FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第十七話 エスタ

 最初に感じたのは、身体の重さだった。

 指先が動く。

 次に腕。

 呼吸をすると、胸が上下する。

(……動く)

 それだけのことを確かめるのに、妙な時間がかかった。

 スコールはゆっくり目を開いた。

 白い天井が見えた。

 知らない天井だった。

(どこだ、ここ)

 身体を起こそうとする。

 途端に全身へ鈍い痛みが走った。

「……っ」

「スコール?」

 聞き覚えのある声だった。

 顔を向ける。

 リノアがいた。

「…………」

 スコールは何度か瞬きをした。

(リノア?)

「スコール!」

 リノアが椅子を蹴るように立ち上がった。

 その声で、部屋にいた全員が振り向いた。

「スコール!」

「目ぇ覚ましたのか!?」

「よかったあ!」

 ゼル。

 セルフィ。

 キスティス。

 アーヴァイン。

 全員いる。

(なんで?)

 いや。

 それ以前に。

 何かがおかしい。

 スコールは周囲を見回した。

 部屋そのものに見覚えがない。

 バラムガーデンではない。

 デリング・シティでもない。

 壁も、機械も、窓の向こうに見える建物も、どれも妙に進んでいる。

「ここは?」

 声が掠れた。

「エスタよ」

 キスティスが答えた。

「…………」

(エスタ?)

 聞いたことはある。

 鎖国国家。

 十七年前の魔女戦争以降、ほとんど外部との交流を断っている国。

 だが。

「なんで俺がエスタにいる」

 誰もすぐには答えなかった。

(何だよ)

 視線だけが交わされる。

(聞かれたら困ることでもあるのか?)

「スコール」

 リノアが慎重に呼ぶ。

「どこまで覚えてる?」

「どこまでって?」

「最後に覚えてること」

「…………」

 妙な質問だった。

 だが思い出そうとすると、すぐに答えは出た。

「イデア」

 空気が変わった。

「イデアと戦ってた」

 デリング・シティ。

 凱旋門。

 魔女イデア。

 戦闘の途中だった。

 いや。

 正確には。

(途中から、俺は……)

 スコールは眉を寄せる。

 ずっと妙な感覚があった。

 サイファーとの訓練を終えた後から。

 自分は確かに起きていた。

 見えていた。

 聞こえていた。

 だが、自分の意思で身体を動かしている感覚がなかった。

 身体が勝手に歩く。

 勝手に喋る。

 勝手に人へ近づいていく。

 自分なら言わないことを口にする。

 自分ならしないことをする。

 セルフィに付き合い。

 ゼルと騒ぎ。

 サイファーと妙な関係を築き。

 リノアには。

「…………」

「なに?」

 リノアが首を傾げた。

「何でもない」

(こいつには特に変だった)

「今、私のこと考えたでしょ」

「考えてない」

「考えた」

「考えてない」

「絶対考えた」

(なんで分かるんだ)

「そういう顔してるから」

「…………」

(面倒だ)

「それも顔に出てる」

「うるさい」

 リノアが笑った。

 なぜ笑う。

 以前なら腹が立ったかもしれない。

 今も少し腹は立つ。

 だが、その笑い方に妙な安心を感じた。

(……何なんだ)

 スコールは視線を逸らした。

「それで?」

 キスティスが聞く。

「イデアとの戦いは?」

「途中まで覚えてる」

「途中?」

「ああ」

 スコールは記憶を辿った。

「戦ってる途中で、急に身体が動かなくなった」

 それまで勝手に動いていた身体から、突然何かが抜け落ちた。

 糸を切られた人形のように力が抜けた。

 膝が落ちた。

 そこで初めて、自分の身体が戻ってきたような感覚があった。

 だが遅かった。

 イデアがこちらを見ていた。

 魔力が集まり。

 巨大な氷が生まれた。

「魔法を受けた」

 胸を貫かれた。

「そこまでだ」

 それ以降は何もない。

「次に目を覚ましたら、ここにいた」

 誰も喋らなかった。

(だから何なんだ)

 スコールは眉を寄せる。

「何かおかしいのか?」

「おかしいっていうか……」

 ゼルが頭を掻く。

「かなりおかしい」

「説明になってない」

「だって、どっから説明すりゃいいんだよ」

「最初から」

「簡単に言うなよ!」

「じゃあ分かるところからでいい」

 キスティスがスコールを見つめる。

「本当に、それ以降のことは何も覚えていないのね?」

「ああ」

「ガーデン内乱は?」

「何だ、それ」

「ミサイル基地」

「知らない」

「F.H.」

「知らない」

「ガーデン同士の戦いは?」

「知らない」

「エスタへ来たことは?」

「だから今が初めてだ」

 質問されるたび、皆の表情が険しくなっていく。

(俺が悪いみたいに見るな)

「アルティミシアは?」

 アーヴァインが聞いた。

「誰だ」

 今度こそ全員が黙った。

「……本気?」

 セルフィが聞く。

「知らないものは知らない」

「魔女だよ」

「魔女?」

「未来の」

「…………」

(未来?)

 話が急に馬鹿馬鹿しくなった。

「もう一回言ってくれ」

「未来の魔女アルティミシア」

「…………」

「私たち、その魔女と戦ったの」

「いつ」

「少し前」

「…………」

(駄目だ。分からない)

 スコールは額を押さえた。

「つまり」

 キスティスがゆっくり言った。

「あなたの記憶は、イデアとの戦いで止まっている」

「ああ」

「でも私たちにとって、それは少し前の出来事なの」

「少し前?」

「時間としては、そこまで経ってないわ。でもその間にいろいろあった」

(少しの間に未来の魔女と戦うのか?)

 意味が分からない。

「スコール」

 リノアが覗き込んでくる。

「大丈夫?」

「別に」

「大丈夫じゃない顔してる」

「普通だ」

「頭の中で『意味が分からない』って何回も言ってそう」

「…………」

「当たり?」

「違う」

「じゃあ何考えてた?」

「言う必要ない」

「やっぱり当たりじゃん」

(こいつ……)

 スコールは睨んだ。

 リノアは嬉しそうに笑った。

「何だ」

「ううん」

「なら笑うな」

「だって」

 リノアは少しだけ目を細めた。

「昔のスコールみたいで、かわいい」

「…………」

(昔?)

 また分からない言葉が増えた。

「かわいくない」

「そういうところ」

「意味が分からない」

「それも」

「リノア」

「はいはい」

 全然聞いていない。

 スコールはため息をついた。

 そこで初めて、少し離れた場所にも人がいることに気づいた。

 エルオーネ。

 彼女だけは知っている。

「エルオーネ」

「スコール」

 どこか安心したように笑っている。

 その隣には二人の男がいた。

 一人は長身で、黒い肌に長い髪。

 もう一人は大柄で、無言のままこちらを見ている。

 知らない。

 そしてもう一人。

 別のベッドに男が座っていた。

 髪は長い。

 年齢は四十を越えているように見える。

 妙に落ち着きがなく、こちらを見ている。

「…………」

「…………」

 目が合った。

「えっと」

 男が口を開く。

「大丈夫か?」

「誰だ」

「…………」

 男の顔が固まった。

 長髪の男が小さく笑った。

「ラグナ。予想していただろう」

「いや、でもさ! もうちょっと何かあると思うだろ?」

「何を期待していた」

「なんかこう……」

 ラグナ。

 その名前を聞いた瞬間だった。

 頭の奥で何かが引っかかった。

(ラグナ……)

 知っている。

 どこで聞いた。

 考える。

 エスタ。

 大統領。

 そして。

(……父親?)

 そこまで思い出した瞬間、さらに妙な感覚が蘇った。

 顔は知らない。

 だが。

 この男を知らない気がしない。

 正確には、この男そのものではない。

 身体の奥に残っている。

 自分ではない誰かが、ずっとここにいた感覚。

 サイファーとの訓練の後から。

 イデアとの戦いまで。

 自分の身体を使い。

 自分の口で喋り。

 自分の足で歩いていた誰か。

 あの妙に軽い感覚。

 何にでも首を突っ込む。

 考えるより先に動く。

 人との距離が近い。

(……まさか)

 スコールは男を見る。

「ラグナ?」

「お、おう」

「エスタの大統領」

「そう」

「…………」

「で」

 ラグナが少し言いづらそうに続ける。

「おまえの父親」

「……ああ」

「え?」

 ラグナが固まった。

「知ってたのか!?」

「今、思い出した」

「今!?」

「名前を聞いて」

「そんな思い出し方ある!?」

「知らない」

「俺に聞くなよ!」

(うるさいな)

「ラグナ」

 黒髪の男が言った。

「嫌われるぞ」

「キロス!」

 キロス。

 その名前にも微かな引っかかりはある。

 だが記憶として思い出せるものはない。

 隣の大男がウォードなのだろう。

 スコールは再びラグナを見る。

「……あんた」

「ん?」

「俺の中にいたか?」

 部屋が静かになった。

 ラグナの表情から笑いが消えた。

「分かるのか?」

「分からない」

「どっちだよ」

「記憶はない」

 スコールは自分の胸へ手を置く。

「でも、ずっと身体を動かされてた感じがある」

 ラグナが黙る。

「サイファーと訓練した後からだ。見えてるし、聞こえてる。でも自分で動いてる感じがしなかった」

「…………」

「勝手に喋る。勝手に動く。俺ならしないことまでしてた」

「俺ならしないことって?」

「いろいろだ」

「例えば?」

「言う必要ない」

「気になるだろ!」

「俺は気にならない」

「本人が気にしてるんだよ!」

「うるさい」

 キロスが小さく息を吐いた。

「間違いなく君だな、ラグナ」

「どこが!?」

「距離の詰め方だ」

 ウォードが何度も頷いている。

「それで」

 スコールはエルオーネを見る。

「何が起きた」

 エルオーネの表情が曇った。

「私にも、全部は分かってないの」

「分かってるところだけでいい」

「うん」

 エルオーネは少し考えてから口を開いた。

「アルティミシアとの戦いが終わった後、スコールは目を覚まさなかった」

「俺が?」

「うん」

「身体に大きな異常はなかった。でも、何をしても目を覚まさなかったの」

 スコールは黙って聞く。

「だから私は、スコールの意識がどこにあるのか確かめようとした」

「それで?」

「私の力を使った」

 エルオーネの力。

 人の意識を、過去の人間へ送る力。

 それは知っている。

「ラグナおじちゃんに協力してもらって、スコールへ送ろうとしたの」

 スコールはラグナを見る。

「それで俺の中に?」

「うん。でも」

 エルオーネが首を振る。

「失敗した」

「失敗?」

「私が繋ごうとしたのは、アルティミシアとの戦いが終わった後のスコールだった」

「…………」

「なのにラグナおじちゃんが辿り着いたのは、もっとずっと前。サイファーと訓練した直後のスコールだった」

 スコールの目が細くなる。

(だから、あの時から)

「私の力が正しく働かなかったの」

「原因は?」

「分からない」

「…………」

「それだけじゃなかった。ラグナおじちゃんを送った後、私からラグナおじちゃんへ呼びかけても、ほとんど届かなくなった」

「俺もエルに何度も呼びかけたんだけどな」

 ラグナが言う。

「全然返事がなくてさ」

「それで俺の身体を使って好き勝手してたのか」

「好き勝手って言うなよ!」

「違うのか」

「……多少は」

「やっぱりか」

「仕方ないだろ! おまえの身体で生活するしかなかったんだから!」

(最悪だ)

「今、最悪って思っただろ」

「思ってない」

「絶対思った!」

「続けて」

「無視!?」

 エルオーネが困ったように笑った。

「私だけではラグナおじちゃんを戻せなくなった。だからみんなが、別の方法を考えたの」

「別の方法?」

「エデン」

「何だ、それ」

「G.F.よ」

 キスティスが答える。

「あなたが意識を失った後、私たちが手に入れた」

「だから知らないのか」

「そういうこと」

「エデンには、離れているものを繋ぐような力があるみたいなの」

 リノアが言った。

「エルの力だけじゃラグナさんに届かない。それならエデンを使えば届くんじゃないかって」

「かなり無茶だったけどね」

 セルフィが笑う。

「誰が考えた」

「ゼル」

「俺!?」

「違ったっけ?」

「いや、俺だけじゃねえよ! みんなで考えただろ!」

「でも最初に言い出したのゼルじゃなかった?」

「そうだったかな……」

(よくそれで試したな)

「今、俺のこと馬鹿だと思っただろ」

「別に」

「絶対思った!」

「思ってない」

「その顔は思ってる!」

(こいつまでリノアみたいなこと言い始めた)

「話を戻すわよ」

 キスティスが遮った。

「エデンを使って、エルオーネの力を補助した。そう考えればいいと思う」

「それで?」

「ラグナおじちゃんに届いた」

 エルオーネが答える。

「私はもう一度ラグナおじちゃんを感じることができた。それで、こちらへ戻そうとした」

「成功したのか」

「うん」

 スコールはラグナを見る。

 だからこの男がここにいる。

「じゃあ、俺も一緒に戻った?」

「そこが違うの」

 エルオーネの声が変わった。

「エデンで繋いだ時、もう一人いた」

「もう一人?」

「スコール」

「…………」

「あなたじゃない。アルティミシアと戦ったスコール」

 スコールは眉を寄せる。

「同じ俺だろ」

「同じ。でも、今のあなたより先を生きている」

「…………」

「アルティミシアを倒した後、そのスコールは時間の狭間に迷い込んでいた」

 時間の狭間。

 言葉の意味は分かる。

 だが何を言っているのかは分からない。

(俺は何をやってるんだ)

 少し先の自分は未来の魔女と戦い。

 倒したと思ったら時間の狭間で迷子になっている。

(もっと普通に生きられないのか)

「無理だったみたい」

 リノアが言った。

「…………」

「今、未来の自分に文句言ってたでしょ」

「言ってない」

「顔に出てる」

「出てない」

「出てるよ」

「おまえ、前からそんなに人の顔読む奴だったか?」

「スコール限定」

「…………」

(余計に嫌だ)

「それも分かる」

「読むな」

「だから顔だって」

 リノアは楽しそうだった。

 スコールには理由が分からない。

 だが周囲を見ると、セルフィまで笑っている。

(何なんだ、こいつら)

「それで、その未来の俺に届いたのか」

「うん」

 エルオーネが頷く。

「私たちだけじゃない。リノアも呼びかけた」

「何度も呼んだよ」

 リノアが言う。

「帰ってきてって」

「…………」

「反応があった」

 エルオーネが続ける。

「時間も場所もはっきりしないところだった。でも、確かにスコールがいた」

「じゃあ成功したんじゃないのか」

「私たちもそう思った」

「違った?」

 エルオーネがスコールを見る。

「ラグナおじちゃんは戻ってきた」

「ああ」

「そしてスコールも目を覚ました」

「俺だな」

「うん」

 少し間があった。

「でも、私たちが呼んでいたスコールじゃなかった」

 スコールは黙った。

 ようやく意味が繋がる。

「時間の狭間にいた俺じゃなく」

「うん」

「イデアと戦っていた俺が来た」

「そう」

 静かになった。

 スコールは自分の手を見る。

 この身体は自分のものだ。

 違和感はない。

 むしろ、久しぶりに完全に自分の身体へ戻った気さえする。

 だが。

 この身体には、自分の知らない時間がある。

 ガーデンの内乱。

 F.H.

 エスタ。

 アルティミシア。

 未来の魔女との戦い。

 全部、自分の身体が経験したらしい。

 自分だけが知らない。

(じゃあ)

 スコールは顔を上げる。

「未来の俺は?」

 誰も答えなかった。

 それだけで分かった。

「戻ってないのか」

「……うん」

 リノアが答えた。

「まだ、どこにいるのか分からない」

「時間の狭間?」

「たぶん」

「…………」

(俺が代わりに戻ってきた)

 そう考えると、居心地が悪かった。

 皆が待っていたのは自分ではない。

 同じスコール・レオンハートでも、彼らと一緒に戦ったスコールだ。

 リノアが呼んでいたのも。

 きっと。

「……悪かったな」

「え?」

 リノアが聞き返す。

「違う方が帰ってきて」

 一瞬、リノアが呆けた。

 それから眉を寄せる。

「なんでスコールが謝るの?」

「待ってたのは俺じゃないだろ」

「スコールだよ」

「同じ名前ってだけだ」

「同じ人でしょ」

「俺はおまえたちが経験したことを何も知らない」

「だから?」

「だから……」

 言葉が止まる。

(だから何だ)

 自分でも分からない。

 ここにいていいのか。

 皆にどう見られているのか。

 未来の自分が戻ってくるまでの代わりなのか。

 それを聞きたい。

 だが聞きたくない。

 答えを聞いて傷つくくらいなら。

(別に……)

「別に、じゃないよ」

「…………」

「また顔に出てる」

「何も言ってない」

「だから分かるんだって」

 リノアはスコールのベッドの横へ座った。

「確かにびっくりしたよ。目を覚ましたら、急に昔のスコールに戻ってるんだもん」

「昔の俺って言うな」

「昔じゃん」

「俺にとっては今だ」

「あ、そっか」

「…………」

「じゃあ若いスコール?」

「同じだ」

「かわいいスコール」

「悪化した」

 セルフィが吹き出した。

「私も今のスコールかわいいと思う!」

「セルフィ」

「はい!」

「黙ってろ」

「やっぱり昔のスコールだ!」

(何なんだ、本当に)

 リノアが笑っている。

 だがその目には、からかっているだけではない何かがあった。

「未来のスコールは探す」

 リノアが言った。

「絶対に」

「…………」

「でも、あなたもスコールだよ」

「簡単に言うな」

「簡単だもん」

「俺には簡単じゃない」

「じゃあ、ゆっくり考えればいいよ」

 スコールは黙った。

 そういう言い方をされると困る。

 突き放す理由がなくなる。

(……ずるいな)

 リノアが笑う。

 スコールは顔を背けた。

 すると今度はラグナと目が合った。

「…………」

「…………」

 ラグナが少し笑った。

「何だ」

「いや」

「言いたいことがあるなら言え」

「おまえ、やっぱりスコールだなって」

「当たり前だ」

「そうなんだけどさ」

 ラグナは頭を掻いた。

「俺が中にいた時は、ずっと静かだったから」

「…………」

「見えてたんだな」

「ああ」

「聞こえてた?」

「だいたい」

「…………」

 ラグナの顔色が変わった。

「どこまで?」

「だいたい、なんとなく程度だ」

「…………」

「何だ」

「いや、その」

 ラグナが視線を泳がせる。

「俺、結構いろいろやったよな?」

「ああ」

「喋ったよな?」

「ああ」

「リノアちゃんとも?」

「そうだな」

「…………」

「何だ」

「ごめん」

「今さらか」

「本当にごめん!」

「うるさい」

 キロスが笑った。

「ラグナ。本人の許可なく息子の青春を満喫した感想は?」

「言い方!」

「間違っているか?」

「間違ってないけど!」

「最悪だな」

 スコールが言う。

「ほら! 息子に最悪って言われた!」

「(自業自得だ)」

 ウォードが大きく頷く。

「ウォードまで!」

 部屋に笑い声が広がった。

 スコールはその中心で一人、眉を寄せる。

(何で俺までここにいるんだ)

 だが。

 不思議と嫌ではなかった。

 知らない場所。

 知らない未来。

 知らない出来事ばかりだ。

 自分が知っているのは、イデアとの戦いまで。

 そこから先を、自分の身体は自分ではない誰かと歩いてきた。

 そして今度は、自分がその先へ放り込まれた。

 未来の自分は、まだ時間の狭間にいる。

 ラグナが過去へ飛ばされた理由も。

 エルオーネの力が正しく働かなかった理由も。

 エデンがなぜ自分をここへ連れてきたのかも分からない。

 分からないことだらけだった。

 それでも一つだけ確かなことがある。

 スコールは自分の手を握る。

(今度は動く)

 自分が動かそうと思えば、指が動く。

 腕が動く。

 身体が動く。

 当たり前のことなのに、それだけで少し安心した。

「スコール?」

 リノアが呼ぶ。

「何だ」

「何でもない」

「じゃあ呼ぶな」

「呼びたかったから」

「…………」

(意味が分からない)

「その顔、懐かしい」

 スコールは窓へ目を向けた。

 知らない未来のエスタが広がっている。

 自分の知らない世界。

 自分の知らない仲間たち。

 自分の知らない自分。

 そして、そのどこかに。

 帰ってこられなくなった未来の自分がいる。

(まず、何が起きたのか全部聞かないとな)

 面倒だった。

 本当なら一人で整理したい。

 だが今回は、そうも言っていられない。

 自分一人では知らないことが多すぎる。

 スコールは小さく息を吐いた。

「エルオーネ」

「なに?」

「もう少し詳しく聞かせてくれ」

「うん」

「俺が意識を失ってから」

 少し考えて、付け加える。

「全部」

 リノアが嬉しそうに笑った。

「何だ」

「ううん。ちゃんと聞くんだなって」

「知らないと判断できない」

「そういうことにしとく」

「…………」

(本当にこいつは)

 面倒だ。

 そう思った。

 けれど今度は、口には出さなかった。

 どうせ言わなくても。

 リノアには分かっているような気がした。

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