二人の話によれば、彼女たちは「キュアット探偵事務所」というところで、さまざまな謎や事件を調べているらしい。
「探偵事務所……?」
「はい。いろんな事件を調べたり、人探しをしたりしています。」
「なるほど。」
それならば、今回の件にも納得がいく。
今回の依頼は、いなくなったペットを探すこと。
俺が二人に同行することになったのも、そのためだった。
しばらく歩くと、やがて目的の場所が見えてきた。
その場所には、一人の女性が立っている。
俺たちの姿に気づくと、すぐにこちらへ駆け寄ってきた。
「来てくれてありがとうございます。」
「いえ。さっそく、お話を聞かせてください。」
あんなが答える。
依頼主は、いなくなったペットについて話し始めた。
「最後に見たのは昨日の夕方なんです。店の近くまでは一緒にいたんですが、少し目を離した隙にいなくなってしまっ
て……。」
「いなくなった場所は、この辺りなんですね?」
みくるが確認する。
「はい。」
「写真はありますか?」
あんなが尋ねると、依頼主は財布から一枚の写真を取り出した。
「これです。いなくなる少し前に撮ったものなんですが……。」
俺も、その写真を覗き込んだ。
そこには、依頼主とペットが写っていた。
何の変哲もない写真だ。
少なくとも、最初はそう思った。
あんなは写真に写ったペットを見ている。
「この子、可愛いですね。」
「そうなんです。だから、どうしても見つけたくて……。」
二人は写真の中のペットについて話していた。
だが――。
俺の目は、別の場所に釘付けになっていた。
写真の隅。
店の裏手にある建物の脇に、何かが写り込んでいる。
小さな機械。
一見すれば、何の変哲もない装置に見える。
だが、俺には分かった。
「……。」
俺は思わず写真を取り上げた。
「え?」
だが――。
写真を見た瞬間、俺は言葉を失った。
「……。」
写真には、依頼主とそのペットが写っている。
俺は、その姿を見ていたわけではない。
視線が向かったのは、写真の奥。
街並みの一角に、小さく写り込んでいるものだった。
「……まさか。」
そこにあったのは,あの機械だった。
黒っぽい金属製の、小さな装置だった。
人の腰ほどの高さもない,小さな装置。
円形のリングのような部品が取り付けられていて,正面に小さなディスプレイらしきものがある。
だが――。
俺は、その形を知っていた。
「……。」
特に、中央に取り付けられたあの円形の部品。
あれは、間違いない。
俺が未来で見た機械と、よく似ている。
「……まさか。」
俺は思わず、写真を持つ手に力を込めた。
「……。」
俺は思わず写真を凝視した。
なぜだ。
どうして、この写真にも写っている?
先ほど見た写真だけではない。
別の写真にも、同じ機械が存在している。
「どうしました?」
あんなの声が聞こえる。
だが、俺は答えられなかった。
写真から目を離すことができない。
「……おかしい。」
思わず声が漏れる。
「え?」
あんなが首を傾げる。
俺は写真を持ったまま、二人を見る。
「これは……。」
言葉が続かない。
俺が知っているはずのない1999年に、なぜ未来の機械がある。
しかも――。
一枚だけではない。
「……この写真にも、ある。」
「この写真にも?」
みくるが写真を覗き込む。
「ん?」
あんなも横から見る。
「あの,何か見つけたんですか!? 手がかりか何かありました!?」
あんなが俺に近づこうとする。
「待って、あんな。」
みくるが静かに制した。
「え?」
「ちょっと、この人と話がしたい。」
そう言って、みくるは俺を見る。
「……少し、外に来てもらえますか?」
「俺が?」
「はい。」
俺はみくるの顔を見る。
さっきまでの穏やかな表情とは違う。
明らかに、俺を警戒している。
「……分かった。」
俺は写真を置き、みくるの後についてあんなの元を離れた。
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あんなの声が、少し遠くなった。
俺は、みくるの後ろを歩いていた。
しばらく歩いたところで、みくるが立ち止まった。
「……聞いてもいいですか?」
「何だ?」
みくるが振り返る。
その表情は、店の中にいたときよりもずっと真剣だった。
「さっきの写真を見たとき、何を見ていたんですか?」
「……。」
俺は黙った。
みくるは、俺の答えを待っている。
視線を逸らすこともなく、じっと俺を見ていた。
「どうして、そんなことを聞く?」
「気になったからです。」
「何がだ?」
「あなたの反応です。」
みくるは一歩も動かない。
「写真を見せてもらったとき、私たちは犬を見ていました。」
「……ああ。」
「でも、あなたは違った。」
「……。」
「写真を見た瞬間、何かに気づいたような顔をしていました。」
俺は、無意識に先ほどの写真を思い出していた。
そこに写っていた、あの機械。
2122年で見たものとよく似た、あの装置。
まさか、1999年の写真にまで写っているとは思わなかった。
「どうしてあれほど写真を凝視していたんですか?」
みくるが、もう一度尋ねる。
俺は少しだけ考えた。
そして、できるだけ平静を装って答える。
「もちろん、写真の中に手がかりがあるんじゃないかと思ってな。」
「手がかり……?」
「ああ。」
俺は頷いた。
「犬が最後にいた場所を探しているんだろう?」
「はい。」
「ならば、写真に何か手がかりが残っていないか調べるのは当然だ。」
自分でも、よくできた説明だと思った。
完全な嘘ではない。
俺も確かに、この事件の手がかりを探している。
ただし――。
俺が探しているのは、犬の行方だけではない。
「……そうですか。」
みくるは短く答えた。
だが、その声には納得した様子がなかった。
「何だ?」
「いえ。」
「何かあるなら言え。」
「……あなたの説明は、筋が通っています。」
みくるはそう言った。
「だったら、それでいいだろう。」
「でも。」
みくるが俺の言葉を遮った。
「あなたが写真を見ていたときの様子とは、少し違う気がします。」
「……。」
「手がかりを探していた人の目には見えませんでした。」
俺は黙った。
「まるで――」
みくるが言葉を選ぶように、一度間を置く。
「何かを知っている人みたいでした。」
その言葉に、俺はわずかに目を細めた。
「……考えすぎだ。」
「そうでしょうか。」
「そうだ。」
「でも、あなたは写真を見た瞬間、明らかに変わりました。」
みくるは続ける。
「それまでは、この事件について特に興味があるようには見えませんでした。」
「……。」
「ところが、写真を見た途端に黙ってしまった。」
「……。」
「それから、自分から私たちについてくると言い出した。」
俺はみくるを見る。
「何か問題があるのか?」
「問題というより……不思議なんです。」
「何がだ?」
「普通なら、見ず知らずの人が、迷子の犬を探すための調査に自分からついてくるなんて、あまりないと思います。」
確かに、その通りだった。
だが、俺には理由がある。
あの機械だ。
あれが何なのかを確かめなければならない。
「俺には、俺なりの理由がある。」
「その理由を聞いても?」
「……。」
俺は答えなかった。
みくるはそんな俺をじっと見つめている。
その視線は鋭い。
だが、敵意があるわけではない。
ただ、何かを確かめようとしている。
「あなたは……」
みくるが静かに口を開く。
「写真の中に、私たちには見えていない何かを見つけたんじゃないですか?」
「……。」
胸の奥が、一瞬だけざわついた。
だが、表情には出さない。
「何のことだ?」
「分かりません。」
みくるは正直に答えた。
「私には、まだ分からないんです。」
「ならば、なぜそんなことを言う?」
「あなたの反応を見ているからです。」
「……。」
「あなたが何かを隠していることだけは、分かります。」
俺は黙ってみくるを見返した。
この少女は、ただの探偵ではないのかもしれない。
人の表情を見ている。
言葉だけではなく、その裏にあるものまで見ようとしている。
「……随分と疑うんだな。」
「探偵ですから。」
みくるは静かに答えた。
「分からないことを、そのままにしておくわけにはいきません。」
「……なるほど。」
俺は小さく息を吐いた。
そして、みくるから視線を逸らす。
1999年。
俺の知らない時代。
そこにあるはずのないもの。
それが、なぜ俺の目の前にあるのか。
まだ何も分からない。
だからこそ、今ここで話すわけにはいかなかった。
「今は、話せない。」
「……どうしてですか?」
「俺にも、まだ分からないことが多すぎる。」
「……。」
みくるは黙った。
言うべきなのか。未来から来たことを。
疑われている。そんなことは一目見れば分かる。
「俺は…。」
仕方がない。俺は,自身の境遇を打ち明けることにした。
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みくると学ランの人が話をしている間、私は依頼人さんと一緒にペットのカイちゃんを探していた。
最後にペットを見たという場所を中心に、公園の周りや建物の裏側まで、一つ一つ確認していく。
けれど――。
「……いないね。」
「はい……。」
依頼人さんも、落ち込んだ様子で周囲を見回している。
「もう少し探してみましょう。」
私はできるだけ明るく声をかけた。
「きっと近くにいますよ。」
「……そうだといいんですけど。」
依頼人さんは小さく笑った。
でも、その笑顔には不安が滲んでいた。
私はもう一度、周囲を見渡す。
「この辺り、もう少し調べてみましょうか。」
「はい。」
そう言って歩き出した、その時だった。
――ピッ。
「……え?」
私は足を止めた。
今、何か聞こえた。
小さな電子音。
まるで、何かのタイマーのような音だった。
「どうしました?」
依頼人さんが振り返る。
「今……何か聞こえませんでした?」
「え?」
依頼人さんは首を傾げた。
「何も聞こえませんけど……。」
「そう……ですか。」
私の気のせいだったのかな。
そう思って、もう一度歩き始める。
すると――。
――ピッ。
また聞こえた。
今度は、はっきりと。
私は立ち止まる。
「……やっぱり。」
でも、依頼人さんは何も反応していない。
どうして私にだけ聞こえるんだろう。
私は周囲を見回した。
音の出どころは分からない。
その時だった。
依頼人さんが、ぽつりと呟いた。
「……私が悪かったんです。」
「え?」
「この子がいなくなったのは……私のせいなんです。」
依頼人さんの表情が、さっきまでとは明らかに違っていた。
「そんなことありませんよ。」
「いいえ……。」
依頼人さんは首を横に振った。
「私が、ちゃんと見ていれば……。」
「でも、まだ見つかってないだけです。」
「少しだけなら大丈夫だと思ったんです。」
「……。」
「ほんの少し目を離しただけで……。」
依頼人さんの声が震えていく。
「気がついた時には、もういなくなっていて……。」
私は何とか励まそうとした。
「大丈夫です。」
「……。」
「今からでも探せます。」
「でも……。」
依頼人さんは手に持っていた写真を見つめた。
そこには、いなくなったペットと一緒に笑う依頼人さんの姿が写っている。
「この写真……。」
「はい。」
「この時は、本当に楽しかったんです。」
「……。」
「この子も、すごく嬉しそうで……。」
写真の中のペットを指で撫でるようにしながら、依頼人さんは続けた。
「……あの日に戻れたら。」
「え?」
「もし、あの日に戻れたら……。」
依頼人さんの声が、少しずつ弱くなっていく。
「今度こそ、ちゃんと見ているのに。」
「……。」
「絶対に、この子を離さないのに……。」
その瞬間。
――ピッ。
私は振り返った。
まただ。
さっきから聞こえている、あの音。
でも――。
今度は少し違った。
音が、近づいている。
いや。
近づいているんじゃない。
何かが、始まろうとしている。
「……何?」
私は辺りを見回した。
――ピッ。
依頼人さんは、まだ気づいていない。
「私が……あの時……。」
――ピッ。
「もっとちゃんとしていれば……。」
――ピッ。
「この子は……。」
――ピッ。
音の間隔が、どんどん短くなっていく。
私は思わず耳を塞ぎそうになった。
「な、何なの……?」
その時。
依頼人さんの足元に、黒い影が現れた。
「……え?」
影は、ゆっくりと広がっていく。
まるで水面に落ちた墨のように。
「なに……これ……?」
私は一歩、後ずさった。
黒い影は渦を巻き始める。
依頼人さんの足元から、身体を包み込むように上へと伸びていく。
「きゃっ……!」
依頼人さんが悲鳴を上げた。
「大丈夫ですか!?」
私はすぐに手を伸ばした。
けれど――。
「来ちゃダメ……!」
「え?」
「私……。」
依頼人さんが苦しそうに顔を上げる。
「私が……この子を……。」
「違います!」
私は叫んだ。
「あなたのせいじゃありません!」
けれど、黒い渦は止まらない。
むしろ、どんどん大きくなっていく。
そして――。
――ピッ。
最後の電子音。
私は息を呑んだ。
次の瞬間。
「ピーーーーーーーーーーーッ!!」
耳をつんざくような電子音が響いた。
「きゃあっ!」
黒い渦が一気に膨れ上がる。
依頼人さんの姿が、その中へと飲み込まれていく。
「待って!」
私は手を伸ばした。
でも、届かない。
黒い渦の中心から、何かが立ち上がった。
人のような形。
けれど――。
もう、依頼人さんの姿ではなかった。
「……うそ。」
私は呆然と見つめた。
黒い影をまとった怪物。
その身体から、異様な力が溢れ出している。
そして怪物が、ゆっくりと顔を上げた。
「……過去に……戻りたい……。」
「……!」
依頼人さんの声だった。
でも、明らかに違う。
「ならば……。」
怪物の周囲に黒い渦が再び集まる。
「その時間に……戻ればいい。」
「やめて!」
私は叫んだ。
「依頼人さんを返して!」
怪物は答えない。
ただ、こちらへ手を伸ばす。
私は思わず身構えた。
その時だった。
ピーーーーーーーッ!!!!!
もう一度,耳をつんざくような音が響いた。
またいつか〜