよ! 方舟に乗る資格なんざ持っちゃいねー!」
「であれば、ココが"そうである"と認めるのだな?」
静止。加速していた足もかいていた汗も、男の後ろを追っていた葉も風も。
枝の先、身体を猫のように丸めた男がニヤニヤと嗤う。
「──ああ、勿論。実にご立派な船だ。噂に
いやはや……マジで滅ぶっぽいな? この世界は」
──ここ最近、と言うには既に三ヶ月も前のこと。
有象無象の滅亡論者や悪魔の策謀を世界各国で打ちのめし、されど日本だけでなく各地で自殺者が増え始めた時の頃より、火も煙も無いのに裏の社会に湧いて出た噂が有った。
「"ハコニワ"──世界が滅ぶ一月前に世界の何処かに出てくるというノアの方舟の竜骨で、核。それを手にした物は"確実"に次の世界……全てがリセットされ、歩み直して尚終末を目前にした世界に渡るという」
「呵呵呵、目の前の滅びから逃げても結局別の滅びを前にするしかないとか嗤えるよな。なーんも意味ないし、地元じゃねー何処とも知れぬ世界に骨を埋めるしかないってのが特に」
「されど、今は死なずに済む。ずっと載っていれば死ぬまで安全だ。何せハコニワの中には平和があり、希望があり、極楽がある。あらゆる不幸に怯えずに済む世界が永遠に広がっている」
「外は阿鼻叫喚地獄絵図なのに? 精神病むぜーそれ、俺は絶対ムリ。苦しんでる奴の隣で平気な面して平和を貪るとか吐き気がするね! 性格悪い奴しか残んねーよ! そんな隣人ばかりになるのもヤダヤダ鳥肌粟立ちホイップクリームだわ! いつ隣人トラブルで刺されるか分かった物じゃないもの! だったら先に刺してやる! えいっえいっ!」
「しかしな葛葉、それでもこの街に出るという予言者の言葉に従った組織が3つもあり、内一つがヤタガラスを名乗っているのが現実だ」
くるりと男が降り立ち、直後に男をクッションに猫が地面に飛び降りる。
気味の悪い笑顔は消えていた。今度はのっぺらとした無感情の顔で、何処と無しに睨んでいる。
それを見て猫は──呆れた顔でため息を吐いた。こういう時、この男は大抵くだらない事を考えている合図だったから。
「んな事はどーでもいいの。本家だろうがパチモンだろうが何処に喧嘩売ったか地獄の底で後悔させればいい。
──問題はだな、あの雪って女が俺に惚れてるかどうかってのが重要なんだ」
「馬鹿者め」
「いーや大事な事だね! だって最初に会った時にアイツ、あんなに弱っちいのに四回も食いしばって来たんだぜ!?
そんで言う事が「そんなに強いなら終わりを覆してみろよ! そっちの方がアンタらしいだろうが!!」なの! いやーアレは目が醒める一喝だったね! 確かにそっちの方が俺らしい!」
「大馬鹿者め」
「そりゃあ良い! アイツも大馬鹿者だからお揃いだぜぇ!」
心の底からそう言いつつも、猫は考える。
あの雪とやらが言った事に同意するのは癪だが、事実自殺者が増えていくに従って、この男は次第にやる気を失っていた。
仕事振りや日々の修行時間が変わった訳ではない。ただ日々同じ生活を繰り返し、その眼に入る人々の数が次第に減っていく事が男の心をじわじわと腐らせていた。
自殺者が増えた。調べた。異常はない。
悪魔を利用し悪を成す組織が出た。倒した。異常はない。
自殺者が増えた。調べた。異常はない。
悪魔を利用し悪を成す組織が出た。倒した。異常はない。
倒しても人が死ぬ。調べても何も分からない。
明らかに何か居る。しかし解決の糸口が見つからない。
前に進んでる気がしない。次第に終わりが迫ってくる。
どれだけ助けようと、助けた側から自殺されれば自分のやっている事に意味を見出せなくなる。
──「なんだ、調べぬのか?」
──「……今日はやらねー」
──「そうか。まあ、偶には休みも必要だ。最近葛葉も根を詰めていたからな。ゆっくり休むといい」
そして男はある日調べるのをやめた。猫もまた気に留めもしなかった。そんな事より葛葉が大事だと判じたから。
カランカラン。
──「失礼します。ここに薄汚えヤタガラスの関係者が居たら今すぐ死ぬか情報を全部吐くかして下さい」
──「は?」
そんな日に奴が来た。
それはもう全力で人の神経を逆撫でする言葉と共に。
で、身の程知らずの大馬鹿を懲らしめようとした男が手加減を間違え殺す事四回。
反魂草でも使おうかと近づいた所を不意打ちされること四回。
なんでそこまでして死の淵から帰って来れるかと問えば、「その腑抜けた顔に腑を入れる迄は死んでも死に切れないに決まってるだろ探偵。看板通り探偵なら依頼の一つや二つ受けろやボケカス」と宣う。
そしたら「……呵呵呵! 顔に心を入れるってなんだよ!」と男が嗤い、女を背負って此処までやって来たという次第。
なんともまぁ馬鹿馬鹿しい馬鹿ばかりの話である。しかも、男は女が自分に惚れでもしない限りこんな事しねーだろと言うのだから、自分の強さを忘れてる様子を見てため息を吐きたくもなるというものだった。もう十六代目になって長いというのに未だ名も無き忌子気分か、コヤツめ。
「──…ーい? おーいゴウトー? ダメだな遂にボケたかおっさん」
「馬鹿者。我はまだまだ現役だ」
「じゃあ過去ばかり見てねーで今見てこうぜ。そんなんばっかやってると前のつまんねーってなってる俺みたくなるからよ」
「……肝に免じておこう」
……どうあれ、ここは事態の中心に思える。
であれば、ここに居れば多少は情報というのも集まるだろう。
僅かに見えた光明に、猫もまた無意識の内に喉をゴロゴロと鳴らすのだった。