女神転生で終末箱庭ゲーム実況 作:RTSは奥深い
ある日、私は夢で神っぽい声を聞いた。神々しいようで諦めに満ちていて、一度しか聞いてないから確信はない。
ラテン語だったので理解に苦しんだが、囁いた単語を推測すればこんな事だった。
終末から逃れられる舟が一隻訪れる。その舟には相応しい者だけが乗れるだろう。
お前は生まれたのが罪だが、お前に罪はない。故に一度だけ乗る機会があるとだけ教えておこう。
その時まで生きて困難を背負うか、死んで新たな困難を背負うか定めよ。
果たして自分が舟に乗るべき相応しい存在か、今でも自信がないが。
身の丈に合わぬ物で飾り立てた偽りの天使はその身の重さで墜落し。
その死体を漁り喰らった者は審判に巻き込まれて死んで。
迷えど懸命に日々を生きる羊達が、定めの日を乗り越えられるように壊れた舟を直している。
それを見て思うのだ。
果たして彼らのように懸命に助かろうとせず、蒙昧に曖昧なまま日々を送る私は果たして。
手伝ったとしても、舟に乗って生き延びる資格はないのではないかと。
自らの心臓を天秤に乗せて、もう片方を指で押して釣り合わせ。
ゆらゆらと迷うのだ。
「この水瓶どこに置くー!?」
「それこっちに置いといてー!」
「みんな! 山で猪狩って来たよ!」
「血生臭ッ…解体班あっちだから持ってって!」
「黒箱から命令伝達ー! 全員手は止めないまま傾聴!」
「はいパン30個焼き上がりー!」
新たに80名の仲間を受け入れる為に66名のハコニワの住民があちこち駆け巡る中、この礼拝堂では彼らの為の食事を用意する子供達の姿をよく見かけます。
それ自体は食堂が近いからでしょうが……こうして礼拝堂の中で神との付き合い方と恩恵の受け方をどう教えるか座って考えている身としては、12〜14の年しか重ねてない彼らの手でパンが作られている様子を見ていると。
「うう、食べ辛い……」
なんだか私はあんまり働いてないのにご飯を貰うのは申し訳ないなーって思うのです。
「いえ、今は食事禁止とハコニワから通告されているので作ったとしても嗅ぐだけ、見るだけになるのでしょうが……これ、生殺しも良いところですよねぇ?」
変な話です。幾ら空腹だろうと食べてはいけないと禁じているのに、今日の昼に限って作っておけ…などと。一体どのようなお考えなのでしょう。
……手元の聖句を連ねたノートに、窓から視線を戻します。確かにこの儀式が上手くいけば、死の消えたこの世界でも食事を取れるでしょうが。
「もしやこの研究がその頃に成功すると…? いやいやまさか。神でもないのに安否が分かるなんてそんな……」
ハコニワには住民から「黒箱」と呼ばれる、ハコニワの意思を通達する核があります。
最近巷で噂になっていた、メシア教も偽ヤタガラスも欲していただろうスゴい物です。
どうスゴいかと問われれば、終わりゆく世界から別の終わりかけの世界に行けます。
結局終わりと対面する事になるのですが、乗り続ければ絶対に終わらないというのがスゴい所です。回避不可の終わりを迎えずに済むし、周りが地獄な事を除けばハコニワの中は結構快適です。
どれだけ快適かと問われれば。
今、外に出ると肌がチリつき蝕まれていく命の恐怖を遮断し怯えずに済んだり。
痛かったり苦しかったり……死にたいと思わずに済むのが快適です。
一歩外に出れば途端に襲ってくる死への誘惑も、それが自分の物ではないと分かるのがどれだけ楽なことか。最近になり一度受けた傷が治らなくなったとしても、何とかなるかもと子供達が希望を持てるくらいです。
……癒えない擦り傷と垂れる血に構わず働く様は、見ていて痛々しくもありますが。
「そういった期待を一身に受けるのは……身に余るというか」
そんなスゴいハコニワですが、全てハコニワが何とか出来る訳ではありません。
立派な家に住みたかったら自分達で建てないと行けないし、生活を楽にするには自分達で知恵を出し合い改良して、或いは外の技術をハコニワに合う形に整え直す研究をしなければなりません。
霊能力の絡む技術を外で使えたとしても、此処に属したら込められた力が変わったりしますから……何故エナジードレインを防いだり
中でも私は聖女として過ごして来た経験を使って、メシア教や偽ヤタガラスの洗脳によって記憶を失ったり、或いは植え付けられた方々のケアをしたり、こうして終末に対抗する為の研究をしています。
……そうです。私は聖女で科学者や魔術師でもないのに、この世界に降りかかってる自殺願望や先日から起きた不死性を解き明かし、対策しろと言われているのです。
無茶です。
無茶です。何度でも言いましょう、ずっと野山で修行し聖地に向かって歩いては修行し魂を高めては修行する修行僧な日々を送った無学者にやらせる事ではないと。いやいや私に出来るのは神を信じ心を安らげる方法とそれをちょっぴり実利に変える事だけですよと。
ですがハコニワはやれと言います。ちくせう。
「出来る訳ないとー……思うんですけどねぇ…?」
確かに自殺願望が他者に感染しないようにするのは出来ましたよ?
ですがそれは心の中にある自分だけの神に祈る方法をちょっと工夫させただけで、別に根本的な解決にもなってない霊格頼りの根性論です。万人受けではありません。瞑想の型を教えたようなものです。
「一応…聞き齧りの仙術やハコニワの霊地としての特性とかを絡めて既存の聖句と繋ぎ合わせ、新たな儀式を構築しましたが……機能するのかなぁこれ。ゲテモノキメラ過ぎてマッカに移す
そして今回は身体の方。
突然訪れた不死性への対策、命を摂ろうとしても死なないから栄養として摂取出来ず、物理的にしか腹が膨れない問題をなんとかしろと言います。
無茶です。
例え天丼でも私は何度でも言いましょう。何故か私に代わりに異端審判をしてくれたお礼にどんなお願いでも聞く気概はありますが、それは割と無茶振りに入ると。
帰還命令が来るまでここに滞在するつもりですが、それはそれとしてもうちょっと悪魔との戦闘に連れ回したりとか、人々のメンタルケアとか、そっち方面の方が得意ですよと。
「でも、ずっと空きっ腹で動くのは辛いですもんねぇ……死に抗う為にもご飯を食べてよく寝ないと、元気出ませんし」
……と、ゴタゴタな内心の不安不満ばかりですが。
だからと言ってハコニワの皆さんが嫌いな訳じゃありません。
ここに居る人達は皆、かつての私よりずっと…ずっとずっと生きるのに懸命なものですから。
「マリアさん、ご飯できましたー!」
「はーい、そろそろコレも完成するので待っててくださいねー!」
だから、外で見かける人々みたいに食べて腹に溜まり続け苦しむでも。
ましてや、食べないで飢えに苦しむでもなく。
「……おっやっと来た。ささっマリアさん、例の奴初めて下さいよ〜ぉ!」
「それなら雪さん、全員分用意したコレを配るのを手伝ってくれません?」
「よし来た、聞いたなみんな! 早く目の前のご馳走食いたけりゃ隣のやつに渡してけー!」
「「「おーー!」」」
ちゃんと「生きてて」欲しいなーって、思ってまして。
「では唱えー…る前に、そちらのお二人もご一緒にどうですかー?」
「……………」
「我らは問題ないか確認してからだ」
「そうですかー…食べたかったら言って下さいね? では──けほん」
"ずっと前から死んでる私としては、そう思わずにはいられないのです"。
──『ヨハネの黙示録』第22章14節より
| 聖女 マリア・トールマン Lv.30/99 next.67 元晩成型 母胎傾向 |
| HP0/0 MP156/156 力5 知19 魔20 体5 速5 運5 電撃吸収/呪殺、銃、針無効/物理、氷結耐性/火炎弱点/破魔脆弱 |
| スキル ☆造られた聖女 ☆器「鬼神 トール」 ・天使の贄物 ・龍の眼光 ・三分の魔脈 ・サマリカーム
☆…その世界でその者しか持たないような固有のスキル。
☆造られた聖女 ┣神の子を孕む為に数多の聖人聖女の死体を撚り合わせて出来た存在。罪深き業から産まれた本物の聖女。造り手の望み通りでは無かったが、有用なので育てられてきた。 ┣ターン開始時にメインにいれば、ストックに居る味方の状態異常を一つ解除し小回復。 ┣ターン終了時に自身のMPを小回復。 ┣エリアを3つ移動すると味方1名をHP1でランダムに蘇生。 ┣耐性を呪殺・針・銃無効/氷結耐性/火炎弱点/破魔脆弱に変更。 ┣指定したキャラを自分の子供として産み直せる。 ┣子供の種族を聖人/聖女に固定、全ステータスの成長幅に中補正を入れて現在レベルまで再計算し出産する。 ┣自分より低レベルのキャラに対し好意的な印象を与え、嘘か本当か分かり、魂の色を識別出来る。トークで自分に有利な条件を引き出せる。 ┗自身の陣営をLに固定。これは解除出来ない。
☆器「鬼神 トール」 ┣自身を構築する聖人の一人から受け継いだナホビノとしての適正、自覚。或いはガイア教の聖女となる器の証左。 ┣悪魔「鬼神 トール」を儀式手順不要で召喚可能。「合一神 トール」になる。 ┗耐性を電撃吸収/氷結・物理耐性に変更。
・天使の贄物 ┣天使に都合が良いように身体と魂と精神を弄られた。特定の集団に属する天使に相対すると起動。以降その天使の集団に肉体は従順になり、内心の自由を除き逆らえない。 ┣妊娠中、MAGを3消費して出産までの時間を3時間にする。 ┣HPが0に固定されバトルに出れなくなる。代わりに寿命で死なず、このキャラに関わる食料・水・日用品・マッカ・MAGの消費コストを0にする。 ┣痛覚を除きあらゆる感覚、感情が鈍化した。軽傷の状態異常を無効化。 ┗このスキルが起動するまで「マリア・トールマン」はこのスキルに関する記憶を自覚出来ない。 └「 |
「マリアさんも一つ食べなよ」
久々の食事を堪能している皆様の姿を微笑ましく眺めていると、子供達と共に食事を取っていた雪さんがパンを一つ差し出しました。
ほかほかの、竈の熱がまだ残っているパン。雪さんはそれを半分にちぎって、私の手に乗せるのです。
「……私はー…良いかなーって」
「そんな気の抜けた顔して何言ってるの。子供達から聞いたよ、最近黒箱が任せた研究に齧り付きだし、不死になる前から食事を抜かしがちで心配だーって」
「あらま、心配させちゃいましたか?」
雪さん……ずっとMs.雪と呼ばれるのはなんかイヤだと言われてからそう呼んでいる彼女は、ある意味で私を救ってくれた人です。
K教本部の手によって魔改造されていた私を受け入れてくれて、滞在したお陰で記憶を改竄されていたと自覚する事になったキッカケの人。
「するよ。私ら友達だし」
「……あー…友達だったんですね?」
「そうじゃなきゃなに? 私は隣人だからって無償でパンを与えてやるほど優しくないよ」
「私、結構研究してたのですが…」
「それは宿泊費や食費分じゃん。つべこべ言わずフレンドのフードシェアぐらい受け取ったら?」
「なんて強引な親切心…!」
結構恩義がある人です。
強引でイジワルな所も結構有りますけど、決して悪い人ではありません。
なのでこうして食べられないパンを与えられても、この場で食べて後で吐き出すくらいの事はして然るべきなのでしょう。
なので……覚悟を…決める時でしょうね…。
「では……………はむっ!」
「妙に間が長くない? ジャムとか欲しかったタイプ?」
私は隅から隅まで改造された聖女です。
思い出した記憶によれば、数多の改造の中には滞りなく生産施設として稼働出来るように極限までコストを抑える物もあります。具体的には人の老廃物で食事を済ませられるように…とかなんとか。
ですので今の私はハコニワで滞在した影響で鈍化していた舌の感覚が戻り、まともな食事が酷く不味く感じるので、結構大変な試練なのです。
なのです…が……?
「………?………はむ?…………ん?」
なのですがー……変ですね、前に五感が急に元通りになってハイテンションのままパンは不味かったのですが。
五感よろしくハコニワの力で…? あれー…テッキリ記憶や脳に関することだけだと思ってたら、案外適用範囲が大きかったり?
「ごくん…──ウマイ! やーみー!」
「出来立てだからね。そりゃそうよ」
「こうしちゃいられません! 今すぐ自分の分のスープとパンを取りに行って来ます!」
「運ぶときに零したりするなよー」
という事は…このまま食べても問題ない訳です!
ひゃあウメェ! 寄越せ全部私に寄越せ! こっちはマトモな食事にあり付けるのはあなた達の倍掛かったんですよー!
「待て」
「…………」
「あ、葛葉さんなんですか私のおかわりを足止めする気なら意地でも通りますよ」
シュッ! シュシュシュ! シュ!
じゃんけん勝負なら負けませんよ!
「そうではない。子供らに異常は見られず、術者も食べ始めたから我らもその術を掛けて欲しいだけだ」
「お腹空いた」
「葛葉、それは皆同じだ」
ああ、そういえば居ましたね、この二人。
流石の日本の最終国防兵器葛葉も2日の断食は堪えますか。
この人達が元気になるって状況が個人的に何されるか分からなくてちょっと怖くもありますが……食べられないのは辛いですもんね。
「それならコチラを。では、いただきますの祈りを込めてー!」
そうして。
外はどんどん地獄と化して行く中、私達は暫しの間宴として久しぶりの食事を楽しみました。
後ろめたくも、どうしようもないからとも思いつつ。
出来れば本部に帰りたくないなって、この居心地のいいハコニワの中で微睡んだのです。