「ふわぁ~もう朝か……今日も一日がんばるぞいっ」
愛里が退学して綾小路グループが崩壊してからもう5ヶ月が経とうとしている。
グループは3人になってしまったけれど、新しい道を進み出した愛里に負けないように今日も私はがんばる。
「む……また胸がきつくなったような……また新しいブラ買いに行かないと……」
身支度と朝食を軽く済ませて学生服に着替えてる時にまた自分の胸が成長してしまった事実に嘆息した。
正直なところこの豊満な胸は、男女問わず嫌な視線を受けるし、肩凝るし、邪魔だし、良いところなんて一つもないのだけど、
成長してしまったことは変えられないので、現実として貴重なお金が去っていくのを受け入れるしかない。
「よっ、波瑠加」
「おはよう明人」
通学路を歩いていると早速友人である三宅明人と挨拶もそこそこに一緒に登校する。
私の胸に極力視線を向けないように努力してくれて、そんな私の気持ちも汲んでくれる姿勢が本当にありがたい。
気を使わせていると罪悪感も少しはあるけれど、人間関係とはどんなに親しくても相手への配慮は忘れてはならないと思う。
だから明人が私に気を使ってくれるように、私も明人に気を使いたい。
大切な友達を心の底からリスペクトしたい。
ただ最近は明人から私への態度が前と比べて少し変化したような気がしなくもない?まぁいろいろあったからかな?
「でさー啓誠って実は伊達メガネらしいんだ」
「それどこ情報?」
「最近メガネになった須藤からの情報だ」
「ふぅ~ん……む」
しばらく明人と雑談しながら歩いていると私はあることに気づいて立ち止まり俯いてしまった。
なんで……?着替えてる時は気づかなかったのに……。
「ん?どうした立ち止まって」
明人がどうしたのかと怪訝な顔で私に声をかけてるが、もはや私に明人へ返事している余裕は皆無だった。
「おい?」
「あっ!私用事思い出したから先行くね!」
私はその場に明人を置いて一目散に駆け出して学校へと急いだ。
まずいまずいまずい……こんなことって最悪……。
走って胸が激しく揺れているせいか周囲を歩く学生たちから視線を集めるが、今はそんなことすらどうでもよかった。
本末転倒であるにも関わらず、今は逃げることで精一杯だった。
「う~どうしよ……ボタン外れちゃった……」
なんとか女子トイレへと駆け込んだ私に突きつけられた現実……それは制服の胸元から外れたボタンだった。
どんなにブラを新調しても制服だけはなんとか持ち堪えていただけにはち切れてしまったショックは大きかった。
このままでは教室へは絶対に行けないし、かと言って裁縫道具も無い。
どうしたものかと私は鏡の前で悩む。
「まずいよまずいよ~!」
その時、私以外誰もいない女子トイレにとある女子が駆け込んできた。
一之瀬帆波。2年Dクラスのリーダー……彼女とは廊下ですれ違うことこそあったが一切話したことはなかった。
これからも一切接点がないままだと思っていたのだけど、今の彼女には私と同じ共通点があった。
「そっか~長谷部さんも胸のボタン外れちゃったんだね」
「お互い苦労するね」
その共通点とは、彼女も私に負けず劣らずの巨乳であり、
そして今まさに直面している危機も同じであると言うこと。
どうやら一之瀬さんも胸元のボタンが突然外れてしまい、急いでトイレへ駆け込んできたのだと言う。
こんな偶然って……しかも同じ日、同じ時間に……、と、今はそんなことはどうでもいい。
今は外れしまったボタンを目の前の彼女と一緒にどう解決するかを模索しなくてはならない。
「んん~……」
「な、なに?」
一之瀬さんも思考を巡らせているのか、私の胸をジロジロ観察してきた。
日頃から視線を集めることに嫌悪感を抱いている私にとって彼女のその視線も不快ではあるんだけど、
彼女の表情は真剣そのものであり、決して好奇な視線ではなかった。
「長谷部さんって私より少し大きいくらいだよね?」
「へ?ま、まぁそう、かも?」
しばらく私の胸を観察した一之瀬さんが突然そんなことを言い出した。
私から言わせれば彼女の胸と大きさは見分けがつかないほど差がないけれど、彼女の目には差があるように映るらしい。
「じゃあ私の制服と一日交換すればいいんだよ!」
私は一之瀬さんのその提案に一瞬脳がフリーズした。
確かに制服を一日交換すれば解決しなくもない?一之瀬さんの言っていることがよく理解できない。
彼女と話しているうちに冷静になったと思っていた私だったが、まだ冷静ではないのだろうか?
「え?でも……」
「もうお互いのボタン縫い終わったし、早速交換しよ!」
「う……うん」
あれ……?あれ?
ボタン縫い終わったなら解決じゃ……?何かがおかしい。
単純なことのはずなのに何がおかしいのか分からない。
目がぐるぐるする。
後になって気づいたが、この時の私は彼女のハイテンション、ハイペースに飲み込まれ、人心掌握されていたのだ。
「よしっ私にピッタリだ!」
「……」
結局流されるまま彼女と制服を交換してしまった。
一之瀬さんは勝手に主導権を握って、勝手に自己解決してしまったのだ。
このバイタリティー……。
これがみんなから信頼されるクラスリーダーとぼっちの私との決定的な違いなのだろうか。
「それじゃ私先に行くね!ばっはは~い!」
瞬く間に解決してしまった一之瀬さんはハイテンションのままウッキウキでトイレから去っていった。
トイレに一人取り残された私は静寂でだんだん頭がクリアになってきたのか自分の状態が最悪であることをやっと理解した。
「って!私が更にキツくなってるだけじゃん!!」
他者から大切なものを奪う魔性の女、一之瀬帆波。
恐らくだけれど、彼女のこの本性を知る人間は私含めてまだ少ない。
これはまだ彼女がもたらす災厄の一幕に過ぎないのかも知れない。
私がそう恐怖した時、胸元のボタンが弾け飛んだ。
ピッ ばるるん♡