FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
エスタの研究施設では、オダインが測定装置の前を行ったり来たりしていた。
「素晴らしいでおじゃる! 実に素晴らしい!」
表示装置には、複雑な波形が幾重にも重なっている。
「異なる時代に存在する同一人物の意識を交換し、再び元の身体へ戻すとは! 余の研究史に残る大発見でおじゃる!」
「博士、喜ぶのは後にしてもらえませんか」
キスティスが声をかけた。
「む? 何を言うでおじゃる。これほどの成果を前に黙っておれというのか!」
「まだ実験は終わっていません。それに、私たちには次にやることがあります」
「むむ……」
オダインは不満そうに口を尖らせたが、やがて椅子へ戻った。
スコールはその様子を見届けると、仲間たちへ向き直った。
「向こうで俺が考えていたことについてだ」
キスティスが頷く。
「ラグナさんを、もう一度過去のあなたにジャンクションさせる作戦ね」
「ああ」
スコールはラグナへ目を向けた。
「向こうにいた時、俺はその方法を考えていた。だが、未来と連絡を取る手段がなかった」
「エルオーネの力は過去にしか届かないものね」
「そうだ。こちらからなら向こうへ干渉できるが、向こうから未来の俺たちへ連絡することはできない」
スコールはオダインの測定装置を見た。
「でも、今はエデンがある」
「その通りでおじゃる!」
オダインが勢いよく立ち上がった。
「エデンによって異なる時代のスコールを繋ぐことができた以上、同じ原理を応用すればラグナの意識を過去へ送り込むことも可能でおじゃる!」
「前にもジャンクションしたことがあるしね」
エルオーネが言った。
「ラグナおじちゃんなら、私も送りやすいと思う」
「そういうことだ」
スコールは頷いた。
ゼルが腕を組んだ。
「でもよ、向こうのスコールは元に戻ったんだろ? だったら、あいつ自身が戦えばいいんじゃねえのか?」
「戦うのは向こうの俺だ」
スコールは答えた。
「ラグナには、仲間たちとの繋がりを補ってもらう」
「……ああ、そういうことか」
ゼルは納得したように頷いた。
未来のスコールは、過去の世界で行動していた間に、その仲間たちと幾つもの戦いを経験した。
だが、本来その身体の持ち主である過去のスコールには、その記憶がない。
時間圧縮の中を進むには、仲間たちとの繋がりが重要になる。
それは一度アルティミシアを倒したスコールたちが、身をもって知っていることだった。
「ラグナは向こうの仲間たちと一緒に戦ってきた。ドールからエスタまで、あいつらと過ごした時間がある」
「それなら、ラグナ様がぴったりだね!」
セルフィが笑った。
「向こうの私たちとも仲良しだし!」
「いやあ、そう言ってもらえると嬉しいな」
ラグナは照れくさそうに頭を掻いた。
「でも、俺にそんな大役が務まるかなあ」
「今さら何言ってんだよ」
ゼルが笑う。
「向こうじゃ、あんたが俺たちを引っ張ってたんだろ?」
「引っ張ってたっていうか……一緒に走り回ってたっていうか……」
「それ、あんまり変わらないんじゃない?」
リノアが笑った。
ラグナもつられて笑う。
スコールはその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
「ラグナ」
「ん?」
「頼めるか?」
ラグナは一瞬だけ真剣な表情になった。
そして、頷いた。
「もちろんだ」
迷いのない返事だった。
「向こうのみんなを、ちゃんとアルティミシアのところまで連れていくよ」
「……頼む」
スコールは頷いた。
だが、話はそれで終わりではなかった。
「もう一つ、問題がある」
仲間たちが顔を上げる。
「時間圧縮だ」
キスティスが表情を引き締めた。
「私たちの時代への影響ね」
「ああ」
スコールは頷いた。
「俺たちは既にアルティミシアを倒している。だが、過去で再び時間圧縮が始まった時、この時代が影響を受けない保証はない」
「……そうね」
キスティスは腕を組んだ。
「時間圧縮は過去も未来も一つにしようとする魔法。私たちが一度経験したからといって、二度目の影響を受けないとは限らないわ」
「それって……」
リノアがスコールを見た。
「今の私たちも、巻き込まれるかもしれないってこと?」
「そうだ」
スコールは否定しなかった。
「それに、向こうでは俺たちが知っている歴史とは違うことが起きている。サイファーがSeeDになったこともそうだし、イデアとの戦いも変わった」
「そうだったね」
セルフィが頷く。
「向こうのサイファー、私たちと一緒に戦ってるんだよね」
「ああ」
「何だか想像つかねえな」
ゼルが苦笑した。
「こっちのサイファーとは大違いだぜ」
スコールは続けた。
「向こうでアルティミシアが倒された結果、この未来そのものが変わる可能性もある」
室内が静かになった。
「……じゃあさ」
アーヴァインが帽子のつばに指をかけた。
「僕たちがここにいること自体、どうなるか分からないってわけ?」
「そういうことだ」
ラグナが腕を組んだ。
「うーん……そりゃ、困ったなあ」
「困った、で済む話じゃないですよ」
キスティスが言った。
「分かってるって」
ラグナは笑った。
「でも、向こうのみんなを放っておくわけにもいかないだろ?」
スコールはラグナを見た。
「……ああ」
「だったら、できることをやるしかないじゃないか」
ラグナは胸を張った。
「こっちはこっちで時間圧縮に備える。向こうは向こうでアルティミシアを倒す。それでいいだろ?」
「簡単に言うわね」
リノアが笑った。
「いや、簡単じゃないのは分かってるけどさ」
ラグナは頭を掻いた。
「難しく考えてるだけじゃ、何も進まないだろ?」
スコールは少しだけ考えた。
そして、頷いた。
「……そうだな」
オダインが咳払いした。
「むむっ。話がまとまったところで、余からも提案があるでおじゃる」
「何ですか?」
キスティスが尋ねた。
「エデンを利用するのでおじゃる」
オダインは表示装置を指差した。
「時間圧縮は時空そのものに干渉する魔法でおじゃる。ならば、エデンの力でこの時代の時空を固定し、影響を抑えることができるかもしれぬのでおじゃる」
「……できるのか?」
スコールが尋ねた。
「理論上は可能でおじゃる!」
「成功率は?」
「実際に始まってみなければ分からぬでおじゃる!」
「……そうか」
スコールはため息をついた。
ゼルが顔をしかめる。
「相変わらず不安になる説明だなあ」
「何を言うでおじゃる! 未知の現象に絶対などないのでおじゃる!」
「それはそうだけどよ……」
エルオーネが口を開いた。
「私も手伝えると思う」
スコールが振り返る。
「ラグナおじちゃんを過去へ送った後なら、エデンの力をこっちに集中させられるはずだから」
「……分かった」
スコールは頷いた。
「まずラグナを送る。それから、時間圧縮への備えを始めよう」
キスティスが仲間たちを見回した。
「私たちも協力するわ」
「当然だろ!」
ゼルが拳を握った。
「向こうの俺たちにも頑張ってもらわねえとな!」
「うん!」
セルフィが笑った。
「ラグナ様、向こうのみんなをよろしくね!」
「おう!」
ラグナは親指を立てた。
「任せとけ!」
スコールはその笑顔を見つめた。
少しだけ、胸の奥が温かくなる。
(……本当に、変わらないな)
何が起きても、ラグナはラグナだった。
そして、その変わらなさが今は頼もしかった。
過去の世界。
ラグナロクはエスタへ向けて飛行を続けていた。
「もうすぐ着くよー!」
操縦席からセルフィの声が響く。
ゼルが窓の外を覗いた。
「やっと戻れるな」
「そうだねえ」
アーヴァインが座席に深く腰掛けた。
「しばらくは飛行機に乗りたくない気分だよ」
「何言ってるの!」
セルフィが振り返る。
「ラグナロクは最高なんだから!」
「前見ろって!」
ゼルが叫んだ。
「分かってるってば!」
キスティスはそのやり取りを聞きながら、スコールへ目を向けた。
「スコール、少しいい?」
「ああ」
「バラムガーデンへ戻ってからのこと、確認しておきたいの」
スコールは頷いた。
「俺もそのつもりだった」
キスティスが仲間たちを集める。
ラグナロクの後部座席に、六人が顔を揃えた。
「まず、エスタでリノアを迎える」
キスティスが言った。
「それからバラムガーデンへ戻って、エルオーネと合流するわ」
「いよいよ決戦か」
ゼルが拳を握った。
「そうなるな」
スコールは頷いた。
未来の自分が過去で説明した作戦は、既に仲間たちも理解している。
アルティミシアを倒すためには、彼女が存在する未来へ行かなければならない。
そのために、アルティミシア自身に時間圧縮魔法を発動させる。
エルオーネの力で、リノアに取り憑いたアルティミシアを過去の魔女へジャンクションさせる。
時間圧縮が始まったら、エルオーネがジャンクションを解除する。
リノアの意識は現在へ戻り、アルティミシアの意識は本来の未来へ戻る。
そして、自分たちは時間圧縮世界を未来方向へ進む。
そこを抜ければ、アルティミシアの時代だ。
「問題は、時間圧縮の中をどう進むかだよね」
アーヴァインが言った。
「そこは未来のラグナに頼る」
スコールが答えた。
サイファーが鼻で笑う。
「またあのおっさんか」
「前に説明しただろ」
「ああ、覚えてるよ」
サイファーは肩をすくめた。
「ま、あいつなら俺たちのことはよく知ってる」
「ラグナ様なら大丈夫だよ!」
セルフィが笑った。
「きっと来てくれるって!」
キスティスも頷いた。
「未来のスコールが、こちらの状況を理解してくれていればね」
「……ああ」
スコールは窓の外を見た。
未来で過ごした時間。
あの世界の仲間たち。
そして、未来のラグナ。
彼らが今、何をしているのかは分からない。
ただ、未来の自分なら同じ結論に辿り着くはずだ。
(……頼むぞ)
スコールは心の中で呟いた。
遠くに、エスタの巨大な都市が見え始めていた。
エスタへ到着すると、六人は大統領官邸へ向かった。
「おーい!」
ラグナが大きく手を振って迎えた。
「無事だったか!」
「何とかな」
サイファーが答える。
「そっか、よかった!」
ラグナは笑った。
そして、スコールへ目を向ける。
「……ん?」
スコールもラグナを見た。
「……ラグナ」
「お、おう」
ラグナは少し首を傾げた。
「何だか雰囲気が違うな」
「元に戻ったんだ」
スコールが答えた。
「……元?」
キスティスが説明した。
エデンの力によって、未来と過去のスコールの意識が元の身体へ戻ったこと。
そして、これからの作戦。
ラグナは真剣に話を聞いていた。
「……なるほどな」
説明が終わると、ラグナは頷いた。
「じゃあ、今のスコールは、こっちのスコールなんだな」
「ああ」
スコールが答えた。
「そうか……」
ラグナは少しだけ笑った。
「おかえり」
「……ああ」
スコールは頷いた。
キロスが二人を見て、口を開いた。
「ラグナ、そろそろ本題に入らないか?」
「あ、そうだったな」
ラグナは頭を掻いた。
「それで、これからどうするんだ?」
「リノアをラグナロクへ移したい」
スコールが答えた。
「病院にいる子だな」
「ああ」
「分かった。じゃあ、俺が迎えに行ってくる!」
ラグナは勢いよく立ち上がった。
「待て、ラグナ」
キロスが呼び止める。
「ん?」
「大統領が自分で迎えに行ってどうする。まず病院に連絡して、搬送の準備をさせるんだ」
「あ、そうか!」
「まったく……」
キロスは額に手を当てた。
「ラグナくんは、いくつになったら考えてから行動できるようになるのかな?」
「おい! その呼び方やめろって!」
「だったら少しは大統領らしくしてくれ」
ウォードが低く笑った。
「何だよ、二人して!」
ラグナは不満そうに口を尖らせた。
キロスは呆れたように息を吐いたが、その表情には笑みが浮かんでいた。
「ほら、さっさと連絡しろ。おまえが騒いでいる間にも、みんなは待ってるんだぞ」
「分かった分かった!」
ラグナは通信機へ向かった。
その背中を見送りながら、キロスは小さく笑った。
「……本当に、変わらない奴だ」
スコールはそのやり取りを見ていた。
(……未来のラグナと、あまり変わらないな)
少しだけ、口元が緩んだ。
リノアはエスタの病院からラグナロクへ運ばれた。
医療用の寝台に横たわり、静かに眠っている。
スコールはその隣に立った。
未来で会ったリノア。
何度も話しかけてきた少女。
今、目の前にいる彼女は、自分のことを知らない。
(……これから、どうなるんだろうな)
スコールは小さく息を吐いた。
「スコール」
キスティスが声をかけた。
「出発するわよ」
「ああ」
スコールは頷いた。
ラグナロクが離陸する。
巨大なエスタの都市が、次第に遠ざかっていった。
向かう先は、バラムガーデン。
アルティミシアとの決戦に備えるためだった。
未来のエスタでは、再び実験の準備が整っていた。
「よし! 始めるでおじゃる!」
オダインが大きく手を振った。
「エルオーネ、準備はよいでおじゃるか?」
「うん」
エルオーネが頷いた。
ラグナは椅子へ腰掛け、目を閉じている。
「ラグナおじちゃん」
エルオーネが声をかけた。
「ん?」
「向こうに着いたら、私たちのことも思い出してね」
「もちろんだよ」
ラグナは笑った。
「エルオーネのこと、忘れるわけないだろ?」
エルオーネも微笑んだ。
スコールが隣へ立つ。
「ラグナ」
「何だ?」
「……頼む」
ラグナは親指を立てた。
「任せとけ!」
エルオーネが両手を伸ばした。
エデンの魔力が広がる。
淡い光が、ラグナを包み込んだ。
「むむむっ! 繋がったでおじゃる!」
オダインが叫ぶ。
「そのまま維持するでおじゃる!」
エルオーネは目を閉じた。
意識を、遠い過去へ向ける。
ラグナの意識が、光の中へ消えていった。
過去のラグナロク。
スコールは突然、胸の奥に奇妙な感覚を覚えた。
(……何だ?)
視界が揺れる。
身体の感覚が遠のいていく。
そして、頭の奥に声が響いた。
『……おーい』
(……誰だ?)
『スコール、聞こえるか?』
聞き覚えのある声。
(……ラグナ?)
『おう! 久しぶり!』
スコールは目を見開いた。
(……来たのか)
『ああ。待たせたな!』
次の瞬間、身体が大きく揺れた。
「……うわっ!」
スコールは壁に手をついた。
「スコール?」
キスティスが駆け寄る。
「どうしたの?」
「お、おお……」
スコールは顔を上げた。
そして、周囲を見回した。
「……ここ、ラグナロクか?」
キスティスが目を見開いた。
「……ラグナさん?」
「おう!」
ラグナが笑った。
「また来ちゃった」
キスティスは一瞬、呆れたように息を吐いた。
そして、微笑んだ。
「……おかえりなさい」
「ただいま!」
ゼルたちも集まってきた。
「おいおい、またおまえかよ!」
サイファーが笑う。
「おう! 久しぶりだな!」
ラグナが答える。
セルフィが嬉しそうに手を振った。
「ラグナ様ー!」
「セルフィ! 元気だったか?」
「もちろん!」
アーヴァインが肩をすくめた。
「いやあ、何だか懐かしいねえ」
ラグナは仲間たちを見回した。
見慣れた顔。
一緒に戦い、笑い、旅をしてきた仲間たち。
その顔を見て、自然と笑みが浮かんだ。
「……よし」
ラグナは頷いた。
「今度こそ、最後まで行こうぜ!」
バラムガーデンへ戻った一行は、作戦の最終確認を行った。
エルオーネも合流し、リノアの状態を確認している。
「……準備はいい?」
キスティスが尋ねた。
「うん」
エルオーネが頷いた。
ラグナはリノアを見つめた。
眠ったままの少女。
その身体の中には、未来の魔女が潜んでいる。
「……頼むぞ」
ラグナが言った。
エルオーネは目を閉じた。
両手を伸ばし、意識を集中させる。
淡い光が、リノアの身体を包み込んだ。
リノアとアルティミシアの意識が、遠い過去の魔女へ送られていく。
そして。
過去に送り込まれたアルティミシアが、時間圧縮魔法を発動した。
空気が震えた。
窓の外の景色が、ゆっくりと歪み始める。
「……始まった」
キスティスが呟いた。
「エルオーネ!」
ラグナが叫ぶ。
「うん!」
エルオーネが力を解放する。
過去の魔女との繋がりを切り離す。
リノアの意識が、現在へ戻る。
アルティミシアの意識が、本来の未来へ戻る。
だが、時間圧縮魔法は止まらなかった。
世界の境界が、崩れ始める。
「……成功したの?」
セルフィが尋ねた。
「うん」
エルオーネが頷いた。
「リノアは戻ったよ。アルティミシアも、未来へ戻ったはず」
「よし!」
ラグナはガンブレードを握り締めた。
「みんな、行くぞ!」
六人は互いに頷き合った。
そして、時間圧縮の中へ踏み出した。
未来のエスタでも、異変は同時に起きていた。
「むむむむっ!?」
オダインが計測器へ飛びついた。
「何でおじゃる!? この魔力の変動は!」
表示装置の数値が激しく上下する。
空間が揺れる。
床が波打つように歪んだ。
「博士!」
エルオーネが叫ぶ。
「時間圧縮でおじゃる!」
オダインが答えた。
「ついに始まったのでおじゃる!」
スコールは窓の外を見た。
エスタの空が、奇妙な色に染まり始めている。
遠くの建物が、揺らめくように歪んでいた。
「……来たか」
リノアが隣へ立つ。
「スコール……」
「ああ」
スコールは頷いた。
「始まった」
ゼルが拳を握った。
「おい、これ大丈夫なのか!?」
「エデンを使う」
スコールが答えた。
「俺たちは、この時代に留まる」
キスティスが頷く。
「エデンの力で、時間圧縮の影響を抑えるのね」
「ああ」
エルオーネが目を閉じた。
「私も手伝う」
スコールは頷いた。
「頼む」
エデンの力が広がった。
巨大な魔力の波が、研究施設を包み込む。
さらに、その力はエスタ全体へと広がっていった。
空間の歪みが、僅かに和らぐ。
だが、時間圧縮そのものが止まったわけではない。
世界の境界が、崩れ始めていた。
「……耐えられるか?」
アーヴァインが尋ねた。
「耐えるしかない」
スコールが答えた。
リノアが彼の手を握る。
「一緒にいるよ」
「……ああ」
スコールは握り返した。
「今度は、離れない」
リノアは微笑んだ。
その時、エデンの魔力が大きく揺れた。
「……何だ?」
スコールが顔を上げる。
遠く離れた場所から、何かがこちらを見ているような感覚があった。
それは、アルティミシアとは違う。
もっと巨大で、異質な存在。
スコールは眉を寄せた。
(……何だ、これは)
だが、その正体を確かめる暇はなかった。
時間圧縮の波が、さらに強くなった。
時間も場所も分からない、世界の狭間。
そこに、一つの影があった。
巨大な獣。
四本の脚。
獣の頭部から伸びる、人間に似た上半身。
そして、巨大な剣。
アルテマウェポン。
未来の海洋探査人工島で、エデンを奪われながらも生き残った存在。
その身体は、時間圧縮の中を漂っていた。
魔力を失い、力の半分を欠いたまま。
だが、消滅はしていなかった。
むしろ、何かを求めるように、ゆっくりと動いていた。
失われた力。
欠けた半身。
それを埋めるものを探していた。
やがて、遠くに幾つもの魔力が現れた。
未来の魔女たち。
アルティミシアとは異なる時代に存在する、幾人もの魔女。
時間圧縮によって、過去と未来の境界が失われていく。
魔女たちもまた、時代の隔たりを越えて同じ空間へ現れていた。
アルテマウェポンが、その力へ近づいた。
巨大な剣が震える。
獣の身体が、魔力の奔流に包まれた。
一人目の魔女が、吸い込まれるように消えた。
その力が、アルテマウェポンへ流れ込む。
二人目。
三人目。
幾人もの魔女が、次々とその身体へ取り込まれていった。
失われた魔力を埋めるように。
だが、それだけでは終わらなかった。
幾つもの時代を経て継承されてきた魔女の力が、アルテマウェポンの存在そのものを変えていく。
肉体が膨張する。
装甲が砕け、新たな形へと組み変わる。
四本の脚が、巨大な魔力の奔流に呑み込まれた。
剣はもういらなかった。
魔女たちの力と、アルテマウェポンの本能が重なった。
互いに異なる存在。
互いに異なる力。
だが、時間圧縮の中では、その境界すら曖昧になっていた。
やがて、巨大な影が姿を現した。
かつてのアルテマウェポンとは、明らかに異なる存在。
魔女の力を宿し、時間の狭間に顕現した兵器。
オメガウェポン。
その名を知る者は、まだ誰もいなかった。
巨大な身体が、ゆっくりと動いた。
そして、時間圧縮の世界へ向けて咆哮した。
過去のスコールたちは、時間圧縮の中を進んでいた。
足元には、地面とも水面ともつかない奇妙な景色が広がっている。
空には、幾つもの時代の風景が重なっていた。
バラムガーデン。
エスタ。
ティンバー。
見覚えのある場所が現れては消えていく。
「うわあ……」
セルフィが周囲を見回した。
「何だか、すごいところに来ちゃったね」
「感心してる場合かよ!」
ゼルが叫ぶ。
「どっちに進めばいいんだ!?」
「落ち着いて」
キスティスが答えた。
「ラグナさん」
ラグナは目を閉じた。
仲間たちの声が聞こえる。
ゼルの騒がしい声。
セルフィの明るい笑い声。
アーヴァインの気の抜けたような口調。
キスティスの落ち着いた声。
そして、サイファーの不敵な笑い。
ドールから始まった旅。
ティンバーでの騒動。
ガルバディアでの戦い。
エスタへ辿り着くまでの道のり。
そのすべてが、ラグナの中に残っていた。
(……みんな)
ラグナは目を開いた。
「こっちだ!」
前方を指差す。
そこには、淡い光が広がっていた。
「本当に大丈夫なのか?」
サイファーが尋ねる。
「大丈夫だって!」
ラグナは笑った。
「俺たちなら、行ける!」
キスティスが頷いた。
「……ええ」
ゼルが拳を握った。
「よし!」
セルフィが笑う。
「行こう!」
アーヴァインも頷いた。
「ここまで来たんだしね」
サイファーがハイペリオンを構えた。
「さっさと抜けようぜ」
六人は光の中へ進んだ。
互いの存在を確かめながら。
離れないように。
見失わないように。
そして。
光を抜けた先で、景色が変わった。
暗い空。
荒れ果てた大地。
遠くにそびえる巨大な城。
アルティミシア城。
魔女が待つ、遥か未来の城だった。
「……着いた」
キスティスが呟く。
ラグナは頷いた。
「ああ」
ゼルが拳を握る。
「ついに来たんだな」
セルフィが城を見上げた。
「何だか、すごいところだね……」
アーヴァインが帽子を直す。
「まあ、魔女の城だしねえ」
サイファーが笑った。
「ようやく本番か」
ラグナは城を見つめた。
未来のスコールから託された作戦。
過去の仲間たちとの絆。
その二つが、ここまで自分たちを導いてくれた。
(……スコール)
ラグナは心の中で呼びかけた。
(……ここまで来たぞ)
身体の奥にいる息子の存在を感じる。
ラグナはガンブレードを握り直した。
「よし」
そして、仲間たちを振り返った。
「行こうぜ!」
六人は、アルティミシア城へ向けて歩き始めた。
その頃、時間圧縮の深淵では、オメガウェポンが静かに動き出していた。
過去と未来。
二つの時代の運命が、今、再び交わろうとしていた。