闇派閥を畑の肥やしにするタイプの農家さん 作:ダンまち=スキー
感想でシオンがアルフィアに入れ込みすぎてると何件か意見があったので解説を入れようと思ってたんですが、大体の人は読み取れてるみたいだし、なにより今以上に言語化して長文にするのは野暮なのでキャンセルだ!
そして、シオンをダンジョンに入れるのは不可能でしたのでシリアス注意*1。アストレア・ファミリアの中にシオンが入って作戦行動なんて行くわけないし行かせてくれるわけもないんだよなぁ……
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少し前まで、彼女は正義という名の衣を脱ぎ捨て、恐怖に悲鳴を上げる数多の背中を追い続けていた。バケツをひっくり返したような豪雨にも関わらず、未だ自分の手が返り血で染まっていると錯覚するほどに斬った。己の内から湧き続ける黒い感情に従うままに。
アストレア・ファミリアは、彼女を除いて全滅していた。闇派閥の自爆は予想される範疇でしかなかったが、ダンジョンの
復讐の炎に身を堕とした身体は、浴びた雨が蒸発するのではないかと思うほどに熱く煮えたぎっている。身体は雨に打たれ冷えている筈なのに、絶えず弾ける黒い火花が憎しみを燃料に業火の如く燃焼し、心を昏い熱で満たしていた。それほどの激情だった。
視線を移す。現在地、ダンジョン。足元には、1人の冒険者が倒れていた。鋭い切り傷から流血し気絶している彼は、闇派閥の構成員だった。
「……化物どもの餌にでもなればいい」
そう吐き捨て、踏み付けていた足を外してその場を立ち去ろうとした、その時。
「らしくねえなぁ、リオン」
「ッ!? どうしてここにいる!!」
見開かれた空色の瞳、聞いた事のない怒声。疑問はもっともだったが*2、問いには答えず、シオンは倒れた冒険者にポーションをかけた。
「ほら、帰るぞ」
「……もう、私に帰る場所など、ない」
物理的には存在する。しかしリュー・リオンというエルフにとって、アストレア・ファミリアは心の拠り所だった。初めて得た友人達の存在は、彼女の中であまりにも大き過ぎた。
シオンには目の前の壊れかけた
「……一番やかましいのは、結局お前だったな。理想を掲げる事こそ正義だと疑わない潔癖なエルフらしいエルフのお前は、会うたび俺に苦言を呈した」
「……現実を知らぬ未熟者だった時の話です」
それは、あの悪夢を経験し、衝動のまま復讐に走る今の自分では考えられない発言だったと、リューは自嘲した。
「……お前の言いつけ通り生かしてうちのファミリアで働かせている奴は結構いるが、そいつらは今やオラリオの食糧事情を支える立派な人間だ。家族を作った奴だって少なくない。真っ当に生きてる」
「それが、どうしたというのですか」
過去の罪が現在の善行で相殺されて罰を軽減、なんてシステムはない。あってはならない。しかしながら。
「あいつらみんな言ってる。今こうして幸せにやれてるのは、お前のおかげだって。この幸せは、お前から貰ったものだってな」
「……ッ?!」
それは逆もまた然り。過去の善行は、現在の罪で相殺されない。決して無かったことにはならない。
「これは、正義じゃないのか。例え復讐の炎に焼き尽くされ灰になろうとも、お前の中に正義はあるんじゃないのか」
「ちがう……違う! 私は間違った! 今の私に正義などない!!」
激情に突き動かされ昼夜問わず街中を走る復讐者といえど肉体の限界はある。気絶するように眠る彼女は、いつも同じ夢を見る。それは、白い光の中にたたずむ仲間達の後ろ姿。しかし、こちらに振り返ることはない。声が枯れるほど叫んでも、どれほど焦がれても、決して。それがお前への罰だとでも言うように。
まるで罪を白状するような独白。しかし、シオンの考えは違った。
「あいつらがそんな人間じゃないのは、お前がいちばん分かってる筈だ。夢の中のあいつらは、本当にお前を憎んでいるのか? 勝手にそう思ってるだけじゃないのか?」
「唯一生き残った私は正義を失った! いいや、自分から捨てた! 恨まれない筈がない!」
「見て見ぬふりをするな! その夢の中で、後ろを振り返ったことはあるのか? そこに、お前がこれまで助けてきた沢山の人間はいないのか? お前の正義は、本当にもうどこにもないのか!?」
「わ、私は……ッ!」
「どうなんだ! 正義の眷属、疾風のリオン!!」
しばらく、その空間には2人の吐息だけが続いた。
ややあって……空色の瞳を濡らしながら、
「……なぜ、なんで、私のところに来てしまったのですか……私に、救われる価値などないというのに……私にはもう、正義を語る資格などない……正義は、失われてしまった……」
「ならば今こそ、俺が受け取った正義をお前に返そう」
「あっ……」
シオンは膝を折り崩れ落ちたリューの手を掴み、無理やり引き起こした。彼女は、エルフは、抵抗しなかった。
そして彼女は、先の言葉でアーディを想起した。悪を打倒する事こそ正義だと思い込んでいた自分に正義を授けてくれた、正義は巡ると教えてくれた、かけがえのない友。
「あいつらがなぜお前を生かしたのか、関わりのある連中ならみんな分かってる。お前がいちばん高潔な理想を掲げているからだ。傷付き迷いながら、それでも正しく進んでいけると信じていたからだ」
「あぁ……ああぁっ……」
リュー・リオンの中に正義はあった。アストレア・ファミリアの仲間達から託された正義が。そして今もまた、アーディから授けられた自分がまた誰かに授けた正義が、巡り巡って彼女の元へ帰ってきた。希望は、繋がれた。
◇
少し前、リュー・リオンを探しにダンジョンに潜った時の事だ。道中で何度も湧き出しては襲いかかってくるモンスターを見て、シオンは思った。
『ダンジョンは、無限の肥料なのでは?』
その結果がこれである。
「ウ…ウソやろ、こ…こんなことが、こ…こんなことが許されていいのか……うひひ!」
ミストルテインを地面に刺し、外でやったらガネーシャ・ファミリアに逮捕されそうな笑みを浮かべながらアンブロシアを生育する男が爆誕したのである。
しかしダンジョン壊滅という歴史的偉業を成し遂げる前に、それはやって来た。怪物を産む亀裂音でもなく、異常事態を起こす前触れの地震でもない。痛哭の如く無機的な高音域を奏で、おぞましい紫の
それは漆黒の鎧を纏った四足歩行する恐竜の化石だった。薄闇の中に光る真紅の眼光でシオンを射抜くこの怪物の名は、ジャガーノート。自らを破壊する不届き者を抹殺するために
「おまえ喧嘩売る相手間違えたな、宿木流は超実践的フルコンタクト空手だ*3……
杖の代わりにもなるミストルテインを媒介に発動する安定の初手種付けは当然の如く命中したが、その代償としてシオンの左腕は消失した。
「なんだあっ?!」
それは、逆関節の後脚を活かした大跳躍と、
「
シオンはクルクルと宙を舞う左腕をジャンプして空中でキャッチ、そのまま肩口に押し付ける。すると魔力を消費して一瞬で接合した。
タフって言葉はシオンのためにある!
「ゴングを鳴らせっ、試合開始だ!」
そして、シオンはジャガーノートに飛び込んだ。
「しゃあっ、ミストルテイン!」
意外! それはインファイトッ!
後脚の逆関節こそが大跳躍の要であると見抜いたシオンは、敢えて距離を詰め剣を振るった。その出力がどれだけ規格外であろうと、跳躍には踏み込みが必要だ。そして、普通に跳ぶのと比べて隙が大きい。
ありがとうAC6、ありがとうごすずん。
そしてそれは正解だった。純粋な速度は今のシオンならなんとか追い付ける程度、アルフィアにシバかれる度に鍛えられてきた近接戦闘の技術があれば対抗できる。それにミストルテインは触れるだけで魔力を吸収する生きとし生ける者全てに特効を持つ魔剣。
シオンはコンプリートファイターだからね、対人戦はもちろん魔物戦も得意なのさ!
「どうしたの? 顔色悪いよ。まるで電気椅子に座る前の死刑囚みたいだよ」
ジャガーノートは強い。
そんな怪物を超えた怪物に恐怖を教え、逃走という選択を取らせるのがシオンである。
「逃げるんかいっこの人殺し!」
ジャガーノートが、止まった。
「おっ、反応があった。やっぱ人殺しってホンマの事言われたらハラ立つんやな。さぁ来いっ、来いっ!」
ジャガーノートの怪物としての矜恃が、母たるダンジョンから与えられた使命が、その足を止めた。そして、空いた距離を利用して開幕シオンの左腕を切り飛ばした大跳躍を繰り出す。
「灘神影流奥義、爪すべり!」
避けるのが難しいなら、避けなければ良い*4。
シオンは魔力をおもっくそ流して再生力を極限まで高めながら、特に防御するでもなく破爪を胴体で受けた。結果、呆気なく破壊された胴体はするりと滑るようにジャガーノートの破爪を通り抜けさせ、そして必要以上に供給された魔力によって過活性した宿木がそのダメージを一瞬で治癒させる。
来るなら待っていればいいと置いていたミストルテインが、ジャガーノートを斬り裂いた。魔石がない、いわば全身が魔石のジャガーノートにとってミストルテインは天敵。怪物は自らの力不足と目の前の本当に人間か怪しい生命体を呪い、あえなく爆散し灰となった。
「弱いってことはもっと強くなれるって事やん。きみグッドファイターとして認めるね」
タフ語録はルールで禁止ㇲよね。
ダンジョンはルール無用だろ。
やっぱ怖いㇲねダンジョンは。
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『シオン』
・2年前のアルフィア及びデルピュネとの戦いでLv.5に、アルフィアの訓練と今回の件でLv.6になった。Lv.4,5の最終的な能力値はオールS999。スキルに【地精加護】が生え、農業力が高まった。ベルくんの飴。
・地上でウラノスにめちゃくちゃ念押しされたのでダンジョン吸いはもう出来なくなったが、追い詰められると普通に解禁して無限のエネルギーで戦い始めるようになった。ちなみにあのまま吸い続けると黒いモンスターとジャガーノートの群れに襲撃される。
・輝夜とは究極の和食を追求する仲。ライラとは卑劣な魔道具を開発する仲。アリーゼも含め3人とは特に仲が良かったので今回の件はガチで効いたし、やはり異世界はクソだという認識を新たにした。
『アルフィア』
・治療を機にLv.8へランクアップ。継戦能力という弱点も解消されたので、オラリオ壊滅RTAソロの世界記録保持者になれる。これから家事スキルを極め原作開始時には器用S999になる模様。ベルくんの鞭。
・病気が治る前かつLv.7の状態でも、産地が70階層のジャガーノートでようやく勝てる可能性が生じるってくらい強い公式チート。最初の20秒で能力を看破し一方的にボコる模様。シオンが勝てる日は来るのか…?
・会いに来る度にベルくんを甘やかすシオンをよくシバいている。シオンの弱点である技術の無さを補うためでもある。ツンデレめ〜このこの〜とちょっかいをかけたゼウスは星になった。
『リュー・リオン』
・闇堕ちと光堕ちの間を反復横跳びし、主神であるアストレアのもとへ帰還。Lv.5にランクアップした。
・復讐して回っている時にある店をちょっぴり壊してしまい、Lv.6のクソ強いドワーフに捕獲されて現在進行形で強制労働させられている。運命からは逃れられない。
・後日シオンの作成した魔道具の
『イマジナリー農家さん』
・アルフィアがベルくんと接して妹のことを想うたび、頭の中で転生当初の異世界に絶望し腐っていた自分の記憶を流し、シオンに『お前が殺した』と語りかけていた。
・前話でアルフィアに浄化された。