闇派閥を畑の肥やしにするタイプの農家さん 作:ダンまち=スキー
「目標は
「羽振りの良いところを見せつけてあちらから接触させましょう」
必要なのは、この客は上客になると思わせること。彼らにとって良い客とは、勝率の高い者ではなく、多くの金を落としていく者。つまり派手に遊べばいい。
「言うだけなら簡単ですが……いくら持っていますか?」
「今出せるのは100億までだ」
「そうですか、100億……100億?!」
リューは自分が持ってきた100万ヴァリスとシオンの手持ちいくらかを元手にゲームで増やしていく予定だった。ところが隣のコイツと来たら、そんなに持ってきたらそれをチップに変換するだけでその瞬間にVIPへランクアップである。
「元手があるに越したことはないですが……そんなに使って大丈夫ですか?」
「問題ない。オラリオでは犯罪者に人権が認められていないと教えてやろう」
「そんな事はありませんが?!」
「いいか、アンナは金庫の中にいた」
「そんなわけないでしょう……」
実際100億を全て使うことはないだろうから本当に問題ないのだが、それはそれとして誘拐犯が頭張っている賭博場に金を落とすのはごめんである。全て補填させて貰おう。
ということで取り敢えず30億ヴァリスをチップに変換。
「へいお兄さん達、俺は普通のカジノに飽き飽きしていてね。そこの中でもっとヒリつくゲームをさせてくれないかい?」
戯言を、とは切り捨てられない。なにせ30億ヴァリス分のチップである。この客を逃がすということは、30億ヴァリス分の利益を逃すということに他ならない。ボスに何を言われるか、どんな沙汰を下されるのか想像するだけで背筋が凍るだろう。つまりは──
「お客様、オーナーが是非お会いしたいと」
──釣れる。さながらマグロを一本釣りした漁師のような気分でシオンは内心ほくそ笑んだ。*1
仕立ての良い黒服に身を包んだ初老の男に案内された先は、騒がしいホールから一転して物静かだった。煌びやかなイメージとは反対に光は抑えられており、むしろ薄暗いほど。そして、近付いてくる大柄なドワーフ、この男が標的だ。
「私はテリー・セルバンティス、ここのオーナーを務めておる者です。今夜は遠路はるばるお越しくださってありがとうございます」
「こちらこそ感謝しています。私はアリュード、こちらは妻のシレーネです」
リューは何を言うでもなく令嬢のように礼を取った。歓迎してくるテリーは愛想を欠かさないが、こちらは既に彼のやり口を知っている。問題はない。
さっそくゲームを行うテーブルに案内され、カードゲームを行う知己を紹介された後、人形のような愛想を見せる美しい少女達に給仕をして貰ってから、シオンは久し振りに口を開いた。
「オーナー、先程から見かけるこの麗しい方々は?」
「彼女達は、まぁ聞こえは悪いかもしれませんが、私の愛人です。自分で言うのも何ですが、多情な私めの求愛に、真摯に応えてくれました」
ギリッと音がするほど握られたリューの拳を、その上からシオンが握って隠した。それは諌める意味もあった。別に今ここでテリーを半殺しにするくらい構わないが、まだアンナの姿が見えていない。調子に乗らせてアンナを連れて来させて、ついでに似たような被害者を全員紹介させてからぶちのめした方がいい。考えを同じくしているからリューは止まっているのだろう。
紹介される女性達は誰も彼も人形のように美しく、テリーがアンナと同様に卑劣な手段で連れて来たのがよく分かった。そして、遂に。遠い異国から娶ったという設定が語られた後、彼女は現れた。
「初め、まして……アンナと申します」
彼女は他の少女達と比べ初々しく、そして隠し切れない怯えを見せていた。こんな光景を見せられても、自慢げなオーナーも下卑た視線を送る富豪達も咎められることはない。まさに治外法権。彼等は有り余る財力で全てを思うままに動かしてきたのだろう。しかし、それも今日までだ。
「テリー・セルバンティス、最初で最後のチャンスをやる。己の罪を告白し、彼女達を解放しろ」
「ほう……どこのどなたと勘違いされているのかは存じませんが、どうやら奥様を差し置いてこのアンナに相当ご執心の様子。ならば、
勝者は求めるものを手に入れ、敗者は全てを失う。自らの優位を欠片も疑っていない余裕の表情で、テリーはそう提案した。しかしながら、相手が悪い。
「冥土の土産に良い事を教えてやろう、テリー・セルバンティス」
「物騒な事を仰りますな。ここで死ぬつもりは毛頭ありませんが、せっかくなので聞かせてもらいましょう」
「知力、魅力、果てには権力、そしてお前の得意とする財力……とにかく全ての力は、暴力の代替品でしかない」
「……は?」
地上最強の生物が如く放たれた暴論は、テリーの思考を置き去りにした。ついでにリューの怒りも困惑で上書きして鎮火させた。
「どれだけ偉かろうが、どれだけ金を持っていようが、圧倒的な暴力の前では無意味だ。それをお前はよく知っている筈だろう? なぁ、元冒険者のテッド」
「なっ?!」
その動揺が答えのようなものだが、それはともかく。例え封印されていようとそのステータスを暴くお薬を持ってきているので、言い逃れは不可能だ。敗因は前科があったこと。
「……くだらない戯言に耳を貸すつもりなど毛頭ないが、この俺、ひいては店の沽券に関わる戯言を吹聴して回る輩を生きて返すわけにはいかん。一応……そう、一応、殺す前に聞いておこう。貴様、何者だ?」
「ほら、変装解除。俺のこと知ってるか?」
シオンと目を合わせたテリーもといテッドは、剣呑な雰囲気から一転して顔面を蒼白にし、汗をダラダラと流しながらアンナの手を握って走り出した。
「デメテル・ファミリア団長、
この
「やれぇ! お前ら!」
ビシッと指をさされて*2討つ宣言されたテリーもといテッドは、用意していていた手駒を自慢する言葉さえ忘れて金庫に走った。そして命令を受けた2人の冒険者が前に出る。
「この2人はあの黒拳と黒猫だ! 名を聞いたことはあるだろう!」
紳士然とした案内人からの自慢げな解説に、思わずシオンとリューは吹き出した。黒拳と黒猫は少し前まで猛威を振るっていた賞金稼ぎと暗殺者の通り名であり、現在はポンコツエルフと共にどこぞのドワーフ女主人にシバかれて強制労働の日々だからだ。
「ここは私が足止めするのでテッドを追ってください」
「了解」
やれお前ら〜なんて言われたせいで用心棒たちは一斉にかかってきたので人質作戦する暇もなく全員リューがKO済み。残るのは給仕だけなので攫われた少女達の保護も出来るだろう。既に魔道具も渡してあるし問題ないと判断したシオンはリューを残して奥に進んだ。床を踏み砕きながら高速で進んだ先にあるのは、巨大な金庫。その中では今にも悍ましい行為が強行されようとしていた。
「あいつら名を偽っていやがったな! くそったれめ! だが最後に笑うのはこの俺だ!」
シオンを敵に回してなお余裕を見せられるのは既に特注の金庫の中にいるからだ。小さな家が収まる程の巨大な空間を埋め尽くすように見上げるほど金貨が積み上げられたこの金庫は
「アンナ、お前には憂さ晴らしに付き合って貰うぞ!」
「ひっ……!?」
金庫の堅牢さと今から自分がどうなるかについて、目の前の嗜虐心を丸出しにした悪漢に語られたアンナは、恐怖に震え上がっていた。
その横を、巨大な物体が通り抜ける。積まれた金貨をぶちまけ、身の危険を感じる程の轟音を鳴らし、余波で髪を揺らす。
「えっ……?」
アンナが何か飛んできた金庫の入口を見ると、そこに扉は無かった。代わりに立っていたシオンが指をさす方、入口と反対側を見ると、そこには金貨に埋もれるひしゃげた扉があった。
「この金庫に使われてる
「き、貴様ァ!」
「嫌ぁ!」
怒りのままに、未だ立ち上がれないアンナへ手を伸ばすテッド。しかし冒険者崩れの動きをシオンが見逃す筈もなく、一瞬で彼女はシオンのもとに抱き寄せられ、テッドは宿木に拘束された。
「俺のお姫様になにしようとしてんだ」
「シオン様……」
「……様?」
「ン"ン"ン"ン"ン"ン"ン"!!」
拘束されたテッドは血走った目で暴れながら何かを訴えているようだが、宿木を口に突っ込んでシャットアウト。ガネーシャ・ファミリアに回収されるまで放置だ。ステータスを暴かれて、次いでに悪事も暴かれて、アンナと他の被害者達は合法的に解放されるだろう。ということで……
「ヨシ!*3 じゃあ帰ろうか!」
「えっ?!」
「君も家族も早く会いたいだろ? 後はガネーシャのとことリューに任せるから大丈夫、大丈夫」
「えっと、その……」
アンナは極めて良識的な一般美少女街娘だったので、この惨状を放置して帰ることがよろしくないとしっかり認識しているし、投げ出すつもりもないようだった。でもシオンは帰りたかった。なので、
「お姫様、お手を拝借します」
「えっ? はい……きゃっ!?」
あろうことか、アンナをお姫様抱っこして夜の街へ繰り出すシオン。止めようにもその脚力で建物の屋根を飛び移り、ほとんど空中にいるような状態。拒否権はなかった。なかったが……
「私なんかのためにこんなところまで……本当に、ありがとうございました」
「気にするな。それより、怪我は?」
「えっ? あ、はい。大丈夫です」
「よかった」
細い肩を今も震わせる少女を安心させるようにシオンは微笑み、一刻も早く家族と再会させてやろうと足に一層の力を込めた。アンナはしばらく瞳を潤ませ、シオンと目が合っている事に気付くとはっとして顔を
「どうした? 大丈夫か?」
「い、いえ! 大丈夫ですよ!?」
顔が赤いし火照ってるしなんだか挙動不審。とても大丈夫そうに見えなかったのでシオンはアンブロシアのポーションを取り出した。
「一応、これを渡しておこう」
「そ、そんな! こんな高価なもの頂けません……」
「いいから飲め、拒否するなら口移しで無理やりだぞ」
「え、えぇ!?」
アンナは唇を指でなぞりながら視線をシオンの口とポーションとの間で何度か行き来させ、意を決したように一息でポーションを飲んだ。
「……とっても、甘いです」
「そんなに? 果物風味くらいが関の山な筈なんだけどな」
「いいえ。とっても、甘いです」
「まぁ、美味しいなら良かったよ」
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『アンナ』
・この甘さは、きっと彼への想い。
・デメテルに恩恵を刻んで貰った。あの時の事がまだ怖いとシオンに泣き付き、以降は大聖樹の周囲に広がる花畑の世話を一緒にしている。卑しい。
『リュー』
・シオンとかいうヤベー奴と一緒にいる時間が増えたので、私はいつもやり過ぎてしまうと言う機会が消滅した。代わりにあなたはいつもやり過ぎですとほぼ毎日言っているような気がしている。
・シオンがどこかに逃げたので代わりに関係各所からめっちゃ怒られた。後日シオンに報復を目論むも、魔道具をプレゼントされたので許した。この後シルの一言で死ぬほど
『シオン』
・圧倒的な暴によって知人を多数失い真理に辿り着いた。
・アンナと家族の再会を後方王騎将軍面で見ていた。
・今回の臨時収入は孤児院への寄付や炊き出し等の福祉、ファミリア構成員たちへのボーナスに使われた。後暗い資金なので帳簿が残されている筈もなく、シオンが盗んだ事を証明するにはアンナの口を割らせるしかない。
・雑談としてアンナとリューの事を話したらアルフィアにボコボコにされた。
『ベルくん』
・どこぞの女王様のおかげで若くして世界の真理に辿り着いている。・好みの女性は金髪長髪のエルフ。*4
・義父の来訪を待ち侘びて機嫌が良かった義母に対して義父が親しいのであろう女性の話をし始めた瞬間、ハリウッド映画さながらに家の窓を突き破り全力で逃げた。その数秒後に家の上半分が吹き飛び、離れても離れても髪を撫でる衝撃波と轟音を背後に感じながら世の不条理を呪った。