【カオ転N次】アビャゲイルの投下所ハーメルン支部、あるいは〝魔界都市現地民ブルース〟 作:アビャゲイルこと三三三巳
「『近頃の若い者は』なんて老害セリフを口にしたくはないが――近頃の若い者は甘ったれが多すぎて困る。
生きる意味が在るのか無いのかそんなことで繊細ぶっていっちょ前に被害者面よ馬鹿々々しい。
生まれてくりゃあ自動的にハンバーガーセットについてくるポテトのように生きる意味がついてくると甘ったれやがる。
挙句の果ては『自分探しの旅』とかほざいてそこらをほっつきまわって出来上がるのは何の実績もなく年月を無駄にしたプータローだけよ。
生きる意味は探すもんじゃねえ。探して見つかる生きる意味なんて結局『他人の意見』よ。
生きる意味は自分で作り出すものだよ、迷い、疑いながらな。
てめえは迷ったり疑ったりして苦しむのが嫌だから、『自分探しの旅』という名の逃げ道を探してるだけだろ貧弱ガキ」
ガキの頃は「このキャラ随分と辛辣な物言いするな……もう少し手心を加えて言ってやってもいいだろうに」と思っていたが、ジャパンでポルノコミックを読める年になれば、このキャラはものすごく優しい、と気付く。
辛辣に言われているうちが花だからだ。
『何も言わない』のを『やさしさ』だと勘違いしちゃ駄目だからだ。
『何も言わない』のは大体の場合『ただ単に『こいつには何を言っても無駄だ』と諦め切っているだけ』だったりするからだ。
……『自動的にハンバーガーセットについてくるポテトのように生きる意味がついてきて、それに対して不満を持っていない』
そんな『薄っぺら』野郎が、俺だからだ。
そんな薄っぺら野郎でも、だからこそ、気付けることだってある。
――結局『他人の意見』を『生きる意味』にする奴の気づきに、どれほど価値があるのかわからないが。
俺は北欧系の
兄弟は俺の下に弟が二人。
三兄弟の長男。
それも〝おまじない〟程度じゃない、ガチモンの〝魔術〟を伝える、いわゆるジャパン的に言えば『カクレドルイド』的な血族の末裔として、だ。
普段の週末には教会に赴き牧師のじいさんの説教をもっともらしい顔で聞いて、その日の晩に家の地下にある洞窟の祭壇前で魔術的な修行をする。
北欧系といえば戦争大好きな片目の爺様が主神だから、必然的にそれは武術的な修行も意味した。
不満はない。不平も抱いたこともない。俺には才能があった。
ルーン文字を用いた魔術も面白かったし、燃え盛る蠟燭の中で踊る赤いトカゲを霊視できた時の感動は今でも覚えている。
古代から続く武術の習得にも何も問題はなかった。
組討ち。
反則上等の危険なレスリングとボクシング。(普通にサミングと金的蹴りが『通常技』として出てくるような奴だ)
ナイフファイティング。(これに関してはフィリピンの伝統武術たるアーニスが完成度としては上だったから、丸ごとパクッて自流派の技とした)
その延長の投げナイフ、投げ斧などの投擲攻撃。
市民が習得できる程度の銃器の扱い。
地元の「国技」たるクォータースタッフに、普通の長さの杖による攻防技術、
そしてその先の槍。
そう、俺は特に槍の扱いに長けていた。
槍のどこら辺を握れば穂先に力が伝えやすくなるのか、どこら辺に重心を置けば槍は俺の言うことを聞いてくれるのか、それこそ文字通り手に取るようにわかるようになっていた。
才能あふれ、練習もさぼらず続ける俺に、思い返せば親は俺を叱ったことがなかったな。
――そんな俺を、次男の■■■■の奴はどう見ていただろうか。
「かび臭い伝統という名の古い呪縛に縛られた、哀れで薄っぺらい親の都合のいい傀儡」。
あいつはズバリそう俺を評した。
「兄貴、アンタの意思はどこにある」「血がつながっているだけの『赤の他人の意見』で、人生を縛られてどうする」
……『薄っぺらいお人形』であることに特に不満はなかったから、どう答えればいいのか困惑するしかできなかった。
結局次男の奴は『チッ』と舌打ちをして、―-そのまま家出した。
『俺はメシア教に入信する。古臭い伝統に縛られるのはうんざりだ。これからはメシア教の時代だ。天使信仰が異端だのなんだの言われているが、同じく古臭い二大流派に縛られず世のため人のためにこの異能をふるえるんだ』
とまあ、そんなようなことをつらつらと書き連ねた書置きを残して。
……この後の展開はまあ大体想像がつくだろう。
慌てて夜逃げする算段をとっていたが、まあ、間に合わなかった。
深夜に車をはしらせたその直後に、実家の在った方角に謎の大火災が起きて、すべては灰になった。
ガキの頃の思い出、全部。
当ての無い逃避行の旅。
親父が死んだ。いわゆる『穢教鳥』になぶり殺しに合って。
『さっさと逃げろこの馬鹿垂れ――――――!!!』。そうオヤジにののしられたのはあれが最初で、そして最後だった。
俺の背中にこびりついた、親父の「ぐわあああああああ―――――――!!!」という断末魔の絶叫が今でも忘れられない。
おふくろも死んだ。末弟も。
穢教鳥が末弟を刺し殺そうと槍を突き込み、おふくろはそれを阻止しようと体を広げて末弟をかばい、しかし、胸のど真ん中にどでかい風穴が空いてでもかばったのにもかかわらず、槍の切っ先は末弟の胸骨をやすやすと貫き、切っ先は背骨を割って背中に突き出ていた。
俺の目の前で。
穢教鳥に殺される末路なんて最早オカルトに関わる者のすべてが熟知している。
人として死ねない。
だから家族全員、穢教鳥に魂を奪われないための処置をしている。
死の女神、冥界の女王ヘル。そのヘルに祈願し、自分の命を引き換えに敵対者に致命の呪詛をぶち込む自爆魔術。
おふくろも末弟も、俺の目の前でドロドロに溶けて、どす黒い呪詛の奔流になって、穢教鳥を祟り殺した。
この時に「あれ?もしかして、天使って、実は呪われたらすぐにやられるほど、呪詛に弱い???」と気づいたが――話がそれるからここらは端折るか。
一人になった。
手元にあるのは、家宝のミスリルでできた霊槍だけ。
薄っぺらな自分には、もうこれだけが残された縁だった。
やがて、そんな自分に、神託が届く。
日本へ行け。日本の、ガイア連合に。
日本。はっきり言って眉をしかめた。
オカルトは、世界の裏側を司る世界の住人は、決して表の歴史にかかわってはいけない。
その不文律を破り、当時の米軍のお偉いさんを呪い殺して回り――
そして当たり前のようにファッキンメシアン共に表にかかわる口実を与えて、表も裏もコテンパンに叩きのめされた馬鹿な島国のサルども。
そんなパーチクリン共が今さらどう何とかなるというのか。
そんなことよりも、復讐心が勝った――おお、神託を授けてくださったイズン様、あの時は申し訳ありませんでした。どうかお許しください――ですが、どうしても、元次男の■■■■を、刺し違えてでも家族の仇を……
そう。元次男の■■■■のブラウンノーズ野郎は、ファッキンメシアンに完全占領された、かのマン島の最終守護神聖将軍へと成り上がってやがった。
マン島の最終守護神聖将軍:■■■■。
随分とまあ仰々しい肩書になりやがったもんだ。
彼奴を、刺し違えてでもぶち殺してやると息巻いたが――しかし。
何一つ
後にそう呼ばれ、俺を含むオカルト業界人全てを震え上がらせるガイア連合が誇る恐るべき魔人。通称『黒札』の一人が、
たった、そう、たった一人でマン島を制圧した。制圧しやがった。
しかも、ちょっと歌を歌っただけ、らしい。
ファッキンメシアンの生き残りは皆無。そう、まっっっっったく生き残りは見当たらず、『消滅した』。
もちろん、なにより、■■■■の奴も。
魂はすべてガイア連合が回収されたらしい。
ガイア連合による電子ニュースには、そう明記されていた。
……そのニュースを何度も何度も何度も口を半開きにしたまま読み返す俺は、さぞ滑稽なナリをしていたことだろう。
もう復讐しか残ってなかったのに、俺はそれすらできなかった。
俺のような薄っぺら野郎は、こんな、B級どころかD級の出来損ないムービーの主役にしかなれないってか。
何一つ盛り上がらないままスタッフロールを迎える、大炎上待ったなしのクソ映画の主役しか。
もう本当に俺には何もなかった。だから。
「……神託に、従わなければ」
この期に及んで、俺はまだ『他人の意見』に唯々諾々と従うだけの、薄っぺらだった。