FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
デリング・シティの夜は、異様な熱気に包まれていた。
通りを埋め尽くす人々。
軍楽隊の音。
無数の照明。
誰もが、これから始まる華やかなパレードを待っている。
その裏側で、一人の魔女を殺すための作戦が静かに動き始めていた。
カーウェイ邸。
「まもなく外は荒れる。ここにいれば安全だ」
カーウェイ大佐はそう言い残し、部屋を出ていった。
「…………」
リノアは父の背中を見送る。
扉が閉まる。
直後。廊下から金属の擦れる音がした。
「……え?」
リノアは反射的に扉へ駆け寄った。
外から鍵を掛けようとしている。
「ちょ、ちょっと待って!」
錠が落ちる、その寸前扉を押し開けた。
「わっ!」
廊下にいた兵士が驚いて後退する。
「リノア様!?」
「ごめん!」
その横をすり抜けた。
「お待ちください!」
「待たない!」
走る。
階段を駆け下り、玄関を抜ける。
胸元にはオダイン・バングル。
魔女の力を抑制するために作られたという装置。
キスティスの言っていたことは分かっている。
効果は確実ではない。
どうやって魔女に装着するのかも決まっていない。
何より、作戦開始まで時間がない。
だからキスティスは反対した。
怒られたわけではない。
馬鹿にされたわけでもない。
むしろ危険だからと、最後まで丁寧に説明してくれた。
だからこそ。
(みんなに迷惑はかけられない)
これは自分が思いついたことだ。
なら。
(自分でやる)
リノアは街へ飛び出した。
「わたしだってやれるよね……」
大統領官邸前。
ラグナはその時を待っていた。
隣にはアーヴァイン。
そしてサイファー。
「…………」
サイファーが妙に静かだった。
「緊張してる?」
「あ?」
「いや。珍しく黙ってるから」
「おまえと一緒にすんな」
「俺だって黙るぞ」
「三秒くらいならな」
「失礼だな!」
アーヴァインが苦笑した。
「君たち、本当に仲いいね」
「「どこがだ!」」
綺麗に重なる。
「ほら」
「…………」
「…………」
「今のはたまたまだ」
「そうそう」
「おまえが同意すると余計ムカつくな」
その時だった。
歓声が一段大きくなる。
官邸の巨大な門が、ゆっくりと開いていく。
アーヴァインの顔から笑みが消えた。
「始まった」
魔女イデア。
その姿が現れた瞬間。
ラグナの表情から笑みが消えた。
(……アルティミシア)
間違えるはずがない。
未来で、すべてを知った。
イデアはこの時、自分の意思でガルバディアを動かしていたわけではない。
遥かな未来から意識を送り込んできた魔女。
アルティミシア。
今、この身体を動かしているのはそいつだ。
「……おい、スコール」
サイファーの声に、ラグナは我に返った。
「あ?」
「何だ、その顔」
「いや……何でもない」
「何でもない顔じゃねえだろ」
「気にすんな」
「気になる言い方すんな!」
言えない。
まだ言うわけにはいかない。
未来の魔女だの、時間を越えた精神の接続だの。
そんなことを説明すれば、真っ先に聞かれる。
どうして知っているのか、と。
だから黙る。
だが、一つだけ問題があった。
(これ……どうすりゃいい?)
今回の任務は魔女イデアの暗殺。
けれどラグナは知っている。
イデア自身が敵なのではない。
倒すべき相手は、その中にいる。
(アルティミシアだけ引っ張り出してぶん殴る、とかできりゃ楽なんだけどな)
できるわけがない。
少なくとも、この時代の自分にはその方法が分からない。
ならイデアを殺さずアルティミシアの支配だけを断ち切る。
(……そんな器用なこと、できんのか?)
嫌な汗が背中を伝った。
そこで。
「お、おい」
アーヴァインが声を上げた。
「あれ」
官邸の壁面を指差している。
一人の少女が、イデアへ近づいていた。
「…………」
ラグナの思考が全部吹き飛んだ。
「まさか」
サイファーの顔色が変わる。
「リノア!?」
「なぁぁにやってんだ、あいつはぁ!?」
未来を知っていようが、アルティミシアを知っていようが。
結局予定外のことは起きる。
しかも大抵、最悪のタイミングで。
「あの……」
声が震える。
「わたし、このガルバディアの、軍の、大佐の、カーウェイの娘です」
イデアがゆっくりと振り返った。
「これから、父がお世話になると思って、本日は、ご挨拶に、来ました。あ、参りました」
胸元に隠したバングルを握る。
「それで、あの、わたしから贈り物があるので、あの、ぜ、ぜひ……」
一歩。
もう一歩。
(もう少し)
イデアの唇が微かに動いた。
「……!」
魔力が弾けた。
「うっ……!」
リノアの身体が宙へ浮く。
「リノア!!」
ラグナは走り出していた。
「待て!」
サイファーも続く。
「おいおいおい!」
アーヴァインが慌てて追う。
「狙撃地点は!?」
「後!」
「任務は!?」
「リノアが先!」
「即答かよ!」
官邸へ飛び込む。
階段。
「こっちだ!」
サイファーが先頭へ出る。
「分かるのか?」
「大佐から経路は聞いてる!」
「準備いいな!」
「おまえが適当すぎんだ!」
「それ今言う!?」
最上階。
サイファーが扉を蹴り開ける。
「リノア!」
そこにイデアはいなかった。
倒れているリノア。
そして彼女を取り囲む二体の石像。
赤い眼が灯る。
石の翼が開いた。
「……なんだ、こいつら」
シュメルケ。
二体。
「考えるのは後だ!」
ラグナがガンブレードを抜く。
「リノアを助けなきゃ!」
アーヴァインも銃を構えた。
一体が跳ぶ。
ラグナへ。
もう一体は倒れたリノアへ。
「させるか!」
サイファーが割って入った。
ハイペリオンと石の爪が激突する。
「スコール! そっちやれ!」
「了解!」
「キニアス!」
「アーヴァイン!」
「どっちでもいい!」
銃声。翼が砕ける。
「よし!」
ラグナが踏み込んだ。
一閃。刃が石像の胴を捉える。だが硬い。
「うおっ!?」
腕が痺れる。
「石って斬りにくいな!」
「見りゃ分かるだろ!」
「やってみなきゃ分からないこともある!」
「今学ぶな!」
もう一体が魔法を放つ。
「サイファー!」
「見えてる!」
サイファーがリノアを抱え、床を転がった。
直後。
魔力が床を抉る。
「こいつ……!」
サイファーの目が鋭くなる。
「女一人狙って楽しいかよ!」
「石像に説教してどうする!」
「うるせえ!」
「二人とも!」
アーヴァインが銃を構える。
「どいて!」
二人が左右へ飛ぶ。
「BANG!」
弾丸がシュメルケの額を撃ち抜いた。
亀裂。
「今だ!」
ラグナとサイファー。
二本のガンブレードが同時に走った。
石像が砕け散る。
もう一体も倒れる。
静寂。
「…………」
ラグナは息を吐いた。
「リノア!」
「……ん」
瞼が開く。
「スコール……」
「もう終わった」
その一言で張り詰めていたものが切れた。
「こわかった……」
「…………」
「こわかったの。わたし、こわかったの」
涙が滲む。
「バトルはいつものことだろ?」
「だめだったの」
リノアは首を振った。
「ひとりじゃだめだったの。わたし、ひとりじゃ戦えなかったの」
「…………」
(そりゃそうだ)
ラグナは思う。
未来のスコールなら、ここで何と言ったのだろう。
分からない。
だから自分の言葉で言う。
「じゃあ、一人で戦うな」
「え?」
「俺たちがいるだろ」
「…………」
「一人で無理なら、最初から一人でやる必要ないんだよ」
リノアが瞬きをする。
ラグナは立ち上がり、手を差し出した。
「もう行く。あんたの命令はおぼえている」
その手をリノアが握る。
「俺のそばから離れるな」
「……うん」
「あと」
「?」
「次から、何か思いついたら先に相談」
「……はい」
「よろしい」
横から鼻を鳴らす音。
「次に一人で魔女んとこ突っ込んだら説教だからな」
「サイファーにだけは言われたくない」
「なんでだ!」
「おまえも大概だぞ」
「スコール、おまえもだ!」
「じゃあ三人とも反省ってことで」
アーヴァインがまとめる。
「おまえは?」
「僕は常識人だから」
三人が見る。
「…………」
「…………」
「…………」
「なんだよ」
時計部屋。
予定より遅れた。
だが、まだ間に合う。
アーヴァインは狙撃用ライフルを構えた。
「アーヴァイン・キニアス。あとはおまえにまかせる」
「…………」
返事がない。
さっきまでとは別人だった。
呼吸を整え。
照準器の向こうだけを見る。
(急に静かになったな)
ラグナは横顔を見る。
(これが狙撃手の集中ってやつか)
邪魔をしない方がいい。
後方にはリノア。
そしてサイファー。
時計の針が進む。
凱旋門。
「来たぜ」
ゼルが鉄格子の向こうを覗く。
パレードカーが近づいてくる。
セルフィが時計を見る。
「あと十秒!」
「了解」
キスティスが制御盤へ手を置いた。
「五……四……」
「三……二……」
パレードカーが門の真下へ。
「来るよ!」
「今だ、キスティス! スイッチを!」
「了解!」
押す。
轟音。
巨大な鉄格子が前後から落下する。
魔女を乗せた車両が完全に閉じ込められた。
「成功!」
「よっしゃ!」
キスティスが時計を見る。
二十時。
「あとは……お願い、スコール」
「今だ」
ラグナが言った。
だが。
銃声はしない。
「…………」
一秒。
二秒。
「……アーヴァイン?」
返事がない。
ライフルは構えている。
照準も外れていない。
だが引き金を引く指だけが動かない。
「おい」
「……や、やっぱり、だめみたいだ」
「何が?」
「撃てない」
「…………」
ラグナは瞬きをした。
「撃てない?」
「だ、ダメだ。すまない。僕、本番に弱いんだ。ふざけたり、カッコつけたりして、なんとかしようとしたけど……ダメだった」
(おおう)
ここで来たか。
分からなくはない。
むしろ、ものすごく分かる。
自分だって昔、ジュリアを前にしただけで足がつった。
人間というものは、どうでもいい時にはよく動くくせに、肝心な時ほど身体が反乱を起こす。
(ただ、今はジュリアの前じゃないんだよなあ)
「僕の銃弾が魔女を倒すんだ」
アーヴァインの声が震える。
「歴史に残る大事件だ。この国の、世界の未来を変えるような一発になる。そう考えたら……」
「ちょっと待て」
「え?」
「それ全部、今考えるのやめよう」
「……は?」
「世界とか歴史とか未来とか、一気に背負ったら重いだろ」
「いや、でも」
「俺だったら足まで動かなくなる」
「威張るな」
サイファーが言った。
「威張ってない!」
「今のおまえなら本当にやりそうだから困る」
「ひどくない?」
リノアが思わず小さく笑った。
ラグナはアーヴァインの肩を叩く。
「なあ」
「……何?」
「魔女を倒そうとするな」
「僕、何のためにここにいるの?」
「撃つため」
「矛盾してるよ」
「最後まで聞けって」
凱旋門を指す。
「おまえ一人で終わらせなくていいってことだ」
「…………」
「おまえが撃つ」
自分を指す。
「俺が走る」
サイファーを指す。
「こいつも勝手に走る」
「勝手は余計だ」
リノアを見る。
「リノアは」
「行く」
「だそうだ」
「止めろよ!」
「止めて聞くタイプか?」
「……聞かないな」
「だろ?」
ラグナは笑う。
「だから、おまえの一発は合図だ」
「合図……」
「そう。パンって撃つ。そしたら俺たちの出番」
「外したら?」
「俺が行く」
「防がれたら?」
「俺が行く」
「魔女が反撃してきたら?」
「だから俺が行くって」
「……死ぬかもしれないよ」
「…………」
ラグナの笑みが消えた。
「まあな」
そこだけは誤魔化さなかった。
ガンブレードの柄に手を置く。
「死にそうになったら助けてもらうさ、そのために仲間がいるんだろ」
「…………」
「一人で全部背負うなよ、アーヴァイン」
アーヴァインの瞳が揺れる。
ラグナには分からない。
彼が何を抱えているのか。
何を知っていて。
なぜ時々、皆を見る目があんなにも寂しそうなのか。
それでも。
「おまえは撃つ」
肩を叩く。
「俺たちは走る」
「…………」
「失敗したって、おまえ一人の失敗じゃない」
「……じゃあ?」
「全員で失敗する」
「それ、励ましてる?」
「もちろん」
「最悪の励まし方だな」
「そうか?」
だがアーヴァインの呼吸が戻っていく。
再び照準器を覗く。
「……ただの合図」
「ああ」
「ただのサイン」
「そうそう」
「外しても?」
「後は任せろ」
深く息を吸う。
吐く。
指が引き金へ。
「たのむ」
今度はラグナもふざけなかった。
そして。
銃声。
一発の弾丸がデリング・シティの夜を切り裂いた。
正確だった。
一直線にイデアの額へ。
だがイデアがこちらを見た。
「……!」
魔女の前に光が生まれる。
弾丸が止まった。
「うそだろ!?」
弾かれる。
乾いた金属音。
アーヴァインの顔から血の気が引いた。
「……すまない」
「何言ってんだ」
ラグナはもう立ち上がっていた。
「狙いは正確だった」
ガンブレードを抜く。
「当たってたぞ。向こうがインチキしただけだ」
「インチキって……魔法だよ」
「俺から見たら同じだ」
「無茶苦茶だなあ」
「よく言われる」
そして笑う。
「約束通りだ」
「約束?」
「おまえは撃った」
ガンブレードを肩へ担ぐ。
「だから次は、俺たちの番だ」
リノアが立ち上がる。
「わたしも行く」
「リノア」
「一人では行かない」
ラグナは言葉に詰まった。
「俺のそばから離れるなって」
「……言ったな」
「だから離れない」
「そう来るかぁ」
思わず額を押さえる。
横でサイファーが笑った。
「自業自得だな」
「うるさい」
「アーヴァインも来て」
「僕も?」
「見せ所をつくらなきゃ」
「……なるほど」
アーヴァインがライフルを置き、銃を抜く。
「そこまで言われたら、あのままじゃカッコ悪すぎだよな」
「よし」
ラグナは凱旋門の中に立つイデアを見た。
狙撃は防がれた。
なら、あとは直接叩くしかない。
そのために立ち上がった。
そのためにガンブレードも抜いた。
なのに。
「…………」
足が止まっていた。
(イデアを殺すわけにはいかない)
(問題は……)
ラグナはガンブレードを握り直した。
(どうやって追い出すんだ?)
リノアを助ける前に考えたことが再度浮かぶ。
未来で話は聞いた。
スコールたちはイデアと戦った。
そして戦いの後、イデアはアルティミシアの支配から解放された。
だがどういう攻撃をして。どこまで追い詰めて。
何がきっかけでアルティミシアが離れたのか。
そこまで細かく聞いた覚えはない。
(こういう大事なところをちゃんと聞いとけよ、昔の俺!)
いや。
未来にいた頃は、自分がスコールの身体でこの場に立つなど想像するはずもなかった。
(殺さずに倒す)
言葉にすれば簡単だ。
(いや、全然簡単じゃないな)
しかも相手は魔女である。
手加減して勝てるような相手でもない。
「……難しいな」
「何がだ?」
「うわっ!」
真横から声がして、ラグナは飛び上がった。
サイファーがいた。
「急に出てくんなよ!」
「ずっといたわ!」
「あ、そうだった」
「おまえな……」
サイファーの眉間に皺が寄る。
だがすぐには前へ進まなかった。
スコールを見る。
おかしい。さっきまであれだけ威勢よく言っていた。
アーヴァインが外せば自分が行く。
なのにいざ魔女を目の前にすると。
妙なところで躊躇している。
「おい」
「ん?」
「おまえ、本気で魔女を殺すのか?」
「…………」
ラグナはイデアを見る。
未来で知った彼女。
孤児院の子供たちを育てていた女性。
スコールたちにとっての『ママ先生』。
その姿と今、人々を見下ろしている魔女の姿は、どうしても重ならない。
「いや」
ラグナは答えた。
「殺す気はない」
「…………は?」
「できれば」
「できれば!?」
「声でかいって」
「暗殺任務だぞ!」
「分かってるよ」
「分かってる奴の返事じゃねえ!」
「でも殺したくないんだから仕方ないだろ」
「…………」
サイファーが黙った。
ラグナもそれ以上は説明できない。
イデアの中にアルティミシアがいる。
そんなことを言えばどうして知っている。
そう聞かれる。
答えられない。
「じゃあ」
サイファーが尋ねた。
「何しに行くんだ」
「止める」
「殺さずに?」
「できれば」
「またそれかよ」
「大事だぞ、できれば」
「できなかったら?」
「…………」
ラグナは少し考えた。
「その時考える」
「おまえ、さっきからそればっかりだな!」
「便利だぞ」
「褒めてねえ!」
ラグナは苦笑した。そして。
もう一度、イデアを見る。
今度はふざけなかった。
「でも、あのままにはしておけない」
「…………」
「だから止める」
サイファーはしばらく黙っていた。
おもむろにハイペリオンが抜かれた。
「俺は魔女の騎士になる」
「だから確かめる」
「何を?」
「俺がなりたかった魔女の騎士ってのが」
サイファーはイデアを見る。
「あんなものなのかをな」
脳裏に古い映画が蘇る。
渓谷。
魔女。
ドラゴン。
そして。
魔女の前へ立つ、一人の騎士。
子供の頃何度見たか分からない。
剣の構えを真似した。
戦い方を真似した。
立ち方まで真似した。
あの男みたいになりたかった。
魔女の騎士。
それが自分の夢になった。
ずっと。ただ。
ガルバディア・ガーデンで久しぶりにあの映画を見て。
妙なことに気づいた。
昔は魔女の隣に立っているだけで格好よく見えた。
魔女に選ばれた騎士。特別な男。
それだけで胸が躍った。
けれど今見ると違った。
あの騎士は魔女の後ろには立っていなかった。
前に立っていた。
ドラゴンと魔女の間へ、自分から入った。
命令されたから剣を振るったわけじゃない。
魔女の力を使って世界を支配したわけでもない。
誰かを踏みにじって、忠誠を示したわけでもない。
ただ守ると決めて剣を抜いた。
「…………」
サイファーはハイペリオンを見る。
(じゃあ)
魔女の騎士というのは。
(魔女なら誰でもいいのか?)
違う。少なくとも。
自分が憧れたものは。
(そんな安っぽいもんじゃねえ)
そして。今日。
イデアはリノアを殺しかけた。
別にリノアに特別な感情があるわけではない。
会えば口喧嘩もする。
鬱陶しい女だと思うことだってある。
だが。それと。
目の前で仲間を殺されることはまったく別の話だった。
「俺は魔女の騎士になりてえ」
サイファーが言った。
イデアへ向けて。
「今でもな」
「…………」
「でも」
口元を歪める。
「おまえの騎士になりたいわけじゃねえ」
ラグナが横を見る。
「……決まったな」
「うるせえ」
「いや、今の格好よかったぞ」
「黙れ!」
「褒めたのに!?」
「おまえに言われると腹立つんだよ!」
「なんで!?」
「知らねえ!」
リノアが笑った。
アーヴァインも肩をすくめる。
「緊張感あるんだかないんだか分からないな、君たち」
「あるぞ」
「どこにだ!」
「ほら、ここらへん」
「腹を指すな!」
「いや、緊張すると腹痛くならない?」
「知るか!」
「スコール」
リノアが呼んだ。
「ん?」
「行こう」
「…………」
その顔には。
さっきまでの怯えが残っている。
それでも一人ではないから。
今度は立っている。
「ああ」
ラグナがガンブレードを構えた。
奇妙な四人だった。
SeeD。
レジスタンス。
ガルバディア・ガーデンの狙撃手。
魔女の騎士を夢見る問題児。
そして本当はこの時代の人間ですらない男。
誰一人この先に何が待っているのか知らない。
ただ一つ。
今は同じ方向を向いている。
「行くぞ」
「指図すんな」
「はいはい」
「返事が軽い!」
「サイファー」
「あ?」
「死ぬなよ」
サイファーが鼻で笑った。
「誰に言ってやがる」
ハイペリオンが上がる。
「おまえこそ足引っ張んなよ、スコール」
「了解」
二本のガンブレード。
その後ろでリノアがブラスターエッジを構える。
アーヴァインが銃へ弾丸を装填する。
そして四人は魔女のもとへ走った。
凱旋門。
鉄格子の内側。
イデアは一人、立っていた。
いや正確には。
その身体の中にいるものが彼らを待っていた。
「……来たか」
ラグナが足を止めた。
サイファー。
リノア。
アーヴァイン。
四人が並ぶ。
「…………」
イデアの視線がラグナへ向いた。
『……SeeD』
声が響く。
『腐った庭にまかれた種』
ラグナはガンブレードを構える。
「悪いけど」
少しだけ笑った。
「園芸の話なら詳しくないんだ」
「おまえな」
サイファーが呆れる。
「今それ言うか?」
「だって種って言われたから」
「そういう意味じゃねえ!」
イデアの瞳が細くなる。
そして視線がサイファーへ移った。
『……ほう』
「…………」
『魔女の騎士を夢見る、愚かな子供』
サイファーの眉が動いた。
『力を求め』
『選ばれることを望み』
『魔女の傍らに立つことを夢見る』
イデアが手を差し出す。
『ならば来るがよい』
「…………」
『望みを叶えてやろう』
一瞬の静寂。サイファーは
「はっ」
笑った。
「ああ」
ハイペリオンを肩へ担ぐ。
「夢見てるぜ」
ラグナが横を見る。
サイファーの顔には迷いがなかった。
「今でもな」
『ならば』
「だから分かるんだよ」
イデアの言葉を遮った。
「俺が欲しかったもんが」
一歩。前へ。
「おまえじゃねえってな」
ハイペリオンを構える。
「俺は魔女の騎士になりてえ」
だけどなと言葉を続ける。
「魔女の犬になりてえわけじゃねえ!」
イデアの表情が初めて歪んだ。
『……こしゃくな』
「褒め言葉として受け取っとくぜ」
ラグナも隣へ並ぶ。
「サイファー」
「あ?」
「今のはもっと格好よかったぞ」
「だから黙れっつってんだろ!!」
「なんで褒めるたび怒るんだよ!?」
「おまえだからだ!」
その瞬間イデアの周囲で魔力が爆発した。
「来るぞ!」
アーヴァインが叫ぶ。
リノアが構える。
「いっしょなら戦えるから!」
ラグナの横へ並んだ。
「だから来たの! わたしも戦うから!」
「よし」
ラグナは笑った。
「じゃあ約束通りだ」
「約束?」
「一人で戦わない」
「……うん!」
「アーヴァイン!」
「分かってる!」
銃を構える。
「あのままじゃカッコ悪すぎだよな」
「サイファー!」
「命令すんな!」
「まだ何も言ってない!」
「どうせ突っ込めだろ!」
「正解!」
「チッ!」
二人が同時に床を蹴った。
二本の刃が左右へ開く。
『……SeeD』
イデアの両手に魔力が集まる。
『呪われし、種』
「だから」
ラグナが剣を振り上げた。
「園芸は分からないって!」
「そこ引っ張るな!!」
二本の刃と魔女の魔法が真正面から激突した。