【望月ころも先生公認「蚊ニキ」二次創作】蚊ニキの蚊ニッキ(日記) 作:くまく
お兄ちゃんの美容法?
「りこ、いつまで寝てるの?いい加減に起きなさい」
朝、7時30分。珍しくママの声で起こされた。
11月に入って日が短くなり、ついつい寝坊しがちになる。中学の吹奏楽部の朝練は今日は無いから、いつもより遅めに起きちゃった。
(そういえばママ、今日はパートのお店が休みだったっけ…)
私のママはスーパーで働いていて、仕込みのシフトがあるからいつも朝早いんだ。今日は全店休業日だから、珍しくこの時間でも家にいるから、なんだか不思議な感じ。
「ふああ…」
あくびをしながら顔を洗うために洗面所に入ると…
「おおお……コレはノリがいいぞォ!」
鏡に向かってキラキラ笑顔を振りまく蚊がいた。
「〜っぱ、メンズ基礎はアク◯モイス一択だよな〜こんな乾燥きつい時期も、お肌うるツヤスベスベ〜」
頬を赤らめながら瞳を潤ませ、両手(?)を頬に当ててうっとりしたアホな蚊は…私のお兄ちゃん。
手のひら大の蚊で、派手な黄色い胴体に大小4つの羽根を持ち、細い手足(?)は4本。丸い顔に2つの触角があり、本人いわくつぶらな瞳と端正なくちばし(口吻)があるイケメンらしい。
いつ、お兄ちゃんが蚊になったのかはわからない。
けど、なんの問題もないから放置してる。
ママもパパも周りのみんなも、何も言わないし。
そしてそのお兄ちゃんは、最近お肌のお手入れに目覚めたみたいで、夏ぐらいからママやパパの基礎化粧品をこっそりと使ってる。
「おはよ、お兄ちゃん。けど、ちょっと退いて!顔洗うから!」
私は専用のネットで洗顔石鹸を泡立てつつ睨みつけると、お兄ちゃんの体がビクッと揺れた。
「お、おはよりこ。スマン、すぐ退くわ…あ、でも。ソレ取って」
と、お兄ちゃんが指差した先は……
ママの美容クリーム。
「ぶふっ!」
泡を顔につけてる最中なのに、思わず吹き出してシャボン玉みたいに泡が飛んだ。
「お兄ちゃん、お肌の手入れに力入れ過ぎ!」
「いやぁ~時代ですからあ〜コレからはメンズもキレイを意識しなきゃねッ☆彡」
指先にちょこんとクリームをつけて、お兄ちゃんの顔にぶに、とつけると、そのまま細い両手でゆっくりていねいに伸ばしてる。そして、またうっとりしながらつぶやいた。
「ぷるぷるもちもち〜☆彡」
「ぶはっ!ちょ、やめてよー!遅刻するじゃん!?」
相変わらずノリが良すぎるお兄ちゃんは、いちいち私のツボにハマる。けど、キリが無いから我慢して顔を洗い終わった。
(私もそろそろ化粧品いるかな〜?)
日焼け止めを塗りながら、ちょっと考えちゃう。早い同級生の中には、もうこっそりとメイクをしている子がいる。小学生から100均のメイクを使っている子は珍しくないんだよね。
ママは、りこにはまだ早い!って言われてるし、友達のさくらも“うちらはそのままがキレイなんだよ”って言ってるけど…お兄ちゃんすら、お肌のお手入れ頑張ってるの見ると、私ももうちょっと色々したほうがいいかな?って思えちゃうんだよね。
(でも、お兄ちゃん…なんで急にお肌の手入れなんて始めたんだろ?)
中高6年間は卓球部で頑張ってたから、そんな余裕がなかったからだけなのかな?
お年頃と言えばそうだけど……。それまで極端に外見を気にする様子はなかった気がするんだけど。
制服に着替えると、バタバタとダイニングに足を踏み入れた。
「遅いわよ。お兄ちゃんもう食べてるから。りこも早く食べちゃいなさい」
ダイニングテーブルの椅子に座ると、ママのお小言を聞き流しながら、朝のトーストをホットミルクで流し込む。
お兄ちゃんは「グッドテイスト!」とサムズアップしながらバタートーストを抱えてもぐもぐしてた。あんな小さな体によくトーストやサラダやコーヒーが入るんだ。物体質量どうなってんだろ?
ダイニングの時計は7時50分を指してる。学校の始業は8時15分。
徒歩で20分近くかかるから、そろそろ出ないとヤバい。
焦って最後のひとくちをミルクで流し込んだ私は、食器を流しまで運んで置く。洗おうとしたら、ママが「きょうはやっておくわよ。早くいきなさい」というから、お言葉に甘えることにした。リュックを掴んで、バタバタと玄関に向かう。
「ごちそうさまでした!いってきまーす!」
玄関のかまちで急いで靴を履いていると、ブゥンという羽音とともに、お兄ちゃんの声が聞こえた。
「りこ、いってらっしゃーい!車に気をつけるんだゾ☆」
「……わかってるよ!」
お見送りは嬉しいけど…その言葉は、お兄ちゃんが言うとシャレにならない。夏に私の代わりに車に轢かれて入院したんだから。
また素直になれなくて、もやもやしながら勢いよくドアを開いた瞬間……
なにかが玄関に飛び込んできた。
それは、蜂(ハチ)。
お兄ちゃんと同じくらいの大きさで、オレンジ色の体に黒い縞模様。おしりに針があって、頭の触角には赤いリボンがついてる?ぱっちりした目にはまつげ。口?は赤い…口紅?細い手足は4本。羽根は4枚。
なんだか、可愛らしい蜂だった…蜂にしてはデカいけど。
呆然とした私の前で、蜂は礼儀正しく両手を合わせてぺこりとお辞儀をした。
「突然のご訪問、失礼いたします。私(わたくし)……西園寺薫(さいおんじ かおる)と申します……優様はご在宅でいらっしゃいますでしょうか?」
……蚊ニキならぬ、蜂ネキが、そこにいた。