FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第十八話 エルオーネとカード

 バラムガーデンへ戻ると、リノアはそのまま保健室へ運ばれた。

 デリング・シティを出てから、一度も目を覚ましていない。

 医師が診察しても、結果は変わらなかった。呼吸も脈拍も安定しており、外傷もない。ただ眠り続けている。

 ベッドの傍らに立ち、スコールはその顔を見下ろした。

(やっぱりか)

 身体に異常がないのなら、原因は別にある。

 イデアが正気を取り戻したのと、リノアが意識を失ったのはほぼ同時だった。

 自分の知っている歴史でも、アルティミシアはイデアからリノアへ移った。

 なら今回も同じ可能性が高い。

 だが、それを口にするつもりはなかった。

 リノアの中に本当にアルティミシアがいるのなら、こちらの会話をどこまで聞くことができるのか分からない。

(悪いな)

 本人が眠っている間に色々と決めることになる。

 それでも今は仕方がない。

 スコールはリノアの手を握った。

「あとで話すから」

 返事はない。

 それだけ言って手を離した。

 保健室を出ると、シドとイデアが待っていた。

 キスティス、ゼル、セルフィ、アーヴァイン、サイファーもいる。

 全員が揃ったところで、シドが口を開いた。

「今回の任務について、皆さんに話しておかなければならないことがあります」

 いつもの穏やかな口調だったが、その表情は硬い。

「……SeeDはSeeD。バラム・ガーデンが誇る傭兵。そう教えられてきましたね」

「違うんですか?」

 ゼルが聞く。

「いやいや、それも間違いではありません。ただ、それだけではないのです」

 シドは一度、隣のイデアを見た。

「SeeDは魔女を倒します。ガーデンはSeeDを育てます。SeeDが各地の任務に出かけるのは、魔女を倒す日のための訓練のようなものです。魔女が世界に恐怖をもたらす存在となった時、SeeDの本当の戦いが始まります」

 セルフィが目を丸くする。

「じゃあ、ガーデンって最初からそのために?」

「そうです」

「魔女と戦うためにSeeDを作ったってことか?」

 ゼルがイデアを見る。

「でもママ先生は……」

「イデアは子供のころから魔女でした」

 シドが続けた。

「私はそれを知りながら結婚しました。幸せでした。二人で力を合わせて働きました。本当に幸せでした」

 誰も口を挟まなかった。

「ある日、イデアはガーデンを作ってSeeDを育てると言い出しました。私はその計画に夢中になりました。しかし、SeeDの目的だけが気がかりだった。いつかイデアとSeeDが戦うことになるのではないか、と」

 シドが目を伏せる。

「イデアは笑って言いました。それは絶対にない、と。それなのに……」

 その先をシドは言わなかった。

 スコールは黙って聞いていた。

(知ってる)

 自分にとっては、すでに聞いた話だった。

 ガーデンが作られた理由も。

 SeeDが何のために存在するのかも。

 だが周囲は違う。

 ゼルもセルフィも言葉を失っている。

 キスティスも考え込むように俯いていた。

 アーヴァインは帽子のつばに触れたまま黙っている。

 サイファーだけが壁に背を預け、シドとイデアを交互に見ていた。

「じゃあ俺たちがSeeDになったのも」

 ゼルが言う。

「最初から魔女と戦うためだったってことか?」

「そうです」

「でも、その魔女がママ先生だった」

 シドは答えなかった。

 代わりにイデアが頷く。

「結果としては、そうなりました」

「そんなの……」

「ゼル」

 イデアが穏やかに名前を呼ぶ。

「あなたたちは何も間違っていません」

「でも」

「SeeDとして戦った。それでいいのです」

 ゼルは納得していない顔だったが、それ以上は言わなかった。

 スコールはイデアを見る。

 デリング・シティですでに聞いている。

 イデアを支配していたのは未来の魔女アルティミシア。

 目的はエルオーネ。

 その居場所を知られないために、イデアは自分自身を閉ざした。

 そしてアルティミシアはまだ目的を果たしていない。

「もう一つ、皆さんにお願いがあります」

 イデアが言った。

「私はエスタへ行きたいと思っています」

「エスタ?」

 セルフィが聞き返す。

「はい。オダイン博士に会いたいのです」

 スコールが僅かに顔を上げた。

(オダイン)

 その名前にも覚えがある。

「アルティミシアはまだ生きています。今は私から離れていますが、これで終わったとは思えません」

 そこまではデリング・シティでも聞いた話だ。

「できることなら、私は魔女の力そのものを捨てたいのです」

「そんなことできるの?」

 セルフィが尋ねる。

「分かりません。だからオダイン博士に聞きたいのです。魔女について、あの人ほど研究している人はいません」

「エスタまで行くのか」

 サイファーが言う。

「簡単じゃねえぞ」

「ええ」

 イデアも分かっているらしい。

「それでも、アルティミシアに再び利用される可能性がある以上、何もしないわけにはいきません」

 スコールは考えていた。

(エスタ……)

 一度行っている。

 正確には、この時代の少し先で行くことになる。

 自分の知っている歴史では、その頃にはバラムガーデンそのものが移動できるようになっていた。

 F.H.へ行き、そこから線路を歩き、大塩湖を越えた。

 イデアも一緒だった。

 だがスコールがエスタへ向かった理由は、イデアではなかった。

(エルオーネ)

 リノアを目覚めさせるために探した。

 エスタへ行きそこにもいないと分かって。

 ルナサイドベースまで追いかけた。

 そして宇宙でようやく会えた。

 その結果アルティミシアに操られたリノアがアデルの封印を解いた。

 月の涙ともタイミングが重なった。

(今回は違う)

 F.H.へ行く方法も今のところない。

 エスタは外界との交流を断っている。

 簡単に辿り着ける場所ではない。

 そして何より今回はエルオーネを探す必要がない。

 彼女はバラムガーデンにいる。

「現状では、すぐにエスタへ向かうのは難しいでしょう」

 シドが言った。

「ガルバディアの情勢もまだ不安定です。まずはこちらで手段を探します」

 イデアが頷いた。

 スコールは何も言わなかった。

 エスタへ行く方法は後でいい。

 今、自分が確認しなければならないことは別にある。

「俺はエルオーネに会ってくる」

「エルオーネに?」

 キスティスが聞く。

「ああ」

「何か分かったの?」

「まだ分からないから聞く」

 そう答えて、スコールはその場を離れた。

 エルオーネは図書室にいた。

 本棚の前で本を読んでいた彼女が、足音に気づいて振り返る。

「な~に、スコール?」

「話がある」

「私に?」

「二人で話したい」

 エルオーネの表情が変わった。

「……分かった」

 二人は図書室の奥へ移動した。

 向かい合って座る。

 何から聞くべきか。

 スコールは少し考えてから口を開いた。

「俺を過去へ送ったことがあるか?」

「あるよ」

「何回」

「一度だけ」

「誰のところへ?」

「大好きなラグナおじさん」

(やっぱり)

 列車の中で考えたことが、少しずつ形になっていく。

「どうしたの?」

「昨日まで俺の身体を動かしていたのは、俺じゃない」

「……え?」

「たぶんラグナだ」

 エルオーネの表情が固まる。

「どうしてそう思うの?」

「俺が覚えていないことを皆が覚えてる。昨日までの俺は、俺とは性格も行動も違っていたらしい」

 よく喋る。

 考えるより先に首を突っ込む。

 無茶をする。

 他人を放っておけない。

 自分より周囲のことを優先する。

 そしてリノアを大切にしていた。

「聞けば聞くほどラグナに似てる」

「…………」

「ただ、今のラグナじゃない」

「どうして?」

「リノアだ」

 エルオーネを見る。

「今のラグナが、リノアをあそこまで大切にする理由がない」

「じゃあ……」

「未来のラグナ」

 口にすると、やはり妙な話だった。

 だが自分自身が未来からここへ戻ってきている。

 もう時間を越えたというだけで否定できる話ではない。

「俺も未来から来た」

「スコールが未来から?」

「ああ」

 エルオーネの顔から笑みが消えた。

「どのくらい未来?」

「今からそう遠くはないはずだ」

 スコールは話した。

 自分の知っている歴史。

 未来の魔女アルティミシア。

 宇宙に封印されているアデル。

 そして時間圧縮。

「アルティミシアを倒すために、俺たちはあいつのいる未来へ行く必要があった」

「どうやって?」

「アルティミシア自身に時間圧縮を起こさせた」

 エルオーネの目が大きくなる。

「リノアにジャンクションしたアルティミシアを、エルオーネの力で過去へ送った」

「私が?」

「ああ。リノアごと」

「…………」

「アルティミシアはそこからさらに過去へ手を伸ばした。時間圧縮が始まったら、リノアとアルティミシアを過去から切り離す」

「そんなこと……」

「ラグナの作戦だ」

 エルオーネが黙る。

「俺たちは時間圧縮を利用して未来へ進んだ。アルティミシア城まで行って、アルティミシアを倒した」

「倒したの?」

「ああ」

「じゃあ……」

「帰れなかった」

 エルオーネの表情が変わった。

「皆とはぐれた。リノアも見失った。時間も場所も分からないところを一人で歩いた」

 帰る場所を思い浮かべようとした。

 ガーデン。

 仲間。

 リノア。

 それでも辿り着けなかった。

「それで気づいたら、デリング・シティにいた」

「ママ先生との戦いの後?」

「ああ」

 しかも、自分の知っている過去とは違っていた。

 サイファーがいる。

 イデアはすでに正気に戻っている。

 仲間たちとの関係も違う。

 そして昨日まで、自分の身体を別の誰かが動かしていた。

「未来のラグナだと思ってる」

「スコールがこっちに来たのと入れ替わるように?」

「たぶん」

 エルオーネはしばらく黙っていた。

「私、一度だけスコールをラグナおじさんのところへ送ったことがあるって言ったよね」

「ああ」

「ウィンヒル」

「…………」

「その時、変なことが起きたの」

「いつもなら、今にいる人が過去を見るだけなの。過去の人の身体を借りて、その人が経験したことを見る。でも、あの時は違った」

 エルオーネは胸元へ手を置いた。

「ラグナおじさんが、ラグナおじさんとしてレインに会った」

 スコールの目が細くなる。

「本来なら?」

「起きない」

「…………」

「あの時は分からなかった。どうしてそんなことが起きたのか。でも……」

 エルオーネがスコールを見る。

「今なら、少し分かる気がする」

「俺の中にラグナがいた」

「うん」

 エルオーネの目が僅かに潤んだ。

「嬉しかったんだ。ラグナおじさんが、ちゃんとレインに会えたこと」

「…………」

「でも、私がやったことじゃなかった」

「悪かったな」

「どうしてスコールが謝るの?」

「なんとなく」

 エルオーネが少し笑った。

 スコールは腕を組む。

 これで一つ。

 未来のラグナが過去の自分へジャンクションしていた可能性はかなり高くなった。

 なら次だ。

「未来へ人の意識を送れるか?」

 エルオーネは首を横に振った。

「できない」

 即答だった。

「過去だけ?」

「うん」

「未来にいる人間と話すことは?」

「できない」

「見ることも?」

「できない」

「…………」

 スコールは黙った。

(そこか)

 必要なものは見えている。

 まず、今ここにいる仲間たちと未来の自分との関係。

 これはラグナを再び自分へジャンクションさせることができれば、ある程度解決できる。

 昨日までラグナは、この仲間たちと行動していた。

 ならラグナを介して未来の自分と今の仲間たちを繋げられる。

 次に、アルティミシアの攻略方法。

 それも未来の自分が知っている。

 時間圧縮をどう利用したのか。

 アルティミシア城で何が待っているのか。

 全部経験している。

 問題は一つ。

(未来と繋がらない)

 エルオーネの力は過去へ向かう。

 未来へは届かない。

 向こうにいる仲間たちが何をしているのか。

 そもそも本当に、自分が考えている通りのことが起きているのか。

 確認する方法がない。

「ありがとう」

 スコールは立ち上がった。

「もういいの?」

「ああ」

「何か分かった?」

「分からないことが分かった」

「それでいいの?」

「考える」

「……スコールらしいね」

「そうか?」

「うん」

 図書室を出ると、仲間たちが待っていた。

「どうだった?」

 キスティスが尋ねる。

「話がある」

 今度は隠さなかった。

 自分が未来から来たこと。

 未来でアルティミシアと戦ったこと。

 昨日までこの身体を動かしていたのが、おそらく未来のラグナであること。

 そして本来この時代にいたスコールは、自分のいた未来へ飛ばされた可能性があること。

「待て待て待て」

 ゼルが両手を上げる。

「ややこしい!」

「俺もそう思う」

「おまえが言うな!」

 セルフィが指を折る。

「今のスコールは未来のスコールで、昨日までのスコールは中身が未来のラグナ様で、本当の今のスコールは未来にいるかもしれない?」

「ああ」

「……合ってる?」

「たぶん」

「たぶんなの!?」

「確かめられない」

「頭痛くなってきた」

「僕は途中で諦めたよ」

 アーヴァインが肩を竦める。

「諦めないで」

 キスティスが睨む。

 サイファーは腕を組んだままスコールを見ていた。

「で?」

「何が」

「これからどうすんだよ」

「アルティミシアは倒す」

「それは分かってる」

「俺の知っている方法なら、アルティミシアのいる未来へ行ける」

「じゃあそれでいいじゃねえか」

「駄目だ」

「何でだよ」

「俺は帰れなかった」

 サイファーが黙る。

「それに今回は歴史が違う。おまえがいる」

「俺のせいみてえに言うな」

「そういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味だ」

「面倒だな」

「てめえ!」

「話を進めて」

 キスティスが二人を止める。

「同じ方法で未来へ行ける保証がない。それどころか、時間圧縮の中でどこへ辿り着くかも分からない」

「だから未来にいるあなたの仲間たちと話したいのね」

「ああ」

 キスティスが考える。

「未来には、本来この時代にいるはずだったあなたがいるかもしれない」

「ああ」

「そして未来のラグナさんをもう一度こちらへ繋げられれば、昨日までの私たちとの経験も共有できる」

「ああ」

「アルティミシアを倒した方法は未来のあなたが知っている」

「ああ」

「つまり足りないのは」

「未来との交信方法」

 全員が黙った。

「エルオーネじゃ駄目なの?」

 セルフィが聞く。

「無理だ。エルオーネの力は過去にしか届かない」

「じゃあ……」

「分からない」

 そこまでだった。

 必要なものは見えている。

 未来のスコールと、この時代の仲間たちとの繋がり。

 アルティミシアを攻略するための情報。

 そして未来との交信方法。

 最初の二つは何とかなるかもしれない。

 最後の一つだけが埋まらない。

 しばらく皆で考えた。

 キスティスがいくつか案を出した。

 ゼルも思いつくまま口にした。

 セルフィまで腕を組んで唸り始めた。

 アーヴァインは途中から天井を見ていた。

 サイファーは苛立ったように足を揺らしている。

 当然、答えは出なかった。

「……やめる」

 スコールが言った。

「え?」

 セルフィが顔を上げる。

「一度考えるのをやめる」

「まあ、それも必要かもしれないわね」

 キスティスが頷く。

 

 スコールは立ち上がった。

「どこ行くの?」

「カード」

「…………」

「…………」

「…………」

 全員が黙った。

「何でだ」

 ゼルが額を押さえる。

「俺たち今、世界の命運について話してたよな?」

「ああ」

「未来と連絡取れないって困ってたよな?」

「ああ」

「で?」

「カードする」

「なんでだよ!」

「考えても分からない」

「だからってカード!?」

「気分転換だ」

「切り替えが極端なんだよ!」

 セルフィが笑い始める。

「スコール、そんなにカード好きだったんだ」

「別に」

「今の流れで『別に』は無理があるわよ」

 キスティスまで呆れている。

 スコールは気にしなかった。

 カードはいい。

 ルールがある。

 勝敗がはっきりしている。

 時間がどうとか、未来の自分がどうとか、ラグナがどこにいるとか考える必要もない。

 手札を確認する。

「…………」

 もう一度確認する。

(弱い)

 ひどい。

(ラグナ……)

 何をしていたんだ。

 ティンバーにも行った。

 ガルバディアにも行った。

 デリング・シティにもいた。

 カードを集める機会はいくらでもあったはずだ。

(少しくらい集めておけ)

 世界を救うために自分の身体で奔走していた人間へ向ける感想として正しいのかは分からない。

 だが弱いものは弱い。

「何で急に不機嫌になったんだ?」

 ゼルが聞く。

「カードがない」

「そんな理由!?」

 まずシドに挑んだ。

「カードですか? もちろん構いませんよ」

 シドは快く応じた。

 次はイデア。

「ふふ。スコールが誘ってくれるなんて珍しいですね」

「一戦だけ」

「ええ、いいですよ」

「二人ともやるんだ……」

 セルフィが呟く。

「こんな時だからこそ、息抜きも必要でしょう」

 シドが穏やかに笑う。

「学園長まで肯定しちゃった」

 少しずつカードが揃った。

 だが、まだ足りない。

 スコールには次に戦いたい相手がいた。

 トゥリープFCの会員にも挑み、手札を整える。

「完全に本気じゃん」

 セルフィが後ろをついてくる。

「やるなら勝つ」

「世界を救う時より分かりやすい顔してるよ」

「気のせいだ」

「絶対違う」

 ある程度揃ったところで、スコールは図書室へ戻った。

 エルオーネがまだそこにいた。

「エルオーネ」

「スコール? どうしたの?」

「カード」

「え?」

「カードやろう」

「……え、こんな時にカードするの?」

「ああ」

「さっきまで未来の話してたよね?」

「ああ」

「アルティミシアを倒す方法を考えてたよね?」

「ああ」

「……いいけど」

 エルオーネは困ったように笑いながらカードを取り出した。

 結果。

 負けた。

「…………」

「スコール?」

「もう一回」

「え?」

「もう一回」

 二戦目。

 また負けた。

「…………」

「スコール?」

 容赦なく集めたレアカードを奪われたスコールは立ち上がった。

「どこ行くの?」

「カードを集める」

「そこまでして!?」

「負けたままは嫌だ」

 後ろで見ていたセルフィが腹を抱える。

「世界の危機より悔しそう!」

「そんなことない」

「あるよ!」

 

 こうしてスコールは、本格的にカード集めを始めた。

 そしてガーデンには、カード好きの間だけで知られている集団が存在していた。

 カードクラブ団 通称、CC団。

 まずジャック。

 次にクラブ。

 ダイヤ。

 スペード。

 ハート。

 そしてキング。

 途中、訓練施設ではジョーカーとも戦った。

 それぞれがガーデンでも指折りのカードプレイヤーだった。

 一人を倒せば次の相手が現れ、その相手を倒せばさらに上位の相手へ挑戦できる。

 妙に凝った仕組みだった。

(何でカードゲームに階級制度があるんだ)

 そう思いながらも、スコールは律儀に全員倒した。

 ジャックとの戦い。

 ジョーカーとの戦い。

 クラブとの戦い。

 ダイヤとの戦い。

 スペードとの戦い。

 そしてハート。

「私がCC団のハートよ」

「…………」

 そこにいたのはシュウだった。

「何、その顔」

「別に」

「知らなかった?」

「ああ」

「ふふ。じゃあ始めましょうか」

 熱戦だった。

 そして最後。

 キング。

 CC団最強のプレイヤー。

 その正体は。

「…………」

「…………」

 キスティスだった。

「何よ、その顔」

「いや」

「何?」

「何でもない」

「言いたいことがあるなら言いなさい」

(おまえまで何やってるんだ)

「スコール?」

「別に」

 口には出さなかった。

 出したら面倒なことになる。

 ただしキスティスには、ほぼ伝わっていた。

「……今、絶対失礼なこと考えたでしょ」

「考えてない」

「嘘」

 戦いは始まった。そして終わった。

 世界の命運を背負った時より真剣だったという証言もある。

 ともかくスコールはCC団を制覇した。

「……よし」

 カードケースを確認する。

 かなり揃った。

 後ろから一部始終を見ていたゼルが、疲れた顔で言った。

「おまえさ」

「何だ」

「気分転換って言ってなかった?」

「ああ」

「何時間やってんだよ」

「知らない」

「途中から大会みたいになってたぞ!」

「勝てたからいい」

「よくねえよ!」

 セルフィも呆れていた。

「スコールって、カードになると性格変わるよね」

「変わってない」

「変わってるよ」

「気のせいだ」

「アルティミシアの話してた時より喋ってたよ?」

「…………」

 スコールは少し考えた。

(……確かに)

 我に返った。

「…………」

「今気づいたでしょ?」

「別に」

「絶対気づいた!」

 だがカードは揃った。

 なら問題ない。

 そして一枚のところで指が止まった。

 アルテマウェポン。

「…………」

 名前は知っている。

 カードも知っている。

 だが。

(そういえば)

 記憶を辿る。

 ティンバー。

 ガルバディア。

 バラム。

 F.H.。

 トラビア。

 エスタ。

 宇宙。

 ルナティックパンドラ。

 アルティミシア城。

 多くの場所へ行った。

 多くの敵と戦った。

 だが。

(こいつとは会ってないな)

 アルテマウェポンとは戦っていない。

 モンスターの生息地を確認すると大海のよどみと記載がある。

「……どこだ?」

「何が?」

 横からゼルがカードを覗き込んだ。

 スコールはカードを見せる。

「アルテマウェポン?」

「知ってるのか?」

「いいカードだよな」

 スコールが顔を上げる。

「モンスター自体はどこにいる」

「なんで急に食いつくんだよ」

「気になったんだ」

「大海のよどみ」

「……どこだ、そこ」

 今度はゼルが驚いた。

「知らねえの?」

「知らない」

「海洋探査人工島だよ。昔、海底から何かを引き上げるために造られた施設があるって話。オカルトファンの情報だから眉唾物だけどな」

「どこにある」

「そこまでは知らねえよ。今は放棄されてるはずだし」

「アルテマウェポンがそこにいるのか?」

「って噂」

 ゼルはカードを指差した。

「他にもあるぞ。とんでもないモンスターがいるとか、そこでしか手に入らない幻のG.F.がいるとか」

「G.F.?」

「ああ」

「名前は?」

「知らねえ」

「…………」

「だから噂だって」

 スコールはアルテマウェポンのカードを見る。

 大海のよどみ。

 アルテマウェポン。

 幻のG.F.。

 どれも知らない。

 自分が歩んだ歴史には一度も関わってこなかった。

 アルティミシアを倒すまで、一度も訪れなかった場所。

 一度も戦わなかった敵。

 一度も手に入れなかった力。

(知らないもの……)

 今まで自分は、知っている未来から答えを探していた。

 アルティミシア。

 アデル。

 エルオーネ。

 時間圧縮。

 全部、一度経験したものだ。

 同じことを繰り返しても、同じ結末になるかもしれない。

 それどころか、歴史が変わった今では同じ未来へ辿り着ける保証すらない。

(だったら)

 自分が知らなかったもの。

 自分が選ばなかった道。

 そこに別の答えがある可能性はある。

「……ありがとう物知りゼル」

「おい」

 ゼルが怪訝そうにスコールを見る。

「まさか大海のよどみに行こうとか考えてないよな?」

「考えてない」

「本当か?」

「ああ」

「じゃあ何でそんな顔してんだよ」

「どんな顔だ」

「何か企んでる時の顔」

「知らない」

「絶対考えてるだろ!」

「今はカードだ」

「今はって言った!」

 セルフィが遠くから声を上げる。

「スコール! エルオーネにまた挑むの?」

「ああ」

「まだやるの!?」

「勝ってない」

「そこ重要!?」

「重要だ」

 スコールはアルテマウェポンのカードを手札へ戻した。

 大海のよどみへ行くつもりは、まだない。

 そもそも場所すら分からない。

 幻のG.F.という話も、本当に存在するのか分からない。

 それでも。

(覚えておこう)

 自分が知らない場所。

 自分が戦わなかった敵。

 自分が手に入れなかったG.F.。

 未来との繋がりを探している今、それが何を意味するのかはまだ分からない。

 ただ一つ、これまでと同じ道だけを見ていても駄目だ。

 そのことだけは分かった。

 スコールはカードケースを閉じる。

「エルオーネ」

「え?」

「もう一回」

「……スコール、本当にまだやるの?」

「ああ」

「世界を救う方法は?」

「考えてる」

「カードしながら?」

「ああ」

 エルオーネが吹き出した。

「分かった。じゃあ、手加減しないよ」

「いらない」

 テーブルにカードが並べられる。

 未来へ声を届ける方法は、まだ見つからない。

 時間圧縮から全員で帰還する方法も分からない。

 アルテマウェポンが何の役に立つのかも分からない。

 それでも、今まで見えていなかった道が一つだけ増えた。

 そして今は。

(まず勝つ)

 スコールは真剣な顔で、一枚目のカードを置いた。

 

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