FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
アルティミシア城。
巨大な鉄門の前で、ラグナは足を止めた。
見上げるほど高い城壁。その向こうには幾つもの尖塔がそびえ、暗い空を突き刺すように伸びている。
周囲に人の気配はない。
風が吹いているのかも分からないほど、辺りは静まり返っていた。
「……ここがアルティミシア城か」
ゼルが呟いた。
「すっげえ不気味だな」
「いかにも魔女のお城って感じだねえ」
アーヴァインが帽子のつばを上げる。
セルフィは門に施された装飾を眺めていた。
「でも、ちょっと格好いいかも!」
「観光に来たんじゃねえぞ」
サイファーが呆れたように言う。
「分かってるってば!」
ラグナはそんな仲間たちのやり取りを聞きながら、城の奥へ目を向けた。
未来のスコールから聞いた話では、この城には侵入者の能力を封じる特殊な力が働いているという。
さらに、城内には八体の強力な魔物が配置されている。
それらを倒さなければ、本来の力を取り戻すことはできない。
「みんな、ちょっと待ってくれ」
ラグナが振り返った。
「この先に入ると、俺たちの能力が封じられるらしい」
「例の八体の魔物ね」
キスティスが確認する。
「ああ。倒すたびに一つずつ取り戻せるって話だ」
「だったら全部倒しゃいいんだろ?」
ゼルが拳を鳴らした。
「そう簡単にいくかどうか……」
「心配性だな、おっさん」
サイファーが笑った。
「何だよ。心配して悪いか?」
「悪いとは言ってねえよ」
サイファーはハイペリオンを肩に担いだ。
「ただ、ここまで来て引き返す気はねえってことだ」
ラグナは少しだけ笑った。
「……そうだな」
キスティスが城門へ目を向ける。
「行きましょう。アルティミシアは、この奥にいるはずです」
「よし!」
ラグナは頷いた。
「みんな、行くぞ!」
六人は巨大な門を押し開けた。
重い音を立てて鉄門が開く。
その先には、広大なホールが広がっていた。
高い天井から古びたシャンデリアが吊り下がり、正面には大階段が伸びている。
壁に並ぶ燭台の炎だけが、薄暗い空間を照らしていた。
「……誰もいないね」
セルフィが呟く。
「いや」
ラグナが階段の先を見た。
「いるぞ」
階段を上った先。
石像のように動かなかった魔物が、ゆっくりと顔を上げた。
スフィンクス。
侵入者を見下ろすように、その巨大な身体が動き始める。
「さっそくお出ましか」
サイファーが笑った。
ラグナがガンブレードを構える。
「気をつけろ! こいつを倒せば、封じられた能力を一つ取り戻せるはずだ!」
「だったら話は早え!」
ゼルが飛び出した。
戦闘が始まる。
魔物の攻撃をかわしながら、六人は連携して攻撃を重ねた。
やがてスフィンクスはアンドロへと姿を変えたが、攻撃の勢いを増した一行の前に長くは持たなかった。
魔物が崩れ落ちる。
同時に、身体を縛っていた奇妙な感覚が一つ消えた。
「……戻った?」
セルフィが自分の手を見た。
「ああ」
ラグナは頷いた。
「これで一つだ」
「あと七体ね」
キスティスが階段の奥を見た。
「先は長そうだなあ」
ラグナが頭を掻く。
「だったら、さっさと進もうぜ」
サイファーが歩き出した。
その後を追い、六人は城の奥へ進んだ。
ワインセラーでは、床から突き出した三角形の刃が動き始めた。
トライエッジ。
激しい雷撃が地下室を照らしたが、キスティスの指示で距離を取り、魔法と物理攻撃を重ねて撃破した。
テラスでは、巨大なコキュートスが待ち受けていた。
鋭い刃が幾度も振り下ろされる。
ゼルとサイファーが前衛を務め、ラグナがその隙を突いた。
画廊では、絵画に隠された仕掛けを解いた先でドルメンが姿を現した。
巨大な身体を見上げたセルフィが思わず声を上げたが、アーヴァインの銃撃が魔物の動きを止め、六人の集中攻撃によって崩れ落ちた。
牢獄ではウルフマライター。
武器庫ではガルガンチュア。
宝物庫ではカトブレパス。
それぞれの魔物を倒すたび、封じられていた能力が戻っていった。
最後に辿り着いたのは時計塔だった。
巨大な歯車が回り続ける塔の内部。
その高所に、黒い翼を持つ魔物がいた。
ティアマト。
口元に集まる魔力が、暗闇を照らす。
「来るぞ!」
ラグナが叫んだ。
直後、凄まじい炎が吹き荒れた。
六人は散開し、炎の中を駆け抜ける。
サイファーのハイペリオンが翼を斬り裂き、ゼルの拳が巨体を揺らした。
キスティスとセルフィが魔法を重ねる。
アーヴァインの銃声が響いた。
最後にラグナが踏み込む。
「これで!」
ガンブレードの刃が閃いた。
ティアマトが大きく身を仰け反る。
そして、巨体が崩れ落ちた。
塔の中に静寂が戻る。
「……終わった?」
セルフィが息を整えながら尋ねた。
「ああ」
ラグナは頷いた。
「これで八体全部だ」
身体を覆っていた最後の束縛が消える。
封じられていた能力は、すべて戻っていた。
「よっしゃあ!」
ゼルが拳を突き上げる。
「これで全力で戦えるぜ!」
サイファーが笑った。
「ようやく準備運動が終わったってところだな」
「よく言うよ」
アーヴァインが肩をすくめる。
「結構苦戦してたじゃないか」
「誰がだ?」
「さあ、誰だろうねえ」
「おまえな……」
ラグナはそのやり取りを聞きながら、時計塔の先を見た。
細い通路が、さらに奥へ続いている。
その向こうに、巨大な扉が見えた。
(……いよいよか)
ラグナはガンブレードを握り直した。
「みんな」
五人が振り返る。
「この先に、アルティミシアがいる」
キスティスが静かに頷いた。
「ええ」
「準備はいいか?」
「もちろん!」
セルフィが答える。
「いつでも来いって感じだぜ!」
ゼルが拳を鳴らした。
アーヴァインが銃を確認する。
「弾も十分あるよ」
サイファーは不敵に笑った。
「さっさと終わらせようぜ」
ラグナは頷いた。
「よし」
六人は、最後の扉へ向かった。
扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。
高い天井。
幾本もの柱。
そして、奥に設けられた巨大な玉座。
その上に、一人の女が座っていた。
長く伸びた銀色の髪。
異様な装飾を施した衣装。
人間離れした美しさと、見る者を圧倒する威圧感。
アルティミシア。
未来の魔女は、ゆっくりと顔を上げた。
「……来たか」
その声が、広間に響いた。
ラグナたちは足を止めた。
アルティミシアは玉座から立ち上がる。
「もう少しで完全なる時間圧縮の世界が完成するというのに……」
冷たい視線が、六人を順に捉えた。
「おまえたちは、どこまでもわたしの邪魔をする」
ラグナが一歩前へ出た。
「アルティミシア!」
魔女はその声を聞いて、僅かに眉を動かした。
「……ほう」
その目がラグナへ向けられる。
「おまえ……」
アルティミシアは薄く笑った。
「奇妙な存在だな」
ラグナはガンブレードを構えた。
「何がだ?」
「その身体に宿る意識。おまえは、この時代の者ではない」
仲間たちの表情が変わった。
アルティミシアは愉快そうに笑う。
「なるほど。時間を越えて、他人の身体を借りているというわけか」
「……だったら何だよ」
ラグナが答えた。
「わたしを倒すために、そこまでしてやって来たか」
魔女は玉座からゆっくりと降りた。
「だが、無駄なことだ」
その足元に、黒い魔力が広がる。
「時間はすべて、わたしのものとなる」
サイファーが一歩前へ出た。
「ずいぶん偉そうじゃねえか」
アルティミシアの視線が向けられる。
「……おまえは」
サイファーはハイペリオンを肩に担いだ。
「何だ? 俺の顔に見覚えでもあるのか?」
アルティミシアはしばらく彼を見つめた。
やがて、冷たく笑った。
「愚かな人間よ。わたしの前に立つ意味も理解していないのか」
「理解してるさ」
サイファーは笑い返した。
「おまえを倒しに来た。それだけだ」
「……ふ」
アルティミシアは目を細めた。
「よかろう」
魔力が広間を満たしていく。
「さあ、最初に来るのは誰だ!? 誰が私と戦うのだ!?」
六人が武器を構えた。
アルティミシアは高らかに笑う。
「ふ……誰であろうと結果は同じこと! 私が選んでやろう!」
次の瞬間、床が激しく揺れた。
黒い光が六人を包み込む。
「うわっ!?」
ゼルが叫んだ。
視界が歪む。
足元の感覚が消える。
ラグナは咄嗟に仲間たちへ手を伸ばした。
「みんな!」
だが、指先は誰にも届かなかった。
光が弾ける。
そして、静寂が訪れた。
ラグナが目を開ける。
そこは先ほどと同じ広間だった。
だが、仲間たちの姿がない。
「……みんな?」
周囲を見回す。
誰もいない。
いや。
「ラグナ様!」
セルフィの声がした。
振り返ると、セルフィが立っていた。
その隣にはキスティス。
「……三人だけ?」
キスティスが周囲を見回した。
「どうやら、アルティミシアに選ばれたみたいですね」
「そんな……」
ラグナは顔をしかめた。
「ゼルたちは?」
「分かりません。でも、きっと無事です」
キスティスは落ち着いて答えた。
「今は目の前の敵に集中しましょう」
ラグナは頷いた。
「……ああ」
アルティミシアが笑う。
「ふふふ……」
「何がおかしいんだ!」
ラグナが叫んだ。
「おまえたちの絆とやらが、どれほど脆いものか見せてもらおう」
魔女は両手を広げた。
その背後に、巨大な魔法陣が現れる。
「だが、わたしが相手をするまでもない」
魔法陣の中心に、黒い影が浮かび上がった。
「おまえたちが最も恐れるもの……」
アルティミシアの視線が、ラグナへ向けられる。
「いや、その身体の持ち主が、最も強いと信じる存在を呼び出してやろう」
ラグナの胸の奥が、僅かに震えた。
(……スコール?)
魔法陣が大きく広がる。
そこから、巨大な獣が姿を現した。
獅子に似た頭部。
鋭い爪。
全身を覆う、異様な魔力。
その姿を見た瞬間、ラグナは息を呑んだ。
「……グリーヴァ」
キスティスが驚いたように振り返る。
「知っているんですか?」
「ああ……」
ラグナは頷いた。
「未来のスコールから聞いてる」
だが、知っているのは名前だけではなかった。
身体の奥から、強い感情が伝わってくる。
憧れ。
強さへの願い。
そして、決して屈しない存在への思い。
(……そうか)
ラグナは小さく息を吐いた。
(おまえにとって、これが一番強い存在なんだな)
アルティミシアが笑った。
「さあ、見せてみろ。おまえたちの力を」
グリーヴァが咆哮した。
その声が、広間全体を震わせる。
「来るよ!」
セルフィが叫んだ。
ラグナはガンブレードを構えた。
「二人とも、気をつけろ!」
グリーヴァが跳躍した。
巨大な爪が床を砕く。
ラグナは横へ飛び、辛うじて攻撃をかわした。
「うわっ!」
衝撃で身体が浮く。
キスティスが魔法を放った。
セルフィも続く。
だが、グリーヴァはほとんど怯まなかった。
「硬い!」
セルフィが叫ぶ。
「これじゃ、なかなか効かないよ!」
「焦らないで!」
キスティスが声をかける。
「攻撃の隙を狙いましょう!」
ラグナはグリーヴァの動きを見つめた。
巨大な身体。
圧倒的な力。
だが、その動きには一定の癖がある。
(……いける)
ラグナは踏み込んだ。
グリーヴァの爪が振り下ろされる。
その瞬間、横へ滑り込む。
ガンブレードが閃いた。
刃が獣の身体を斬り裂く。
銃撃の衝撃が、傷口へ叩き込まれた。
グリーヴァが咆哮する。
「今だ!」
キスティスとセルフィが魔法を重ねた。
巨大な魔力が、獣を包み込む。
グリーヴァの身体が大きく揺れた。
だが、倒れない。
むしろ、怒りを露わにして咆哮した。
その口元に、巨大な魔力が集まり始める。
「……まずい!」
ラグナが叫んだ。
次の瞬間、凄まじい衝撃が広間を襲った。
床が砕ける。
柱が揺れる。
三人は吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
セルフィが床を転がる。
「セルフィ!」
ラグナは立ち上がろうとした。
だが、身体が思うように動かない。
(……くそっ)
グリーヴァがゆっくりと近づいてくる。
その巨大な爪が、ラグナへ向けられた。
(……スコール)
ラグナは心の中で呼びかけた。
(悪いな。ちょっと、力を貸してくれ)
身体の奥で、何かが応えた気がした。
ラグナはガンブレードを握り直した。
そして、立ち上がった。
「……まだ終わってないぞ!」
グリーヴァが咆哮する。
ラグナは駆け出した。
巨大な爪をかわし、懐へ飛び込む。
ガンブレードを振り抜いた。
連続する斬撃。
銃撃の衝撃。
最後の一撃が、グリーヴァの身体を貫いた。
獣が大きく仰け反る。
そして、ゆっくりと崩れ落ちた。
「……やった?」
セルフィが顔を上げた。
キスティスも息を整えながら立ち上がる。
「……ええ」
ラグナはガンブレードを下ろした。
「何とかなったな……」
だが。
「ふふふ……」
アルティミシアの笑い声が響いた。
三人が振り返る。
魔女は、倒れたグリーヴァを見下ろしていた。
「なるほど……」
その声には、僅かな興味が混じっていた。
「おまえたちの力、少しは認めてやろう」
アルティミシアが手を伸ばす。
グリーヴァの身体が、黒い光に包まれた。
「だが、これで終わりではない」
光が魔女へ吸い込まれていく。
グリーヴァの姿が消える。
代わりに、アルティミシアの身体が変化し始めた。
巨大な翼。
異形の腕。
魔女と獣が一つになったような姿。
「……ジャンクションした!?」
キスティスが叫んだ。
ラグナは歯を食いしばった。
「聞いてた通りだ……!」
アルティミシアが笑う。
「さあ、続けようではないか」
その声が、先ほどよりも低く響いた。
「おまえたちが、どこまで耐えられるか……」
魔力が爆発した。
第二の戦いが始まる。
先ほどまでとは比べものにならない攻撃。
グリーヴァの力を取り込んだアルティミシアは、圧倒的な魔力で三人を追い詰めていった。
キスティスが防御魔法を展開する。
セルフィが回復を続ける。
ラグナは隙を見て斬り込むが、魔女の身体を覆う魔力に阻まれる。
「……くそっ!」
ラグナが後退した。
「これじゃ、近づけない!」
「ラグナさん!」
キスティスが叫ぶ。
「魔力が集中する瞬間を狙ってください!」
「分かった!」
アルティミシアが両手を広げる。
巨大な魔法陣が現れた。
その中心に、凄まじい魔力が集まっていく。
ラグナは踏み込もうとした。
だが、その瞬間。
「おいおい、三人だけで楽しんでんじゃねえよ!」
聞き覚えのある声が響いた。
ラグナが振り返る。
広間の入口に、三つの影が立っていた。
ゼル。
アーヴァイン。
そして、サイファー。
「……おまえら!」
ラグナが声を上げた。
「遅くなったな!」
ゼルが拳を鳴らす。
「いやあ、なかなか戻って来られなくてさ」
アーヴァインが帽子を直した。
「でも、何とか辿り着いたよ」
サイファーが笑う。
「おっさん、ずいぶん苦戦してるじゃねえか」
「うるさいな!」
ラグナが笑い返した。
「来てくれて助かったよ!」
アルティミシアが不快そうに顔を歪めた。
「……何故だ」
その声が低く響く。
「わたしが切り離したはずの者たちが、何故ここにいる」
サイファーがハイペリオンを構えた。
「決まってんだろ」
不敵に笑う。
「仲間を置いて帰れるかよ」
ゼルがラグナの隣へ並んだ。
「これで六人揃ったな!」
「ああ!」
ラグナは頷いた。
「みんな、行くぞ!」
六人が武器を構える。
アルティミシアが怒りを露わにした。
「……愚かな人間どもめ!」
巨大な魔力が、再び広間を満たす。
「その絆とやらも、わたしの前では無意味だ!」
「だったら試してみろよ!」
サイファーが叫んだ。
ゼルが飛び出す。
アーヴァインの銃声が響く。
キスティスとセルフィが魔法を重ねる。
ラグナはガンブレードを握り直した。
六人の攻撃が、アルティミシアへ集中する。
グリーヴァの力を取り込んだ魔女は、なおも強大だった。
だが、三人だけでは突破できなかった攻撃も、六人ならば対応できる。
ゼルとサイファーが前衛を務める。
アーヴァインが遠距離から援護する。
キスティスが防御と回復を指示し、セルフィが魔法を重ねる。
そして、ラグナが隙を突く。
「……おのれ!」
アルティミシアが叫んだ。
魔力の奔流が、六人を襲う。
だが、誰も退かなかった。
「今だ!」
キスティスが叫ぶ。
ゼルが踏み込む。
拳が魔女の身体を打ち抜いた。
サイファーのハイペリオンが閃く。
アーヴァインの銃撃が続いた。
セルフィの魔法が、魔女の動きを封じる。
ラグナが駆け出した。
「これで!」
ガンブレードが閃いた。
刃が魔女の身体を斬り裂く。
銃撃の衝撃が、内部へ叩き込まれた。
アルティミシアが大きく仰け反る。
「……馬鹿な!」
その声が、広間に響く。
そして、魔女の身体が崩れ始めた。
「……やったか?」
ゼルが呟いた。
だが、次の瞬間。
空間そのものが震えた。
城の壁が消える。
床が崩れ落ちる。
天井が、暗闇へ溶けていく。
「……何!?」
キスティスが叫んだ。
六人の身体が、宙へ浮かび上がる。
周囲の景色が、完全に消えた。
そこには、何もなかった。
ただ、無限に広がる暗闇。
そして、その中心に。
巨大な影が現れた。
先ほどまでのアルティミシアとは、明らかに異なる姿。
人間の形を失い、巨大な魔力の塊となった存在。
その身体から、幾つもの光が伸びている。
まるで、時間そのものを掴もうとしているかのようだった。
「……これが」
ラグナが息を呑む。
「アルティミシアの……本当の姿……」
巨大な影が、ゆっくりと顔を上げた。
そして、声が響いた。
「わたしはアルティミシア」
その声は、空間全体から聞こえてきた。
「全ての時間を圧縮し」
無数の光が、六人へ向けられる。
「全ての存在を否定しましょう」
次の瞬間、巨大な魔力が押し寄せた。
「避けろ!」
ラグナが叫んだ。
六人は散開する。
だが、魔力の波は空間全体を覆っていた。
逃げ場がない。
凄まじい衝撃が、身体を貫いた。
「ぐあっ!」
ラグナが吹き飛ばされる。
ゼルとサイファーも、遠くへ弾き飛ばされた。
キスティスとセルフィが防御魔法を展開するが、魔力の奔流はそれすら押し潰そうとする。
「……くそっ!」
ラグナは歯を食いしばった。
このままでは、全員が倒される。
だが。
(……まだだ)
ラグナは目を閉じた。
仲間たちの顔が浮かぶ。
ゼル。
サイファー。
アーヴァイン。
キスティス。
セルフィ。
そして、スコール。
(……みんな)
ラグナは心の中で呼びかけた。
(……力を貸してくれ)
その瞬間。
遠くから、声が聞こえた。
「ラグナ様!」
セルフィの声。
「まだ終わってません!」
キスティスの声。
「おっさん、寝てんじゃねえぞ!」
サイファーの声。
「立てるか!?」
ゼルの声。
「まだ撃てるよ!」
アーヴァインの声。
ラグナは目を開いた。
五人が立ち上がっている。
傷だらけになりながらも、武器を構えていた。
「……そうだな」
ラグナは笑った。
「まだ終わってない!」
ガンブレードを握り直す。
六人は再び、アルティミシアへ向かった。
巨大な魔力が押し寄せる。
キスティスが防御魔法を展開する。
セルフィが回復を重ねる。
ゼルとサイファーが前へ出る。
アーヴァインが銃撃で援護する。
そして、ラグナが隙を突く。
何度も弾き飛ばされながら。
何度も立ち上がりながら。
六人は攻撃を続けた。
やがて、アルティミシアの身体に亀裂が走った。
巨大な魔力の流れが乱れる。
「……今だ!」
ラグナが叫んだ。
キスティスとセルフィが魔法を放つ。
ゼルとサイファーが同時に踏み込む。
アーヴァインの銃撃が、魔女の動きを止めた。
その中心へ、ラグナが飛び込む。
(……スコール)
身体の奥にいる息子へ、心の中で呼びかけた。
(……これで、終わらせるぞ)
ガンブレードを振り上げる。
「うおおおおっ!」
最後の一撃。
刃が、アルティミシアの身体を貫いた。
巨大な光が弾ける。
魔女の身体が、大きく揺れた。
「……馬鹿な」
その声が、暗闇に響いた。
「この……わたしが……」
アルティミシアの身体が、崩れ始める。
無数の光が、空間へ散っていく。
そして。
魔女は、静かに呟いた。
「思い出したことがあるかい」
その声は、先ほどまでとは違っていた。
「子供の頃を」
ラグナは動きを止めた。
「その感触」
「そのときの言葉」
「そのときの気持ち」
魔女の身体が、少しずつ消えていく。
「大人になっていくにつれ」
「何かを残して 何かを捨てていくのだろう」
ラグナは黙って聞いていた。
「時間は待ってはくれない」
「にぎりしめても」
「ひらいたと同時に離れていく」
その言葉が、暗闇へ溶けていく。
「そして……」
最後の声は、そこで途切れた。
アルティミシアの姿が、完全に消えた。
無限に広がっていた暗闇が、ゆっくりと崩れ始める。
ラグナはガンブレードを下ろした。
「……終わったのか」
キスティスが周囲を見回す。
「……ええ」
セルフィが大きく息を吐いた。
「やった……」
そして、笑った。
「やったよ、ラグナ様!」
ラグナも笑った。
「ああ!」
ゼルが拳を突き上げる。
「よっしゃあ!」
アーヴァインが帽子を直した。
「いやあ、長かったねえ」
サイファーが笑う。
「ま、こんなもんだろ」
「おまえ、最後まで格好つけるなあ」
ゼルが笑った。
「うるせえ!」
ラグナはそのやり取りを聞きながら、少しだけ目を閉じた。
(……スコール)
身体の奥にいる息子へ呼びかける。
(……終わったぞ)
返事はなかった。
だが、不思議と温かいものが胸に広がった。
その時。
足元の空間が、大きく歪んだ。
「……うわっ!?」
ラグナがよろめく。
キスティスが叫んだ。
「時間圧縮が崩れ始めてる!」
周囲の景色が、次々と消えていく。
暗闇の向こうに、幾つもの時代の風景が浮かび上がった。
バラム。
ティンバー。
エスタ。
そして、見知らぬ場所。
「……まずい!」
ラグナはガンブレードを握り直した。
「みんな、離れるな!」
セルフィがキスティスの手を掴む。
キスティスもラグナへ手を伸ばした。
ゼルとサイファー、アーヴァインも互いの手を掴む。
六人は輪になるように繋がった。
だが、空間の歪みはさらに強くなる。
その時。
ラグナの胸の奥で、何かが光った。
(……エデン?)
未来のスコールから託された、もう一つの作戦。
アルティミシアを倒した後は、エデンの力で帰還する。
ラグナは目を閉じた。
(……頼む)
エデンの魔力が広がる。
淡い光が、六人を包み込んだ。
「ラグナ様!」
セルフィが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
ラグナは笑った。
「俺たちなら、帰れる!」
光が強くなる。
時間圧縮の世界が、ゆっくりと遠ざかっていく。
そして。
六人の姿が、光の中へ消えていった。