【望月ころも先生公認「蚊ニキ」二次創作】蚊ニキの蚊ニッキ(日記) 作:くまく
サイテー
私のお兄ちゃんは、“蚊”だ。
なにを言ってるのかわからないかもしれないけど、まごうこと無き事実だ。
「……あれ、おかしいな?」
土曜の朝7時。今日は自然と目が覚めた。
自室のベッドの横にある小さな窓のカーテンから漏れる光は柔らかく、スズメの鳴き声が時折聞こえる。
夏が過ぎて暑さは和らぎ、朝は少し空気がひんやりしている10月。風邪を引かないように、と暖かい毛布や衣類が必要な時期。
我が家はマンションの3階にある。
パパとママは共働きで、どちらも朝が早い。
だから、自然と子どもたちである私たち兄妹(きょうだい)は、自分で自分のことはするようになっていた。
お兄ちゃんは高3で、私は中1。
受験生であるお兄ちゃんは中高6年続けた卓球部を引退したけれども、私は吹奏楽の午前練がある。
……のだけれど。
いつもなら、お兄ちゃんが部屋に無許可で入り込んで起こしに来るのに。珍しく今日は来ないんだ。
頼んでもいないのに毎朝叩き起こされるのはムカつくから、いつも部屋から文字通り“つまみ出す”んだけれど。
「……おかしい。お兄ちゃんが起こしに来ないなんて」
思わず、独り言を呟いていた。
それくらい、私にはあり得ない出来事。
ベッドの上からドア越しに物音に耳を澄ませても、特になにも聞こえない。
朝早い両親はもう家を出ているだろうから、今いるのは私とお兄ちゃんだけのはず。
(……もしかして、受験勉強頑張っているのかな?)
大学受験は大変だ、と聞いたことがある。
徒歩圏内にある公立中に通う私は受験経験が無いから想像しかできないけれど、ずーっと勉強していても不合格になる事もあるんだって。
だから、私はなるべくお兄ちゃんに勉強するように…って言ってきた。
お兄ちゃんはゲーム好きだから、すぐゲーム機やスマホに手を伸ばすから。
だから、今ゲームしてるなら隣の部屋からそれらしい音が聞こえるはず。なのにそれも無いということは、寝てるか勉強してるかだろうと思う。
「……まぁ、いいか。それより早く支度しないと!」
焦ってベッドから跳ね起きて、洗面所へ向かうためにドアを開いた瞬間。
「わッ!!」
大きな声が聞こえて、驚いて顔を上げると…目の前にお兄ちゃんがいた。
私のお兄ちゃんは、“蚊”だ。
いつから蚊かは知らない。気がついたら蚊だった。
手のひらサイズのわりと大きな蚊で、胴体は派手な黄色、長い触覚が2本頭に生えて、羽根は大小4つ。手足(?)は4本で、蚊の割に器用な作業を難なくこなす。お兄ちゃんいわく、チャームポイントは大きなくちばしとつぶらな瞳のイケメンらしい。
蚊にイケメンなんて基準があるのか知らないけどね。
で、そのお兄ちゃんが目の前で飛んでいるんだけれど。なんだか焦っているように見える。それに、背中には見慣れた黄色いリュック。お出かけ用のそれは、荷物がたくさんいる時にしか使わないもの。
「お、おはようりこ。今日は早いんだな」
「いつもと同じ時間だよ。それよりお兄ちゃん、お出かけするの?」
「あ、ああ…きょ、今日は…ま、待ち合わせしてんだ。ほら、S男知ってるだろ?あいつと、と、図書館で勉強をな…」
図書館でお勉強なら、リュックを背負ってるのも納得できる。勉強道具一式が入ってるだろうから。
でも…あれ?と私は引っかかったことがあって、すぐそれを口に出した。
「でも、図書館って9時からしか開いてないよね?こんな早くから行くの?」
すると、ガチッとした音が聞こえそうなくらい、お兄ちゃんが一瞬固まった。それから数秒して、ギギギ…と首を回して、こちらを見る。
「さ、最近はみんな図書館使うから、な、並ぶんだよ!場所取りに……」
「ふぅん?ま、いいけどね」
不自然なお兄ちゃんの言動はともかく、私も急がないと午前練に遅れちゃう!と、洗面所に行くため足を踏み出した時、ドサッとなにかが床に落ちる音が響いた。
反射的に音の発信源を見た私は、すぐ後悔する事になる。
床一面に広がっていたのは、アイドルの写真集や水着のグラビアなど。要するに…年頃の男の子が興味ある雑誌類。
数秒間はこの場が凍りついたと思う。
私は思わず、じろっとお兄ちゃんを睨めつける。
ビクッとお兄ちゃんの体が揺れた。
「……フケツ。サイテー」
思わず吐き捨てるように言うと、さっさとその場を後にして洗面所へ飛び込んだ。
お兄ちゃんがなんか喚いてたけれど、聞く耳を持つわけなかった。