因習村出身の中卒がダンジョンで死にかける話 作:ろーわんろー
読み飛ばしても特に問題ないので、こんなもん長々と読んでられっか! という人は次へどうぞ。
世界中でダンジョンと呼ばれる異空間が生まれて、そろそろ十年の月日が経つ。
最初に発見されたのはどこか遠くの、国名すら初めて聞いたぐらいの小さな国だった。
浅黒い肌に彫りの深い顔つきをした中年の男が、顔を真っ青にして何やら捲し立てているのをモニター越しに眺める。すると画面が切り替わり、
そこにいたのは、怪物だった。
スマホのものらしいカメラの映像に、それははっきりと映っていた。
二足歩行で、全身は黒い鱗で覆い尽くされている。やや猫背気味の前傾姿勢で、だらんと下ろされた両腕は地面を擦りそうなほどだった。頭部はまるで
ごくりと、撮影者の息を呑む音が聞こえた。
緊張からか、画面は小刻みに震えている。それでも撮影者はカメラを向けることをやめなかった。
それが撮影者の運命を決めた。
『――――!』
甲高い、金属が擦れ合うような耳障りな叫びを上げて、怪物は飛び上がった。
恐るべき瞬発力と跳躍力だった。一瞬のうちに怪物は画角の外側へと消え去り、カメラは後を追うことすら出来ない。
怪物の姿を見失った撮影者は辺りをきょろきょろと見渡すが、映るのは木々や岩のみで、影も形も見つからなかった。
逃げたのか。そう思った矢先だ。
突然、画面が上下左右にぐるぐると回転を始め、地面へと叩きつけられた。
撮影者の手からスマホが投げ出されたようだ。
落下の衝撃によってレンズが割れたのか、画面はぼやけてしまっている。
しかし、マイクは無事だったようで、音声は聞こえていた。
ボキボキという、何かが折れ、砕かれる音。
そして、撮影者のものと思われる悲鳴。
それが数分間に渡って流れ続け、やがて途絶える。
とあるSNSに投稿されたその映像は瞬く間に世界中に広まった。
当初はCGや特殊メイク、あるいは生成AIによるものと疑われていたが、投稿者が一般のアカウントではなくその国の歴とした警察機関からものであった事と、官民を問わない検証の結果、映像が加工された可能性は限りなく低いと分かったことで、一気に話題に火が付いた。
各国の報道機関は狂ったように映像を繰り返し、紙面には怪物の姿がプリントされ、専門家による見解が飛び交った。
やがて国連から調査団が派遣された事で、世界はダンジョンの存在を認識した。
研究者曰く、空間が拡張され、現実世界から切り離された別世界。
発生原因、発生条件、共に不明。
ある日突然、空間に裂け目が生まれ、その内部で膨張する異空間を人々はダンジョンと名付けた。
ダンジョン――
森や洞窟、海底。人々の住む都市も例外ではない。
あらゆる場所にダンジョンは発生し、それぞれに独自の生態系を築き上げ、足を踏み入れた者の生命を無慈悲に奪い去った。
各国政府は市民にダンジョンを見つけた場合すぐさま通報し、決して近寄ってはならないと呼び掛ける。
多くの市民はその警告に従ったが、少数の愚者は尚も足を踏み入れ続けた。
承認欲求か、非日常への憧れか。それとも単なる自殺志願者か。それぞれの目的を胸にダンジョンへとその身を投げ出す者たちを、人々は皮肉を込めて『冒険者』と呼んだ。
多くの冒険者はダンジョンの中で無残にも命を散らした。
しかし、ごく一部の者たちは生還を果たし、その戦利品を持ち帰った。
ダンジョン内部に生息する生物の遺体やダンジョン固有の植物や鉱石といった希少資源は企業や研究機関によって高値で取引された。何せ別世界の物質だ。金に糸目をつけずに求める者は個人や企業を問わず大勢いる。
需要と供給が両立したことで、冒険者は数を次第に増やしていった。となればそれらを纏めようという動きもまた起こり、とある企業による冒険者の互助を目的とした組織、通称『
主だった業務は、冒険者と企業及び研究機関の橋渡しとなり円滑な取引のサポートを行い、また武器や防具の貸与によって冒険者のダンジョンへの挑戦を支援することだ。
AGが設立されたことで、冒険者はいつの間にか命知らずの愚か者ではなくなった。
危険こそあれど、高い報酬を望める職種として社会に組み込まれたのだ。
――そして、現在。
いまだダンジョンは発生を続けており、その原因も不明のままだ。
だが社会はそれを受け入れ、日常を取り戻している。
ダンジョン資源は医薬品や建築物など様々な用途で活用され、人々の生活に役立てられている。
冒険者もまた、黎明期に比べれば落ち着いたものの、一獲千金を求めてダンジョンへと挑むものは後を絶たない。
ダンジョンという超常現象は、こうして人間社会に溶け込むに至った。
要するに、よくある現代ダンジョンもの、ということです。