FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第二十五話 帰還

 エスタの研究施設では、朝からオダイン博士の甲高い声が響いていた。

「違う違う! そこを動かすでない! せっかくの測定結果が台無しになるでおじゃる!」

「博士、誰も触ってませんよ」

 キスティスが落ち着いた声で答えた。

「む?」

 オダインは大きな眼鏡の奥から周囲を見回した。

「……では、なぜ数値が変わったのでおじゃる?」

「博士がさっき、そこの調整器を回してましたよ」

 アーヴァインが指差す。

「むむっ!」

 オダインは慌てて計測器を覗き込んだ。

「そうであったか! ならば問題ないでおじゃる!」

「いや、問題あるんじゃ……」

 ゼルが呟く。

「何か言ったでおじゃるか?」

「い、いや! 何でもねえ!」

 オダインは満足そうに頷くと、再び計測器へ向き直った。

「ふっふっふ……しかし、素晴らしい。実に素晴らしいでおじゃる」

 机の上には、複雑な魔力の変動を示す記録が並んでいる。

 エデン。

 海洋探査人工島で手に入れたG.F.。

 その力を調べ始めてから、オダインはすっかり研究に没頭していた。

「この魔力の広がり方……通常のG.F.とはまるで異なるでおじゃる。空間の隔たりを無視して、遠く離れた場所へ繋がろうとしておる」

「時間も越えられるの?」

 セルフィが尋ねた。

「それを調べておるのでおじゃる!」

 オダインは胸を張った。

「もっとも、エルオーネの力と組み合わせれば、可能性は十分にある。いや、むしろ、そうでなければ困るでおじゃる!」

「どうして?」

「余がこれほど興味を持った研究が、何の成果もなく終わっては面白くないではないか!」

「……それが理由?」

 セルフィが苦笑する。

「当然でおじゃる!」

 オダインは威張るように答えた。

 その様子を見て、キスティスが小さく息を吐いた。

 言動だけを見れば、どこか間の抜けた人物だった。

 だが、研究の腕は疑いようがない。

 エルオーネの能力を分析し、魔女に関する研究を重ね、エスタの技術を発展させてきた天才。

 今回も、エデンの力を調べ始めてから、僅かな時間で実験の準備を整えていた。

 その才能と性格が、もう少し釣り合っていればよかったのだが。

「……博士」

 エルオーネが声をかけた。

「そろそろ始めてもいい?」

「む?」

 オダインは顔を上げた。

「もう準備ができたのでおじゃるか?」

「うん」

「よろしい!」

 オダインは大きく頷いた。

「では、余の天才的な研究成果を存分に見せるがよい!」

「……エルオーネがやるんだけどな」

 ゼルが小声で呟いた。

「何か言ったでおじゃるか!?」

「何でもねえって!」

部屋の中央では、スコールが椅子に腰掛けていた。

 目を閉じ、静かに呼吸を整えている。

 この世界へ来てから、随分と時間が経った。

 最初は戸惑うことばかりだった。

 知らない場所。

 知らない出来事。

 そして、自分をよく知っている仲間たち。

 未来の自分が何をしてきたのか、彼らから一通り話は聞いている。

 それでも、すべてを理解したとは言えなかった。

 特に、リノアのことは。

「スコール」

 声がして、目を開いた。

 リノアが隣に立っていた。

「……何だ」

「緊張してる?」

「……少し」

 リノアは微笑んだ。

「そっか」

「……おまえは?」

「私?」

「ああ」

「すっごく緊張してる」

 リノアは胸の前で手を握った。

「だって、やっと戻ってくるかもしれないんだもん」

「……そうだな」

 スコールは頷いた。

 リノアは隣の椅子へ腰を下ろした。

「でもね」

「何だ?」

「ちょっと寂しい気もする」

 スコールは彼女を見た。

「……どうして」

「だって、あなたとも仲良くなれたから」

 リノアは笑った。

「最初は全然話してくれなかったけど、今はこうして普通に話せるでしょ?」

「……そうか?」

「うん」

 リノアは頷いた。

「だから、あなたが元の世界に戻るのは嬉しいけど、もうこうして話せなくなるのは少し寂しいかなって」

 スコールは黙った。

 この世界へ来たばかりの頃、リノアの距離の近さには戸惑った。

 未来の自分の恋人だと聞かされても、実感が湧かなかった。

 だが、一緒に過ごすうちに、彼女がどういう人間なのか少しずつ分かってきた。

 よく笑う。

 よく怒る。

 思ったことをすぐ口にする。

 そして、驚くほど真っ直ぐだった。

「……俺も」

 スコールが呟いた。

「え?」

「……いや」

 スコールは目を逸らした。

「何でもない」

「えー、何?」

「……別に」

「気になるじゃない」

 リノアが顔を覗き込む。

 スコールは少しだけ困ったように眉を寄せた。

「……世話になったとは思ってる」

 リノアが目を瞬いた。

 そして、嬉しそうに笑った。

「そっか」

「……ああ」

「じゃあ、帰ったら頑張ってね」

「何を」

「いろいろ」

「……何だ、それ」

 リノアは笑った。

「未来のスコールに負けないくらい、いろいろ経験してきてね」

 スコールは少し考えた。

 そして、小さく頷いた。

「……ああ」

 リノアは満足そうに笑った。

 その笑顔を見て、スコールはふと思った。

(……向こうの俺は)

 こんな相手と、いつも一緒にいるのか。

 自分にはまだ想像できない。

 けれど、以前ほど不思議には思わなくなっていた。

同じ頃。

 過去の世界では、ラグナロクがエスタへ向けて飛行していた。

 海洋探査人工島を離れ、青い海の上を進んでいる。

「いやあ、やっと終わったねえ」

 アーヴァインが大きく伸びをした。

「本当に長かったわ」

 キスティスが頷く。

「でも、エデンを手に入れられたのは大きいわね」

「それにしても、あのアルテマウェポン……」

 ゼルが拳を握った。

「とんでもねえ奴だったな」

「最後のスコールとサイファーも、とんでもなかったけどね!」

 セルフィが笑う。

「もう一回見たいなあ、あの技!」

「冗談じゃない」

 スコールが答えた。

「何度も使うようなものじゃない」

「えー、そうなの?」

「身体への負担が大きい」

「へえ」

 ゼルが興味深そうに身を乗り出した。

「なあ、あれって俺にもできるのか?」

「無理だろ」

 サイファーが即答した。

「何でだよ!」

「ガンブレード持ってねえだろ、おまえ」

「そういう問題か!?」

「少なくとも、あの技はそうだ」

 スコールが言った。

「剣の重さと爆発の反動を利用している。普通の武器では同じ動きにならない」

「……なるほどな」

 ゼルは少し考え込んだ。

「じゃあ、俺は俺の技を極めるしかねえか」

「そういうことだ」

 サイファーが笑う。

「おまえは拳で頑張れ」

「何か腹立つ言い方だな!」

 セルフィが笑い声を上げた。

 ラグナロクの操縦席には、明るい空が広がっていた。

 海洋探査人工島での戦いを終え、ようやく一息つける。

 だが、スコールの胸には別の緊張があった。

 エデン。

 今、自分の内側に宿っている存在。

 その力が、時代を隔てたもう一人の自分へ繋がる可能性がある。

(……試してみるか)

 スコールは座席に腰を下ろした。

 目を閉じる。

 すると、これまでとは異なる感覚が広がった。

 無数の光。

 遠く離れた場所へ伸びる、幾つもの繋がり。

 その一つが、奇妙に懐かしかった。

(……何だ?)

 意識を向ける。

 すると、そこに何かがいた。

 自分とよく似た存在。

 いや、似ているのではない。

(……俺だ)

 スコールは目を開いた。

「……キスティス」

「どうしたの?」

「エデンを使ってみたい」

「今?」

「ああ」

 キスティスは少し驚いた。

「エスタへ戻ってからじゃなくて?」

「今なら、繋がりを感じ取れる気がする」

「……そう」

 キスティスは考えた。

「分かったわ。でも、一人ではやらないで」

「何でだ?」

「前回のことがあるでしょう」

 その言葉に、スコールは黙った。

 エルオーネの力によって、意識が入れ替わった。

 今回も、何が起こるか分からない。

「……分かった」

 キスティスが仲間たちへ声をかけた。

「みんな、少し集まって」

「何?」

 セルフィが振り返る。

「スコールがエデンを試したいそうよ」

「おっ、いよいよか!」

 ゼルが立ち上がった。

 アーヴァインが操縦席へ向き直る。

「じゃあ、ラグナロクは自動操縦にしておくよ」

「頼む」

 スコールが頷く。

 サイファーは壁にもたれた。

「で、どうするんだ?」

「まず、向こうの俺を探す」

「探すって、どうやって?」

 セルフィが尋ねる。

「……分からない」

「またそれ?」

 ゼルが笑った。

「でも、今度は何となく分かる気がする」

 スコールは目を閉じた。

 エデンへ意識を向ける。

(……頼む)

 言葉にならない感覚が返ってきた。

 無数の光が広がる。

 その中に、一つだけ、明らかに異なるものがあった。

 自分と同じ形をした、もう一つの意識。

(……いた)

 スコールは、その光へ手を伸ばした。

エスタの研究室。

 エルオーネはスコールの前に立っていた。

「準備はいい?」

「……ああ」

 スコールが頷く。

 エルオーネは目を閉じた。

 未来のエデンが、その力を広げる。

 無数の繋がりが、意識の中に浮かび上がった。

(……スコール)

 エルオーネは呼びかけた。

 目の前にいるスコールではない。

 遠い過去にいる、もう一人のスコール。

 その意識を探す。

 すると。

(……あれ?)

 何かが、こちらへ向かってきた。

 無数の繋がりの奥から、一つの光が近づいてくる。

 エルオーネは息を呑んだ。

(……向こうから?)

 まるで、誰かがこちらを探しているようだった。

 その光は、目の前のスコールと同じ形をしている。

 けれど、少しだけ違う。

 未来のスコールが経験した出来事を宿した意識。

(……見つけた)

 エルオーネは、その光へ手を伸ばした。

 同時に。

 ラグナロクの中で、スコールも同じことをしていた。

 互いを探していた二つの意識が、時代を越えて触れ合った。

 次の瞬間。

 両方のエデンが、同時に強く輝いた。

スコールは、何もない場所に立っていた。

 上下も左右も分からない。

 足元には地面がなく、頭上には空もない。

 ただ、無数の光が遠くまで広がっている。

(……ここは)

 声を出そうとして、気づいた。

 自分の身体が見えない。

 けれど、意識だけははっきりしていた。

 その時、前方に人影が現れた。

 黒い服。

 茶色の髪。

 灰色の瞳。

 見慣れた顔だった。

 自分の顔。

 まったく同じ、十七歳の姿。

「……おまえ」

 未来のスコールが呟く。

 相手もこちらを見ていた。

「……俺?」

 過去のスコールが、困惑したように尋ねた。

 未来のスコールは頷いた。

「ああ」

「……何なんだ、これは」

「説明すると長くなる」

「……そうか」

 二人はしばらく黙っていた。

 同じ顔。

 同じ声。

 同じ癖。

 けれど、互いに違う時間を生きている。

 過去のスコールが先に口を開いた。

「……あんたが、未来の俺なのか」

「ああ」

「……そうか」

 また沈黙が訪れた。

 未来のスコールは、少しだけ笑った。

「何だ。もっと驚くかと思った」

「……十分驚いてる」

「そうか」

「……あんたは?」

「俺もだ」

 二人は互いを見つめた。

 過去のスコールが、少し躊躇ってから尋ねた。

「……俺は、ちゃんとやれてるのか」

 未来のスコールは、その言葉に目を細めた。

「何を?」

「……いろいろ」

「いろいろ、か」

 未来のスコールは少し考えた。

 ガーデン。

 SeeD。

 仲間たち。

 リノア。

 そして、ラグナ。

 思い浮かぶものは、いくらでもあった。

「……完璧じゃない」

 未来のスコールが答えた。

「失敗もするし、後悔もする」

「……そうか」

「でも」

 スコールは続けた。

「悪くないと思ってる」

 過去のスコールは、少し驚いたように顔を上げた。

「……そうなのか」

「ああ」

 未来のスコールが頷く。

「おまえも、そのうち分かる」

「……分かった」

 その時、二人の周囲に光が集まり始めた。

 遠くから、誰かの声が聞こえる。

『スコール!』

 リノアの声。

 未来のスコールは顔を上げた。

 別の方向からも声が聞こえた。

『スコール!』

 キスティス。

 ゼル。

 セルフィ。

 アーヴァイン。

 サイファー。

 過去の仲間たちの声だった。

「……戻る時間みたいだな」

 未来のスコールが言った。

「……ああ」

 過去のスコールが頷く。

 そして、少し迷ってから口を開いた。

「……一つだけ」

「何だ?」

「……リノアって人」

 未来のスコールは思わず目を瞬いた。

「……何だ」

「……あの人、俺のことを」

 過去のスコールは言葉を探した。

「……いや、何でもない」

 未来のスコールは、少しだけ笑った。

「気になるのか?」

「……別に」

「そうか」

「……何だよ」

「いや」

 未来のスコールは首を振った。

「そのうち分かる」

「……またそれか」

「悪いな」

 二人の身体が光に包まれた。

 そして。

 意識が、互いの本来の身体へと戻っていった。

エスタの研究室。

 椅子に座っていたスコールの身体が、僅かに揺れた。

「……っ」

 エルオーネが目を開く。

「スコール!」

 リノアが駆け寄った。

 スコールはゆっくりと顔を上げた。

 灰色の瞳が、リノアを捉える。

「……リノア」

 その声を聞いた瞬間、リノアの胸が高鳴った。

 同じ声。

 同じ顔。

 けれど。

「……スコール?」

 リノアが小さく尋ねた。

 スコールは、少し困ったように笑った。

「ああ」

「……本当に?」

「本当に」

 リノアは一歩近づいた。

「……私のスコール?」

 スコールは一瞬だけ目を逸らした。

 そして、少し照れくさそうに答えた。

「……そうだ」

 その言葉を聞いた瞬間。

 リノアは飛びついた。

「スコール!!」

「うわっ!」

 スコールが椅子ごと倒れそうになる。

 慌ててリノアを抱き止めた。

「お、おい……」

「よかった……!」

 リノアはスコールの胸に顔を埋めた。

「本当に、よかった……!」

 声が震えていた。

 スコールは何も言わなかった。

 ただ、リノアの背中へ腕を回した。

 少し強く抱き締める。

「……心配かけたな」

「本当だよ……」

 リノアが顔を上げる。

 目には涙が浮かんでいた。

「どれだけ心配したと思ってるの?」

「……悪かった」

「もう、勝手にいなくならないで」

「……ああ」

「絶対だからね」

「分かった」

 リノアはもう一度、スコールへ抱きついた。

 スコールは今度こそ、自然に抱き締め返した。

 その様子を見て、セルフィが歓声を上げた。

「やったあああ!!」

 ゼルも拳を突き上げる。

「戻った! 戻ったんだな!」

「……ああ」

 スコールが答える。

 キスティスが安堵したように息を吐いた。

「本当に、よかった……」

 アーヴァインが笑う。

「いやあ、長かったねえ」

「エルオーネ!」

 セルフィが駆け寄った。

「大成功だよ!」

「……うん」

 エルオーネも笑った。

 その目には涙が浮かんでいた。

「よかった……本当に」

 ラグナは少し離れた場所で、その光景を見ていた。

 スコールが戻った。

 自分が知っている、未来のスコール。

 その姿を見て、ラグナはようやく肩の力を抜いた。

「……おかえり」

 小さく呟く。

 スコールが顔を上げた。

 ラグナと目が合う。

 しばらく見つめ合った後、スコールは頷いた。

「……ただいま」

 ラグナは笑った。

「おう!」

 それ以上、何も言わなかった。

 言わなくても、十分だった。

 

 一方、過去の世界。

 ラグナロクの客室で、スコールが目を開いた。

「……っ」

 身体が重い。

 頭の奥が、少しぼんやりしている。

 けれど、何かが違った。

 手を持ち上げる。

 見慣れた指先。

 記憶にある身体の感覚。

(……戻った)

 スコールはゆっくりと身体を起こした。

 周囲には、仲間たちが集まっていた。

 キスティス。

 ゼル。

 セルフィ。

 アーヴァイン。

 そして、サイファー。

 全員が、こちらを見ている。

「……スコール?」

 キスティスが尋ねた。

 スコールは一瞬、彼女を見つめた。

 見覚えのある顔。

 バラムガーデンの教官だった女性。

 最後に会った時は、まだ自分の教官だった。

「……先生?」

 その言葉に、キスティスの表情が変わった。

「……スコール?」

「……何だ」

「あなた、本当に……」

 キスティスは言葉を詰まらせた。

 ゼルが身を乗り出す。

「おい! おまえ、俺のこと分かるか!?」

 スコールはゼルを見た。

 見覚えのある顔だった。

 ガーデンで何度か見かけたことがある。

 だが、まともに話した記憶はほとんどない。

「……ゼル、か」

「おおっ!」

 ゼルが声を上げる。

「そうだ! ゼルだ!」

「……何でそんなに喜んでるんだ」

「だってよ!」

 ゼルは言葉を探した。

「いや、何て言えばいいんだ……」

 セルフィが駆け寄る。

「スコール!」

 スコールは彼女を見た。

 見覚えはある。

 未来の仲間たちの中にも、同じ顔の少女がいた。

 ただ、過去の自分として彼女と話すのは初めてだった。

「……セルフィ」

「えっ!」

 セルフィが目を丸くした。

「覚えてるの!?」

「……未来で会った」

「あ、そっか!」

 セルフィが笑った。

「そうだよね!」

 アーヴァインが手を上げる。

「じゃあ、僕のことも分かるかな?」

「……アーヴァイン」

「正解」

 アーヴァインが笑った。

「いやあ、何だか妙な気分だねえ」

 スコールは周囲を見回した。

 知っている顔ばかりだった。

 未来で会った仲間たち。

 彼らと同じ顔をした、過去の仲間たち。

 ただし、こちらの彼らとは、まだほとんど話したことがない。

 その時。

「おい」

 聞き慣れた声がした。

スコールが振り返ると、サイファーがハイペリオンを肩に担いで立っていた。

「……サイファー」

「よう、久しぶりだな」

「ああ」

 スコールは頷いた。

「最後に覚えているのは、おまえとの訓練だ」

「そうか。俺にとっちゃ、ずいぶん前の話だぜ」

「……そうらしいな」

「何だ、聞いてんのか?」

「未来で一通り説明された」

「へえ」

 サイファーが口元を緩める。

「じゃあ、俺がSeeDになったことも知ってるわけだ」

「ああ。正直、驚いた」

「何だと?」

「おまえが試験に合格するとは思ってなかった」

「てめえ、戻って早々それかよ」

 サイファーが睨むと、スコールはわずかに笑った。

「……お互い様だろ」

「はっ、言うじゃねえか」

 ゼルが吹き出した。

「何だよ、結局いつもどおりじゃねえか!」

「うるせえ、ゼル!」

 サイファーが言い返す。

 そのやり取りを見ながら、キスティスはほっとしたように微笑んだ。

 未来のスコールと過ごした時間は、決して短くなかった。

 彼は自分たちを導き、何度も危険から救ってくれた。

 けれど、今目の前にいるのは、訓練を終えたばかりのスコールだった。

 まだSeeD試験も受けていない。

 ティンバーにも行っていない。

 リノアとも出会っていない。

 それでも、彼は未来で仲間たちと過ごし、この世界で起きた出来事をある程度知っている。

 何も知らないわけではない。

 ただ、自分自身の経験としては、まだ始まっていないのだ。

「……スコール」

 キスティスが声をかけた。

「おかえりなさい」

 スコールは彼女を見た。

「……ああ」

 少し間を置いてから、答える。

「ただいま」

 キスティスが笑った。

 ゼルが肩を叩く。

「これからよろしくな!」

「……ああ」

 セルフィも手を差し出した。

「私も!」

「……よろしく」

 アーヴァインが笑う。

「僕も改めて、よろしく」

「……ああ」

 サイファーが鼻で笑った。

「何だよ、改まって」

「おまえも何か言ったら?」

 セルフィが尋ねる。

「俺が?」

「そう!」

 サイファーは少し考えた。

 そして、スコールへ目を向ける。

「……まあ、せいぜい足引っ張るなよ」

「……おまえこそ」

 スコールが即答した。

 サイファーが笑う。

「言うじゃねえか」

 ゼルが呆れたように首を振った。

「こいつら、本当に変わんねえな……」

 笑い声が広がる。

 スコールはその輪の中にいた。

 まだ、すべてを理解したわけではない。

 知らない出来事も多い。

 自分が経験していない戦いを、未来の自分が代わりに乗り越えてきた。

 その事実は、簡単には受け止められない。

 だが、目の前にいる仲間たちは、自分を歓迎している。

 それだけは分かった。

(……これから、どうなるんだろうな)

 スコールは窓の外を見た。

 青い空が広がっている。

 ラグナロクは、エスタへ向けて飛び続けていた。

 過去と未来。

 二つの時代に分かれていた意識は、ようやく本来の場所へ戻った。

 しかし、過去にはまだ戦いが残されている。

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