FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
大塩湖。
かつて湖だった場所には、もう水はない。
白く乾いた大地がどこまでも続き、ところどころに巨大な骨のようなものが突き出している。
その中を八人が進んでいた。
スコール、キスティス、ゼル、セルフィ、アーヴァイン、サイファー、イデア。
そして、スコールの背中で眠ったままのリノア。
「ここを越えればエスタ?」
セルフィが聞いた。
「ああ」
「街なんて全然見えないけど」
「隠れてる」
「街が?」
「ああ」
「どうやって?」
「行けば分かる」
「またそれ!」
スコールは構わず歩いた。
背中からリノアの体温が伝わってくる。両腕は力なく肩の前へ垂れ、耳を澄ませば規則正しい呼吸が聞こえる。
以前ここへ来た時も同じだった。
意識を失ったリノアを背負い、エルオーネなら何とかしてくれるかもしれないと、それだけを頼りに大塩湖を歩いた。
まさかもう一度、同じ場所を同じように歩くことになるとは思わなかった。
「代わろうか?」
隣を歩いていたゼルが声をかけてきた。
「いい」
「ずっと背負ってるだろ」
「問題ない」
「でもよ」
「俺が運ぶ」
ゼルが何か言おうとして、やめた。
「……分かった」
後ろからセルフィの声が飛んでくる。
「そういうところは変わらないね」
「何が?」
「何でもなーい」
「なら言うな」
歩き続ける。
今回はエルオーネを探しに来たわけではない。
彼女はバラムガーデンにいる。
目的は三つ。
リノアを診てもらうこと。
イデアをオダイン博士に会わせること。
そしてラグナに会い、海洋探査人工島へ向かうための飛空艇を借りること。
その先に、未来へ繋がる手掛かりがあるかもしれない。
「スコール」
キスティスに呼ばれた。
「少し休憩した方がいいんじゃない?」
「必要ない」
「あなたじゃなくて、リノアよ」
スコールは足を止めた。
「……そうだな」
「自分のことだと絶対止まらないのに」
「何か言ったか?」
「別に」
キスティスが少し笑った。
その時だった。
スコールの表情が変わる。
「待て」
全員が足を止めた。
サイファーが周囲を見回す。
「何だ?」
「来る」
「何が?」
スコールは近くの岩陰へ向かった。
腰を落とし、リノアを背中から降ろす。壁にもたれさせるように座らせ、倒れないことを確認する。
「イデア」
「はい」
「リノアをお願いします」
「分かりました」
イデアがリノアのそばへ座る。
スコールは立ち上がり、ガンブレードを抜いた。
「だから何が来るんだよ?」
ゼルも構える。
答えるより先に、前方で地面が揺れた。
乾いた大地の向こうから、異形の姿が現れる。
「何だこいつ!?」
「アバドン」
「知ってんのかよ!」
「前にも戦った」
「便利だな未来!」
「来るぞ」
アバドンが襲いかかった。
巨体に似合わない素早い動きで間合いを詰め、長い腕を振るう。
「散れ!」
六人が左右へ分かれた。
以前なら厄介な相手だった。
だが今回は、戦い方を知っている。
「アンデッドだ!」
「ってことは?」
「回復魔法が効く!」
「なるほど!」
ゼルがすぐに理解した。
生命を癒やすための魔法が、死者には逆に作用する。
「ケアルガ!」
光がアバドンを包む。
巨体が大きく仰け反った。
「効いてる!」
「続けろ!」
キスティスとセルフィが魔法を重ねる。
サイファーが横から斬り込み、アーヴァインの銃弾が追撃する。ゼルが正面から畳みかけ、最後にスコールが踏み込んだ。
ガンブレードを振り抜く。
アバドンの身体が崩れ、そのまま動かなくなった。
「……思ったより楽だったな」
ゼルが息を吐く。
「弱点を知ってたからだ」
「やっぱ未来便利じゃねえか」
「死にかけて覚えた知識だぞ」
「急に重くすんなよ」
スコールはガンブレードを収め、すぐにリノアのもとへ戻った。
「大丈夫ですよ」
イデアが言う。
「ああ」
分かっている。
それでも呼吸を確認してから、リノアの前にしゃがんだ。
両腕を肩へ回し、再び背負う。
「やっぱ俺が代わろうか?」
「いい」
「即答かよ」
「行くぞ」
再び歩き始めた。
しばらくすると、前方の景色が乱れ始める。
何もないはずの場所だけが、不自然に揺れていた。
「何これ?」
セルフィが目を細める。
「蜃気楼?」
「違う」
スコールはリノアを背負ったまま、迷わずその中心へ向かった。
「おい」
サイファーが呼び止める。
「何してんだ?」
「調べる」
「何を?」
「スイッチ」
「どこにあるんだよ」
「このあたりだ」
「何もねえぞ」
スコールは片腕でリノアを支え、もう片方の手を伸ばした。
何もない空間に指が触れる。
押す。
「…………」
ゼルが瞬きをした。
「今、何押した?」
「スイッチ」
「だからどこにあったんだよ!」
「見えない」
「見えないスイッチ押したの!?」
「ああ」
「なんで場所分かるんだよ!」
「前にも押した」
「未来ずるい!」
景色の乱れが変化する。
今まで何もなかった場所に、わずかな輪郭が浮かび上がった。
スコールはそこへ手を伸ばす。
「次は何?」
「梯子」
「どこ?」
「ここ」
リノアを背負い直す。
そして何もない空間へ足をかけた。
「ちょっと待って!」
セルフィが叫んだ。
「その状態で登るの!?」
「前も登った」
「そういう問題じゃないよ!」
見えない梯子。
その上、背中には意識のないリノア。
それでもスコールは一段ずつ登っていく。
ゼルが恐る恐る後へ続いた。
「……本当にある」
「だから言っただろ」
「分かってても怖えよ! しかもお前、リノア背負ってんだぞ!」
「落とさない」
「当たり前だ!」
スコールは黙々と登った。
肩越しにリノアの寝息が聞こえる。
(前もこんなことしてたな)
未来を知っている。
前回とは違う道を選ぼうとしている。
それなのに、こういうところだけは妙に同じだった。
やがて手が何かに触れる。
身体を引き上げた。
後から仲間たちも登ってくる。
そこにあったのは巨大な建造物だった。
外からはまったく見えない。
金属質の壁。
複雑な構造。
バラムにもガルバディアにも存在しない技術。
「これもエスタ?」
「ああ」
「こんなの隠してるの?」
「国ごと隠してる」
「エスタって何なの……」
「俺に聞くな」
内部を進む。
やがてエレベーターへ辿り着き、全員が乗り込んだ。
扉が閉まり、エレベーターが動き始める。
「これでエスタ?」
キスティスが聞く。
「ああ」
「本当に?」
「ああ」
「あなたがそう言うと、最近何でもありに思えてくるわ」
「俺のせいじゃない」
しばらくして。
扉が開いた。
今度こそ、全員が言葉を失った。
眼下に巨大な都市が広がっている。
何層にも重なる道路。
その上を高速で行き交う乗り物。
見たこともない建造物が、地平線の向こうまで続いている。
外からは存在すら分からなかった巨大都市。
エスタ。
「……でっか」
ゼルがようやく呟いた。
「これ全部、街?」
「ああ」
「すっご……」
アーヴァインも帽子のつばを持ち上げた。
「世界って広いねえ」
スコールはリノアを背負い直す。
「行こう」
まずはリノア。
次にイデア。
それからラグナ。
やることは決まっている。
八人はエスタへ足を踏み入れた。
「スコール・レオンハート?」
聞き返した自分の声が、妙に間抜けに響いた。
エスタ大統領官邸。
ラグナは机の向こうに立つ職員を見た。
「はい。バラムガーデン所属のSeeDだそうです」
「年齢は?」
「十七歳とのことです」
「十七……」
ラグナは黙った。
職員が持ってきたのは、入国者についての報告だった。
八名。
バラムガーデンのSeeDを中心とした一行。
その中に、イデア・クレイマーという女性がいる。
オダイン博士との面会を希望。
そして意識不明の少女が一人。
ここまではよかった。
問題は、一行の代表者。
スコール・レオンハート。
「……キロス」
「何だ」
少し離れた場所にいたキロスが答える。
「十七だって」
「ああ」
「名前、スコールだって」
「聞こえていた」
「レオンハートだって」
「それも聞こえた」
「これってさ」
「おそらく、おまえが考えている通りだ」
「まだ何も言ってないだろ」
「顔に書いてある」
ウォードも静かに頷いている。
「ウォードまで……」
ラグナは椅子にもたれた。
レイン。
頭に浮かんだのは、やはり彼女だった。
ウィンヒル。
あの家。
レインの笑った顔。
自分が村を離れた後のことを、ラグナはほとんど知らない。
エルオーネを取り戻すためだった。
そうしなければならなかった。
それでも、戻れなかったという事実は変わらない。
「……本当に?」
「会えば分かる」
キロスが言った。
「簡単に言うなよ」
「では会わないのか?」
「会うよ!」
即答した。
職員が少し驚く。
「あ、ごめん。会う。会います」
「では、面会を?」
「うん。ただ……」
ラグナは机の上で両手を組んだ。
「ちょっとだけ待ってもらえる?」
「どの程度でしょう」
「一時間」
「長い」
キロスが即座に言った。
「じゃあ三十分」
「何が変わる」
「心の準備!」
「十七年あっただろ」
「会う準備はしてなかったんだよ!」
職員が困っている。
ラグナは咳払いした。
「三十分で」
「承知しました」
「それと、他の人たちは?」
「イデア・クレイマー氏については、オダイン博士が面会を了承しました」
「よかった」
「意識不明の女性は、エスタの医療施設へ搬送します」
「状態は?」
「生命に危険はないようですが、呼びかけに反応しないとのことです」
「ちゃんと診てもらって。必要ならオダインにも見せて」
「承知しました」
職員が端末を確認する。
「なお、スコール氏がその女性を背負って入国しています」
「ずっと?」
「大塩湖を越えてきたようです」
「…………」
ラグナは何となく黙った。
「どうした?」
キロスが聞く。
「いや」
自分ならどうするだろう。
大切な人が意識を失っていて。
それでも進まなければならないなら。
(背負うだろうな)
「……似てたりして」
「何がだ」
「何でもない」
職員が一礼し、退出しようとする。
「あ、待って」
「はい」
「スコールの用件って聞いてる?」
「はい」
「何?」
「飛空艇を借りたいとのことです」
「…………」
「…………」
キロスが目を閉じた。
ウォードは肩を震わせている。
「初対面だよな?」
「おそらく」
「いきなり飛空艇借りに来る?」
「おまえならやる」
「やっぱ似てる!?」
「喜ぶところじゃない」
「いや、ちょっと嬉しいだろ!」
職員だけが完全に置いていかれている。
「目的地も聞いております」
「どこ?」
「海洋探査人工島です」
ラグナの笑顔が消えた。
「……海洋探査人工島?」
「はい」
「何しに?」
「詳しい事情は大統領へ直接説明したいとのことです」
ラグナはキロスを見る。
「知ってる?」
「昔の海洋研究施設だろう」
「ああ。今はほとんど使われてない。でも、あそこは地下がかなり深い」
「危険なのか?」
「妙な噂はある」
わざわざバラムから大塩湖を越え、エスタまで来た。
意識を失った少女を背負って。
イデア・クレイマーを連れて。
そして大統領に飛空艇を借り、海洋探査人工島へ行こうとしている。
ただのSeeDの任務とは思えない。
「……三十分」
ラグナが呟いた。
「何だ?」
「十五分にする」
「心の準備は?」
「してる場合じゃない」
十五分後。
ラグナはまだ準備できていなかった。
「どうしよう」
「何がだ」
「最初になんて言えばいい?」
「普通に挨拶しろ」
「初めまして?」
「初対面ならな」
「父さんだぞ、は?」
「やめろ」
「やっぱ駄目?」
「当たり前だ」
ウォードも強く頷いた。
「二人とも厳しくない?」
「相手の立場を考えろ」
「考えてるから困ってるんだよ」
その時。
扉の向こうから足音が聞こえた。
ラグナの背筋が伸びる。
「来た」
「座っていろ」
「分かってる」
座る。
また立つ。
「座れ」
「はい」
再び座った。
扉が開く。
数人の若者が入ってくる。
その先頭にいた青年を見た瞬間。
ラグナは言葉を失った。
黒い服。
首元の白い毛皮。
額から鼻筋にかけて残る傷。
鋭い目。
無愛想な表情。
自分には似ていない。
全然似ていない。
それなのに。
(……レイン)
分かった。
理屈ではなかった。
青年もこちらを見ている。
妙に落ち着いていた。
初めて会う相手を見る目ではない。
「…………」
「…………」
キロスが小声で言った。
「ラグナ」
「分かってる」
何か言わなければ。
普通に。
大統領として。
「えっと」
駄目だった。
「スコール……だよな?」
「ああ」
「俺はラグナ。ラグナ・レウァール」
「知ってる」
「……知ってる?」
「ああ」
「俺のこと?」
「ああ」
ラグナは混乱した。
「会ったことある?」
「あった」
「…………」
キロスを見る。
キロスも眉を寄せている。
「どこで?」
スコールは少し考えた。
「未来」
「…………」
ラグナはゆっくり椅子へ座り直した。
「キロス」
「何だ」
「十五分じゃ足りなかった」
「だろうな」
だが驚くのは、まだ早かった。
スコールから聞かされた話は、ラグナの想像を遥かに越えていた。
未来に魔女がいる。
名はアルティミシア。
時間を圧縮し、過去も現在も未来も一つにしようとした。
スコールたちはその未来へ向かい、アルティミシアを倒した。
そして。
「俺だけ戻れなかった」
スコールが言った。
「戻れなかった?」
「ああ。時間の中で迷った」
「それで今ここに?」
「目を覚ましたら、イデアとの戦いが終わった直後だった」
「ちょっと待って」
ラグナは額を押さえた。
「おまえは未来から来た?」
「ああ」
「でも身体は今のおまえ?」
「ああ」
「じゃあ、この時代にいたスコールは?」
「分からない」
「分からない?」
「ただ」
スコールがラグナを見る。
「俺が戻ってくるまで、この身体には別の人間がいた」
「…………」
「仲間から話を聞いた。そいつの言動も、やったことも」
「誰なんだ?」
「たぶん」
一拍。
「未来のあんただ」
「…………」
ラグナは自分を指差した。
「俺?」
「ああ」
「未来の?」
「ああ」
「おまえの身体に?」
「ああ」
「なんで!?」
「俺が聞きたい」
「未来の俺、何やってんの!?」
「いろいろ」
「いろいろって何!?」
「だから、それを調べてる」
キロスが深く息を吐いた。
「未来でも変わらないらしいな」
「何が!?」
「おまえが面倒を増やすところだ」
「俺のせいって決まってないだろ!」
ウォードが静かに肩を叩いてくる。
「慰めてる? それ慰めてるんだよな?」
スコールは話を続けた。
未来との繋がりが切れている。
エルオーネの力では未来へ届かない。
自分がここにいる以上、本来この時代にいたスコールの意識が未来側へ移動している可能性がある。
それを確かめたい。
「だから海洋探査人工島へ行く」
「どう繋がるんだ?」
「地下にアルテマウェポンがいる」
「……ずいぶん物騒な名前だな」
「強い」
「そこは分かりやすいな」
「そいつが、俺の知らないG.F.を持っている可能性がある」
スコールが一冊の雑誌を机に置いた。
「オカルトファン?」
ラグナは思わず手に取った。
「何号?」
「そこ?」
金髪の少年が突っ込んだ。
「いや、だって気になるだろ」
「ラグナ」
キロスの声が低い。
「はい」
スコールが該当する記事を示す。
そこに書かれているのは、あくまで噂だった。
遥か遠く隔てられたものを結ぶG.F.
その隔たりが空間だけを意味するのか。
あるいは時間による隔たりさえ越えて、二つの存在を繋ぐことができるのか。
「未来へ行けるG.F.ってこと?」
ラグナが聞く。
「違う」
スコールは即答した。
「移動できるとは書いてない」
「じゃあ?」
「繋ぐ」
スコールが記事を指す。
「俺が必要なのは未来へ行く方法じゃない。まず未来と繋がる方法だ」
ラグナは記事を見る。
オカルト雑誌。
普通なら笑って終わる話だ。
だが目の前の青年は、未来から来たと言っている。
そして。
未来の自分がこの青年の身体に入っていた可能性まである。
もう何を基準に普通と呼べばいいのか分からない。
「そのG.F.が、海洋探査人工島に?」
「分からない」
「分からないのか」
「だから確かめる」
即答だった。
ラグナは少しだけ笑った。
「何だ?」
「いや」
妙な感じだった。
無愛想で。
説明も必要最低限で。
自分とはまるで違う。
なのに。
行って確かめる。
できることをやる。
その考え方だけは、少し分かる気がした。
「飛空艇、貸すよ」
スコールがラグナを見る。
「いいのか?」
「ああ」
「まだ何も分かってないぞ」
「だから行くんだろ?」
「ああ」
「じゃあ必要じゃん」
スコールが黙る。
「未来の俺が何をしたのか、今の俺には分からない。おまえが経験した未来も、全部理解できたわけじゃない」
ラグナはスコールを見る。
「でも、今のおまえが困ってるなら、今の俺にもできることはある」
「…………」
「飛空艇くらい貸すよ」
「くらいで貸すものなのか?」
「大統領だからな」
「そういう問題か?」
「たぶん」
キロスが横から口を挟む。
「手続きは俺が確認する」
「ほら」
「おまえは何もしていない」
「決断しただろ!」
スコールが僅かに視線を逸らした。
「……助かる」
「おう」
その一言だけで。
ラグナはどうしようもなく嬉しくなった。
笑いそうになって。
さすがに堪えた。
たぶん今笑ったら、嫌がられる。
(難しいな、父親)
まだ父親だと名乗ってすらいないのだが。
飛空艇の手配には少し時間がかかった。
その間、スコールたちはエスタで必要な物資を揃えることになった。
イデアはオダイン博士の研究施設。
リノアは病院。
ラグナは仕事へ戻った。
戻ったはずだった。
「……キロス」
「何だ」
「全然仕事が手につかない」
「知るか」
「スコール、俺が父親だって知ってると思う?」
「本人に聞け」
「聞けるか!」
「なぜだ」
「怖いだろ!」
キロスが呆れた顔をする。
「おまえはエスタ大統領だぞ」
「息子相手に大統領関係ないだろ!」
「そこだけは正しい」
「そこだけ!?」
結局。
ラグナは何も聞けないまま、出発の時間を迎えた。
エスタの発着場。
飛空艇の前にスコールたちが集まっている。
リノアは病院に残る。
オダイン博士が診察を続け、イデアもエスタに残ることになった。
海洋探査人工島へ向かうのは六人。
スコール。
キスティス。
ゼル。
セルフィ。
アーヴァイン。
サイファー。
「本当に行くんだな」
ラグナが言った。
「ああ」
「危なくなったら戻れよ」
「ああ」
「無理するなよ」
「ああ」
「あと、ちゃんと飯食えよ」
「…………」
「ラグナ」
キロスが止めた。
「何だよ」
「大統領として見送れ」
「今のは大統領として言った」
「最後のは違う」
スコールが飛空艇へ向かう。
「あ、スコール!」
呼び止める。
振り返った。
「何だ?」
「…………」
聞こうと思った。
俺が父親だって知ってるのか。
レインのことを知っているのか。
未来の俺とは、どんな話をしたのか。
聞きたいことはいくらでもある。
でも。
「帰ってきたら」
「ああ」
「少し話そう」
スコールはしばらくラグナを見た。
「……分かった」
それだけ言って、飛空艇へ乗り込んだ。
機体が浮かび上がる。
ラグナはその姿を見送った。
「行っちゃったな」
「ああ」
「俺、全然話せなかった」
「次がある」
キロスの言葉に、ラグナは少しだけ笑った。
「そうだな」
飛空艇は高度を上げる。
やがてエスタを離れ、海へ向かっていった。
目的地は。
海洋探査人工島。
未来。
同じエスタ。
ラグナは一体のG.F.を前に腕を組んでいた。
エデン。
海洋探査人工島。
その地下、大海のよどみにいたアルテマウェポンから、リノアたちがドローしたG.F.。
アルテマウェポンは倒していない。
エデンだけを奪い、一行は撤退した。
そして。
このG.F.を得たことで、それまで届かなかったスコールへ接続できた。
ただし。
その結果が今だ。
未来のスコールの身体には、イデアとの戦い直後のスコールの意識が入っている。
本来この身体にいたスコールは、おそらく過去へ。
「もう一度、エデンを使う」
ラグナが言った。
「でも」
リノアの表情は険しい。
「また同じことが起きたら?」
「同じことはしない」
キスティスが答える。
「前回はスコールそのものを探していた。でも今回は違う」
「所在の見当がついている」
エルオーネが続ける。
「過去にいる未来のスコール」
ラグナが頷く。
「まずはそこへ繋がるか確かめる」
エデンが人間を過去や未来へ移動させるわけではない。
少なくとも、今まで調べた限りではそう考えられている。
エデンが持つのは。
隔てられたものを結びつける力。
空間。
そして、おそらく。
時間。
「前回、エデンを使うまでは届かなかった」
エルオーネが言う。
「でもエデンの力を借りた後、何かが繋がった」
「それで俺がここに来た?」
スコールが聞く。
「それは分からない」
エルオーネは首を振った。
「エデンがあなたをここへ運んだとは思ってない」
「じゃあ何をした」
「道を作ったんだと思う」
過去のスコール。
未来のスコール。
同じ存在。
違う時間。
本来交わらない二つを、エデンが繋いだ。
その接続の中でラグナが過去から未来へ戻り、何らかの原因で二人のスコールの意識が入れ替わった。
それが現在の仮説だった。
「だから今度は、いきなり戻そうとはしない」
キスティスが言う。
「まず接続だけを試す」
「未来の俺が本当に過去にいるか確認する?」
「ああ」
ラグナが答えた。
「確認できたら、その先を考える」
エルオーネの力は、意識を過去へ送ることができる。
エデンは、本来届かない場所との接続を作る。
二つを組み合わせれば。
接続した道を利用して、二人のスコールを本来の時間へ戻せるかもしれない。
「成功するのか?」
スコールが聞く。
「分からない」
「またそれか」
「仕方ないだろ」
ラグナが苦笑する。
「誰もやったことないんだから」
スコールは黙った。
少し考える。
「やる」
リノアが顔を上げる。
「スコール」
「未来の俺が過去にいるなら、戻した方がいい」
「失敗したら?」
「ここにいても解決しない」
「でも」
「俺も戻りたい」
リノアが黙った。
目の前にいる。
顔も。
声も。
仕草も。
全部スコールだ。
でも、自分とアルティミシアを倒したスコールではない。
「……分かった」
リノアが言った。
「でも、絶対に連れて帰ってきて」
「誰を?」
「私のスコール」
「…………」
スコールの動きが止まった。
「何?」
「いや」
「顔赤くない?」
「赤くない」
「赤いよ」
「うるさい」
セルフィが笑う。
「昔のスコールだ」
「何なんだおまえら」
スコールが不機嫌そうに視線を逸らす。
ラグナはそれを見ながら思った。
(こっちのスコールもスコールなんだよな)
時間が違うだけ。
どちらかが偽物というわけではない。
だからこそ。
二人とも帰さなければならない。
本来いるべき場所へ。
「準備しよう」
ラグナが言った。
「今度は偶然任せにはしない」
未来。
海洋探査人工島。
その地下。
大海のよどみ。
暗闇の中に巨大な影があった。
アルテマウェポン。
かつてリノアたちはここまで来た。
戦い。
その身にジャンクションされていたエデンをドローした。
だが、アルテマウェポンそのものは倒していない。
エデンを得ることが目的だったからだ。
だから今もここにいる。
エデンを失ったまま長い間、動かなかった。
その巨体が僅かに震えた。
低い音が、大海のよどみに響く。
敵はいない。
誰も来ていない。
未来のエデンは、遥か遠くのエスタにいる。
まだ接続実験すら始まっていない。
それでもかつてエデンが存在していた場所。
その空白の奥で何かが微かに脈打った。
過去。
海の上を飛空艇が進んでいた。
その先に小さな島影が見え始める。
「見えた!」
セルフィが声を上げた。
海洋探査人工島。
その地下にはアルテマウェポンがいる。
そして、その身体にはまだエデンがいる。
未来ではすでに奪われたG.F.。
過去では、これから出会うG.F.。
同じ存在。違う時間。
スコールたちを乗せた飛空艇が、ゆっくりと高度を下げていった。
その少し未来、同じ島の地下でエデンを失ったアルテマウェポンが、静かに目を開いた。