FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
海洋探査人工島。
その地下にあるという、大海のよどみ。
そこにアルテマウェポンがいる。
そして、未来の自分さえ手にしていなかったG.F.がいる可能性がある。
そこまでは分かった。
問題は。
「行けない」
スコールが言った。
「……え?」
セルフィが瞬きをする。
「海洋探査人工島に行く手段がない」
「船じゃ駄目なの?」
「普通の船で行けるようなところじゃないはずよ」
キスティスが答える。
「飛行できる乗り物が必要になるでしょうね」
「ある」
スコールが言った。
「エスタに」
全員の視線が集まった。
「エスタ?」
ゼルが聞き返す。
「ああ」
「なんで知ってんだ?」
「乗ったことがある」
「飛行機に?」
「飛空艇」
「エスタってそんなもん持ってんのか!?」
「ラグナロクっていう」
そこまで言って、スコールは口を閉じた。
まただ。
自分の中では当たり前になっている。
だが、こいつらにとっては違う。
今の自分だけが知っている出来事が多すぎる。
エスタ。
ラグナロク。
宇宙。
アデル。
月の涙。
ルナティックパンドラ。
そしてアルティミシア。
断片だけ話しても意味がない。
「……その前に」
スコールは皆を見る。
「話しておいた方がいい」
「何を?」
「俺が知ってることを全部」
ゼルが目を丸くした。
キスティスは少し驚いた顔をして、それから小さく頷いた。
「そうね。その方がいいと思う」
「長くなる」
「いいわよ」
「かなり」
「それでも」
「……分かった」
場所を変えた。
集まったのは、キスティス、ゼル、セルフィ、アーヴァイン、サイファー。
そしてエルオーネ。
リノアは保健室で眠っている。
シドとイデアには別に話を通してある。
スコールは椅子に座り、しばらく黙っていた。
「…………」
「スコール?」
「今、どこから話すか考えてる」
「そこから!?」
「多すぎるんだ」
セルフィが笑った。
「じゃあ最初から!」
「簡単に言うな」
それでも、話し始めた。
自分が知っている歴史。
ティンバーでの任務。
サイファーがイデアについていったこと。
サイファーが処刑されたと聞かされたこと。
「だから俺は死んでねえって」
「後で分かった」
「だったらそこ飛ばせ」
「必要だ」
「なんでだよ」
「俺にとっては必要なんだ」
「…………」
サイファーが黙った。
その後。
バラムガーデンで内紛が起きた。
マスター・ノーグ派と学園長派。
ミサイルが迫った。
地下のMD層へ降りた。
そして。
「ガーデンが動いた」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も反応しなかった。
スコールは続けようとして、止まる。
「何だ」
「待って」
キスティスが片手を上げた。
「今、何て言った?」
「ガーデンが動いた」
「どういう意味?」
「そのまま」
「そのままって?」
「浮いた」
「浮いた!?」
ゼルが立ち上がった。
「ガーデンが!?」
「ああ」
「このガーデンが!?」
「ああ」
「なんで!?」
「俺に聞くな」
「おまえが言ったんだろ!」
「地下にそういう機構があった」
「知らなかった!」
「俺も知らなかった」
「じゃあなんでそんな冷静なんだよ!」
「一回見てるから」
「未来経験者ずるくねえ!?」
「それはまあ」
セルフィの目が輝いている。
「飛ぶの!?」
「飛ばない。浮く」
「海も行ける?」
「行ける」
「すごい! 動かそうよ!」
「嫌だ」
「なんで!?」
「F.H.にぶつかった」
「…………」
「…………」
「ぶつかったの?」
「ああ」
「街に?」
「ああ」
「ガーデンで?」
「ああ」
「スコールが運転して?」
「俺じゃない」
「そこ大事?」
責任を押しつけられては困る。
スコールは話を戻した。
F.H.。
ガルバディアガーデンとの戦い。
イデアとの再戦。
そこでイデアはアルティミシアの支配から解放された。
だが。
「その時、アルティミシアは別の魔女へ移った」
スコールの声が少し低くなる。
「リノアだ」
空気が変わった。
「……リノア?」
セルフィが小さく聞く。
「ああ」
「じゃあ」
キスティスが保健室の方向を見る。
「今、眠っているリノアも?」
「状況は同じだ」
誰も喋らなかった。
「イデアが正気に戻ったのと、リノアが意識を失ったのがほぼ同時だった」
スコールは続けた。
「アルティミシアは魔女から魔女へ移れる。俺の知っている歴史でも、イデアからリノアへ移った」
「じゃあ……」
ゼルが顔をしかめる。
「あいつ、今リノアの中にいるってことか?」
「可能性は高い」
「追い出せねえのか?」
「アルティミシアを過去に送る方法以外、今は分からない」
「…………」
そこから先も話した。
エスタ。
アデル。
宇宙。
リノアが操られ、封印されていたアデルを解放したこと。
月の涙。
ルナティックパンドラ。
アデルとの戦い。
そして最後の作戦。
「アルティミシアの目的は時間圧縮だった」
スコールは言った。
「俺たちは、それを逆に利用した」
エルオーネの力で、リノアとその中にいるアルティミシアを過去へ送る。
アルティミシアが時間圧縮を発動した瞬間、エルオーネが接続を切る。
時間圧縮の中を、自分たちは互いの存在と記憶を頼りに未来へ進んだ。
そしてアルティミシア城へ辿り着いた。
「そこで倒した」
「……勝ったの?」
セルフィが聞いた。
「ああ」
「じゃあ」
「でも帰れなかった」
セルフィの表情が止まる。
「時間圧縮が解けた後、俺は一人になった」
場所も分からない。
時間も分からない。
仲間もいない。
リノアもいない。
歩いて。
探して。
最後には力尽きた。
「次に気づいた時には、イデアとの戦いが終わった直後だった」
「それが今?」
「ああ」
「…………」
「しかも歴史が変わってた」
スコールはサイファーを見る。
「こいつがいた」
「悪かったな」
「悪いとは言ってない」
「顔が言ってんだよ」
「今はもう言ってない」
「……何だそりゃ」
さらに、自分の身体を未来のラグナが動かしていた可能性についても説明した。
そして現在。
未来側には、本来この時間にいるはずのスコールの意識がいる可能性が高い。
こちらには、アルティミシア戦を終えた自分がいる。
未来との接続が必要だった。
だがエルオーネの力は、基本的に過去へ意識を送るもの。
未来へこちらから接続する方法は分からない。
「……以上」
スコールが言った。
誰も喋らない。
「何だ」
「いや」
ゼルが頭を抱える。
「多すぎる」
「だから長くなるって言った」
「そういう問題じゃねえ!」
セルフィも両手で頭を押さえている。
「宇宙行って、魔女と戦って、時間圧縮して、未来行って、戻ってきたの?」
「ああ」
「その間にガーデンも動くの?」
「ああ」
「濃い!」
「知らない」
「スコールの未来、濃すぎ!」
キスティスだけは真剣な顔で整理していた。
「つまり今の問題は三つね」
「ああ」
「未来側との接続方法」
「そうだ」
「リノアの中にいるアルティミシア」
「ああ」
「そして、もう一度アルティミシアを倒す方法」
「それでいい」
「でも最後の一つは、未来のあなたが知っている」
「知ってる」
「なら未来と繋がれば」
「かなり変わる」
スコールは頷いた。
「未来の俺が、そっちにいる仲間へアルティミシアの情報を渡せる。それに、ラグナをもう一度こっちへ接続できれば、おまえたちとの関係も問題ない」
「関係?」
「俺の知らない時間を、あいつは知ってる」
サイファーとの関係。
セルフィたちとの関係。
リノアとの関係。
今の歴史を歩いてきたのは自分ではない。
未来のラグナだ。
「足りないのは接続方法だけだ」
「だけ、ねえ」
アーヴァインが苦笑した。
「そこが一番難しそうだけど」
「ああ」
だから。
待っている間に、できることをする。
「エスタへ行く」
スコールが言った。
「そこに飛空艇がある」
「さっき言ってたやつ?」
「ああ。ラグナロク」
「借りられるの?」
「たぶん」
「たぶん!?」
「大統領に話せば何とかなる」
「エスタの大統領と知り合いなの?」
「大統領はラグナだ」
エルオーネが少しだけ笑った。
セルフィが首を傾げる。
「ラグナ様なの?」
「ああ、そして俺の父親だ」
「…………」
「…………」
「…………」
「ええええええ!?」
「うるさい」
「今さらっとすごいこと言ったよ!?」
「話すと長くなる」
「もう十分長いよ!」
「だから省いた」
「そこ省くところ!?」
スコールは無視して話を進めた。
問題はエスタまでの道だった。
「F.H.から線路を歩く」
「歩くの?」
「ああ」
「それから大塩湖を越える」
「遠くない?」
「遠い」
「ガーデンは動かすの?」
セルフィが聞く。
「動かさない」
「なんで?」
スコールは少し黙った。
「前は、なし崩しだった」
ミサイルから逃れるために動かした。
F.H.へ流れ着いた。
修理されそのまま世界を巡った。
そしてガルバディアガーデンとの戦いに巻き込まれた。
「生徒まで戦わせた」
スコールは窓の外を見る。
「今回は必要ない」
イデアは正気に戻っている。
サイファーもいる。
ガルバディアの状況も違う。
「ここは学園だ」
自分で口にすると、少し妙な気分になった。
昔の自分なら、こんなことを言っただろうか。
「戦場にする必要がないなら、しない方がいい」
キスティスが静かに頷いた。
「私も賛成」
「じゃあ歩きかあ」
セルフィが机へ突っ伏す。
「飛ぶガーデン見たかった……」
「目的が変わってるぞ」
ゼルが突っ込んだ。
もう一つ決める必要があった。
「リノアはどうするの?」
キスティスが聞いた。
スコールは黙る。
置いていくか。
連れていくか。
体調だけを考えれば、ガーデンに残すべきだ。
だが。
「連れていく」
「理由は?」
「アルティミシア」
エルオーネを見る。
「アルティミシアが欲しいのはエルオーネの力だ」
「……あ」
「二人を同じ場所に置きたくない」
さらに、エスタへ向かえばアデルに近づくことになる。
もっともアデルが封印されているのは宇宙空間だ。
「宇宙には行かない」
「さっきの話ね」
キスティスが理解する。
「ああ。リノアを宇宙へ連れていかなければ、少なくとも俺の知っている形でアデルを解放されることはない」
「なら、あなたたちがリノアを連れてエスタへ行って、エルオーネはガーデンに残る」
「それがいい」
方針は決まった。
エスタへ向かう。
そこで飛空艇を借りる。
その後、海洋探査人工島へ。
だが。
(今のままで行くのか?)
スコールは現在の戦力を考えた。
すぐに答えが出た。
(無理だな)
弱い。
自分がアルティミシア城へ突入した時とは比較にならない。
G.F.も。
魔法も。
武器も。
「準備する」
突然言ったスコールに、ゼルが眉を寄せる。
「何を?」
「全部」
「だから何が全部なんだよ」
「武器。魔法。G.F.」
「エスタ行くんじゃなかったのか?」
「行く」
「いつ?」
「準備しながら」
「器用だな!」
「時間がもったいない」
未来との接続方法が見つかるまで何日かかるか分からない。
その時間を無駄にする理由はない。
まずはG.F.。
今いるのはケツァクウァトル、シヴァ、イフリート、ブラザーズ。
(少ない)
あまりにも心許ない。
そこで思い出した。
「学園長」
シドのところへ戻る。
「はい?」
「魔法のランプをいただきたい」
シドが目を瞬く。
「……どうしてそれを?」
「前にもらった」
「私が?」
「ああ」
「いつ?」
「俺の知ってる歴史で」
「なるほど」
最近、この一言で済むことが増えてきた。
シドは机の引き出しから黒いランプを取り出した。
「これですね」
「ああ」
「危険なG.F.が封じられています」
「知ってる」
「なら説明はいりませんね」
「ああ」
「ちょっと待って!」
セルフィが割って入る。
「なんで二人ともそんな普通なの!?」
シドがにこやかに笑う。
「スコール君が知っているようですから」
「それでいいの!?」
「大丈夫だ」
「その自信どこから来るの!?」
「一度勝ってる」
「未来便利!」
ランプを受け取る。
訓練施設へ移動してから、スコールは皆を見る。
「使うぞ」
「待て待て」
ゼルが構える。
「使ったらどうなる?」
「中に入る」
「中?」
「ランプの中」
「俺たちが?」
「ああ」
「先に言えよ!」
「今言った」
「そういう意味じゃねえ!」
スコールはランプを使った。
次の瞬間。
景色が消えた。
「うわああああ!?」
セルフィの声が遠くへ吸い込まれる。
上下の感覚がなくなる。
身体そのものが引き込まれるような感覚。
そして。
気づけば、一行は異様な空間に立っていた。
「…………」
ゼルが周囲を見る。
「ここが?」
「ああ」
「ランプの中?」
「ああ」
「説明不足にもほどがあるだろ!」
「悪かったな」
「思ってねえだろ!」
空間の奥で巨大な影が動いた。
翼が開く。
ディアボロス。
「来るぞ」
「切り替え早っ!」
戦闘が始まった。
強敵だった。
重力を操る攻撃に翻弄されながらも、一行は食らいつく。
スコールには記憶がある。
攻撃の癖。
危険なタイミング。
それを短く指示する。
「ゼル、下がれ」
「まだいける!」
「次が来る」
「何が」
「グラビデ」
「先に言え!」
黒い球体がゼルのいた場所を飲み込んだ。
「……助かった」
「ああ」
「そういうのもっと早く言え!」
「今言った」
「こいつ!」
やがてディアボロスが崩れる。
戦いが終わると、再び空間が歪んだ。
気づけば元の場所へ戻っている。
「……二度と説明なしで変な道具使うなよ」
ゼルが床に座り込む。
「分かった」
「本当か?」
「たぶん」
「信用できねえ!」
ディアボロスを得た。
次はパンデモニウムは風神に頼む。
「貸してくれ」
「拒否」
「必要なんだ」
「説明」
「さっきした」
「不足」
「…………」
「ほらな」
サイファーが笑った。
「おまえの説明、必要なところだけ削る癖あるぞ」
「長いと文句言うだろ」
「短すぎても分かんねえんだよ」
「面倒だな」
「おまえがな」
「喧嘩」
風神の一言で二人とも黙った。
今度はサイファーも説明した。
海洋探査人工島へ行くこと。
そこにいる相手がどれほど強いか分からないこと。
その先にはアルティミシアとの戦いが待っていること。
「だから必要だ」
風神はしばらくスコールを見る。
「返却」
「ああ」
「絶対」
「ああ」
「無事」
「努力する」
「……許可」
「ありがとう」
風神が少しだけ目を見開いた。
サイファーもこちらを見る。
「何だ」
「おまえ、礼言えたんだな」
「殴るぞ」
「台無しだな」
パンデモニウムも加わった。
イデアからはアレクサンダーを託された。
「以前は、私との戦いの中でこの力を手に入れたのですね」
「ああ」
「なら今回は、私から」
「いいのか?」
「もちろんです」
イデアが微笑む。
「これからあなたたちが戦う相手は、私たち全員の敵でもあるのですから」
スコールはアレクサンダーを受け取った。
「ありがとう」
前は戦って奪った力。
今は本人から託された。
(こういう変わり方なら悪くない)
歴史は変わった。
それはもう認めている。
問題は、それが何を意味するのか。
未来へ帰るために元へ戻すべきなのか。
それとも、この歴史のまま進むべきなのか。
まだ分からない。
なら今は、できることをする。
武器の改造。
強力な疑似魔法の収集。
G.F.の確保。
すべてを一日で終える必要はない。
エスタへ向かいながら進めればいい。
そして出発を前に、スコールはもう一度保健室へ向かった。
リノアは眠っている。
ベッドの横に立つ。
「連れていくぞ」
当然、返事はない。
(……何言ってるんだ、俺は)
眠っている相手に宣言してどうする。
それでも何も言わずに決めるよりはいい気がした。
起きろ。
戻ってこい。
心配させるな。
言いたいことはいくらでもある。
なのに口から出ない。
「…………」
(こういうところだよな)
F.H.で散々言われた。
思っているなら話せ。
みんなと話せ。
今、一緒にいられるなら。
「……帰ってこい」
ようやくそれだけ言った。
当然、返事はない。
それでもスコールは少しだけ満足した。
部屋を出ようとして。
「スコール」
「!」
振り向く。
リノアは眠っている。
声がしたのは入口だった。
キスティスが立っている。
「…………」
「聞いてないわよ」
「何も言ってない」
「そう」
「…………」
「準備できたわ」
「ああ」
キスティスが先に廊下へ出る。
スコールも後を追った。
「キスティス」
「何?」
「本当に聞いてないよな」
「ええ」
「……ならいい」
その背中が少し笑っている気がした。
(絶対聞いてたな)
だが追及するのも面倒だった。
こうして一行は、エスタを目指すことになった。
ガーデンそのものは動かさない。
今はまだ、ここにあるべきだ。
学ぶ者たちの場所として。
帰ってくる場所として。
自分たちだけが出ていく。
F.H.を経由し、そこから線路を歩く。
大塩湖を越えればエスタ。
そこにはオダイン博士がいる。
ラグナがいる。
そしてラグナロクがある。
海洋探査人工島へ向かうための翼がある。
未来からの接続は待つ。
だが、ただ待つつもりはない。
スコールはガンブレードを背負い直した。
未来がどうなるかは分からない。
歴史がどこへ向かっているのかも分からない。
アルティミシアが次に何をするのかも。
それでも。
(できることはある)
だったら、それをやる。
それだけだった。