FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第二話 B班

「もう! 絶対、あなたかサイファーだと思ったわ!」

保健室へ入ってきたキスティスの声で、ラグナは閉じた扉から視線を外した。

ついさっき、エルオーネが出ていった扉。

追いかけたい気持ちはまだ残っている。

けれど、今の自分はスコールだ。

この時代のエルオーネに、未来の話をするわけにもいかない。

「さあ、行くわよ。実地試験、今日に決まったんだから」

「実地試験?」

聞き返して。

ラグナはすぐに気づいた。

(まずい)

キスティスの眉が上がる。

「SeeDの」

「ああ。それね」

「…………」

「覚えてる。大丈夫」

「今日決まったのよ」

「あはは」

笑ってみせる。

キスティスはしばらくこちらを見ていたが、それ以上は追及しなかった。

ベッドから降りる。

足が床についた瞬間、自然に重心が整った。

やはり不思議だ。身体を動かしているのはラグナなのに、立ち方も歩き方も、この身体はすでに知っている。

(スコール)

呼びかける。

(しばらく借りるぞ)

返事はなかった。

 

廊下へ出て間もなく、向こうから三人が歩いてきた。

中央にいる男を見て、ラグナはすぐに分かった。

金髪。白いロングコート。

そして額には、スコールと対になるような真新しい傷。

(サイファー)

サイファー・アルマシー。

未来で名前を聞いている。魔女の騎士。

ガルバディア。ルナティックパンドラ。

けれど、それはすべてこの先の話だ。

今の彼が、スコールにとってどんな存在だったのか。

ラグナは知らない。

その両脇にいる二人にも見覚えがあった。

風神。雷神。

三人は未来でも一緒にいた。

ただ、主従という感じではなかった。

サイファーが真ん中を歩いていても、二人が付き従っているというより、

昔から三人でこうして歩いてきたのだろうと思わせる距離だった。

サイファーもこちらに気づいた。

「よう」

「おう」

ラグナも普通に返した。

「…………」

サイファーが止まる。

雷神も止まる。

風神だけが無表情でこちらを見る。

「なんだよ」

「いや」

サイファーが怪訝そうに眉を寄せた。

「頭までやられたかと思ってな」

「失礼だな」

「いつものおまえなら無視するだろ」

「…………」

(そうなの?)

初耳だった。

もちろん顔には出さない。

サイファーの額を見る。

同じように傷がある。

「そっちも痛そうだな」

「誰のせいだと思ってやがる」

「お互い様だろ?」

雷神が吹き出した。

「今日はスコールの調子がおかしいもんよ」

「雷神くんや」

「?」

「それを本人の前で言う?」

「事実」

風神が一言。

「風神ちゃんまで?」

「肯定」

「…………」

この二人、思っていたより容赦がない。

サイファーは鼻で笑うと、そのままラグナの横を通り過ぎた。

「試験までに頭も治しとけよ」

「そっちもな」

返すとサイファーの足が一瞬だけ止まった。

振り返らない。

そのまま風神と雷神を連れて歩いていく。

ラグナは三人の背中を見た。

(仲間、か)

少なくとも風神と雷神がサイファーを慕っていることだけは分かった。

ただ言うことを聞いているわけではない。

言いたいことを言う。

それでも一緒にいる。

(いい友達いるじゃん)

サイファーについて。

最初に知ったのはそんなことだった。

 

教室へ向かう途中、キスティスが尋ねた。

「ねえ、スコール。なにか悩んでることはないの?」

「悩み?」

ある。ありすぎる。

未来で息子が眠ったまま。

その息子を探しに来たら、なぜかSeeDになる前まで飛ばされた。

本人の意識はいない。

未来へ戻る方法も分からない。

しかも、さっきエルオーネまでいた。

どれから説明しても大惨事だ。

「……別に」

「……別に」

声が重なった。

「…………」

「…………」

キスティスが笑った。

「あははっ!」

「なに?」

「うれしいの。生徒を少しだけ理解できた気がして」

「俺を?」

「ええ」

「…………」

(ごめん)

たぶん今理解したのはスコールで。

喋っているのは父親だ。

 

ホームルーム。

キスティスから今日の予定が告げられた。

SeeD選考の実地試験。夕方から開始。

参加者は十六時にホールへ集合し、そこで班が発表される。

そして最後に

「それからサイファー!」

教室の空気が少し変わった。

訓練では相手に怪我をさせないように。

以後、気をつけること。

キスティスが釘を刺す。

ラグナは何気なくサイファーを見た。

サイファーもこちらを見ている。

「…………」

「…………」

ラグナは軽く手を上げた。

サイファーの眉間に皺が寄った。

(ダメか)

やっぱり距離感が分からない。

 

ホームルームが終わると、キスティスに呼び止められた。

「あなた、まだ炎の洞窟に行ってないわね」

「炎の洞窟?」

また知らない単語が出てきた。

課題をクリアしなければ、今日のSeeD試験には参加できないらしい。

「…………」

ラグナは黙った。

キスティスが覗き込む。

「何か正当な理由があるの?」

「……別に」

「じゃあ、これから一緒に行くわよ」

「先生も?」

「もちろん。私は正門で待ってるから、準備ができたら来なさい。自信がないなら学習用パネルで復習しておくこと」

「了解」

キスティスが出ていく。ゆっくり端末を見た。

「…………」

電源を入れる。

スコールが所持しているG.F.は二体。

ケツァクウァトルとシヴァ。

ジャンクション。魔法。抜け殻のハインと魔女。

知っているようで知らない単語が次々に出てくる。

「…………」

読む。もう一度読む。さらに読む。

(スコールおまえ、これ全部理解してんの?)

返事はない。

「……ふう」

ラグナは背もたれへ身体を預けた。

(もうやめよう)

もっとオダイン博士の話を聞くべきだったと後悔している。

あとは、実戦で何とかしよう。

昔からだいたいそうだった。

 

教室を出たところで、生徒に声をかけられた。

カードを持っているかと聞かれる。

「カード?」

渡されたものを見る。

絵柄と数字。

説明を聞くと、どうやらガーデンではかなり流行っているゲームらしい。

上下左右に書かれた数字を比べ、相手のカードをひっくり返す。

「へえ」

ラグナは一枚を眺めた。

「トリプルトライアドか」

何枚かカードを譲ってもらう。

(昔ドールに人をやって俺たちのカードを依頼したな)

「ありがとう」

しまいながら少しだけ想像した。

(スコール)

(帰ってきたら、またやろうぜ)

息子とカード。自分はたぶん勝っても負けても騒ぐ。

スコールはたぶんうるさい、と言う。

奪われたスコールのカードを取り返すため、

何度も挑むラグナといやいやながら付き合うスコール。

そんな光景だけは妙にはっきり想像できた。

 

「ち・こ・く~~~!」

 声。

「ん?」

「キャッ!」

「うわっ!」

ぶつかった。

少女が尻餅をつく。

「痛たた……」

「大丈夫?」

ラグナは手を差し出した。

少女が顔を上げる。

「…………」

(セルフィ)

未来で見た顔。

スコールと一緒に戦った仲間。

名前を呼びかけて寸前で止めた。

今のスコールはまだ彼女を知らない。

 

ホームルームが終わったと知ると、少女は盛大に落ち込んだ。

今日転校してきたばかり。

前のガーデンより広くて迷ってしまったらしい。

そしてガーデンを案内してほしいと言う。

「いいよ」

「やったぁ~~!」

即答すると少女が跳ねるように喜んだ。

「じゃ、いこ、いこ!」

「おう」

歩き出して思い出す。

(キスティス)

正門で待っている。

「…………」

まあ少しくらいなら。

 

一階ロビー。

中央の行き先板。

そこへ立つと、スコールの身体に染みついた情報が自然に浮かんできた。

学生寮。

食堂。

駐車場。

校庭。

保健室。

訓練施設。

図書館。

説明しながらラグナ自身が初めて知っていく。

ここが息子の暮らしていた場所。

食堂のパンは競争が激しい。

「へえ」

「へえ?」

「あ」

「案内する人が感心してる~」

「いやいや。人気なんだよ。それくらい」

「ふ~ん?」

危ない。

 

校庭。

少女が急に元気になった。

「学園祭だよ!」

「学園祭?」

「わたし、実行委員になるつもり~。よかったら一緒にやろうよ」

「いいよ」

「…………え?」

「やろう」

「ほんと!?」

「楽しそうだし」

「やったぁ!」

少女が嬉しそうに話し始める。

ラグナもつられて笑う。

(スコール)

(おまえなら断った?)

返事はない。

(まあ、いいか)

今は自分がここにいる。

 

案内を終える頃。少女が尋ねた。

「もしかして今日のSeeD試験受ける?」

「ああ」

「じゃあ、また会うかもねぇ。わたしも受けるの!」

「そっか」

「お互い、がんばろうねぇ!」

「おう。頑張ろう」

手を振って少女が走っていく。

ラグナはその背中を見送った。

名前はまだ聞いていない。

でも知っている。

セルフィ・ティルミット。

(こうやって会ったんだな)

スコールとセルフィはこんなふうに出会った。

知らなかった息子の人生がまた一つ増えた。

 

正門にキスティスが待っていた。

「スコール、いよいよね。準備OK?」

「OK」

「G.F.をジャンクションするの、忘れてない?」

「…………」

一瞬、学習用パネルの内容を必死で思い出す。

「大丈夫」

「よろしい。行きましょう」

炎の洞窟はガーデンの東。

 

洞窟の入口には、課題を管理する職員が待っていた。

課題は低レベルG.F.の取得。

サポートにはSeeD資格を持つ者がつく。

「よろしくお願いします」

ラグナは頭を下げた。

隣でキスティスが教員番号と名前を告げる。

そして制限時間、自分の能力に合った時間を選ぶ。

怠けず。無理もせず。

「…………」

ラグナは考えた。

自分ならある程度分かる。

でも今使うのはスコールの身体だ。

(おまえ、どのくらいやれる?)

答えはない。ただ未来で見たスコールはとんでもなく強かった。

「十分」

キスティスがこちらを見る。

職員はその選択を受け入れた。

「よろしい。では、いきなさい」

ラグナは洞窟を見る。

「よし」

 

「私がサポートするのはバトルだけよ」

洞窟へ入る。

「この中での行動は、あなたがリードすること」

「了解」

熱気が押し寄せる。

「暑っ」

「炎の洞窟なんだから」

「分かってても暑いものは暑いって」

キスティスが少し呆れる。

歩きながら彼女が言った。

「私とここに来ると、いつもの実力を出せない生徒、多いのよね」

「なんで?」

「私の魅力ってやつかしら?」

「…………」

ラグナはキスティスを見る。

「自分で言う?」

「冗談よ!」

キスティスが笑う。

「リラックスしてもらおうと思ったの」

「十分リラックスしてる」

「それは見れば分かるわ」

 

モンスターが現れた。その瞬間。

ラグナの身体が動いた。

「!」

ガンブレードを抜く。

重い。なのに手に馴染む。

敵が飛び込んでくる。踏み込む。

斬る。刃が触れる瞬間。指が。

勝手に引き金を引いた。

爆発。敵が吹き飛ぶ。

「…………」

ラグナは自分の右手を見た。

(今の)

考えていない。

身体が先に動いた。

 

次の戦闘また身体が教えてくれた。

間合い。 足運び。ガンブレードの軌道。

引き金を引く瞬間。

何度も。何度も。繰り返した動き。

だから意識がなくても身体が覚えている。

「やっぱり、あなたとサイファーは別格よね」

キスティスが言った。

「だって、ほんとに強いもの」

「…………」

ラグナはガンブレードを見る。

サイファーもこの身体と何度も戦ってきたのだろう。

(スコール)

胸の中へ呼びかける。

(おまえずっと練習してたんだな)

返事はない。

(すげえよ)

誰も答えない。でもこの身体そのものがスコールの努力を残していた。

 

最深部。

キスティスの表情が変わる。

「さあ、ここからが本番よ。心の準備、OK?」

「うん」

「……ぜんぜんOKって感じね」

炎が膨れ上がった。

巨大な身体。

角。燃え上がる熱。イフリート。

その視線がラグナの中にあるG.F.を捉えた。

シヴァ。イフリートがそれを感じ取る。

「…………」

ラグナはガンブレードを構えた。

「行くぞ」

 

炎。避ける。斬る。

引き金。衝撃。距離を取る。

シヴァの冷気が洞窟を走る。イフリートが怯む。

スコールの身体が前へ出た。

(今か)

走る。踏み込む。ガンブレードを振り抜く。引き金。爆発。

炎が散った。

 

何度も切りつけついにイフリートが膝をつく。

人間に負けたことを認め。

そして自らの力を貸すと言った。

「…………」

勝った。ラグナはしばらく動かなかった。

自分が勝った。

それだけではない。

この身体が勝った。

(スコール)

(ちゃんと取ったぞ)

G.F.イフリート取得。

「よくできました。ガーデンに戻ったら単位をあげます」

「先生」

「なに?」

「もうちょっと褒めてもいいんじゃない?」

「十分褒めてるでしょう?」

「命懸けだったんだけど」

「はい、おつかれさま」

「軽いなあ」

キスティスが笑った。

「部屋に戻ったら制服に着替えて、一階ロビーに集合よ」

「了解」

 

寮にて制服に着替える。

鏡を見る。

「…………」

制服姿のスコール。額にはできたばかりの傷。

(今日が)

SeeD試験。未来ではスコールはSeeDだった。

なら本来なら今日スコール自身がこの試験を受けた。

「…………」

(俺が受けていいのか?)

ものすごく今さらな疑問だった。

でも受けないわけにはいかない。

この時間をスコールの人生を先へ進まなければ本人を探すこともできない。

鏡の中の息子を見る。

(おまえの代わり、やるぞ)

 

「スコール! スコール!」

一階ロビーにてキスティスに呼ばれる。

「今から試験の班を発表します」

「はい」

「あなたと組むのは……ゼル・ディン。あの、にぎやかな彼ね」

「ゼル」

未来で知っている。何度もスコールのそばにいた。

キスティスが呼ぶ。

「ゼル! ゼル・ディン!」

「お!」

青年が駆けてくる。

「おまえと一緒か!」

明るい。とにかく明るい。

「おまえ、あのサイファーと仲悪いんだろ? 今朝もケンカしてギタギタにやられたって?」

「いや」

 ラグナは今朝のことを思い出す。

 額。サイファーにも。同じ傷。

「あれはケンカじゃない。トレーニングだ」

「そう思ってるのおまえだけじゃねえの? サイファーのヤツぁ嫌がらせしてるだけだぜ。

相手しなけりゃいいんだ」

「…………」

少しだけ考えた。確かに。

サイファーは感じがいい男ではない。

口も悪い。挑発もする。

でもそれだけでスコールとの関係を決めたくはなかった。

「おまえには関係ない」

「関係ない」

キスティスと重なった。

「…………」

ゼルが黙る。

ラグナもキスティスを見る。

また重なった。

「あのねえ……」

キスティスが続ける。

「そのサイファーなんだけど、あなたたちの班長よ」

「班長!?」

ゼルの声が響いた。

「アイツが!?」

 

「サイファー! サイファーはいる?」

人混みの向こう。

三人が来る。

サイファー 風神 雷神。

(また三人一緒か)

ラグナは少しだけ笑った。

「あなたが班長よ。がんばりなさいね」

「……先生」

サイファーが不機嫌そうに言う。

「俺は、がんばれって言われるのが嫌いなんだよ。

その言葉はデキの悪い生徒に言ってやれ」

「なるほど」

キスティスは頷いた。

「サイファー、がんばってね」

「…………」

ラグナは横を向いた。笑ってはいけない。

「キスティス先生をリストに加えろ」

サイファーが言う。

雷神が慣れたように笑った。

「また増えたもんよ」

風神は一言。

「了」

「…………」

(なんだそのリストは)

かなり気になる。

 

「さて!」

キスティスが三人を見る。

「あなたたちはB班です。担当の指導教官は私。

チームワークを大切にして試験を乗り切りましょう」

「チームワークってのはな」

サイファーがゼルとラグナを見る。

「俺に迷惑をかけないってことだ。これはB班のルールだから忘れるんじゃねえ。いいな!」

「…………」

ゼルが露骨に嫌そうな顔をする。

ラグナはサイファーを見る。

班長に任された。であれば

「了解、班長」

「…………」

サイファーが止まった。

ゼルが止まった。

キスティスも止まった。

雷神が目を丸くする。

「スコールがサイファーを班長って呼んだもんよ」

風神がラグナを見る。

「異常」

「ひどくない?」

サイファーの眉間に皺が寄る。

「……気色悪ぃな。何企んでやがる」

「何も企んでないって」

「だったらなんで素直なんだよ」

「班長なんだろ?」

「…………」

「なら班長でいいじゃん」

サイファーは何か言おうとしてやめた。

「勝手にしろ」

そう言って顔を背ける。

ただほんの少しだけその表情から毒気が抜けていた。

 

「全員そろいましたか?」

声が響く。

ラグナはその人を見た。

(シドさん)

バラムガーデン学園長。

未来で知っている。

シド・クレイマー。

しかし今は自分を見る彼の目には当然、ラグナを知っている様子はない。

 

参加する候補生はA班からD班までで総勢十二名。

これから向かう場所は本物の戦場。本物の戦闘。

生と死。勝利と敗北。名誉と屈辱。すべてが隣り合わせ。

「…………」

ラグナの表情から少しだけ笑みが消えた。

戦場。知っている。

銃声。爆発。人が倒れる音。

冗談を言っていた奴が次の瞬間にはいなくなる。

キロス。ウォード。自分たちも何度死にかけたか分からない。

ラグナは隣を見る。

ゼル。その向こうのサイファー。

(これが)

スコールにとって初めての実戦だったのか。

 

正SeeDも九名参加する。候補生が全滅しても。彼らが任務を遂行する。

だから任務そのものの心配はするな。

SeeDを見習いは指示に従い。自分こそSeeDにふさわしいと示せ。

シドの訓示が終わる。

候補生たちが動き始めた。

「スコール」

「はい?」

呼び止められる。

「SeeDには、まだガンブレード使いはいないのです」

「…………」

ラグナは自分の腰の武器を見る。

「だから君とサイファーには、ぜひSeeDになってもらいたいのですよ」

ラグナはサイファーを見る。

サイファーもこちらを見ていた。

(そうだったのか)

二人とも期待されていた。

未来を知っているラグナにはその言葉が妙に重く聞こえた。

けれど。未来は。今は関係ない。

「はい」

ラグナはシドへ頷いた。

「行ってきます」

 

駐車場へ向かう。

「な、スコール」

ゼルが寄ってきた。

「ん?」

「ガンブレード、見せてくれよ」

「いいよ」

答えかけて手が止まった。

「…………」

ラグナは自分の右手を見る。

何か。引っかかった。

嫌ではない。でも身体がほんの一瞬他人を自分の領域へ入れることを拒んだ。

(スコール?)

呼ぶ。返事はない。

意識ではない。もっと深いところ。

癖。習慣。長い時間をかけて身体に染みついた距離。

「いいじゃねっかよー!」

ゼルが食い下がる。

「…………」

「な、ちょっとでいいから!」

「…………」

ラグナは少し考えた。

「あとでな」

「え?」

「試験終わったら」

「マジ?」

「ああ」

ゼルの顔が一気に明るくなる。

「約束だからな!」

「分かったって」

後ろから鼻で笑う音。

「甘やかすなよ」

サイファーだ。

「別にいいだろ」

「そのチキン野郎は一度構うとウザイぞ」

ゼルが振り返る。

「あ・ん・だ・と?」

「聞こえなかったか?」

「もう一回言ってみろ!」

「チキン野郎」

「サイファー!」

キスティスの声が飛ぶ。

「いい加減にしなさい!」

雷神が苦笑する。

「また始まったもんよ」

風神は。

「常」

「これが平常なの?」

ラグナが聞く。

「常」

「そっか……」

この集団思っていた以上ににぎやかだ。

 

少し歩いて。

ラグナはキスティスを見る。

聞くなら今かもしれない。

「先生」

「なに?」

「今朝、保健室にいた女子普段どこにいる?」

サイファーの視線がこちらへ向いた。

ゼルも見る。

キスティスは首を傾げた。

「誰かいたの? 気づかなかったけど」

「…………」

(知らない?)

ラグナは少し引っかかった。

エルオーネ。

スコールを知っている。

そして未来ではキスティスたちとも行動していた。

なのに今のキスティスはエルオーネを知らない。

「なにか問題あり?」

「いや」

ラグナは首を振った。

「別に……」

「……最高だ」

サイファーが呆れたように笑った。

「俺のチームはチキン野郎と色気づいた兄ちゃんか」

「は?」

「保健室の女が気になってんだろ?」

「違うって!」

「必死だな」

「本当に違う!」

雷神がにやりと笑った。

「怪しいもんよ」

「雷神まで?」

風神がラグナを見る。

一言。

「色男」

「風神まで!?」

ゼルが吹き出した。

「おまえ、そういうの興味あったんだな!」

「違う!」

「じゃあなんで聞いたんだよ?」

「それは……」

エルオーネだから。とは言えない。

「…………」

サイファーが笑う。

「ククク……」

「笑うな!」

キスティスが額を押さえた。

「あなたたち、これから試験なのよ?」

ラグナは少しだけ困った。

けど不思議だった。この空気は悪くない。

未来で聞いた名前たちがまだ何者にもなっていない。

ただの候補生として喧嘩して。

笑って同じ戦場へ向かおうとしている。

 

移動用の車へ向かう。

その先にあるのは。ドール。

初めての実戦。

ラグナは歩きながら胸に手を置いた。

(スコール)

返事はない。

(おまえの試験)

(俺が受けることになっちゃったけど)

ゼルが前を歩く。サイファーがいる。

その近くに風神と雷神。キスティスが候補生たちを見ている。

(ちゃんと見てるからな)

スコールがどんな場所で誰と一緒にどんな道を歩いたのか。

一つずつ拾っていく。

(それで絶対、おまえを見つける)

返事はない。それでもとラグナは歩いた。

息子が初めて立った。本物の戦場へ向かって。

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