【望月ころも先生公認「蚊ニキ」二次創作】蚊ニキの蚊ニッキ(日記) 作:くまく
シャーペンを手に、教室にある壁掛け時計を睨みつける。
おそらく、残り時間はあと10秒ほど。
チラッと斜め前の親友に目をやると、彼は解ったかのように頷く。背中にはいつもの黄色いリュックで、準備は万端らしい。
どくん、どくん、と鼓動がうるさく感じる。
1秒経つのがこんなにももどかしく、遅く感じたことはない。
荷物を握りしめた左手が震え、手汗まで滲んできた。
3…2…1…0。
そして、午前の授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「えー、では来週小テストを行…!?」
担当先生の言葉を最後まで聞く間もなく、俺と親友は席を立ち、猛ダッシュで教室から飛び出した。
「こらー!最後まで聞きなさい!!」
数Ⅲの松センの声は、あっという間に聞こえなくなった。俺と親友の優(ゆう)は、必死に足を動かす……と言っても優は蚊だから、羽根を動かすが正解だろうけど。
とにかく、今は遠くへ。ただひたすら遠くへ。
俺も優もスクールカースト底辺の陰キャとはいえ、もと卓球部。それなりに体力も足の速さもある。
教室のある3階建ての校舎から一段飛ばしで階段を降り、正面玄関ではなく裏の中庭へ通じるドアを目指す。昼休みだからか、三々五々思い思いに散らばる生徒の間を走り抜け、さらに繁みの奧にある雑木林を走り抜ける。
……そうして着いた先は、藪に囲まれ朽ちた旧校舎のボロ小屋。
旧校舎は取り壊され見る影もないが、体育倉庫だったこの小屋は用具置き場として使われているらしい。
ここに着いてようやく、足を止めて荒れる呼吸を整えた。
「……よ、よし。今日はいないな?」
「ああ、さすがに大丈夫じゃね?」
キョロキョロと周りを見渡していた優も、俺の言葉を受けてか誰もいないのを認め、警戒を解いたようだ。
そして背中に背負ったリュックを下ろすと、いそいそと中身を取り出す。紙に包まれたバスケットからは、彩りのいいサンドイッチが出てきた。
「じゃじゃ~ん!BLTサンドイッチ!パンを香ばしく焼いて、半熟卵と厚切りベーコンとオーロラソースにこだわってみました!!付け合せはチキンナゲットでーす」
「おお、うっまそ!俺のは握りめし。三島のし◯きとか◯りを半々に混ぜっと、香りがよく適度に刺激的なふりかけになんだよな。特製漬けものと韓国のりで召し上がれ!」
……なんてな。
なんでか知らんが、俺と優は高校入ってから、こうして昼飯を交換したりするようになった。もともと優は小学生の調理実習でも料理が得意そうだったし、妹にも度々なんか作ってやってたみたいだ。
“シェフを目指すのもありかなぁ”とか、冗談めかして言ってた事もある。お世辞抜きでも優の作る飯は美味いし、ハズレがない。
今どき男でも料理はできるに限る。
俺もそれなりに頑張ってみたものの、悲しいかなどうしても失敗作ばかり量産する。だから、にぎり飯くらいしか作ってこなくなった。それでも優は喜んで食ってくれるからありがたいのだが。
高校3年生。
本来ならば、カノジョとすべき事案だろう。
しかし…残念ながら、俺の恋人という存在は影も形もない。生まれてこの方女子には一度もモテた試しがない!
優は順調ならば、カノジョの1人や2人はいたろう。実際優目当ての女子は過去に数人見かけた。
だが、俺が目の前で全力で存在をアピールしていたら、なぜか全員目をそむけ黙って去った。なぜだ?
悔しいから、優にはカノジョらの存在を教えてやらなかったがな!
だが、まぁ。今は高校3年11月。高校生活もあとわずかだから、そろそろ優にカノジョができてもいいだろう。
……そして、俺もその友達を紹介してもらい、今年のクリスマスこそシングルベルを卒業するぜ!!!
「ほら、ホットコーヒー。熱いから気をつけろよ」
「さ〜んちゅ」
唯一自慢のコーヒーを優に渡す。そして、BLTサンドにかぶりつこうとした刹那。
「あああッ!ズルいですわ!わたくしに断りもなく、優様のお手作りを!!!」
ばーん!と効果音がつきそうなくらい間近に、例のストーカー女…兼蜂である西園寺香が俺と優の目の前でホバリングしてた。
……と、同時に。俺はすぐさまサンドイッチを紙に包む。優も黙って握りめしをラップに包んでた。
ここは、ごく一部の生徒しか知らない場所。慣れないと、迷路のような順路で迷いたどり着けないはずなんだよな。
……西園寺の優センサー、恐るべし。
「優様!それだけでは栄養が偏りますわ。わたくしが腕によりをかけ作った、この完全栄養食をお召し上がりくださいまし」
西園寺がどこから取り出したのか、5段のお重を手にしてる。すでに、ドライアイスのような黒いモヤがお重の隙間から漏れて、刺激的な異臭すら漂い始める。お重の中から奇妙なケタケタ笑い声が聞こえるの…気のせいじゃないよな?
西園寺がお重のフタを開いた瞬間、俺と優は再び地面を蹴って猛ダッシュしてた。
「あッ!どこへ行かれますの、優様!お待ちくださいまし!!」
西園寺の声など、無視だ。無視!
どうやって唐揚げが紫色の化石みたいな遺物になるのか。
どうやったら、赤いタコさんウインナーが緑色のモサモサが生えたイガグリみたいになるのか。
卵焼きに至っては、銀色に輝く液状化したナニカ。(煙つき)
一説には、口にした途端精神崩壊しただの、人格が変わるだの、新しい世界へ旅立つだの、とんでもない評判らしい。
チラッと隣の親友を見ると、羽根を羽ばたかせながら、死に物狂いで全力で飛んでる。
……優が、西園寺を嫌ってはいないか、好きでもないのはわかってはいるんだよなあ。
(けど、正直……羨ましくはあるんだよな)
西園寺は見た目だけなら完全なお嬢様だし、美人だし、金持ちの娘だ。ガチな非モテからすれば、そんな相手から好かれるのなら……多少の粗には目をつぶってでも付き合いたいもんだがな。
「優様〜どこですの〜?照れてお隠れにならなくてもよろしいんですのよ〜?」
ようやく隠れられそうな藪を見つけ、2人揃って身を隠す。息を殺し気配を消し、西園寺が通り過ぎるのをひたすら待つ。俺、忍者になれるんじゃね?
優は青い顔でガタガタ震えてる。ムリもねえ。
一度押しに負けて西園寺の弁当食って、異次元世界に旅立ち転生しそうになってたからな。
くうう…〜と、小さく立った音は……優の腹から。
時計を見ると、昼休みはあと5分しかない。
ほれ、と俺は優の口ににぎり飯を突っ込んだ。
「俺が西園寺を引き付ける。その間ににぎり飯食っとけ」
「ケン……まさか……待って!」
ハッ、と優は気づいたようだが、俺は止められる前に藪から飛び出した。
そして…
「みぃ〜つ〜けぇ〜まーし〜たわぁよ〜!」
西園寺の顔が間近に迫り……そして。
“YOU DIED”
ゲーム画面ならば、画面いっぱいそう表示されただろう。
口の中に、おぞましいナニカが突っ込まれ、気が遠くなる。
ああ……次の人生では…ハーレムチート無双したい……ぜ。
【YOU LIFE】