FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
最初に感じたのは、痛みだった。
胸の奥。
脇腹。
肩。
息を吸うだけで、身体のあちこちが鈍く軋む。
「……っ」
スコールは目を開けた。
天井。
見覚えのない天井だった。
「…………」
しばらく動けなかった。
頭がひどく重い。
自分がどこにいるのか分からない。
いやそれ以前に。
(俺は……)
最後に覚えているもの。
崩れていく世界。
時間も場所も意味を失った空間。
仲間たちの姿が消えて。
どこへ行けばいいのかも分からなくなった。
『みんな、どこだ!?』
『リノア! どこだ! ゼル! セルフィ! キスティス! アーヴァイン!』
呼んでも誰もいなかった。
『リノア!』
声だけが消えていく。
(……俺、ひとりなのか?)
またひとりぼっちになる。
そんな恐怖だけが残って。
そして声が聞こえた。
『スコール!』
リノア。
『いっしょに帰ろうよ!』
遠くから自分を呼んでいた。
『どこにいるの!?』
あの声を追った。
ただひたすら帰ろうとした。
そこから先が。
「…………」
ない。
スコールはゆっくりと身体を起こした。
「っ……!」
激痛。
反射的に胸元を押さえる。
包帯が巻かれている。
(傷……?)
何の傷だ。
アルティミシアとの戦いで負ったものか?
思い出そうとして違和感を覚えた。
傷の場所が記憶と合わない。
身体そのものは間違いなく自分だ。
服も見慣れた自分のもの。
なのにこの傷だけが知らない。
「スコール?」
声。
顔を上げる。
キスティスがいた。
「…………」
「スコール?」
今度は少し強く呼ばれる。
その向こうから。
「起きた!?」
セルフィが飛んできた。
「ちょ、セルフィ!」
「スコール!」
さらに。
「マジか!?」
ゼル。
三人。
全員無事だ。
「…………」
スコールは息を吐いた。
胸の奥にあったものが、ほんの少しだけほどける。
「……よかった」
「え?」
「いや」
セルフィが首を傾げる。
「なんか今、スコールっぽくなかった」
「そうか?」
「そうかって……」
キスティスも妙な顔をしている。
だがスコールにはそれどころではなかった。
「ここは?」
「カーウェイ邸よ」
「…………」
キスティスが答えた。
「デリング・シティ」
スコールの動きが止まった。
「……デリング?」
「そうだけど」
「…………」
おかしい。
ゆっくり部屋を見回す。
カーウェイ邸。
知っている。
忘れるはずがない。
魔女暗殺作戦。
狙撃。
イデア。
胸を貫いた氷の槍。
(……なんで)
アルティミシア城ではない。
バラムでもない。
ましてエスタでもない。
デリング・シティ。
「どのくらい寝てた?」
「そんなに長くないわ」
キスティスが答える。
「戦いが終わってから、まだ数時間よ」
「戦い?」
「……スコール?」
ゼルが眉を寄せた。
スコールは自分の身体を見る。
知らない傷。
戦い。
デリング・シティ。
「誰と戦った?」
「は?」
ゼルが間の抜けた声を出した。
セルフィもキスティスを見る。
「誰とって……」
そこで。
「魔女だろ」
別の声がした。
スコールはそちらを見る。
「…………」
思考が止まった。
壁際。
腕を組んで立っている男。
額の傷。
金髪。
見間違えるはずがない。
「サイファー」
「あ?」
「…………」
サイファーがここに。
しかも誰も警戒していない。
まるでサイファーがここにいることが当然であるかのように振る舞っている。
「……おまえ」
「なんだよ」
スコールはサイファーを見つめた。
「なんでここにいる?」
「…………」
今度はサイファーが固まった。
「は?」
「答えろ」
「おまえ、寝てる間に頭までやられたのか?」
「スコール?」
キスティスの声。
だがスコールはサイファーから目を離さない。
記憶にあるサイファー。
ガルバディア・ガーデン。
魔女の騎士。
何度も戦った。
ルナティックパンドラで最後に倒した。
そのサイファーが。
なぜ。
魔女暗殺作戦直後のカーウェイ邸で自分たちと一緒にいる?
「おまえは……」
言いかけて止める。
情報が足りない。
「俺がなんだよ」
「……いや」
「いやじゃねえだろ」
サイファーが眉を寄せる。
「おまえ、マジで記憶飛んでんじゃねえのか?」
記憶。
その言葉にスコールは黙る。
「戦った魔女は?」
「イデアだ」
「…………」
「おまえと俺とキニアスとリノアでな」
スコールの目が細くなった。
「……俺と?」
「おまえと」
「おまえが?」
「ああ」
「イデアと戦った?」
「さっきからそう言ってんだろ!」
苛立ったサイファー。
その態度は知っている。
昔から変わらない。
だが言っている内容だけが完全におかしい。
(サイファーが……イデアと戦った?)
自分の知っている過去ではあり得ない。
サイファーはイデアの側にいた。
魔女の騎士として自分と戦った。
なのに。
「アーヴァインは?」
「さっきまで下にいたわ」
キスティスが答えた。
「イデアと一緒に」
「…………」
今度こそスコールは何も言えなかった。
「イデアが?」
「正気に戻ったの」
キスティスの表情が少し柔らかくなる。
「戦いが終わってからね」
(正気に……)
知っている。
イデアは本当の敵ではない。
未来の魔女アルティミシアに支配されていた。
それも知っている。
だが。
(ここじゃない)
自分が知る過去ではイデアが正気に戻るのはデリング・シティではない。
もっと後だ。
ガルバディア・ガーデン。
二つのガーデンが衝突した後。
そこで自分たちは再びイデアと戦う。
そして。
(リノア)
「リノアは?」
思った以上に強い声が出た。
三人の表情が変わる。
「どこだ?」
「スコール」
「リノアはどこにいる」
キスティスが隣の部屋へ視線を向けた。
「眠ってる」
「…………」
立ち上がろうとする。
「待って!」
傷が痛む。
それでもスコールはベッドから降りた。
「スコール!」
「見るだけだ」
「その身体で?」
「見るだけなら問題ない」
「問題あるわよ!」
キスティスの制止を振り切るほどではない。
だが止まる気もなかった。
結局、肩を貸された。
「まったく……」
「悪い」
「…………」
キスティスがまた変な顔をする。
「何だ?」
「いえ」
隣室。
ベッドの上。
リノアが眠っていた。
「…………」
スコールはしばらく動かなかった。
呼吸はしている。
外傷も見当たらない。
ただ眠っているように見える。
ベッド脇にアーヴァインがいた。
「やあ」
「アーヴァイン」
「目が覚めたんだね」
「ああ」
スコールはリノアへ近づく。
「どうした?」
「分からない」
アーヴァインの軽い調子が消える。
「魔女との戦いが終わった直後、急に意識を失った」
「…………」
スコールはリノアの顔を見る。
胸の奥に嫌な感覚が広がる。
この眠り方を知っている。
(待て)
決めつけるな。
自分の記憶と今起きていることは明らかに違う。
「目を覚まさない?」
「今のところはね」
「治療は?」
「大佐が医者を呼んでる」
「そうか」
それ以上は言わない。
言えない。
リノアの手へ触れようとして。
一瞬だけ迷い。
結局。
そっと握った。
温かい。
(生きてる)
それだけでいい。
今は。
「スコール」
セルフィが扉から顔を出した。
「ママ先生が話したいって」
「…………」
その呼び方スコールは顔を上げる。
「ママ先生?」
「うん。イデア」
セルフィが当然のように答えた。
スコールは黙った。
(そこまで……)
もう思い出している?
カーウェイ邸の広間。
イデアは椅子に座っていた。
戦いの傷が残っている。
だがその目はスコールが知るイデアだった。
孤児院。
白い家。
海。
自分たちを育ててくれた女性。
「スコール」
「……ママ先生」
自然に出た。
イデアが微笑む。
「はい」
その返事で確信する。
アルティミシアではない。
イデアだ。
「身体は?」
「あなたに心配されるほどではありません」
「俺も同じだ」
「それはどうでしょう」
少しだけ昔のママ先生の顔になる。
スコールは黙った。
部屋には全員がいた。
キスティス。
ゼル。
セルフィ。
アーヴァイン。
サイファー。
リノアだけがいない。
そして。
全員がイデアを「ママ先生」として見ている。
そこがスコールには引っかかった。
「一つ聞きたい」
「何でしょう」
イデアではなく。
皆を見る。
「俺たちが同じ孤児院にいたこと」
空気が少し変わった。
「いつ思い出した?」
キスティスが答える。
「……さっきよ」
「さっき?」
「ママ先生と話して」
キスティスはイデアを見る。
「戦いが終わって、ママ先生が私たちの名前を呼んだの」
セルフィが続ける。
「それでね。ママ先生が昔の話をしてくれて」
「最初は何の話か分からなかったんだけどよ」
ゼルが頭を掻く。
「聞いてるうちに……なんつーか」
「戻ってきたの」
セルフィが胸元へ手を置く。
「ちょっとずつ」
白い家。
海。
庭。
子供たち。
そして。
ママ先生。
「…………」
スコールは目を伏せる。
(そうか)
やはり。
違う。
自分の知っている過去ではこの場所ではなかった。
このタイミングでもなかった。
自分たちはもっと後になって。
忘れていた過去へ辿り着いた。
イデア本人から教えられたわけではない。
「GFよ」
キスティスが言った。
「私たちが忘れていた理由」
「GFによる記憶障害」
「ええ。断定はできないけれど、それ以外に考えにくいわ」
「……そうだな」
それも知っている。
スコールはアーヴァインを見る。
「おまえは?」
「僕?」
「覚えてたんだろ」
「…………」
アーヴァインの表情が変わった。
ゼルが振り向く。
「え?」
「アーヴァイン?」
セルフィも驚いている。
「どうして分かったんだい?」
アーヴァインがスコールを見る。
「…………」
失敗した。
今の自分は知っているはずがない。
「勘だ」
「それで済ませる?」
「済ませろ」
「前より強引になってない?」
サイファーが鼻で笑う。
「前からこんなもんだろ」
「…………」
スコールはサイファーを見る。
「なんだよ」
「いや」
また。
前。
こいつらには自分が知らない「自分」と過ごした時間がある。
それが少しずつ見えてくる。
アーヴァインが帽子を弄った。
「まあ、覚えてたよ」
「ええっ!?」
セルフィが声を上げる。
「最初から!?」
「そう」
「なんで言わなかったんだよ!」
「言えると思う?」
アーヴァインが苦笑する。
「久しぶりに会った幼馴染が、全員そろって僕のこと忘れてるんだよ」
「…………」
「僕の方がおかしいのかと思ったくらいさ」
その言葉に皆が黙る。
「ごめんね」
セルフィが言った。
「いいよ」
「でも」
「思い出したんだろ?」
アーヴァインは笑う。
「だったら、それでいい」
スコールはそのやり取りを見ながら。
頭の中で自分の知る過去と目の前の過去を並べていた。
サイファーが仲間にいる。
イデアはデリング・シティで正気に戻った。
リノアはすでに意識を失っている。
孤児院の記憶も、この時点で戻った。
(何があった)
少し違う。
そんな程度ではない。
歴史の流れそのものが変わっている。
なのに奇妙なことに完全な別世界というわけでもない。
同じ人物。
同じ出来事。
同じ事実。
それらが違う順番で違う関係で繋がっている。
「……では」
イデアの声。
スコールは顔を上げた。
「私からも、お話ししなければなりません」
空気が変わる。
イデアの表情からママ先生としての柔らかさが消えた。
「あなたたちはSeeDですから。戦いを避けるわけにはいきません。立派でした」
サイファーが僅かに眉を動かす。
「でも、まだ終わったわけではありません」
イデアは自分の胸へ手を置いた。
「こうしている瞬間にも、私はまた……」
一度。
言葉を切る。
「……私はずっと、心を乗っ取られていました」
ゼルの表情が固まる。
「私を支配していたのは、魔女アルティミシア」
スコールは黙って聞く。
知っている名前。
忘れようがない。
「アルティミシアは未来の魔女です。私の何代も何代も後の、遠い未来の魔女です」
「未来?」
セルフィが呟く。
「そんなことできるの?」
「本来なら、できません」
イデアは答える。
「けれどアルティミシアは、ある力を求めていました」
嫌な予感。
スコールには次の言葉が分かる。
「エルオーネです」
「!」
キスティスたちの顔が変わった。
「アルティミシアの目的は、エルオーネを見つけ出すこと。エルオーネの不思議な力を求めているのです」
「私はエルオーネをよく知っていました。だからこそ、アルティミシアにエルオーネを渡すわけにはいきませんでした」
イデアの指が僅かに震える。
「アルティミシアは恐ろしい魔女です。心は怒りに満ちあふれています」
スコールは未来で戦った魔女を思い出す。
SeeD。
その言葉を憎悪そのもののように繰り返した魔女。
「私にできることは……」
イデアが目を伏せる。
「私の心をアルティミシアに明け渡して、私自身を無くしてしまうことでした」
「どういうこと?」
セルフィが聞く。
「私が考えなければ」
静かな声。
「エルオーネがどこにいるのかも、私の記憶から引き出すことはできない。そう考えたのです」
「…………」
「そうしなければ、エルオーネを守れないと思いました」
イデアは皆を見る。
「その結果が……みんなの知っているとおり」
寂しそうに微笑んだ。
「ガルバディアに現れたのは、アルティミシアに屈した私の抜け殻でした」
沈黙。
ゼルが拳を握る。
「じゃあ……ママ先生がやったことじゃなかったのか」
「身体は私のものです」
「でも!」
「ゼル」
キスティスが止める。
イデアは首を振った。
「いいのです」
そして。
「アルティミシアは、まだ目的を果たしていません」
スコールの視線が鋭くなる。
「だから、また私の身体を使って行動を起こすでしょう」
(……いや)
スコールは思う。
違う。
自分の知る未来ではアルティミシアが次に使うのは。
「今度は私も抵抗するつもりです」
イデアは続ける。
「でも……それでもだめだったら」
皆を見る。
「あなたたちと再び戦うことになるでしょう」
微笑む。
「たのみますよ、SeeDたち」
「…………」
サイファーが腕を組んだ。
「また操られたら、ぶっ飛ばせってことか?」
「サイファー!」
「分かりやすく言っただけだろ」
イデアは少し笑った。
「ええ」
「なら話は早え」
ハイペリオンは手元にない。
それでも剣を肩へ担ぐような仕草をする。
「次も止めてやる」
その姿を見てスコールはまた妙な感覚を覚えた。
(誰だ、こいつ)
いや。
サイファーだ。
間違いなく。
偉そうで。
喧嘩っ早くて。
自信過剰で。
自分と何度も衝突した男。
なのに自分が知っているサイファーとは何かが違う。
「もう一つ」
イデアが続けた。
「あなたがたは、魔女アデルのことを聞いたことがありますか?」
「魔女戦争んとき、エスタを支配していた魔女」
ゼルが答える。
「現在行方不明……そう習った」
「その通りです」
イデアは頷く。
「ガルバディアの人々は、私が魔女アデルの力を引き継いだ現在の魔女だと思ったようです」
「違うの?」
セルフィが尋ねる。
「はい。私は五歳くらいの時に、先代の魔女から力を引き継いで魔女になりました」
アーヴァインが眉を上げる。
「それはどういう意味かな~」
「魔女アデルは」
イデアが言った。
「生きているのだと思います」
静まり返る。
「そしてアルティミシアが私の身体を開放したのは……」
スコールにはもう次が分かっていた。
「魔女アデルの身体を使うためではないでしょうか」
「…………」
「魔女アデルは、力を自分の欲望のために利用することをためらわない魔女です」
イデアの声が重くなる。
「そのアデルに、未来の魔女アルティミシアの力と怒りが入り込んだら」
一瞬。
恐怖が顔を覗かせる。
「その恐怖は、それほどのものか……」
誰も答えない。
スコールだけが別のことを考えていた。
(違う)
アルティミシアはアデルを使う。
それは知っている。
だがその前にリノア。
「…………!」
スコールが立ち上がった。
「スコール?」
傷が痛む。
構わない。
「リノアのところへ行く」
「待ちなさい、その身体で」
「確認したい」
「何を?」
「…………」
答えられない。
自分がなぜ知っているのか。
説明できない。
「リノアが倒れたのは」
イデアを見る。
「ママ先生が正気に戻る前か?」
「……ほぼ同時です」
「同時」
胸の奥。
嫌な予感が形になる。
アルティミシアがイデアから離れた。
そしてその直後にリノアが意識を失った。
(まさか)
スコールは踵を返す。
「おい!」
サイファーの声。
「どこ行く!」
「リノアだ」
「だから寝てるって」
「分かってる!」
思わず声が強くなる。
全員が黙った。
「…………」
スコール自身も驚く。
だが止められない。
「……悪い」
それだけ言って歩き出す。
その背後で。
「やっぱり変だな」
サイファーが呟いた。
スコールの足が止まる。
「何が」
「おまえだよ」
「…………」
「起きてからずっと変だ」
サイファーが真っ直ぐこちらを見る。
「昨日までのおまえと、なんか違う」
「昨日まで?」
「ああ」
「どんなだった」
「は?」
「俺は」
スコールは振り返った。
「昨日まで、どんなだった?」
「…………」
今度は全員が黙った。
セルフィが困った顔をする。
「えっと……」
ゼルが腕を組む。
「なんつーか」
キスティスはスコールをじっと見つめている。
サイファーだけが容赦なく言った。
「うるさかった」
「…………」
「は?」
「めちゃくちゃうるさかった」
ゼルが頷く。
「それはそう」
「よく喋ってたよね」
セルフィも頷く。
「待て」
スコールの眉間に皺が寄る。
「俺が?」
「うん」
「よく喋る?」
「うん」
「……冗談だろ」
「冗談ならよかったわ」
キスティスまで言った。
「…………」
あり得ない。
「あと学園祭の話すると妙に食いついてきた」
セルフィ。
「ゼルとしょっちゅう馬鹿な言い合いしてたわね」
キスティス。
「おまえもだろ!」
ゼル。
「リノアにはやたら甘かった」
サイファー。
「…………」
最後だけ少し納得しかけて。
やめる。
「それ、本当に俺か?」
「こっちの台詞だ!」
ゼルが叫んだ。
「今のおまえの方が変なんだよ!」
「…………」
スコールは頭を押さえる。
知らない。
そんな自分は。
記憶にない。
何一つ。
だが奇妙な引っかかりがあった。
よく喋る。
妙に前向き。
冗談を言う。
誰にでも首を突っ込む。
無茶をする。
リノアに甘い。
そしてサイファーと喧嘩しながらも一緒に戦っていた。
(…………まさか)
まだ名前にまでは届かない。
けれど自分が知る人間の輪郭がぼんやりと重なる。
それを確かめられる人物も思い当たる。
(おねえちゃん)
エルオーネ。
過去へ人の意識を送り。
他人の中へジャンクションさせることのできる少女。
そして自分たちの誰より時間を越えた意識の接続を知っている。
今、この状況を相談できるとすればエルオーネしかいない。
スコールは隣室を見る。
(リノア)
眠ったままの彼女。
イデアから消えたアルティミシア。
自分が知る未来。
それらが。
嫌な形で一本に繋がろうとしている。
「……まずリノアだ」
スコールは歩き出した。
後ろからサイファーの声が飛ぶ。
「おい、スコール」
「何だ」
「一人で勝手に行くな」
「…………」
スコールは振り返った。
サイファーが立っている。
ゼルも。
セルフィも。
キスティスも。
アーヴァインも。
誰一人。
自分を一人で行かせるつもりはないらしい。
「おまえら……」
「何だよ」
「いや」
妙な気分だった。
知っている。
この感覚は自分はもう一人で戦う必要なんてない。
それを知った。
リノアがいて。
ゼルがいて。
セルフィがいて。
キスティスがいて。
アーヴァインがいる。
仲間がいる。
ただそこに当たり前の顔をしてサイファーまで立っている。
(……そこだけは慣れないな)
「何見てんだ」
「別に」
「ムカつくな、おまえ!」
思わずスコールの口元が少しだけ緩んだ。
それを見てキスティスが目を細める。
「……今のは少し、昨日までのスコールっぽかったわ」
「…………」
「やっぱりおまえ、変だぞ」
サイファーも言う。
「お互い様だ」
「あ?」
「俺から見れば」
スコールは眠るリノアのいる部屋へ向かう。
「全部変だ」
自分が知っている過去とここは違う。
誰かが自分のいなかった場所で何かを変えた。
そしての誰かが残した関係の中へ、自分だけが放り込まれている。