FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第十一話 魔女の騎士

 ガルバディア・ガーデン。

 谷間の森を抜けた先に現れた巨大な学園を見上げて、セルフィが感嘆の声を上げた。

「かなり雰囲気ちがうなあ」

「静かだな」

 ゼルも辺りを見回す。

 バラム・ガーデンより無機質で、どこか軍施設めいた空気がある。

「……いいところだなあ」

 スコールの姿をしたラグナが、素直な感想を漏らした。

 キスティスが振り返る。

「ねえ、ここは私に任せてくれる? 何度か来てるから学園長も知ってるし。事情を説明してくるね」

「頼む」

「トラビアやバラムのガーデンとも、また雰囲気が違うね」

 セルフィがきょろきょろしながら歩いていく。

「観光に来たんじゃねえぞ」

 サイファーが呆れたように言う。

「分かってるよ~」

「おまえもさっきから見てるじゃん」

 ゼルに指摘され、サイファーが睨む。

「俺は警戒してんだ」

「はいはい」

「なんだその言い方は」

「二人とも」

 キスティスが振り返る。

「他所のガーデンで喧嘩しない」

「俺はしてねえ」

「こいつが」

「二人ともよ」

「…………」

 ラグナは少し後ろから、そのやり取りを眺めていた。

(なんだかんだ仲いいんだよなあ)

 スコールの記憶を直接見ることはできない。

 だから、この身体が彼らをどう思っていたのかは分からない。

 ただティンバーからここまで旅をして、一つ分かった。

 スコールという少年は、自分で思っていたよりずっと多くの人間に囲まれて生きていたらしい。

 キスティス。

 ゼル。

 セルフィ。

 リノア。

 そしてサイファー。

 少なくとも今は、全員が同じ場所にいる。

 

『バラム・ガーデンから来たSeeD部隊は、二階応接室で待機してください』

 館内放送に従って応接室へ入る。

「ここも学園祭ってあるのかな?」

 セルフィは相変わらずだった。

「あるんじゃないか?」

 ラグナが答える。

「やっぱり?」

「学生がこれだけいるんだろ? 祭りくらいやらなきゃもったいない」

「だよね~!」

 セルフィの顔が明るくなる。

「スコール、学園祭好きなの?」

「好きだぞ」

 即答だった。

「おおっ!」

「屋台とかステージとか、いいじゃないか。準備してる時も結構楽しいだろ」

「わかる~!」

「…………」

 サイファーが胡散臭そうに見る。

「なんだよ」

「いや」

「言いたいことあるなら言えよ」

「……気色悪い」

「ひどくない!?」

 ゼルが吹き出した。

「でも分かるぜ。前のおまえなら『興味ない』で終わってたもんな」

「前の俺?」

「あ」

 ゼルが口を閉じる。

 妙な沈黙。

 そこへ扉が開いた。

「待たせたわね」

 キスティスだった。

「どうだった?」

「私たちの事情は理解してもらったわ。それから、バラム・ガーデンも無事」

「おお!」

 ゼルが立ち上がる。

「本当か!?」

「ええ。ティンバーでの一件も、少なくともバラム・ガーデンの責任は問わないという通達が来ているそうよ」

「よかったぁ~」

 セルフィが胸を撫で下ろした。

 ラグナはゼルを見る。

「な?」

「……何だよ」

「だから言っただろ。勝手にガーデンの存亡まで背負い込むなって」

「森で俺を脅した奴が言うなよ!」

「脅した?」

「『下手したらバラム・ガーデンそのものがなくなるぞ』って!」

「あれはおまえが突っ走るからだ」

「めちゃくちゃ怖かったんだからな!」

「効いたならいいじゃないか」

「よくねえ!」

 リノアが吹き出した。

 キスティスも小さく笑う。

「笑うなよ!」

「ごめんごめん」

 その時。

「おおっ! スコール!」

 廊下から聞き覚えのある声。

 雷神。

 その隣には風神。

「何してる?」

「何してるっておまえ、伝令だもんよ。シド学園長から新しい命令持ってきたんだかんな」

「どんな命令だ?」

「知らんわ、そりゃ。ここの偉い人に渡しちまったもんよ」

「説明」

「俺たちゃティンバーまで行く予定だったさ。でも列車止まってるもんだしよ、仕方ないからここまで来たら、おまえらがいるって聞いたもんよ」

 そこで雷神が室内を見る。

「おおっ! サイファー!」

「よう」

 サイファーが片手を上げる。

「初任務はどうだもんよ?」

「退屈はしてねえ」

「なら安心だもんよ!」

「喜」

 風神も僅かに頷いた。

 ラグナは三人を見る。

(本当に仲いいんだな)

 その風神が、何か思い出したように鞄を探る。

「サイファー」

「なんだ?」

「入荷」

「何が」

 取り出されたのは一本の古い映像ディスクだった。

 ケースに描かれたタイトル。

『魔女の騎士』

 サイファーの顔が止まった。

「…………」

「なんだ、それ?」

 ゼルが覗き込む。

「原点」

「風神!」

「原点?」

 セルフィが食いつく。

「なになに?」

「何でもねえ!」

「幼少鑑賞憧憬」

「言うなっつってんだろ!」

「もしかして」

 リノアが笑う。

「サイファーが魔女の騎士に憧れたきっかけ?」

「……ガキの頃の話だ」

「へえ」

 ラグナもケースを覗く。

「いいじゃないか。夢の原点ってやつだろ?」

「おまえに言われるとなんか腹立つ」

「なんで!?」

 せっかくだからと、少しだけ再生することになった。

 古い映像。

 渓谷。

 魔女を守る騎士が剣を構える。

 独特な構え。

 そして。

 騎士の顔が映った。

「…………」

「…………」

「…………」

 セルフィが画面をに見る。

「ラグナ様……?」

 ゼルも目を細めた。

「いや、これ……ラグナじゃねえか?」

 ラグナの顔が引きつる。

(俺じゃねえか!!)

 覚えている。負傷して。金がなくて。

 仕方なく引き受けた映画の仕事。

 本物のルブルムドラゴンまで出てきて散々だった。

(あれ完成してたの!?)

 サイファーは無言だった。

「…………」

 画面を見る。騎士を見る。

 「……ラグナだったのか」

「あー」

 ラグナは必死に平静を装う。

「この騎士、カッコいいな」

「…………」

「な?」

「…………」

「なんだよ」

「俺がガキの頃から憧れてた騎士が」

「うん」

「あのラグナ?」

「……らしいな」

「…………」

 サイファーが額を押さえた。

「最悪だ」

「なんで!?」

 

 やがて正式な命令が下った。

 ガルバディア・ガーデン側の責任者が告げる。

 魔女イデア。

 ガルバディア政府の平和使節となった魔女を、暗殺する。

「…………」

 その言葉が出た瞬間。

 サイファーだけが僅かに表情を変えた。

 ラグナは気づかなかった。

 だが風神は見た。

 魔女。

 そして。

 魔女の騎士。

 ほんの少し前に見た、幼い頃からの夢。

「命令書によると方法は狙撃」

 ラグナが尋ねる。

「でも俺たちに専門の狙撃手はいない」

「その点は心配しなくてもいい」

 ガルバディア・ガーデン側から一人の青年が呼ばれた。

「アーヴァイン・キニアス!」

 長髪。帽子。銃。

「BANG!」

 指で作った銃口を向ける。

「バラムのイナカ者諸君。よろしく」

「…………」

 ラグナは青年を見る。

(こいつか)

 未来でも会った。

 ただ、それほど話した記憶はない。

 一方。

 アーヴァインは。

 笑顔のまま固まっていた。

 ゼル。

 セルフィ。

 キスティス。

 サイファー。

 最後にスコール。

(……なんだ、これ)

 全員いる。

 エルオーネ以外。

 あの孤児院にいた子供たちがほとんど全員。

「……へえ」

「何だ?」

 スコールが見る。

「いや」

 アーヴァインは笑った。

「面白いメンバーだと思ってさ」

 その目だけは笑っていなかった。

 

 デリング・シティへ向かう列車。

 セルフィが客室へ消え。

 ゼルは落ち着かず。

 リノアは窓の外を眺めている。

 サイファーは座席で例の映像ディスクを睨んでいた。

「まだ引きずってんのか?」

 ゼルが言う。

「うるせえ」

「別にいいじゃねえか。騎士は格好良かったぞ」

「中身がラグナだぞ」

「そこ重要?」

「重要だ」

 少し離れたところで、アーヴァインはキスティスへ声をかけた。

「ねえ、キスティス」

「何?」

「スコールってさ」

 声を落とす。

「あんな奴だった?」

 キスティスの表情が変わった。

「どういう意味?」

「そのまま」

「どうしてそう思うの?」

「勘」

「信用できない答えね」

「じゃあ聞き方を変えよう」

 アーヴァインは隣の車両を見る。

 ラグナがセルフィと学園祭の話をしている。

「前のスコールって、どんな奴?」

「……無口」

「うん」

「他人と距離を置く」

「うん」

「自分から冗談なんてほとんど言わない」

「やっぱり」

「何か知ってるの?」

「いや」

 そこへ。

「俺にも聞かせろ」

 サイファーが来た。

「盗み聞き?」

「聞こえるように喋ってんだろ」

「じゃあ君にも同じ質問」

 アーヴァインが笑う。

「前のスコールって?」

「ムカつく奴」

「もうちょっと具体的に」

「他人に興味がねえ。何でも一人で抱え込む。喧嘩売っても必要以上には乗ってこねえ」

 隣の車両から笑い声が聞こえた。

 サイファーがそちらを見る。

「少なくとも」

 目を細める。

「あんな笑い方する奴じゃなかった」

「だよね」

「おまえ」

 サイファーがアーヴァインを見る。

「なんで前のスコールを知ってる?」

「昔ね」

「昔?」

「まあ、その話はいずれ」

 軽くかわす。

 だがアーヴァイン自身にも分からない。

(スコールだけじゃない)

 ゼル。

 セルフィ。

 キスティス。

 サイファー。

 自分。

 みんな同じ孤児院にいた。

 なのに。

(なんで誰も覚えてないんだ?)

 そして何よりあのスコール。

(きみ、本当にスコールかい?)

 

 デリング・シティ。

 カーウェイ大佐の邸宅へ向かった七人は門前で止められた。

「カーウェイ大佐は、あなたがたの実力を自分で確かめるまでは通すなと」

「実力?」

「街の北東にある、名もなき王の墓へ行っていただきます」

「こんなとこまで来て肝試しかよ」

 ゼルが嫌そうな顔をする。

「昨日もガルバディア・ガーデンの学生が一人向かいましたが、まだ戻ってきていません」

「それ先に言えよ」

 目的は入口近くに落ちている学生証。

 そこに記された出席番号を確認する。

 それだけ。

「ただし、初心者は奥へ進まないように」

 警備兵は真顔だった。

「二度と帰ってこられなくなります」

「…………」

 ラグナが皆を見る。

「奥、行く?」

「聞くなよ!」

 

 名もなき王の墓。

 湿った石壁。

 同じような通路。

 同じような曲がり角。

「……迷ったな」

「早いわよ!」

 キスティスが地図を奪う。

「貸して」

「たぶんこっち曲がれば、」

「それ以上言わなくていいわ」

 セルフィが石壁を見上げた。

「ねえ、ここって誰のお墓なの?」

「名もなき王だろ」

 サイファーが答える。

「それ名前じゃないよ~」

「…………確かにな」

 アーヴァインが壁の埃を払う。

「……ゼパルガ」

「え?」

 古い文字。

 キスティスも覗き込む。

「黒耳王……ゼパルガ」

「有名人?」

「大昔の王よ。ハイン伝承に出てくる」

「ハイン?」

「世界がまだ今の形になる以前にいたとされる存在。伝承では、人間を作ったとも言われているわ」

 キスティスが壁の文字を追う。

「やがてハインは増えすぎた人間を減らそうとして、人間と争いになった。そして追い詰められたハインは、自分の身体を二つに分けた」

「半分を人間に渡した」

 ゼルが言った。

「抜け殻のハインだろ?」

「そう」

「さすが物知りゼル」

「へへっ」

「人間はその半身にハインの魔力があると思い、奪い合った。そして最後に勝ったのが黒耳王ゼパルガと、その一族」

 キスティスが墓の奥を見る。

「でも後に賢者バスカリューンが突き止めた。人間へ差し出された半身には、求めていた魔法の力はなかった」

「じゃあハズレ?」

 セルフィが聞く。

「魔力という意味ではね」

 キスティスの表情が僅かに曇る。

「残っていたのは、野蛮で粗野な……純粋な力だったとされている」

「…………」

 ラグナは暗い通路を見る。

「なあ」

「何?」

「やっぱり番号だけ見て帰らない?」

「言い出したのおまえだろ」

 サイファーが呆れた。

『男子・出席番号47』

「目的達成!」

 セルフィが嬉しそうに言う。

「帰るか?」

 ラグナが尋ねる。

「…………」

「…………」

「…………」

 誰も戻ろうとしない。

「だよなあ」

 結局、奥へ進んだ。

 そして。

「おまえらぁ~! こんなところで何してんだぁ!?」

 巨大な影が現れた。

「墓荒らしじゃねえぞ!」

 ゼルが叫ぶ。

「似たようなもんだろ!」

「違う!」

「来るぞ!」

 サイファーがガンブレードを抜く。

 戦闘。

 一度退いた巨体を追い。

 墓の水門を動かし。

 仕掛けを解き。

 最奥へ。

「て、てめえら、また来やがったのか!」

 セクレトが吠える。

「今度はそうはいかねえぞ! オレ様のアニキもいるんだぞ!」

「アニキー!」

「どうした、弟よ」

 現れたミノタウロスを見て。

 ゼルが真顔になった。

「このちっこいのがアニキだと?」

「ア、アニキ! コイツら馬鹿にしてるぜ!」

「……愚かな人間どもよ」

 ミノタウロスが腕を組む。

「見た目で判断してはいけないことを教えてやろう」

「いい兄貴じゃないか」

 ラグナが感心する。

「敵だぞ」

 サイファーが突っ込んだ。

「分かってる!」

 戦いが始まる。

 大地から力を得続ける兄弟。

「地面から回復してる!」

 リノアが叫ぶ。

「だったら!」

 セルフィがヌンチャクを掲げた。

「レ、レビテト~!」

 兄弟の身体が浮く。

「な、なんだぁ!?」

「足がつかねえ!」

「今よ!」

 キスティスの声。

 ゼル。

 サイファー。

 ラグナ。

 三人が同時に飛び込んだ。

 

「弟よ……あとは頼む……」

「アニキー!」

 やがてセクレトも膝をついた。

「俺たち兄弟が負けちまうとは……しゃあねぇな」

 兄弟の存在が変質していく。

 消えるのではない。

 こちらと繋がる。

 GF、ブラザーズ。

「これからよろしくな」

 ラグナが言う。

「馴れ馴れしい奴だな!」

 セクレトが怒鳴る。

「いいじゃないか」

 その時。

 ゴ……。

 墓全体が揺れた。

「何?」

 リノアが振り返る。

 中央の石棺。

 蓋がゆっくりずれていく。

「まだ何かいるのかよ」

 サイファーが剣を構える。

 現れたのは怪物ではなかった。

 淡い光。

 王冠。

 長い衣。

 肉体を持たぬ人影。

『……あの兄弟を倒すとは、なかなかいい腕をしておる』

 古びた声が響いた。

『おかげで、ようやく私もこの狭い石棺から解放される』

「あなたは」

 キスティスが尋ねる。

「ゼパルガ?」

『その名で呼ばれた時代もあった』

 黒耳王ゼパルガ。

 遥かな古代。

 ハインの半身を巡る戦いの勝者。

「じゃあ」

 ラグナが剣を下ろす。

「あんたが抜け殻のハインを手に入れた?」

『手に入れた』

 王は答える。

『そして、手に入れたつもりになっていた』

「どういう意味だ?」

 サイファーが問う。

『我らは、魔法の力を求めた』

 王の声が墓室を満たす。

『ゆえに争った。国を滅ぼし、人を殺し、最後に我が一族が勝った』

「でも抜け殻には魔力がなかった」

 キスティスが言う。

『バスカリューンは見抜いた』

 王が頷く。

『残されたものは力だけ』

「力……」

『考えぬ力。望まぬ力。善悪すら持たぬ力。ただ在り、ただ壊す』

 ラグナの表情が変わった。

 なぜだろう。

 妙に引っかかる。

「その抜け殻は?」

 ゼルが聞く。

「今どこにあるんだ?」

『封じた』

「封じた?」

『我が一族が管理し、時代から切り離した』

「どこに?」

 ゼパルガは答えなかった。

 代わりに。

『……ほう』

 初めて、その表情が動いた。

「なんだ?」

『今、ひとつの鎖が消えた』

「鎖?」

『遠い』

 王が虚空を見る。

『いや……近い』

 ラグナの背筋を冷たいものが走った。

『ここより近く』

 そして。

『この時より、遥か遠い』

「何の話だ?」

『ここではない未来』

 王の輪郭が少しずつ薄れる。

『抜け殻を縛っていた管理が、今……解かれた』

「待て!」

 ラグナが一歩出る。

「どういう意味だ!」

『知らぬ』

「知らない!?」

『死者に未来を問うな』

「いや、あんたが言い出したんだろ!」

「確かに」

 サイファーが真顔で同意した。

 セルフィが吹き出す。

 ゼパルガの口元にも僅かな笑みが浮かんだ。

『我が役目は終わった』

 光が昇る。

『長い俗世に疲れ果てた者を、いつまでも石棺へ閉じ込めておく必要もあるまい』

「冥界へ行くの?」

 セルフィが聞く。

『さてな』

 そして。

 ゼパルガの視線がラグナへ向いた。

『奇妙な魂よ』

「俺?」

『そなたもまた』

 一瞬。

 その目がスコールの肉体ではなく。

 もっと奥。

 ラグナ自身を見た気がした。

『帰る場所を間違えるな』

「…………!」

 光が消えた。

 静寂。

 リノアが隣を見る。

「スコール」

「ん?」

「今の……どういう意味?」

「…………」

 ラグナは空になった石棺を見る。

「俺が聞きたい」

 

「『47』」

「あたり! どうぞお入りください」

 デリング・シティ。

 ようやくカーウェイ邸の門が開いた。

「結局、奥まで行っちまったな」

 ゼルが肩を回す。

「でもブラザーズと仲良くなれたよ~」

「仲良くって言うのか?」

「いいじゃん!」

 サイファーは少し後ろを歩きながら、ラグナの背中を見ていた。

 墓で王が言った言葉。

 奇妙な魂。

 帰る場所を間違えるな。

(……やっぱり、何かある)

 そして。

 それを考えているのはサイファーだけではなかった。

 アーヴァインもまた、帽子の下からスコールを見ていた。

 

 カーウェイ邸。

「ここ、わたしんちだから」

「…………」

 ラグナは豪華な室内を見回した。

「お嬢様だったのか」

「その言い方やめてよ」

 リノアがむっとする。

「それより、わたしを置いていかないでね」

「分かった」

「ほんと?」

「ああ」

 やがてリノアが父親へ文句を言いに部屋を出ていく。

 しばらくして。

 軍服姿の男が現れた。

 カーウェイ大佐。

「リノアは?」

 ラグナが尋ねる。

「アレは君たちのように鍛えられていない。足手まといにならないとも限らん。彼女が作戦に参加しないことは、ここにいる全員のためでもある」

「もしかして」

 セルフィが目を丸くする。

「リノアのお父さん?」

「そう呼んでもらえなくなって、ずいぶんになる」

「親父は軍のお偉いさんで娘は反政府グループ!?」

 ゼルが驚く。

「まずいんじゃないっすか!?」

「そう。非常にまずい」

 カーウェイは淡々と答えた。

「だが私の家庭の問題だ」

「…………」

 ラグナは少しだけ黙った。

 父親と子供。

 上手くいかない関係。

(俺が口出せる話じゃないな)

 未来で自分が父親らしいことをできた記憶などない。

「でも」

 ラグナは言った。

「任務が終われば、俺たちは契約通りリノアの傭兵に戻る」

 カーウェイを見る。

「その時は邪魔しないでくれ」

「邪魔したら?」

「俺たちはSeeDだ」

 ラグナの声が少しだけ低くなる。

「契約は守る」

 カーウェイと視線がぶつかる。

「おいおい」

 アーヴァインが割って入った。

「俺たち魔女を暗殺しに来たんだろ? 先にその話をしないか?」

「一時停戦だ」

 カーウェイが歩き出した。

「計画の説明をしよう」

 

 大統領官邸。

 凱旋門。

 環状道路。

 パレードカー。

 カーウェイの説明を聞きながら、一行は実際の作戦地点を確認していった。

 定刻二十時。

 魔女イデアのパレードカーが凱旋門へ入る。

 鉄格子を降ろす。

 魔女を閉じ込める。

 同時に時計塔がせり上がる。

 そこから狙撃。

 失敗した場合。

 直接戦闘。

「…………」

 サイファーは黙って聞いていた。

「サイファー?」

 ラグナが声をかける。

「あ?」

「いや。静かだから」

「俺だって説明くらい聞く」

「そうか」

 サイファーは大統領官邸を見上げる。

 幼い頃。

 映像の中で何度も見た。

 魔女。

 そして、それを守る騎士。

 魔女の騎士。

 夢だった。

 だが今。

 命令されているのは。

 魔女を殺すこと。

「さて」

 カーウェイが振り返る。

「チーム編成に移ろう」

 全員を見る。

「狙撃チームは狙撃手と、その護衛。凱旋門チームは制御装置を担当する」

 ラグナは考える。

 アーヴァインは確定。

「俺とアーヴァインが狙撃チーム」

「了解」

「それと」

 ラグナはサイファーを見る。

「サイファーもこっちだ」

「あ?」

「狙撃が失敗したら直接戦闘になる」

 ラグナは真面目な顔になる。

「その時、前で戦える奴がもう一人欲しい」

「…………」

 サイファーの口元が上がる。

「分かってるじゃねえか」

「勝手に突っ込むなよ」

「誰に言ってやがる」

「おまえ」

「てめえ」

「喧嘩しない」

 キスティスが即座に止める。

「凱旋門はキスティス、ゼル、セルフィ」

「了解!」

「りょうか~い!」

「任せろ!」

 これで決まった。

 狙撃チーム。

 スコール。

 サイファー。

 アーヴァイン。

 凱旋門チーム。

 キスティス。

 ゼル。

 セルフィ。

 そして。

 作戦から外されたリノア。

 

 邸宅を出る直前。

「よっ! やっと脱出成功!」

 リノアが現れた。

「スコールは?」

「ここだ」

「あ、いた」

 その手には奇妙な腕輪。

「これ見て!」

「何だ?」

「オダイン・バングル」

「オダイン?」

 ラグナの眉が上がった。

「知ってる?」

「……まあ」

 知っているどころではない。

(オダイン博士、こんなものまで作ってたのかよ)

「魔女の力を抑制するらしいの」

「へえ」

「だからさ。これ、魔女につけられないかなって」

「どうやって?」

 キスティスが尋ねる。

「それをみんなで考えるのよ!」

「時間がないわ」

「でも」

「スコールたちはもう待機に入らなきゃならない。私たちにも任務がある」

キスティスは、そこで一度言葉を切った。

 責めるような口調にはしたくなかった。

「リノア。あなたが何とかしたいって思ってるのは分かるわ」

「…………」

「そのバングルだって、本当に効果があるなら使えるかもしれない。でも、今から使い方も分からないものを作戦に組み込むのは危険よ」

「でも、魔女に近づければ……」

「どうやって近づくの?」

「それは……」

「近づけたとして、どうやって腕につける? 抵抗されたら? その間、誰があなたを守る?」

「…………」

 リノアは答えられなかった。

 キスティスの声は厳しくない。

 ただ、一つずつ現実を並べているだけだった。

「あなたの考えが悪いって言ってるんじゃないの。むしろ、何かできないかって考えてくれたのは嬉しい」

 キスティスは少しだけ笑った。

「でもね。作戦って、いいアイデアを思いつくだけじゃ駄目なの。どうやって実行するか、失敗した時にどうするか、そこまで考えて初めて使えるの」

「……うん」

「今回は時間がなさすぎるわ。だから、そのバングルは使わない。少なくとも今はね」

 リノアは手の中のオダイン・バングルを見る。

「……そっか」

「ごめんね」

「なんでキスティスが謝るの?」

「せっかく考えてくれたのに、却下するから」

「それは……仕方ないよ」

 リノアはそう答えた。

 けれど。

 オダイン・バングルを握る指には、少しだけ力が入っていた。

 自分も何かしたい。

 スコールたちと同じように。

 ただ守られるだけではなく。

 役に立ちたい。

 その気持ちまで消えたわけではない。

「じゃあ行きましょう」

 キスティスが皆を見る。

「もう時間がないわ」

「了解!」

 ゼルが答える。

「リノア、またあとでね~」

 セルフィも手を振った。

「うん」

 リノアも笑って手を振り返す。

 ラグナも狙撃地点へ行かなければならない。

 すれ違いざま。

「リノア」

「……何?」

「無茶するなよ」

「…………」

「絶対だぞ」

「分かってる」

 そう答えた。

 そして一行が去ったあと。

「…………」

 手の中を見る。

 オダイン・バングル。

「……でも」

 小さく呟く。

「これ、本当に効くんだよね」

 誰に聞かせるでもなく。

「だったら……」

 リノアは、もう一度バングルを握った

 

 時刻が近づく。

 大統領官邸前。

 スコール。

 サイファー。

 アーヴァイン。

 三人で待機する。

 やがて。歓声。大統領が姿を現す。

 そして。魔女。

「…………」

 サイファーの目が見開かれた。

 イデア。本物の魔女。

 サイファーの中で幼い頃から何度も見た映画の一場面と目の前の現実が重なった。

「……魔女」

 小さく呟く。

「サイファー?」

 返事はなかった。

 イデアが口を開く。

 群衆へ向けて。

 魔女という存在に人間が押しつけてきた幻想を語る。

 恐怖。

 憎悪。

 残酷な魔女。

 人間自身が作り上げた幻想。

 その幻想を望むなら、自らがその恐怖を演じ続けようと。

「…………」

 サイファーは動かなかった。

 その言葉だけが妙に深く胸へ落ちていった。

 そして

「イ、イデア……」

 大統領が近づく。

 次の瞬間魔力が奔る。

「……!」

 デリング大統領の身体が崩れた。

「何やってんだ、あいつ!」

 ラグナが身を乗り出す。

 さらに官邸の高所。

 人影。

「お、おい」

 アーヴァインが目を凝らす。

「あの子……」

「…………」

 ラグナの顔色が変わる。

「リノア!?」

 魔女のすぐそば。

 一人。

 リノアがいる。

「何やってんだあいつ!」

 立ち上がる。

「待て」

 腕を掴んだのはサイファーだった。

「離せ!」

「門が開いてねえ」

「でもリノアが!」

「今飛び出してどうやって行く!」

「…………!」

 正論だった。

 サイファー自身も歯を食いしばっている。

「助ける」

「ああ」

「だが頭使え」

「……分かった」

 ラグナは拳を握る。

 その横でサイファーは再び魔女を見る。

 イデア。

 そして。

 魔女の前に立つリノア。

(魔女の騎士)

 幼い頃から追い続けた言葉が。

 今までとはまるで違う意味で。

 胸の奥に響いていた。

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