――翌朝。
朝の光が、キュアット探偵事務所の窓から差し込んでいた。
「ふぁ~……。」
私は大きく伸びをする。
「おはよ~~。」
「おはよう、あんな。」
みくるが一緒のタイミングで部屋を出てきた。パジャマから着替えたのは良いものの、まだまだ眠すぎる。
みくると一緒に、朝の支度を終えて階段を降りていく。
まだ少し眠たい。
昨日はいろいろありすぎた。
織田信長が2122年からタイムスリップしてきて。
その信長さんが、今この事務所にいる。
……改めて考えると、とんでもない話だ。
「今日から、またいろいろ調べないとね。」
「うん。」
そんなことを話しながらリビングへ向かう。
そして――。
「……。」
「……。」
私とみくるは、同時に足を止めた。
ソファに誰かが座っている。
朝のテレビを見ながら、ゆったりとくつろいでいる人物。
「…………。」
「…………。」
黒い学ラン。
金色の髪。
「「信長さん!?」」
私たちは思わず声を上げた。
信長さんが、ゆっくりとこちらを振り返る。
「おお,なんだ。貴様らか。」
私は慌てて信長さんのところへ駆け寄る。
「信長さん! 何してるんです……??」
みくるも少し驚いた様子で尋ねる。
すると信長さんは、ものすごく当然のことを聞かれたような顔で答えた。
「テレビを見ておる。」
「いや、それは見れば分かりますけど……!」
信長さんは再びテレビに視線を戻す。
「この時代のテレビは、どれも面白いな。」
「……。」
「見ていて楽しいぞ。」
「…………。」
みくるが、ぽつりと呟く。
「……本当に織田信長なの……??」
「みくる?」
「だって……。」
みくるは信長さんを見る。
「もっとこう……天下統一とか、「出陣じゃあ〜〜!!!」とか……そういう感じの人じゃないの?」
「どういう感じだ。」
信長さんが振り返る。
「い、いえ……何でもありません。」
2122年から来た未来人。
織田信長のクローン。
そんな人が、朝から1999年のテレビ番組を楽しそうに見ている。
なんだか少しだけ――普通の人みたいだった。
その時だった。
テレビ画面が切り替わる。きっと,信長さんが変えたのだろう。
『――続いてのニュースです。』
アナウンサーの声が響いた。
『まことみらい市内にある宝生美術館に、怪盗団ファントムから予告状が届きました。』
「……!」
私とみくるの表情が変わる。
『予告状には、次のように記されていました。』
画面に、一枚の予告状が映し出される。
白い紙。
その中央には、怪盗団ファントムの名前。
そして――。
『明日、夜八時。「星明かりのプリンセス」をいただく。 怪盗団ファントム』
「……星明かりのプリンセス。」
私は呟いた。
それは、宝生美術館が所蔵している――緑色の宝石を有した首飾り。
「……。」
みくるが画面を見つめる。
そして、私を見る。
「あんな!」
「うん! みくる!ポチタン!」
「ポチ!」
ポチタンが、どこからともなく姿を現す。
「美術館に行こう!!」
「うん!」
「待て。」
その声に、私は振り返った。
信長さんが、不思議そうな顔をしている。
「どうしたんだ?」
「え?」
「なぜ急に美術館へ行くことになった。」
「あ、それはね――。」
私は説明を始める。
「私たち、怪盗団ファントムを追ってるんです。」
みくるが続けた。
「その怪盗団から、今みたいな予告状が届いたんです。その首飾りが盗まれるのを止めないと!」
「なるほど。探偵事務所だからな。」
信長さんは頷いた。
私はさらに説明を続ける。
「怪盗団ファントムは、私たちが追っている敵で――」
「……。」
「この前も事件を起こしていて――」
「……。」
「だから、今回も美術館に行って――」
「……。」
「……信長さん?」
返事がない。
「信長さーん?」
もう一度呼ぶ。
それでも――。
信長さんは、テレビ画面から目を離さなかった。
「……?」
さっきまでの穏やかな表情が消えている。
険しい。
何かを見極めるような目。
「信長さん……?」
みくるも不思議そうに声をかける。
「どうしたんですか?」
すると――。
信長さんが、ゆっくりとテレビ画面を指差した。
「おい。」
「え?」
「あれを見てみろ。」
私とみくるが、画面を見る。
「……?」
予告状が大きく映し出されている。
そこに書かれた、怪盗団ファントムからの予告。
だけど――。
信長さんが指差しているのは、その左上だった。
「左上に、数字が書いてある。」
「数字……?」
みくるが目を細める。
私も画面をじっと見る。
「……あ。」
小さく書かれた数字。
そこには――。
「2122」
「…………。」
私の声が止まった。
「……2122?」
みくるも呟く。
「2122……。2122年ってこと…?」
二人とも、しばらく画面から目を離せなかった。
だって――。
その数字は、私たちにとっても、信長さんにとっても、ただの数字じゃない。
「信長さんが……いた時代。」
私は、ゆっくりと信長さんを見る。
「……。」
信長さんは答えない。
ただ、テレビ画面に映った「2122」という数字を見つめている。
さっきまでテレビを楽しそうに見ていた表情は、もうどこにもなかった。
険しい顔。
何かを考えている。
けれど――。
信長さんは、何も言わない。
「……信長さん?」
呼びかけても、返事はない。
みくるも不安そうに信長さんを見る。
「……。」
信長さんは、ただ黙っている。
その沈黙が、かえって私たちを不安にさせた。
やがて、みくるが口を開いた。
「……ねえ、あんな。」
「なに?」
「予告状に書いてあるってことは……。」
みくるは「2122」の数字を見つめる。
「信長さんのタイムスリップは、怪盗団ファントムの仕業ってことなの!?」
「……!」
私は息を呑んだ。
「ファントムが……信長さんを2122年から1999年に連れてきた……?」
「だって、そう考えれば辻褄が合うでしょ。」
みくるの声が少しずつ強くなる。
「信長さんがどうしてこの時代に来たのか、まだ分かってない。」
「うん……。」
「そこに、2122という数字が書かれた怪盗団ファントムの予告状が届いた。」
「……。」
「偶然とは思えない…。」
私も画面を見る。
「じゃあ……。」
胸の奥が、少しずつざわついていく。
「怪盗団ファントムは、最初から信長さんのことを知ってたってこと……?」
「その可能性はある。」
「……。」
私は信長さんを見る。
それでも――。
信長さんは何も言わない。
ただ、「2122」という数字をじっと見つめている。
「信長さん……?」
もう一度呼びかける。
「……。」
返事はない。
そして――。
しばらくして。
信長さんが、ゆっくりと立ち上がった。
「俺も同行させてもらう。」
「……!」
私は驚いて信長さんを見る。
「信長さん……?」
「貴様ら迷惑はかけない。むしろ,手伝わせてもらおう。しかし…。」
そして,こちらを向いた。
「この予告状の意味も追わせてもらう。」
何かを確かめようとしている。
そして――。
「……。」
信長さんは、もう一度だけ「2122」の数字を見た。
「………そうか。」
それ以上、何も語らなかった。
その姿を見ながら、私は思った。
この予告状は――信長さんと、何かつながっている。
そして。
私たちはまだ知らなかった。
この「2122」という数字が、これから始まる事件の大きな手掛かりになることを。
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私は、拠点に映し出されたテレビの画面をじっと見つめていた。
画面に映っているのは、まことみらい市の宝生美術館。
ニュースでは、明日の夜八時に「星明かりのプリンセス」をいただくという、怪盗団ファントムの予告状について報じられている。
「……。」
私は黙って、そのニュースを見ていた。
私の腕の中には、マシュタンがいる。
「計画通りね。」
マシュタンが、そう言った。
「ええ。」
私も静かに答える。
予告状は、ちゃんと届いた。
ここまで予定通り。何も問題はない。
――そう思っていた。
その時だった。
テレビ画面に映し出された予告状。
私は、何気なくその左上に目を向けた。
「…………。」
そこに、小さく数字が表示されている。
2122。
「……え?」
思わず、目を細めた。
「2122……?」
こんな数字、私は知らない。
もちろん、私が書いたものでもない。
「……これは……。」
マシュタンが、私の顔を見上げる。
「どうしたの?」
「……。」
私は答えられなかった。
ただ、その数字を見つめていた。
2122。
一体、誰が。
どうして、こんな数字を――。
「…………。」
胸の奥に、言葉にできない違和感が残った。
そして私は、もう一度だけ、その数字を見た。
「……これは……。」
――その数字が何を意味するのか。
この時の私は、まだ何も知らなかった。