FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第十話 抜け殻のハイン

 階段は、どこまでも地下へ続いていた。

 海洋探査人工島。

 そう呼ばれていた施設のはずなのに、ここまで降りてくると、人間が造った研究施設という印象は薄れている。

 壁には金属板が残っている。

 だが、その隙間から覗く岩盤は異様に古い。

 むしろ 最初からここにあった何かを覆い隠すように、後から施設を被せたようにも見えた。

「……まだ下?」

 セルフィが階段の先を覗き込んだ。

「もう海の底より下なんじゃない?」

「可能性はあるわね」

 キスティスが壁に触れる。

「上層とは造りが違う。ここは研究施設として造られた部分じゃないのかもしれない」

「どういうこと?」

 リノアが尋ねる。

「ここに何かがあった」

 アーヴァインが答えた。

「それを調べるために、後から上に研究施設を造った。そんな感じがするね」

「……俺もそう思う」

 ゼルが低く言った。

 その声に、キスティスが振り返る。

「何か気になるの?」

「ちょっとな」

 ゼルは壁に残された巨大な亀裂を見上げた。

「ハインって知ってるだろ?」

「魔法のハイン?」

「ああ」

「ハイン?」

 リノアが首を傾げる。

「かなり古い伝承よ」

 キスティスが説明する。

「賢者バスカリューンの子孫を名乗る人物が残した書物に記されているわ。昼と夜さえ今のようには分かれていなかった時代に、ハインという存在がいた」

「そいつは魔法を使って、たくさんのケモノを倒した」

 ゼルが続ける。

「それで大地の支配者になった。でも戦うことに疲れて、自分の代わりに働かせるために人間を作った」

「……嫌な始まり方」

 リノアが呟く。

「もっと嫌になるぜ」

 人間を作ったハインは眠りについた。

 だが再び目覚めた時、自分が眠っている間に人間は増えすぎていた。

 ハインはその数を減らそうとした。

 役に立たないと考えた子供たちを、魔法で焼き払った。

「それで人間と戦争になった」

 ゼルが言う。

「力じゃ勝てねえ。だから人間は知恵を使ってハインを追いつめた」

「困ったハインは、人間と取引したとされているわ」

 キスティスが続ける。

「自分の身体を二つに分け、その半身を人間に差し出した」

 人間は喜んだ。

 ハインの魔法を手に入れられる。

 そう考えた。

 そして今度は、その半身を巡って人間同士が争い始めた。

「黒耳王ゼバルガとその一族が、最後の勝者になったと言われている」

「じゃあ、その人たちが魔法を手に入れたの?」

 セルフィが尋ねる。

「いや」

 ゼルが首を振った。

「何も手に入らなかった」

「なんで?」

「人間が騙されたからだ」

 ゼルは自分の胸元を指で二つに分けた。

「ハインは身体を分ける時、魔法の力を持つ側を自分で持って逃げた」

 人間へ差し出された半身。

 そこに魔法はなかった。

 賢者バスカリューンが、その事実を突き止めた。

「残っていたのは、野蛮で粗野な腕力だけだったと言われているわ」

「それが……」

「抜け殻のハイン」

 キスティスが答えた。

「一方、魔法を持って姿を消したもう半分は、後に『魔法のハイン』と呼ばれるようになった」

「それで、その抜け殻は?」

 リノアが訊く。

「分からねえ」

「え?」

「どこへ行ったのか、記録に残ってない」

 魔法のハインも。

 抜け殻のハインも。

 やがて人間の歴史から姿を消した。

 セルフィが腕を擦る。

「なんで今、その話するの?」

「……俺たちが探してる奴だよ」

 ゼルの声が低くなった。

「アルテマウェポン」

 その名前だけは、ここへ来る前から掴んでいた。

 大海のよどみ。

 この人工島の最深部に存在すると噂される、正体不明の存在。

 そして、その周囲では空間や時間に関する不可解な現象が起きるという。

 それがスコールとラグナを取り戻す手掛かりになるかもしれない。

 確証はない。

 それでも、他に道はなかった。

「アルテマウェポンが何なのか、誰も知らねえ」

 ゼルは歩きながら続ける。

「生き物なのか、誰かが作った兵器なのか。それとも、ずっと昔からいる何かなのか」

 キスティスが足を止めた。

「……ゼル」

「ああ」

「まさか」

「俺も飛躍してると思ってるよ」

 ゼルは苦笑した。

「でも、もしハインの話が本当だったら?」

 魔法を奪われた肉体。

 残されたものは、純粋な力だけ。

 そして、その行方は誰も知らない。

「これから俺たちが会うアルテマウェポンって奴が……」

 ゼルが暗闇の先を見る。

「抜け殻のハインなんじゃねえかって思ってる」

 静寂。

 誰もすぐには答えなかった。

「根拠は?」

 キスティスが訊く。

「ほとんどない」

「正直ね」

「伝承と噂をくっつけただけだからな」

「でも、否定する材料もない」

 アーヴァインが言った。

「会って確かめるしかないね」

「気軽に言うなよ」

「気軽じゃないさ」

 アーヴァインの目は笑っていなかった。

 やがて一行は最深部へ辿り着いた。

 そこには巨大な機械があった。

 いや、機械というより、何かを地下へ閉じ込めるための蓋にも見える。

「……これか」

 ゼルが近づく。

「触らないで」

 キスティスが即座に言った。

「まだ何も分かってない」

「調べるだけだって」

「あなたの『調べる』は信用できないのよ」

「なんでだよ!」

 セルフィが笑う。

「ゼル、機械に強いもんね~」

「そう! 俺は機械に強い!」

「褒めてないと思う」

 リノアが小声で言った。

 ゼルは構わず操作盤の前へしゃがみ込んだ。

「たぶん……これだろ」

 レバーを動かす。

 何も起こらない。

「…………」

 別の装置へ移る。

「じゃあ、これだな」

 反応なし。

 アーヴァインが覗き込む。

「順調?」

「黙ってろ」

「機械に強いんじゃなかった?」

「古すぎんだよ!」

「機械のせいにした~」

「セルフィもうるせえ!」

 ゼルはしばらく機械を調べた。

 そして。

「……こういう古い奴はな」

 拳を握る。

 キスティスが嫌な予感を覚えた。

「ゼル」

「最後は」

「待ちなさい」

「こうだ!」

 ゴンッ!

 機械を殴った。

「…………」

「…………」

 低い駆動音が響いた。

 全員が固まった。

「ほら!」

 ゼルが立ち上がる。

「開いた!」

「……あなたね」

 キスティスが額を押さえる。

「それは機械に強いとは言わないわ」

「開いたんだからいいだろ!」

 その瞬間。

 地面が震えた。

 全員の表情から笑みが消える。

 巨大な機構が左右へ開いていく。

 その下には。

 さらに深い闇。

 そして。

 何かがいる。

 

「…………」

 最初に見えたのは、巨大な剣だった。

 次に腕。

 異様なほど発達した肉体。

 人とも獣ともつかない巨体が、ゆっくりと闇の中から姿を現した。

「……アルテマウェポン」

 キスティスが呟いた。

 ゼルは息を呑んだ。

 魔法の覇者。

 そんな印象ではない。

 もっと原始的だった。

 巨大な身体。

 巨大な腕。

 そして、それに見合わないほど静かな立ち姿。

(……まさか)

 自分で言ったことなのに。

 実物を前にした途端、笑えなくなった。

「ゼル」

「ああ」

 キスティスも同じことを考えている。

「まだ決めつけないで」

「分かってる」

「……分かってるって」

 アルテマウェポンが顔を上げた。

 次の瞬間。

 消えた。

「え?」

 リノアが声を漏らす。

「避けて!」

 キスティスが叫んだ。

 遅かった。轟音。

 巨大な剣が振り抜かれる。

「ぐあっ!」

 ゼルが吹き飛ばされた。

 数メートル先の壁へ激突する。

「ゼル!」

 セルフィが駆け寄ろうとする。

「来るな!」

 ゼルが叫んだ。

 アルテマウェポンはすでに次の一歩を踏み出している。

 アーヴァインが撃つ。命中。

 だが止まらない。

「嘘だろ……」

 アルテマウェポンが腕を振るう。

 巨大な刃。

 辛うじてライフルで受ける。

 受けた瞬間。

「ぐっ……!」

 ライフルごと身体が弾かれた。

「アーヴァイン!」

「僕は……いい!」

 床を転がりながら叫ぶ。

「前見て!」

 リノアが振り返る。

 もう目の前にいる。

「っ!」

 反射的に武器を振るう。

 弾かれた。

 腕が痺れる。

 さらに一撃。

「リノア!」

 セルフィが横から飛び込み、リノアを突き飛ばす。

 刃がセルフィを掠めた。

「きゃっ!」

 血が散る。

「セルフィ!」

「だい……じょうぶ!」

 大丈夫ではない。

 キスティスは即座に理解した。

 速すぎる。

 硬すぎる。

 そして、一撃が重すぎる。

 こちらは五人。

 数の優位など意味がない。

「回避と回復を優先!」

 キスティスが指示する。

「攻撃しなくていい! まず態勢を立て直して!」

「了解!」

 リノアがゼルへ駆け寄る。

「ゼル!」

「……いってぇ」

 返事はある。

 生きている。

 だが立ち上がれない。

「今治すから!」

「リノア!」

 キスティスの声。

 アルテマウェポンがこちらを向いた。

 まずい。

「セルフィ!」

「うん!」

 二人が同時に飛び出す。

 左右から挟む。

 キスティスの鞭が腕へ絡みつく。

「捕まえた!」

「いっけぇ!」

 セルフィが叩き込む。

 確かな手応え。

 だが。

「……え」

 アルテマウェポンが腕を振った。

 それだけ。

「きゃあっ!」

 キスティスとセルフィがまとめて吹き飛ぶ。

「キスティス!」

 床へ叩きつけられながら、キスティスは歯を食いしばった。

(強い……)

 違う。

 そんな言葉では足りない。

 戦闘になっていない。

 純粋な身体能力だけで、こちらの戦術を踏み潰してくる。

 ゼルが壁に手をつきながらなんとか立ち上がる。

「……おいおい」

 口元の血を拭った。

「本当に……腕力だけで全部どうにかする気かよ」

 キスティスが一瞬だけゼルを見る。

 その言葉の意味が分かった。

 抜け殻のハイン。

 野蛮で粗野な腕力だけを残した半身。

「考えるのは後!」

「分かってる!」

 アルテマウェポンが再び迫る。

「このままじゃ持たない!」

 セルフィが叫ぶ。

「撤退するわ!」

 キスティスが即断した。

「リノア!」

「待って!」

 リノアだけが動かなかった。

「何してるの!」

「この中……」

 アルテマウェポンを見ている。

 いや。

 もっと奥。

 その肉体の内側を感じ取ろうとしている。

「何かいる」

「え?」

「一人じゃない」

 アルテマウェポンが振り向いた。

「リノア!」

 アーヴァインが発砲する。

 銃声。

 その一瞬だけ、アルテマウェポンの動きが逸れる。

 リノアは目を閉じた。

 GFとのジャンクション。

 それに似ている。

 だが、これまで感じたどのGFとも違う。

 巨大だった。

 どこまで意識を伸ばしても、全体が掴めない。

「……いる」

 リノアが呟く。

「すごく深いところに……」

 意識を伸ばす。

 触れた。

 その瞬間。

「っ!」

 リノアの身体が大きく震えた。

 上下の感覚が消えた。

 ここが海底なのか。

 空なのか。

 今なのか。

 遠い昔なのか。

 ほんの一瞬。

 すべての境界が曖昧になった。

「リノア!」

 キスティスの声で意識が戻る。

「……エデン」

「何?」

「名前……」

 リノアが息を切らす。

「エデン」

 アルテマウェポンの内側にいる存在。

 その名だけが、言葉ではなく直接意識へ刻み込まれていた。

「離せる?」

 キスティスが叫ぶ。

「やってみる!」

 リノアはもう一度その存在へ意識を伸ばした。

 エデン。

 その存在と自分との間に、細い繋がりが生まれる。

 引く。

 アルテマウェポンの奥から。

 こちらへ。

「……っ!」

 リノアが苦痛に顔を歪める。

 アルテマウェポンが初めて明確に反応した。

 咆哮。

 施設全体が震える。

「まずい!」

 アーヴァインが叫ぶ。

 だが。

「もう少し……!」

 リノアは手を離さない。

 そして。

 ふっと。

 抵抗が消えた。

 何かがリノアの中へ流れ込んでくる。

 巨大な存在。

 理解できないほど遠く。

 それでいて、確かにこちらを認識している何か。

「……来た」

 リノアが目を開く。

「エデンが……こっちにいる」

 キスティスは一瞬だけ迷った。

 すぐに決断する。

「撤退!」

「でも、あいつは!」

「倒すために来たんじゃない!」

 キスティスが叫ぶ。

「スコールとラグナを取り戻すために来たのよ!」

 その名前でリノアの迷いが消えた。

「……うん!」

「セルフィ、ゼルを!」

「了解!」

「自分で走れる!」

「壁に叩きつけられた人は黙って!」

「走れるっつってんだろ!」

 アーヴァインが後方へ銃弾を撃ち込む。

「夫婦喧嘩は後にしてくれる?」

「誰が夫婦だ!」

「ほら元気」

「アーヴァイン!」

「来るよ!」

 再び巨大な剣が振り下ろされた。

 床が割れる。

 五人は走った。

 最深部から。

 大海のよどみから。

 背後からアルテマウェポンの咆哮が追ってくる。

 ゼルは一度だけ振り返った。

 闇の中。

 巨大な影がこちらを見ている。

(……抜け殻のハイン)

 証拠はない。

 ただの伝承かもしれない。

 アルテマウェポンとはまったく別の存在かもしれない。

 それでもあの異常な力を身体で受けた今。

 先ほどよりも、自分の予想を笑えなくなっていた。

 

 ラグナロクが海洋探査人工島を離れる。

 赤い機体が限界まで高度を上げ、島影が十分に遠ざかったところで、セルフィはようやく操縦桿を握る力を緩めた。

「……ここまで来れば、たぶん大丈夫」

 返事はない。

 いつもの騒がしい船内が、今は不気味なほど静かだった。

 理由は単純だ。

 全員、ひどい有様だった。

 ゼルは床に座り込んだまま壁にもたれ、腹部を押さえている。アーヴァインは座席に深く沈み込み、応急処置を終えた腕を動かそうともしない。

 キスティスも脇腹を押さえながら、荒い呼吸を整えていた。

 リノアは治癒魔法を使い続けている。

「ゼル、動かないで」

「動いてねえよ……」

「さっきから三回くらい立とうとしてるでしょ」

「寝てるより治りそうな気がして」

「どういう理屈よ」

「気合い?」

「寝てなさい」

「はい」

 珍しく素直だった。

 セルフィが操縦席から振り返る。

「……あれ、反則じゃない?」

「何が?」

 アーヴァインが尋ねる。

「あいつだよ! あいつ!」

 セルフィは人工島の方向を指さした。

「速すぎるよ! こっちが『よーし、戦うぞー!』ってなった次の瞬間には、みんな死にかけてるんだもん!」

「笑えないね」

「笑ってないよ!」

 実際、笑える戦いではなかった。

 最深部。

 巨大な機械を調べた直後に現れた異形。

 アルテマウェポン。

 こちらが体勢を整えるより早く攻撃を仕掛けてきた。

 速い。

 ただ速いだけではない。

 一撃が異常に重い。

 バハムートとの戦いを切り抜けた自分たちなら、少なくとも戦いにはなる。

 そんな見込みは、最初の数十秒で粉々になった。

 リノアがぽつりと言った。

「……でも、エデンは連れてこられた」

 全員の視線が集まる。

 リノアの内側。

 新たに結びついた存在。

 戦いの最中感じ取り、辛うじて引き出したGF。

 エデン。

 それを得た直後、キスティスは即座に撤退を指示した。

 あの判断が数秒遅れていたら。

 おそらく今、ここには誰もいない。

「……妙なのよね」

 キスティスが言った。

「何が?」

 セルフィが自動操縦に切り替えこちらへやって来る。

「エデンよ」

 キスティスは目を閉じた。

 まだ傷が痛むのか、わずかに顔をしかめる。

「どうしてアルテマウェポンが、エデンほどの存在を宿していたのか」

「GFなんだから、モンスターが持っててもおかしくないんじゃない?」

「それだけならね」

 キスティスは首を横に振った。

「でも、たぶんエデンは普通じゃない」

 その言葉には全員が同意した。

 まだ力の全貌など分からない。

 バハムートとも違う。

 これまで接してきたどのGFとも違う。

 あまりにも巨大だった。

 力の大きさだけではない。

 存在そのものが、どこか違う。

「時空……」

 ゼルが呟いた。

 キスティスが彼を見る。

「そう。私たちがここまで来た理由」

 大海のよどみに、時空に関わるGFが存在する。

 真偽すら怪しい伝承を頼りにここまで来た。

 そして本当にいた。

 偶然。

 そう片付けるには出来すぎている。

「なあ」

 ゼルが壁から身体を起こした。

「俺さ。あいつと戦ってて思ったんだけど」

「寝てなさいって言ったでしょ」

「話くらいいいだろ」

 リノアに睨まれ、ゼルは座ったまま続けた。

「アルテマウェポンって……やっぱり、あれなんじゃねえか?」

 アーヴァインが目を細める。

「抜け殻のハイン?」

「ああ」

 セルフィが首を傾げる。

「でもそれ、ゼルの予想でしょ?」

「分かってるって。証拠なんかねえよ」

 ゼルは頭を掻いた。

「でも、あいつ見ただろ?」

「見たどころか殺されかけたよ~」

「だからだよ」

 ゼルの声が少し真剣になる。

「伝承じゃ、人間に渡されたハインの半身には、魔法の力がなかった」

 昔。人間と争ったハインは、自らの身体を引き裂いた。

 一方を人間へ差し出し、もう一方は姿を消した。

 人間は当然、与えられた半身にハインの魔力が宿っていると考えた。

 その力を求めて争いまで起こった。

 だが賢者バスカリューンが突き止めた。

 人間へ渡された半身には、求めていた魔法の力など存在しない。

 残っていたのは。

「野蛮で粗野な腕力」

 キスティスが言った。

「そう、それ」

 ゼルが頷く。

「あいつ、そのまんまじゃねえか」

 誰もすぐには答えなかった。

 アルテマウェポンの姿を思い出す。

 巨大な肉体。巨大な武器。

 そして圧倒的な速度と力。

 小細工らしい小細工などない。

 ただ、その身体能力だけでこちらを押し潰してきた。

「確かに……」

 セルフィが腕を組む。

「『魔法を失ったハインの身体』って言われたら、ちょっとそれっぽいかも」

「で、問題はそこなんだ」

 ゼルが言う。

「魔法の力を持ってないはずの抜け殻に」

 視線がリノアへ向く。

「なんでエデンがいた?」

「…………」

 そこだった。

 キスティスも同じことを考えていた。

「もしかすると」

 彼女がゆっくりと言う。

「前提が違うのかもしれない」

「前提?」

「『魔法を持っていない』ことと、『魔法との繋がりまで完全に失った』ことは、同じなのかしら」

 ゼルが眉を寄せる。

 セルフィも考え込む。

 アーヴァインだけが静かにキスティスを見ていた。

「ハインは、もともと一つの存在だった」

 キスティスは続ける。

「身体を二つに裂いたからといって、それまで一つだったものの繋がりまで完全に断ち切れるとは限らない」

「つまり……」

 リノアが口を開く。

「逃げた方と、残された方が……まだどこかで繋がってた?」

「可能性の話よ」

 キスティスは念を押した。

「アルテマウェポンが抜け殻のハインだということ自体、まだゼルの仮説。それにエデンがどう関係しているかなんて、もっと分からない」

「でもよ」

 ゼルが食いつく。

「もし繋がってたとしたら?」

「…………」

 キスティスは少し考えた。

「長すぎる時間の中で、その繋がりそのものが何か別の存在へ変化した……?」

「GFに?」

 セルフィが聞く。

「……エデンに」

 キスティスが答えた。

 船内が静かになる。

 仮説に仮説を重ねている。

 学術的には、とてもではないが結論など出せない。

 それでも。

 妙に筋が通っていた。

「じゃあさ」

 セルフィが言う。

「エデンがアルテマウェポンの中で眠ってたんじゃなくて……」

 言葉を探す。

「アルテマウェポンと、どこかにいるもう半分を繋いでたものが、エデンになったってこと?」

「そう考えれば」

 キスティスが頷く。

「エデンが時空に関係するという伝承とも、少なくとも矛盾はしない」

「どうして?」

 リノアが聞いた。

「距離よ」

 キスティスは答えた。

「それと、時間」

 魔法のハインがどこへ消えたのかは誰も知らない。

 数百年。

 あるいは数千年。

 もし二つに裂かれた存在を、それでも繋ぎ続ける何かがあったのなら。

「離れていること自体が、エデンにとっては大した意味を持たないのかもしれない」

 アーヴァインが小さく息を吐いた。

「空間が離れていても」

「うん」

 セルフィが続ける。

「時間が離れてても?」

 キスティスは答えなかった。

 答えられない。

 しかし。

 全員が同じものを見る。

 エスタに残してきた二人。

 スコール。

 ラグナ。

 二人とも身体は現在にある。

 なのに意識は戻らない。

 エルオーネですら連れ戻せなかった。

「……当たりじゃねえか」

 ゼルが呟いた。

「ゼル?」

「俺たちが探してたものだよ」

 ゼルが立ち上がろうとして、

「いっ……!」

 腹を押さえて再び座った。

「だから寝てなさい!」

「今いいところだっただろ!」

「傷口開いたらもっといいところじゃなくなるわよ!」

 リノアに押し戻される。

 それでもゼルは続けた。

「俺たちが欲しかったのは、強いGFじゃねえ」

 エデン。

「時間に引き離された奴を、繋げられる力だ」

 セルフィの表情から笑みが消えた。

 リノアは自分の胸へ手を当てる。

 そこにいる。

 確かに。

 得体の知れない、途方もなく大きな何かが。

「エデンが……」

 リノアが呟く。

「スコールのところまで繋いでくれる?」

「まだ分からないわ」

 キスティスは即答した。

「エデンが本当にハインの二つの半身を繋いでいた存在なのかも分からない。時空を越えるという話だって、どこまで正しいのか」

 そこで一度言葉を切る。

「でも」

 今度は否定しなかった。

「調べる価値はある」

「じゃ、帰ろう」

 セルフィが立ち上がった。

「エスタへ」

「ああ」

 ゼルが頷く。

「スコールとラグナのところへ」

 セルフィは操縦席へ戻る。

 ラグナロクが旋回する。

 遠く。

 水平線の向こうへ沈みかけていた海洋探査人工島が、ほんの一瞬だけ見えた。

 ゼルはそれを睨む。

「……でも」

「どうしたの?」

「アルテマウェポン」

 ゼルは腹を押さえながら苦い顔をした。

「あいつ、まだ生きてんだよな」

「…………」

 全員が黙った。

 倒してはいない。

 エデンを引き離し、逃げただけだ。

 しかももし彼らの推測が正しいのなら。

 今、あの深海に残されているのは。

 かつて一つだった存在との最後の繋がりすら失った、

 本当の意味での『抜け殻』。

 キスティスは窓の向こうを見た。

「……それが何を意味するのかも、考えておいた方がよさそうね」

 ラグナロクは速度を上げた。

 エスタへ。

 眠り続ける二人のもとへ。

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