FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
アルテマウェポンが巨大な剣を振り上げた。
四本の脚が岩盤を踏みしめ、獣の頭部が低く唸る。その上に乗った人型の上半身は、幾度もの攻撃を受けてなお、恐るべき力を保っていた。
「来るぞ!」
スコールが叫ぶ。
巨大な刃が振り下ろされた。
ゼルとサイファーが左右へ飛び退く。剣は二人の間に叩きつけられ、床を深く抉った。
「くそっ、まだこんな力が残ってんのかよ!」
ゼルが悪態をつく。
「そりゃこっちの台詞だ」
サイファーがハイペリオンを構え直した。
「いつまで暴れてやがる」
アルテマウェポンの胸元に青白い光が集まる。
それを見た瞬間、全員の動きが変わった。
「散開!」
キスティスの声に従い、六人が距離を取る。
光が一直線に放たれた。
リヒト・ゾイレ。
先ほど、ベヒーモスを一撃で絶命させた光線だった。
岩壁に細い穴が開く。
「……っぶねえ!」
ゼルが息を吐いた。
「もう少しで頭を持っていかれるところだったぞ!」
「喋ってる暇があったら動け!」
スコールが叫ぶ。
アルテマウェポンが再び剣を持ち上げる。
だが、その動きに僅かな隙が生まれていた。
(今しかない)
スコールはガンブレードを握り直した。
エデンの存在は既に確認している。
問題は、ドローを完了するまでの時間だった。
「キスティス!」
「分かってる!」
キスティスが鞭を振るい、アルテマウェポンの腕に絡ませた。
巨体が僅かに動きを止める。
「ゼル!」
「おう!」
ゼルが四本の脚のうち、前脚の関節へ拳を叩き込んだ。
アルテマウェポンが身体を傾ける。
そこへアーヴァインの銃声が響いた。
弾丸が損傷した胸部の装甲へ集中する。
「サイファー!」
「指図すんな!」
そう言いながら、サイファーは既に動いていた。
ハイペリオンを振り上げ、アルテマウェポンの剣へ斬りつける。
金属音。
巨大な刃が僅かに逸れた。
「今だ、スコール!」
スコールは頷いた。
五人が作った隙。
それを無駄にはできない。
ガンブレードを構えたまま、意識を集中する。
(……エデン)
アルテマウェポンの内部へ、魔力を探る感覚を伸ばした。
クエイク。
メテオ。
グラビジャ。
膨大な魔力が渦巻いている。
その奥に、明らかに異質な存在があった。
巨大で、複雑で、底が見えない。
無数の場所が重なり合い、遥か遠くまで続いているような感覚。
(……見つけた)
スコールはさらに意識を深く沈めた。
通常の魔法をドローする時とは違う。
相手の内側にある魔力を引き出すのではなく、そこに結びついている存在そのものへ呼びかける。
その繋がりを、アルテマウェポンから自分へ移す。
だが、抵抗は激しかった。
巨大な魔力が押し返してくる。
(……くっ)
スコールの額に汗が浮かんだ。
アルテマウェポンが身を捩る。
キスティスの鞭が弾かれた。
「きゃっ!」
「キスティス!」
セルフィが駆け寄る。
アルテマウェポンが剣を振り上げた。
その切っ先が、スコールへ向く。
「まずい!」
アーヴァインが叫ぶ。
だが、スコールは動かなかった。
(ここで離したら、また最初からだ)
剣が振り下ろされる。
「スコール!!」
サイファーが飛び込んだ。
ハイペリオンを振り抜く。
巨大な剣の側面へ、渾身の一撃を叩き込んだ。
刃が逸れる。
アルテマウェポンの剣が、スコールのすぐ横の床を砕いた。
「ぐっ……!」
サイファーが膝をつく。
腕が痺れ、ハイペリオンを握る指が震えていた。
「さっさとしろ……!」
スコールは答えなかった。
ただ、意識をさらに深く伸ばす。
(……来い)
その瞬間。
アルテマウェポンの内部で、何かが応えた。
膨大な魔力が一つに収束する。
抵抗していた力が、突然流れを変えた。
スコールの身体を、眩い光が包んだ。
「……っ!」
視界が白く染まる。
遠くで、誰かが叫んでいた。
だが、その声すら聞こえなくなった。
代わりに、奇妙な感覚が広がっていく。
遥か彼方の空間。
無数の光。
それぞれが異なる場所へ繋がり、さらにその先へ伸びている。
その中心に、巨大な存在があった。
(……エデン)
言葉ではない何かが、スコールへ伝わってきた。
敵意はない。
ただ、こちらを見ている。
スコールは意識の中で手を伸ばした。
(力を貸してくれ)
光が広がった。
次の瞬間、アルテマウェポンの身体から巨大な魔力が引き剥がされた。
青白い光が渦を巻き、スコールへ流れ込む。
「スコール!?」
セルフィが叫ぶ。
アルテマウェポンが大きく仰け反った。
獣の頭部が咆哮を上げる。
施設全体が震えた。
そして、光が消えた。
スコールは片膝をついた。
「……はあっ」
息が荒い。
全身に、これまで感じたことのない魔力が巡っている。
だが、不思議と苦しくはなかった。
むしろ、何かが自分の内側に収まったような感覚だった。
「スコール!」
キスティスが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ああ……」
スコールはゆっくりと立ち上がった。
「……成功した」
「え?」
「エデンをドローした」
一瞬、誰も動かなかった。
そして。
「やったあ!!」
セルフィが歓声を上げた。
「本当に!? 本当にエデン!?」
「ああ」
スコールが頷く。
「間違いない」
「よっしゃあ!」
ゼルが拳を握った。
「これで未来と繋がれるんだな!」
「まだ分からない」
スコールが答える。
「だが、可能性はできた」
アーヴァインが安堵したように笑った。
「いやあ、苦労した甲斐があったねえ」
「喜ぶのは後にしろ」
サイファーが言った。
全員が振り返る。
アルテマウェポンは、まだそこにいた。
青白い装甲には幾つもの亀裂が走っている。
だが、四本の脚はしっかりと床を踏みしめ、巨大な剣を握った腕も健在だった。
「……そうだった」
ゼルが顔をしかめる。
「まだ倒してねえんだったな」
アルテマウェポンが剣を持ち上げる。
スコールはガンブレードを構え直した。
「全員、気を抜くな」
巨体が動いた。
巨大な剣が振り下ろされる。
六人が散開した。
轟音。
床が砕ける。
「相変わらず馬鹿力だな!」
ゼルが叫ぶ。
だが、次の攻撃を警戒していたスコールは、あることに気づいた。
(……魔力が集まらない?)
これまでなら、剣を振るった直後に魔法を放ってきた。
クエイク。
メテオ。
グラビジャ。
そして、リヒト・ゾイレ。
しかし、アルテマウェポンは再び剣を振り上げただけだった。
「……待て」
スコールが呟く。
「どうした!?」
ゼルが尋ねる。
「魔法を使ってこない」
「え?」
「エデンをドローしてから、魔法を使っていない」
キスティスも気づいた。
「……確かに」
アルテマウェポンが剣を振るう。
サイファーが回避した。
「だったら何だ!」
「エデンが魔力の制御に関わっていたのかもしれない」
スコールが答えた。
「少なくとも、今は魔法を使えないようだ」
「つまり?」
セルフィが尋ねる。
「警戒するのは、あの剣と腕力だけだ」
ゼルが笑った。
「だったら、話は早えじゃねえか!」
「簡単に言うな」
スコールが答える。
「一撃でもまともに受ければ危険なのは変わらない」
「でも、さっきよりずっと戦いやすいわ」
キスティスが言った。
「そうだ」
スコールはアルテマウェポンを見据えた。
巨大な剣。
圧倒的な腕力。
四本の脚による突進。
それだけでも十分に脅威だった。
だが、魔法がなくなったことで、攻撃の間合いと方向を読めるようになった。
「立て直すぞ」
スコールが言った。
「まず全員、回復しろ」
「了解!」
セルフィとキスティスがケアルガを唱える。
傷が癒え、疲労が和らいでいく。
アーヴァインは距離を取り、銃弾を装填し直した。
ゼルは拳を握り、サイファーもハイペリオンを構え直す。
「……さて」
サイファーが笑った。
「ようやくまともに戦えるな」
「油断するなよ」
スコールが言った。
「おまえこそ」
アルテマウェポンが咆哮を上げた。
巨大な剣を振り回し、六人へ突進してくる。
「散開!」
スコールの声に合わせ、六人が動いた。
剣が床を抉る。
その隙にアーヴァインが銃撃を浴びせた。
弾丸が胸部の亀裂へ集中する。
アルテマウェポンが僅かに身を捩った。
「今よ!」
キスティスが叫ぶ。
ゼルが前脚の関節へ飛び込んだ。
「おらあっ!」
拳が装甲の継ぎ目を捉える。
続けて蹴り。
巨体が傾いた。
そこへセルフィがフレアを放つ。
爆炎がアルテマウェポンの側面を包んだ。
「効いてる!」
セルフィが叫ぶ。
「そのまま続けろ!」
スコールが踏み込んだ。
ガンブレードを振り抜く。
引き金を引く。
爆発。
装甲に新たな亀裂が走った。
アルテマウェポンが剣を振るう。
スコールは身を低くして回避した。
そのまま反対側へ回り込み、再び斬りつける。
剣の軌道が読める。
踏み込みのタイミングも分かる。
先ほどまでとは、明らかに違った。
(……いける)
スコールは確信した。
アルテマウェポンは強い。
だが、今なら倒せる。
「サイファー!」
「何だ!」
「合わせろ!」
「……あ?」
サイファーが一瞬、目を細めた。
そして、スコールの構えを見て笑った。
「なるほどな」
ハイペリオンを握り直す。
「いいぜ。久しぶりに競争といくか」
「競争じゃない」
「細けえこと言うな」
二人は同時に踏み込んだ。
アルテマウェポンが巨大な剣を振り上げる。
スコールが右へ。
サイファーが左へ。
刃が振り下ろされる。
二人はその軌道を見切り、同時に懐へ飛び込んだ。
最初に動いたのはスコールだった。
ガンブレードを横薙ぎに振るう。
引き金を引く。
爆発。
アルテマウェポンの胸部に亀裂が走った。
間髪入れず、二撃目。
三撃目。
四撃目。
斬撃のたびに引き金を引き、刃の内部で生じた爆発が衝撃を増幅させる。
五撃目。
六撃目。
七撃目。
最後の斬撃が、アルテマウェポンの上半身を大きく仰け反らせた。
「……すげえ!」
ゼルが叫ぶ。
七度の連続斬撃。
常人には到底真似できない速度と精度だった。
だが、スコールは止まらなかった。
(……まだだ)
ガンブレードを握る手に、さらに力を込める。
アルテマウェポンが剣を振り上げようとする。
その瞬間、スコールは一歩踏み込んだ。
ガンブレードを振り抜く。
それにあわせてサイファーもハイペリオンを振り抜く。
強烈な衝撃が巨体を襲った。
アルテマウェポンの四本の脚が床から浮く。
「……なっ!?」
ゼルが目を見開いた。
巨体が宙へ持ち上がった。
スコールはそのまま跳んだ。
空中で、ガンブレードを振るう。
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
五撃。
六撃。
七撃。
八撃。
九撃。
十撃。
十一撃。
十二撃。
十三撃。
十四撃。
十五撃。
十六撃。
十七撃。
斬撃が連なり、アルテマウェポンの身体をさらに上空へ押し上げていく。
その動きは、もはや一つの流れだった。
刃が閃くたび、青白い装甲が砕け散る。
スコールは最後に巨体の上へ回り込んだ。
ガンブレードを大きく振り上げる。
(……終わりだ)
全身の力を刃へ集中する。
そして。
「はあああっ!!」
渾身の一撃を振り下ろした。
巨大な光が一直線に走る。
アルテマウェポンの身体が、上から下へ斬り裂かれた。
次の瞬間、巨体が地上へ落下する。
轟音。
床が大きく陥没した。
「……っ!」
ゼルが腕で顔を庇う。
衝撃波が広間を駆け抜けた。
土煙が立ち上る。
「……何だよ、今の」
アーヴァインが呟いた。
セルフィは目を丸くしていた。
「す、すっご……」
キスティスも言葉を失っていた。
スコールが床へ着地する。
ガンブレードを構え直した。
アルテマウェポンは倒れていた。
だが。
まだ動いていた。
四本の脚が震え、巨大な剣を握った腕が持ち上がる。
「……まだか」
スコールが呟く。
その時。
「おい、スコール」
サイファーが声をかけた。
ハイペリオンを肩に担ぎ、口元に笑みを浮かべている。
「いいもん見せてもらったぜ」
「……何だ」
「だがな」
サイファーは左手をゆっくりと掲げた。
「俺だって、負けてられねえんだよ」
その掌に、炎が生まれた。
小さな火が瞬く間に膨れ上がり、激しく燃え盛る。
サイファーはその炎を、アルテマウェポンへ向けた。
「……燃えろ」
次の瞬間、炎が炸裂した。
アルテマウェポンの巨体が爆炎に包まれる。
獣の頭部が咆哮を上げた。
サイファーは既に走り出していた。
床を蹴る。
真上へ跳ぶ。
ハイペリオンを頭上に掲げ、空中で身体を捻った。
そして。
「始末剣……!」
巨大な刃を十字に振り下ろした。
縦。
横。
二筋の斬撃が交差する。
アルテマウェポンの身体に、十字の傷が刻まれた。
サイファーが地面へ着地する。
その瞬間、ハイペリオンを床へ突き立てた。
「血祭り!!」
地面から凄まじい気が迸った。
衝撃がアルテマウェポンの足元から噴き上がる。
巨体が再び宙へ吹き飛ばされた。
四本の脚が空を掻く。
そして、重力に引かれるように落下する。
先ほど刻まれた十字の傷へ、さらに衝撃が集中した。
轟音。
アルテマウェポンの身体が地面へ叩きつけられる。
装甲が砕け散った。
獣の頭部が最後の咆哮を上げる。
巨大な剣が手から離れ、床へ突き刺さった。
そして。
アルテマウェポンは、動かなくなった。
広間に静寂が訪れた。
「……」
誰もすぐには口を開かなかった。
スコールはガンブレードを下ろした。
サイファーもハイペリオンを肩に担ぎ直す。
「……どうだ」
サイファーが笑った。
「俺の勝ちだな」
「何がだ」
スコールが呆れたように答える。
「最後に倒したのは俺だ」
「俺が先に大ダメージを与えた」
「言い訳か?」
「事実だ」
「負け惜しみだな」
「……勝手に言ってろ」
ゼルが二人を見比べた。
「おまえら……」
そして、思わず叫んだ。
「何なんだよ、今の攻撃は!!」
セルフィも頷いた。
「そうだよ! スコールもサイファーも、すっごかった!」
「いや、すごいなんてもんじゃないよ」
アーヴァインが苦笑する。
「アルテマウェポンを空まで打ち上げるなんて、普通じゃないって」
キスティスはスコールを見つめた。
「……スコール」
「何だ?」
「今の技、いつ覚えたの?」
スコールは少し考えた。
「……未来で」
「未来?」
「ああ。何度も戦っているうちに、自然と使えるようになった」
「自然と、ねえ」
アーヴァインが笑う。
「そんな簡単な話じゃないと思うけど」
サイファーが鼻で笑った。
「要は気合いだろ」
「おまえのは何なんだ?」
ゼルが尋ねる。
「俺の?」
「あの炎とか、十字に斬るやつ!」
「昔から練習してた」
「昔から!?」
「ああ。いつか使ってやろうと思ってな」
「……どこで練習したんだよ」
サイファーはスコールを見て鼻を鳴らした。
「秘密だ」
「何だよ、それ!」
セルフィが笑った。
緊張が解け、六人の間にようやく安堵が広がっていく。
スコールは倒れたアルテマウェポンへ目を向けた。
青白い装甲は砕け、巨大な剣も床に転がっている。
もう動く気配はなかった。
(……終わったか)
深く息を吐く。
そして、自分の内側へ意識を向けた。
そこには、確かに新たな存在があった。
エデン。
これまで得てきたG.F.とは、明らかに異なる感覚だった。
無数の場所が重なり合い、遥か遠くへ伸びているような、不思議な繋がり。
(……これなら)
スコールは目を閉じた。
未来。
ラグナ。
エルオーネ。
そして、もう一人の自分。
彼らと繋がるための手掛かりが、ようやく手に入った。
「スコール?」
キスティスが声をかける。
スコールは目を開いた。
「……帰ろう」
「え?」
「エデンは手に入れた。ここに長居する必要はない」
「そうね」
キスティスが頷いた。
「まずはエスタへ戻りましょう」
「ラグナ大統領にも報告しないとな」
アーヴァインが言った。
「おっ、じゃあラグナロクでひとっ飛びだね!」
セルフィが笑う。
「その前に、この地下から出なきゃいけないけどな」
ゼルが言った。
「……あ」
セルフィが固まった。
「またあの階段、上るの?」
「そういうことだ」
スコールが答える。
「ええええっ!」
セルフィの悲鳴が広間に響いた。
サイファーが笑う。
「嫌なら置いてくぞ」
「それはもっと嫌!」
六人は笑いながら歩き始めた。
海洋探査人工島の最深部。
そこに眠っていた究極の兵器は、ついに沈黙した。
そして、スコールの内側には、新たな力が宿っていた。
エデン。
二つの時代を隔てる壁を越えるための、最後の手掛かり。
その力が何をもたらすのか。
まだ、誰にも分からなかった。