高度育成高等学校のAクラスを率いる女王、坂柳有栖。
彼女は今、かつてないほどの高揚感と、それに勝るとも劣らない羞恥心、
そして胸を焼くような恋心の濁流に呑み込まれていた。
きっかけは、ホワイトルームの最高傑作である綾小路清隆への、
歪んだ、しかし純然たる執着だった。
彼を屈服させたい、自分の正しさを証明したいという破壊衝動。
それと同時に、自分と同じ「選ばれし者」である彼に触れたい、
彼に自分だけを見つめてほしいという、年相応の、
否、人一倍激しい独占欲が彼女の中で同居していた。
「……私のこの身体では、彼は振り向いてくれないのでしょうか」
自室の鏡に映る自分を見る。
白磁のような肌、整った顔立ち。
しかし、その体躯はあまりに幼く、起伏に欠ける。
彼女はそれを「手札」として受け入れてはいたが、
こと「異性を惹きつける」という勝負においては、圧倒的な不利を自覚していた。
だが、坂柳有栖は天才である。
不利な状況こそ、彼女の知略が最も冴え渡る瞬間だ。
彼女はパソコンのモニターに映し出された、
ある「特殊な性癖」に関するデータ群を眺め、口角を吊り上げた。
「なるほど……。欠点を隠すのではなく、
それを極限まで強調し、特化させる。それもまた一つの戦略ですね」
◯
綾小路の自室のチャイムが鳴った。
ドアを開けた先にいたのは、いつもの制服姿で杖をついた坂柳だった。
「唐突に失礼します、綾小路くん。
今日はあなたに、ある『賭け』を提案しに来ました」
彼女の瞳は、いつになく熱を帯びていた。
「もし、私があなたを……その、少しでも『ドキッ』とさせることができたなら。
その時は、私とまた本気のチェスで勝負してください。
手加減も、言い訳もなしの、真剣勝負を」
綾小路は、彼女の真意を測りかねていたが、
いずれ決着をつけねばならない相手であることは理解していた。
「……いいだろう。それが今の条件なら、受けて立つ」
「ふふ、言いましたね? では……少し、洗面所をお借りします」
数分後。洗面所のドアが開き、坂柳が姿を現した。
綾小路の視界に飛び込んできたのは、
あまりにも暴力的なまでの「幼さ」の強調だった。
彼女が身に纏っていたのは、紺色のスクール水着。
そして背中には、場違いなほど真っ赤なランドセル。
胸元には、白布に手書きされた「6-1 坂柳」の文字。
「……っ」
綾小路の喉が鳴った。
坂柳は顔を林檎のように赤く染め、震える脚を隠すように腰をくねらせた。
彼女の細い指が、ランドセルの肩ベルトをぎゅっと握りしめる。
「……お兄ちゃん♡私に、ドキドキしてくれましたか……?」
その一言は、坂柳にとって人生最大の賭けだった。
そしてその賭けは、見事に的中する。
無機質なはずの綾小路の瞳に、暗い情欲の火が灯った。
彼は無意識に一歩踏み出し、坂柳の肩を掴む。
「……坂柳。お前、自分が何を言っているか分かっているのか」
「ええ……。あなたのその目が、答えを教えてくれています……っ」
綾小路は、自分の中に眠っていた「ロリ趣味」という未知の領域が、
坂柳という劇薬によって完全に開放されるのを感じた。
彼は抗うことなく、彼女の小さな体をベッドへと押し倒した。
ベッドに沈み込む坂柳の体は驚くほど軽く、そして柔らかかった。
綾小路の大きな手が、彼女の頬、細い腕、
そして滑らかな太ももを愛撫するように這う。
「あ……ぁ……っ、綾小路、くん……」
坂柳の頭脳は、もはや正常な思考を放棄していた。
「(ああ……彼の手が、熱い。思考が溶けていく……。
でも、これでいい。彼に触れられるなら、私は……)」
「お兄ちゃんなら……この身を、捧げる覚悟です……♡」
愛の告白とも取れるその言葉に、
綾小路が最後の一線を越えようとした、その時。
ガチャリ。
無慈悲な音と共に、ドアが開いた。
「おーい、清隆ー?こないだの忘れ物、取りに来たんだけど……」
恋人である軽井沢恵の声だった。
綾小路の動きが止まる。コンマ数秒の判断。
彼は即座に、上にあった羽毛布団を掴むと、
その下に坂柳を押し込み、自分もその上に座るようにして偽装した。
「……恵か。ノックくらいしてくれ」
「あ、ごめん!合鍵あるからつい。……あれ、なんか顔赤くない?風邪?」
「……いや、少し考え事をしていただけだ」
布団の中で、坂柳は死ぬっっっっほどの恐怖と、絶頂に近い興奮の狭間にいた。
真っ暗な布団の中。酸素が薄い。外からは軽井沢の声が聞こえる。
そして――彼女の目の前には、綾小路の股間が、
信じられないほどに「もっこり」と膨らんでいる光景があった。
「(っ……! これが、彼の……。私を見て、こんなに……っ!)」
坂柳の心臓は、ドラムのように激しく打ち鳴らされた。
彼女にとって、それは勝利の証だった。
あの冷静沈着な綾小路清隆が、自分という「手札」に屈した証拠。
しかし、同時にそれは、処女である彼女にはあまりにも刺激が強すぎた。
ズボンの上からでも分かるその質量と熱量に、
彼女の天才的な脳はショートし、ただただ熱い吐息を漏らすことしかできない。
「あったあった!これこれ。じゃ、悪いけどすぐ行くね。デートの続きはまたね!」
軽井沢は、布団の下の違和感に気づくことなく、嵐のように去っていった。
静寂が戻った部屋で、綾小路は大きく溜息をつき、布団を剥ぎ取った。
そこには、涙目で顔を真っ赤にし、肩で息をする坂柳がころんと転がっていた。
スクール水着の胸元は上下し、ランドセルが少し横にずれている。
その姿は、計算高いAクラスのリーダーというよりも、
ただひたすらに熱に浮かされた一人の少女だった。
「……心臓に悪い。恵に気づかれたら、大変なことになっていたぞ」
綾小路が呆れたように、しかしどこか突き放せない声音で言うと、
坂柳は震える唇を噛み締め、精一杯の強がりを絞り出した。
「ふふ……ふふふっ。私の勝ち、ですね。
これで、チェスの約束、守ってもらいますよ?」
勝者の笑みを浮かべようとするが、その表情は明らかに動揺で崩れていた。
しかし、彼女の執念はここで終わらなかった。坂柳はゆっくりと身体を起こすと、
背負っていたランドセルのサイドポケットに、震える細い指を伸ばした。
「……ですが、その前に。こちらの方も、チェックメイトまでお供しましょうか?」
彼女が取り出したのは、一本のソプラノリコーダーだった。
それを見た瞬間、綾小路の気だるげな視線がわずかに鋭くなる。
坂柳は潤んだ瞳で彼を射抜くように見つめると、
そのリコーダーを、あろうことか自身の口元へと運んだ。
「……んっ……ふふ……」
彼女は、艶やかな舌先をリコーダーの吹き口に這わせた。
そのまま、まるで愛おしいものを慈しむように、
ペロペロと、そして「ちゅぱちゅぱ」と湿り気を帯びた音を立てて舐め上げていく。
白磁のような指が管体を行き来し、上目遣いで綾小路の反応を伺うその姿は、
もはや戦略などという言葉では片付けられない、むき出しの誘惑だった。
「……このようなことも……して差し上げましょうか……?」
リコーダーを口から離した彼女の唇は、蜜を塗ったように濡れ、妖しく光っている。
彼女が指差したのは、いまだ隆起を隠せない綾小路のズボンの「テント」だった。
「私を、子どもだと侮った報いです。
……お兄ちゃんの『ここ』、私でパンパンになっていますよ……♡」
誘うように、縋るように。
プライドをかなぐり捨て、自らのコンプレックスを最大の武器に変えた坂柳の猛攻。
綾小路は、自分の中にあった「ホワイトルームの傑作」としての理性が、
その少女の舌使いと湿った音によって、無惨に崩壊していくのを感じた。
彼は無言で坂柳の手首を掴むと、
彼女の小さな身体を再びシーツの上へと沈めた。
「……坂柳。お前のその挑戦、最後まで受けて立つ」
ここから先は、盤上の駒など必要ない。
二人の肌が重なり合い、熱が混じり合う、濃密で、出口のない時間の始まりだった。
坂柳は、彼に抱かれながら確信していた。
この勝負、どちらが勝者でどちらが敗者かなど、もはやどうでもいいのだと。
「……愛しています、お兄ちゃん……っ♡」
彼女の震える声が、静かな部屋に溶けていった。