闇派閥を畑の肥やしにするタイプの農家さん 作:ダンまち=スキー
「私は
吐血し膝を着きながら、アルフィアは高らかな意志を掲げた。それは強き者の誓い。死へのカウントダウンを刻みながら尚も対峙の道を選ぶ静寂の魔女を、シオンは理解できないといった目で見つめた。そして、改めて覚悟を決める。
「悪いが、俺はそっち側じゃない。正義は善い事しか出来ないが、悪は善い事"も"出来る。俺は自由人なんでな、やりたいようにやる」
常識的に考えて、クソ強いアルフィアをこうまで追い詰める黒竜の事を考えるのなら、ここで戦力の損失はありえない。もし妥協したら、それは確実に未来で、それも致命的な場面で、負債となってのしかかる。
「そもそも未来を諦めるには若過ぎんだよ! これからタップリ80年は生かしてやる!」
「来い、英雄の作法を教えてやろう」
そして、それは始まった。
「『祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪』」
超短文詠唱で魔術師の砲撃を放つ規格外の魔女が行使する長文詠唱の大魔法。静寂の切り札。モンスターと戦う部隊からの、特にこれを知る面々からの動揺が伝わってくる。
「構うな! これは俺が止める!」
「『禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪』」
血を吐いて膝を着くほど満身創痍の状態で、
「『神々の
「『
この時点で、シオンは既に詠唱の阻止を諦め防御に全力を注いでいた。
「『箱庭に愛されし我が
全身から寒気がする程の莫大な魔力を発露させる魔女の奏でる絶滅が、
「『代償はここに。罪の証をもって
天に示すアルフィアの細い腕が示す先、遥か頭上に
「『哭け、聖鐘楼』」
破滅的な荘厳が、ことごとくの滅却を予言する。第1級冒険者どころか、オラリオを破壊すべく邪神に召喚された大最悪、
「『ジェノス・アンジェラス』」
半球状に展開された
効果範囲は100m超。接敵から時間が経過し、吐血するほどにアルフィアが弱っていなければ、階層ごと破壊されてオラリオは敗北していた。
「がはっ!? ぐっ……!?」
その代価が支払われる。両膝を折り、地面に両手を着いて引くほど吐血するアルフィア。このまま死ぬんじゃないかと思うような発作だ。そこにシオンが駆け寄り、そして。
「俺の勝ちだバーカ! オラ食え!」
「むぐ……
半死半生の病人の口に叩き込まれる果実。しかし問題は無い、これはアンブロシアだからだ。生まれつきの不治の大病、それもステータスに刻まれる程のものとなると流石に治せないと思うが、少なくとも楽にはなるだろう。それに治す方法は考えている。
問題は肉体的にも魔力的にも全快させた事だが、流石にまだ襲いかかってきたりはしないよな……?
「……病に倒れ、幽鬼の如く弱りきった私の姿を、いずれ黒竜に挑む者達が辿るかもしれない末路として見せてやるつもりだったが……これは美味いな」
「当然だ、俺が作った」
そう言いながらドヤ顔でアンブロシアから精製したポーションを飲むシオンを、アルフィアのジト目が射抜いていた。
「……私もそっちで良かっただろう」
「敗者にアンブロシアの食べ方を選ぶ権利は無い」
ふぅ、と一息ついて。
「一応言っとくけど、そこで大人しくしてろよ? 俺はあのバケモンを止めてくる」
「出来るのか?」
「これまた運が良い事に、相性がいい。無尽蔵の再生能力がアレの強みらしいが……俺にリソースの削り合いを挑んだのが間違いだったと、エレボスに見せてやろう」
◇
「はいストーップ」
「えっ?! ……むぐっ」
滝のような汗を流して限界ギリギリで戦い続けるアイズを、足元から突如として現れた植物がガチガチに拘束する。そして例の如くアンブロシアが口に突っ込まれた。
「美味しい……じゃなくて! あのモンスターは私が倒す! 邪魔しないで!」
「もう1個か? 甘いのもう1個欲しいのか? ……いやしんぼめ! よーしよしよしよしよしよし、たいした奴だよお前は!」
「もぐもぐ……」
アイズの小さな身体には、Lv.3の身の丈に合わない特大の力を引き出した代償が刻まれていた。皮は裂け、裂傷が走り、筋繊維が千切れ、骨には罅が入り、自身の膂力で指が折れていた。内も外もボロボロだ。ただしアンブロシアを食べる前は。
「ヨシ!*1 いいか聞け! 俺の
「なら普段からダンジョン潜れや!」
「聞こえませ〜ん! オラ相手の顔面に魔剣をシューッ! 超エキサイティン!」
「グァアアアアアアア!!!」
効いてて草生える。実際、
「待てシオン。アレは私達の波状攻撃を受けても今も元気に暴れ回っている。本当に勝算はあるのか?」
「安心してくれリヴェリアさん。闇派閥の主神をぶち殺した時に俺は悟ったんだ、無限の肥料なんていう都合の良い物はこの世界に存在しないってな」
「そ、そうか……」
「説得力が違うわね! それじゃあ、いくわよみんな! オラリオの麗しき紅剣、このアリーゼ・ローヴェルに続きなさい!」
「勝手に仕切ってんじゃねぇ!」
モンスターは魔力の塊だ。魔力を餌にする
さらには前衛のガレスに後衛のリヴェリア、加えてアストレア・ファミリアが勢揃い。こんなオールスターで
その後の顛末に特筆すべきところはない。クソの邪神が、俺は絶対悪だから正義の女神であるアストレアに送還されたいだの、死ぬなら澄んだ空のもと高いところで云々だのと抜かしていたのでぶん殴って気絶させて地上まで運んだくらいか。
一方地上は、一足早くザルドを撃破、闇派閥との戦いを制していた。そして待機していたところに18階層での勝利、及び敵首魁捕縛の一方が届けられた瞬間、オラリオ全土で大歓声が上がった。
冒険者たちは雄叫びを上げ、神々は胸を撫で下ろす。闇派閥は都市の地下と外に敗走し、大通りで涙を流して抱き合い喜ぶ無防備な民衆を襲う余裕すらない。空を塞いでいた暗雲は晴れ、夕焼けの光が英雄の都を祝福していた。
◇
「それで、その唯一の身寄りはどこにいるんだ?」
「……私は死にゆく妹の決断に何も口を挟まなかった。ゼウスと争い自分が引き取るとも申し出なかった。妹の子より、終末の時計を遅らせることを選んだ。だから、私にあの子の面倒を見る資格はない」
アルフィアは、感情を胸の奥へ封じ込めるように、事実だけを述べた。その声は、後悔にも、懺悔のようにも聞こえた。
「黒竜の次は甥からも逃げるのか?」
「……なんだと?」
「家族と会うために資格なんて必要ない」
目を見開き怒りを見せるアルフィアに対し、シオンは欠片も恐れを見せず反論した。なんなら逆に怒っていた。
「なにより……お前が会わないことを選んだ場合、一番傷付くのはその子だと俺は思うぞ」
「……会うだけだ」
今回の戦術
『まもる/みがわり/やどりぎのたね/集団リンチ』
ようじょアイズ
『以降アンブロシアがクソ美味い事に気付いて周りにおねだりするが、値段がバカ高いので保護者たちを苦しめる。食べさせてあげたい……でもバカ高い……一体どうすれば……by保護者ズ』
デルピュネ
『原作でもナレ死させられてるの酷い…酷くない…?』
エレボス
『とてもひどいめにあった。でも最後は要望通り送還された。ザルド及びアルフィアと目的を同じくしていたのでシオンも見逃してやった』
アストレア
『18階層に突撃しようとしたお転婆女神。デメテルにうちの切り札が行くからやめてくれと止められた。スカしてる絶対悪──改め必要悪さんを首チョンパした』
ザルド
『オッタルと戦い満足して逝った。悔いは無い。』
アルフィア
『ザルドがオッタルと戦い死んだと聞かされこの世の終わりみたいな顔をしてるシオンを慰めた。あんな言い方をしておきながら、ベルくんと会った瞬間に抱き締めて泣いた。後ろでニヤついていたゼウスとシオンをゴスペルって家を半壊させた』
シオン
『数少ないアルフィアの知己をまた失わせてしまった申し訳なさで危うく死にかけた。唯一残った家族のベルくんには絶対に合わせるし、病気は死んでも治す。アルフィアの扱いについてはギルドと死ぬほど揉めたが、うるぜぇぶっ殺すぞの一言で黙らせた。ベルくんと会った時のアルフィアのリアクションを後方王騎将軍面で見守っていた』
デメテル
『新たな驚異の存在を察知した。毎週どこかに消えるシオンを訝しんでいる。スキンシップの加速を決意した』