【望月ころも先生公認「蚊ニキ」二次創作】蚊ニキの蚊ニッキ(日記) 作:くまく
(……う〜言い過ぎた?でも…あれはないよね)
「どしたの、りこ?全然集中してなくない?」
友達のさくらの声で、ハッと我に返る。
そうだ、今は学校。部活の基礎練の最中。
3年の先輩達が大会後に引退して、2年の先輩が中心ではあるけど、私たち1年も早いと大会のメンバーに選ばれたりする。
私はさくらに誘われて中学から吹奏楽を始めて、パートはパーカッションを担当してる。小学から吹奏楽をしてるさくらには度々指導してもらっていた。
パーカッションはいわゆる打楽器。吹奏楽では目立たないけど、リズムを刻む時には重要な役割を果たすんだ。
「りこ、均一な音がまだ出せてないから。ほら、ぼーっとしてないで、ビーダーの当て方よく見て!」
トライアングルは一見簡単そうでも、当てる場所と角度やビーダー(当てる棒、バチのこと)の太さ長さ、吊り下げる紐の素材等いろんな条件で音が簡単に変わる。さくらの言う通り、同じ音が連続で出せないと奏者として厳しい。私はトライアングルとビーダーをしっかり持って、練習に集中した。
「……りこ、どしたの?いつもより集中力がなかったじゃん」
午前練の後、いつものワックに寄ってのランチタイム。
向かい側の席に座るさくらにそう言われて、うーんと悩んだ。
さくらは同小出身。小3で席が近くて仲良くなった。
ふわふわの栗色の髪を左右に束ねて、くりっとした大きな目が可愛くて、白い肌も相まってお人形さんみたい。だけど、重い管楽器も平気で運んだりする力持ちさん。
吹奏楽って案外体力いるから、体力作りに走り込みがあったりするけどね。
(……さくらならお兄ちゃん知ってるから、話してもいいかな?)
家族に話せないことも、さくらになら何でも話してきた。
こんな思春期のデリケートな話題は、家族には気恥ずかしすぎて話せるわけない。
(とはいえ……う〜ん……)
兄が、年相応にエッチな雑誌を持っていた……それは、世間から見たらすごく当たり前な出来事なんだよね。大袈裟に騒ぐほどじゃない…って私でもわかるけど。
ひとりっ子のさくらに話して、わかってくれるかどうか…微妙なんだよねえ。
思い悩んでいると、ぶに、とほっぺたに冷たい感触。目の前にあったのは、ワックの紙コップだった。
「ほら、追加のコーラ。りこは悩むと長いんだから…このさくらちゃんが聞いてあげるから、ちゃんと話しなさいって」
にやり、と口の端を上げるさくらのいい笑顔。こうなると、話すまで絶対帰してもらえない。こりゃ逃れられないな…と観念するしかなかった。
「へー、そんなことがあったんだ」
今朝あった出来事を洗いざらい話すと、さくらはシェークを持ってクスッと笑う。
「まぁ、年頃の男の子!ってカンジだよね」
「そうだけど…さ。やっぱなんか……あんなもの見ちゃうと、お兄ちゃんが普通の男の子…ってカンジがしてさ……」
「生物的に男!って…生々しく感じちゃったんだねえ」
私の言いにくいことを、さくらは補ってくれた。
「いやぁ、りこもお兄さんもかわいいね〜」
クスクス笑うさくらは余裕たっぷり。それはそのはず。さくらは2年年上のカレシがいる。何を隠そう、学校のアイドルのイケメンカレシだ。
「もう、笑わないでよ〜!さくらには些細なトラブルかもだけどさ!」
「ごめん、ごめん!でも、さ」
さくらは紙コップを置くと、少しだけ真面目な顔をする。
「あたしたちはまだ中1だけど、お兄さんは高3じゃん?来年大学生になったらさ、少しずつ大人の世界に入ってくんだよ?」
「……大人の世界?」
急になんの話をしてきたかわからなくて首を捻ると、再び紙コップを持ったさくらは小さく息を吐く。
「大学って、高校までの学校より将来に直結するってこと。人付き合いも広がるし、お兄さんの世界は今までより広くなる…ってこと」
「陰キャでも?」
「陰キャでも」
小難しくて混ぜっ返しても、さくらは真面目に返してきた。
「マジな話し、お兄さんにカノジョができても不思議じゃないってこと。明るくて優しいし、けっこうイケメンじゃん。今までいなかったのが不思議なくらいだよ。だから、そーゆーことに興味あるのは正常だよ」
「……それは、わかってるけど…さ」
「まぁ、りこの言い分もわかるよ。今まで間近だった男の人から男属性強調されたら、あたしらの世代なら嫌悪感持つのふつーだし。特にパパから男です!ってされたら、あたしも嫌だもんね」
「…だよね!」
ようやく共感してもらえて、ほっと胸をなでおろした。
自分の抱いた思いは普通、と言ってもらえると気が楽になるんだなあ。
「けど、まぁ。お兄さんには謝っておきなよ。で、今度はなにが嫌かしっかり話せばいいって。夏の件みたいにはなりたくないでしょ?」
さくらに言われて、ぐっと言葉に詰まる。
……夏休みの始め。私が意地っ張りなせいであった事故。
車に轢かれかけた私を突き飛ばしたお兄ちゃんは、代わりに轢かれたせいで、2ヶ月も入院した。
「……そう……だね」
口から出た声は、思ったより弱々しかった。