FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
エスタの空に走っていた亀裂が、少しずつ閉じ始めていた。
幾重にも重なっていた風景が薄れ、見知らぬ街並みも、逆さまに浮かんでいた山々も、光の中へ消えていく。
研究施設の窓からその様子を見つめていたスコールは、ゆっくりと息を吐いた。
時間圧縮が終わろうとしている。
その変化は、エデンを介して伝わってくる魔力の流れからも明らかだった。
「博士」
スコールが声をかける。
「……どうなった?」
「待つのでおじゃる!」
オダインは測定装置の前に張りついたまま、幾つもの数値を確認していた。
「時空の重複率が低下……圧縮領域の拡大も停止しておる……むむむ!」
突然、オダインが椅子から立ち上がった。
「消えた!」
「何が?」
ゼルが身を乗り出す。
「時間圧縮を維持していた魔力の供給源でおじゃる!」
研究室が静まり返った。
オダインは興奮した様子で画面を指差した。
「アルティミシアの魔力反応が消失したのでおじゃる! 時間圧縮は崩壊を始めておる!」
セルフィが目を見開いた。
「それって……」
「ああ」
スコールが答えた。
「向こうの俺たちが勝ったんだ」
「やったあああ!」
セルフィが両手を突き上げた。
「ラグナ様たち、やったんだ!」
「よっしゃあ!」
ゼルも拳を握った。
「やるじゃねえか、向こうの俺たち!」
「本当に……」
キスティスは胸に手を当てた。
「よかった」
アーヴァインが帽子を持ち上げる。
「いやあ、あのサイファーまで一緒に戦ってるんだから、何だか不思議な気分だねえ」
「そうだな」
ゼルが笑った。
「でも、あいつなら最後まで格好つけてそうだぜ」
「想像できる!」
セルフィが声を上げた。
リノアはスコールの隣へ来ると、そっと手を握った。
「よかったね」
「……ああ」
スコールは握り返した。
未来の自分が考えた作戦。
過去の仲間たちが実行し、ラグナが彼らを導いた。
その結果、アルティミシアは倒された。
(……よくやったな)
スコールは心の中で呟いた。
もう一人の自分へ。
そして、今も過去の世界にいるはずの父親へ。
その時、エルオーネが椅子から立ち上がった。
「……ラグナおじちゃん」
小さく呟く。
スコールが振り返った。
「エルオーネ?」
「ラグナおじちゃん、まだ向こうにいるよね」
「ああ」
「……戻してあげないと」
スコールは頷いた。
ラグナの意識は、今も過去のスコールの身体にジャンクションしている。
アルティミシアを倒すためには必要なことだった。
だが、戦いが終わった以上、いつまでもそこに留めておくわけにはいかない。
「博士、できるか?」
オダインが振り返る。
「当然でおじゃる! ただし、今すぐは危険でおじゃるな」
「時間圧縮の影響?」
「そうでおじゃる」
オダインは表示装置を指差した。
「圧縮魔法そのものは崩壊しておるが、異なる時代を繋ぐ経路はまだ安定しておらぬ。今ジャンクションを解除すれば、ラグナの意識が時空の狭間に取り残される可能性があるのでおじゃる」
「……じゃあ、待つしかないの?」
セルフィが尋ねた。
「少しだけでおじゃる」
オダインは頷いた。
「エデンの力で経路を維持しながら、時空の境界が落ち着くのを待つのでおじゃる」
エルオーネが頷いた。
「分かった」
スコールは彼女を見た。
「無理はするな」
「うん」
エルオーネは微笑んだ。
「でも、ラグナおじちゃんを迎えに行くのは私の役目だから」
スコールは何も言わず、頷いた。
窓の外では、エスタの空が本来の色を取り戻し始めていた。
それからしばらくして、時空の変動はようやく収まった。
「……今でおじゃる!」
オダインが叫んだ。
「エルオーネ! エデンの魔力を同期させるのでおじゃる!」
「うん!」
エルオーネが目を閉じた。
研究施設の中央に、淡い光が広がる。
エデンの力が、遠い過去へ向けて伸びていった。
その先には、もう一つの時代。
アルティミシアを倒し、元の世界へ帰還したスコールたちがいる。
エルオーネは、その中にラグナの意識を探した。
(……ラグナおじちゃん)
遠く離れた時代。
その中に、よく知っている温かい気配があった。
(……見つけた)
エルオーネは微笑んだ。
『ラグナおじちゃん』
返事は、すぐに返ってきた。
『おっ、エルオーネ!』
聞き慣れた声。
『そっちは無事か?』
『うん。みんな元気だよ』
『そっか! よかった!』
エルオーネは少しだけ笑った。
『ラグナおじちゃん、帰ろう』
『……ああ』
ラグナの声が、少しだけ柔らかくなった。
『そうだな』
過去のバラムガーデン。
スコールは仲間たちと共に、時間圧縮からの帰還を喜んでいた。
その身体を借りていたラグナが、ふと顔を上げる。
「……あ」
セルフィが振り返った。
「ラグナ様?」
「エルオーネだ」
ラグナは笑った。
「迎えに来てくれたみたいだ」
キスティスが目を細めた。
「そうですか……」
ゼルが拳を握った。
「じゃあ、いよいよお別れか」
「そうだなあ」
ラグナは少し寂しそうに笑った。
サイファーが腕を組む。
「何だよ。もう帰るのか、おっさん」
「おう。向こうでも待ってる奴らがいるからな」
「ふん」
サイファーは鼻を鳴らした。
「最後まで忙しい奴だな」
「おまえに言われたくないぞ!」
ラグナが笑う。
アーヴァインが帽子を持ち上げた。
「まあ、向こうでも元気でね」
「おう!」
キスティスが一歩前へ出た。
「ラグナさん」
「ん?」
「ありがとうございました」
ラグナは少し驚いたように目を開いた。
「何だよ、急に」
「ラグナさんがいなければ、ここまで来られなかったと思います」
キスティスは微笑んだ。
「本当に、お世話になりました」
「……いやあ」
ラグナは照れくさそうに頭を掻いた。
「俺だって、みんながいなきゃ何もできなかったよ」
「ラグナ様!」
セルフィが勢いよく抱きついた。
「また会おうね!」
「お、おう!」
ラグナは少し慌てながら笑った。
「もちろんだ!」
そして、目を閉じた。
身体の奥にいるスコールへ、心の中で呼びかける。
(……スコール)
返事があった。
(……何だ)
(アルティミシア、倒せたな)
(……ああ)
(よかった)
ラグナは少しだけ黙った。
(……これからは、おまえの時間だ)
スコールは答えなかった。
(いろいろ大変だったと思うけどさ。これからは、自分のやりたいことをやればいい)
(……ああ)
(みんなのこと、よろしくな)
(……分かってる)
ラグナは微笑んだ。
(じゃあな、スコール)
エデンの光が強くなる。
ラグナの意識が、ゆっくりと身体から離れていった。
過去のスコールは目を閉じた。
そして、再び開いた。
「……スコール?」
キスティスが声をかける。
「……ああ」
スコールは頷いた。
「戻った」
セルフィが少し寂しそうに笑った。
「ラグナ様、帰っちゃったね」
「……そうだな」
スコールは自分の手を見つめた。
長い間、他人の意識に委ねていた身体。
今は、完全に自分のものになっている。
(……ありがとう)
スコールは心の中で呟いた。
遠い未来へ帰っていったラグナへ。
エスタの研究施設。
椅子に座っていたラグナが、突然大きく息を吸った。
「……うわっ!」
身体が跳ねる。
「ラグナおじちゃん!」
エルオーネが駆け寄った。
「大丈夫?」
「お、おう!」
ラグナは周囲を見回した。
「……戻った?」
「うん!」
エルオーネが笑った。
「おかえり!」
ラグナは目を丸くした。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「ただいま!」
「ラグナ様ー!」
セルフィが駆け寄る。
「おかえりなさい!」
「おう! セルフィ!」
ゼルが笑った。
「無事だったか!」
「もちろん!」
ラグナは胸を張った。
「アルティミシア、倒してきたぞ!」
「知ってるよ!」
セルフィが笑う。
「こっちでも確認できたんだから!」
「えっ、そうなの?」
ラグナが目を丸くした。
「じゃあ、俺が格好よく戦ったところも見てた?」
「いや、そこまでは……」
「何だ、残念!」
ゼルが吹き出した。
「相変わらずだなあ!」
キスティスも微笑んだ。
「お疲れさまでした、ラグナさん」
「いやあ、みんなのおかげだよ」
アーヴァインが帽子を持ち上げる。
「向こうの僕たちも頑張ったんだろうねえ」
「そりゃもう!」
ラグナは嬉しそうに頷いた。
「みんな、すごかったぞ!」
スコールは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
ラグナが振り返る。
「……スコール」
「……ああ」
ラグナは笑った。
「ただいま」
スコールは少しだけ間を置いた。
「……おかえり」
それだけだった。
だが、ラグナには十分だった。
「おう!」
ラグナは嬉しそうに頷いた。
ようやく、すべてが終わった。
少なくとも、その時は誰もがそう思っていた。
研究施設の警報が鳴り響いたのは、それから間もなくのことだった。
「むむっ!?」
オダインが表示装置へ飛びついた。
「何でおじゃる!?」
研究員たちが慌ただしく動き始める。
「博士! 異常な魔力反応を検出!」
「時間圧縮は終わったはずでおじゃる!」
「圧縮領域の外縁部に、巨大な反応が残っています!」
スコールが顔を上げた。
「……何だ?」
オダインは表示装置を操作した。
画面には、複数の魔力波形が重なっていた。
その中心に、異常なほど大きな反応がある。
「……これは」
オダインの表情が変わった。
「何か分かったの?」
リノアが尋ねる。
「待つのでおじゃる」
オダインは過去の観測記録を呼び出した。
幾つもの波形を照合する。
やがて、ある記録の前で手を止めた。
「……アルテマウェポン」
スコールの目が細くなった。
「……何?」
「海洋探査人工島で観測された魔力反応と一致しておるのでおじゃる!」
ゼルが顔をしかめた。
「おいおい、あいつかよ!」
スコールは画面を見つめた。
アルテマウェポン。
その名前には、二つの記憶があった。
一つは、未来の仲間たちと海洋探査人工島へ向かった時の記憶。
エデンをドローし、撤退した。
あの時、アルテマウェポンは生きていた。
そして、もう一つ。
過去の世界での戦い。
未来の自分の意識が過去の身体に宿っていた頃、仲間たちと共に海洋探査人工島へ向かった。
そこでアルテマウェポンを倒し、エデンを手に入れた。
同じ敵。
だが、二つの時代で結末は違っていた。
「……そうか」
スコールが呟いた。
キスティスが振り返る。
「スコール?」
「向こうでは倒した。だが、こっちでは倒していない」
ゼルが頷いた。
「ああ。エデンをドローして逃げたんだったな」
「……あいつが、まだ生きていたとしても不思議じゃない」
オダインが頷いた。
「その通りでおじゃる」
そして、別の波形を表示した。
「だが、問題はそれだけではないのでおじゃる」
幾つもの魔力反応が、アルテマウェポンの波形へ重なっていた。
「……何、これ」
セルフィが呟いた。
「魔女の魔力でおじゃる」
オダインが答えた。
「しかも、一人ではない。複数の魔女の魔力が、一つの存在に取り込まれておる」
キスティスが眉を寄せる。
「アルティミシアの力ですか?」
「違うのでおじゃる」
オダインは首を振った。
「アルティミシアの魔力反応は消失しておる。こちらは、それとは異なる複数の魔女の力でおじゃる」
スコールは黙って画面を見つめた。
時間圧縮の世界では、異なる時代の魔女たちが同じ空間へ現れることがある。
自分たちも、かつてその光景を見た。
「……時間圧縮の中で、魔女を取り込んだのか」
「その可能性が高いのでおじゃる」
オダインが頷いた。
「アルテマウェポンはエデンを失い、魔力構造に大きな欠損を抱えていた。その空白を埋めるように、圧縮世界で未来の魔女たちの力を吸収したと考えられるのでおじゃる」
「……そんなことが」
リノアが呟いた。
「あり得るのか?」
スコールが尋ねる。
「通常なら不可能でおじゃる」
オダインは答えた。
「魔女の力は、単なる魔力の塊ではない。継承される性質を持つ、特殊な力でおじゃる」
表示装置の波形が、激しく揺れた。
「だが、時間圧縮の中では、異なる時代の存在が同じ場所に重なっておる。しかもアルテマウェポンは、もともと膨大な魔力を内包する存在だった」
オダインは続けた。
「その結果、魔女の力を受け入れる器となってしまったのでおじゃる」
キスティスが静かに言った。
「……つまり、魔女の力を持つモンスターが生まれた」
「それだけではないのでおじゃる」
オダインは顔を上げた。
「複数の魔女の力を取り込んだことで、存在そのものが変質しておる」
研究室が静まり返った。
「かつてのアルテマウェポンとは、もはや別の存在でおじゃる」
スコールは表示装置を見た。
異常な魔力。
複数の魔女の力。
そして、アルテマウェポンの残存する反応。
「……どこにいる?」
スコールが尋ねた。
「時間圧縮の崩壊領域でおじゃる」
オダインが答える。
「だが、こちらへ接近しておる」
「……なぜ?」
リノアが尋ねた。
オダインは別の画面を表示した。
そこには、エデンの魔力波形が映し出されていた。
「……エデンでおじゃる」
スコールが目を細める。
「……どういうことだ?」
「余たちはエデンの力で、この時代の時空を固定しておった」
「ああ」
「その結果、この時代は時間圧縮の中でも安定した時空として残ったのでおじゃる」
オダインは説明を続けた。
「一方、アルテマウェポンは複数の時代の魔女の力を吸収したことで、どの時代にも属さない不安定な存在となっておる」
キスティスが理解したように顔を上げた。
「……本来の時代へ戻れない?」
「そうでおじゃる」
オダインは頷いた。
「時間圧縮が崩壊すれば、異なる時代に属する魔力は本来それぞれの時代へ戻ろうとする。だが、あの存在は、それらを一つの身体に抱え込んでおる」
表示装置に、幾つもの矢印が現れた。
それぞれが異なる方向を向いている。
「身体そのものが、複数の時代へ引き裂かれようとしているのでおじゃる」
「……それで?」
ゼルが尋ねる。
「その崩壊を防ぐため、安定した時空へ移動しようとしておる」
オダインはエデンの波形を指差した。
「そして、エデンはかつてアルテマウェポンの中に存在していた。あの存在には、エデンの魔力を受け入れていた痕跡が残っておる」
スコールは頷いた。
「……エデンの力に引き寄せられているのか」
「そうでおじゃる」
オダインが答えた。
「エデンが固定したこの時代の時空は、あの存在にとって最も安定した場所であり、かつて自分の中にあった魔力と共鳴する場所でもあるのでおじゃる」
アーヴァインが腕を組んだ。
「……つまり、僕たちがこの時代を守ったことが、あいつを呼び寄せる原因にもなっちゃったわけか」
「結果としては、そうなるのでおじゃる」
オダインは頷いた。
スコールは黙って画面を見つめた。
エデンを使わなければ、時間圧縮によってこの時代が失われていたかもしれない。
だが、エデンを使ったことで、別の脅威を引き寄せた。
(……皮肉なものだな)
スコールは小さく息を吐いた。
「……場所は?」
「エスタ大陸北東部でおじゃる!」
オダインが答えた。
「圧縮領域との境界が最も薄くなっている場所でおじゃる!」
その瞬間。
研究施設全体が激しく揺れた。
「うわっ!」
ゼルが壁に手をつく。
警報が鳴り響いた。
「博士!」
研究員が叫ぶ。
「エスタ大陸北東部の上空に、巨大な時空断層が発生!」
表示装置に映像が映し出された。
荒れ果てた大地。
その上空に、巨大な亀裂が走っている。
亀裂の向こうには、時間圧縮の名残と思われる暗闇が広がっていた。
そして。
その暗闇から、巨大な影が現れた。
四本の脚。
異様に発達した上半身。
人間に似た巨大な腕。
全身を覆う、黒く変質した装甲。
だが、その姿は、かつてのアルテマウェポンとは明らかに異なっていた。
かつて握っていた巨大な剣は、どこにもない。
代わりに、両腕は異常なほど発達し、鋭い爪と分厚い装甲に覆われていた。
その身体からは、幾つもの異なる魔力が溢れ出している。
巨大な存在が、大地へ降り立った。
衝撃が周囲へ広がる。
岩山が崩れ、砂煙が空へ舞い上がった。
「……何だよ、あれ」
ゼルが呟いた。
スコールは画面を見つめた。
アルテマウェポン。
いや。
もはや、そう呼ぶべき存在ではない。
「……別物だ」
スコールが呟く。
オダインが低い声で言った。
「……オメガウェポン」
キスティスが振り返る。
「オメガウェポン?」
「アルテマウェポンを超えた存在でおじゃる」
オダインは表示装置を見つめた。
「複数の魔女の力を取り込み、肉体と魔力の両方を極限まで変質させた存在……」
その声には、研究者としての興奮よりも、畏怖が滲んでいた。
「……まるで、ハインでおじゃる」
リノアが顔を上げた。
「ハイン?」
「古い伝承に登場する、魔法の始祖とも呼ばれる存在でおじゃる」
オダインは答えた。
「魔女の力の源流とも関わるとされる存在……その伝承がどこまで真実かは分からぬが、あれは単なるモンスターの域を超えておる」
スコールは画面の中の巨体を見つめた。
オメガウェポンが、ゆっくりと腕を持ち上げる。
次の瞬間、拳が大地へ叩き込まれた。
凄まじい衝撃波。
地面が大きく裂け、周囲の岩山が崩れ落ちる。
剣など必要ない。
その腕力だけで、周囲の地形を変えてしまうほどの力があった。
「……冗談だろ」
アーヴァインが呟いた。
オメガウェポンが、ゆっくりと顔を上げる。
その視線が、遠く離れたエスタの方向へ向けられた。
スコールは目を細めた。
「……来るな」
キスティスが振り返る。
「スコール?」
「あいつは、エデンを追っている」
オダインが頷いた。
「その可能性が高いのでおじゃる」
「だったら、ここへ来る前に止める」
スコールはガンブレードを握った。
ゼルが拳を鳴らす。
「よっしゃ! 久しぶりに暴れられるぜ!」
「相手を見てから言いなさい」
キスティスが呆れたように言った。
「見たから言ってんだよ!」
セルフィが笑った。
「でも、六人なら大丈夫だよ!」
アーヴァインが帽子を直す。
「できれば、もう少し小さい相手がよかったけどねえ」
リノアはスコールの隣へ立った。
「行くんだね」
「……ああ」
スコールは頷いた。
「放っておけば、エスタが危ない」
ラグナが一歩前へ出た。
「俺も行く!」
「ラグナ」
スコールが振り返る。
「何だ?」
「あんたはここに残ってくれ」
「えっ?」
ラグナが目を丸くした。
「何でだよ!」
「エスタの大統領だろ」
「そうだけどさ!」
「市民の避難や、被害が出た場合の対応が必要になる」
スコールは続けた。
「それに、エルオーネとエデンを守る人間も必要だ」
ラグナは口を開きかけた。
だが、何も言わなかった。
スコールはラグナを見た。
「……こっちは俺たちに任せてくれ」
ラグナはしばらく黙っていた。
そして、苦笑した。
「……分かったよ」
頭を掻く。
「でも、絶対に帰ってこいよ」
「……ああ」
スコールは頷いた。
「約束する」
ラグナは笑った。
「よし!」
そして、通信機へ向かった。
「じゃあ、俺は避難の準備を……」
「ラグナ」
スコールが呼び止める。
「ん?」
「……キロスたちに連絡した方がいいんじゃないか?」
「あ」
ラグナは目を丸くした。
「そうだった!」
ゼルが吹き出した。
「やっぱ変わんねえなあ!」
「何だよ!」
ラグナは笑いながら通信機を取った。
スコールも少しだけ口元を緩めた。
そして、仲間たちへ向き直る。
「行くぞ」
六人は研究施設を後にした。
エスタ大陸北東部。
荒れ果てた大地に、巨大な影が立っていた。
オメガウェポン。
その身体から漏れ出す魔力が、周囲の空間を歪ませている。
地面には幾つもの亀裂が走り、空にはまだ時間圧縮の名残が残っていた。
ラグナロクが上空へ現れる。
巨大な機体が旋回し、少し離れた場所へ着陸した。
ハッチが開く。
スコールたちが地上へ降り立った。
「……でっけえ」
ゼルが呟いた。
目の前に立つオメガウェポンは、かつてのアルテマウェポンよりもさらに巨大に見えた。
その身体からは、幾つもの異なる魔力が感じられる。
スコールはガンブレードを構えた。
「……来るぞ」
オメガウェポンが、ゆっくりと振り返った。
巨大な腕が持ち上がる。
次の瞬間、拳が振り下ろされた。
「散れ!」
スコールが叫んだ。
六人は一斉に飛び退く。
拳が地面へ叩きつけられた。
凄まじい衝撃波が広がり、砂煙が舞い上がる。
「うわっ!」
ゼルが転がるように着地した。
「何だよ、あの威力!」
「まともに受けたら危険ね!」
キスティスが叫ぶ。
スコールはガンブレードを構え直した。
「動きを見ろ! 攻撃の隙を狙う!」
ゼルが飛び出す。
オメガウェポンの脚へ拳を叩き込んだ。
だが、硬い装甲に阻まれる。
「くっそ!」
アーヴァインの銃声が響く。
セルフィが魔法を放つ。
キスティスが指示を飛ばす。
リノアが魔力を集中させた。
スコールはガンブレードを握り直す。
六人の攻撃が、オメガウェポンへ集中した。
だが、巨大な存在はほとんど怯まなかった。
オメガウェポンが、ゆっくりと顔を上げた。
その周囲に、無数の魔法陣が現れる。
「……何?」
キスティスが呟いた。
空が暗くなる。
巨大な岩塊が、次々と上空に現れた。
「メテオ!」
セルフィが叫んだ。
隕石が降り注ぐ。
大地が爆発した。
六人は必死に身を守る。
だが、衝撃は凄まじかった。
「ぐあっ!」
ゼルが吹き飛ばされる。
アーヴァインも地面へ倒れた。
「みんな!」
リノアが叫ぶ。
キスティスが回復魔法を展開した。
スコールは歯を食いしばった。
(……強い)
アルティミシアとの戦いを思い出す。
だが、この敵は魔女とは違う。
意志も、言葉もない。
ただ、圧倒的な力だけが存在している。
オメガウェポンが再び魔力を集め始めた。
その身体から、赤黒い光が広がる。
「……また来る!」
スコールが叫んだ。
次の瞬間、奇妙な炎が六人を包み込んだ。
メギド・フレイム。
炎は身体を焼くのではなく、生命力そのものを削り取っていく。
スコールは膝をついた。
「……ぐっ!」
呼吸が乱れる。
身体が重い。
あと一撃でも受ければ、倒れてしまいそうだった。
「……何、これ……」
セルフィが震える声で呟いた。
キスティスが顔を上げる。
「……全員、瀕死に近い状態になってる!」
ゼルが歯を食いしばった。
「ふざけんなよ……!」
オメガウェポンが、巨大な腕を持ち上げた。
その拳が、鈍い光を放つ。
スコールは立ち上がろうとした。
だが、足が動かない。
(……まずい)
拳が振り下ろされる。
その瞬間。
「スコール!」
リノアが叫んだ。
彼女の身体から、巨大な魔力が広がった。
防御魔法が六人を包み込む。
拳が障壁へ激突した。
凄まじい衝撃。
だが、拳は止まった。
「……リノア!」
スコールが顔を上げる。
リノアは苦しそうに笑った。
「……まだ、終わってないよ」
スコールは歯を食いしばった。
「……ああ」
キスティスが回復魔法を展開する。
セルフィも続いた。
六人の身体に、少しずつ力が戻っていく。
ゼルが立ち上がった。
「……くっそ!」
拳を握る。
「こんなところで負けてたまるか!」
アーヴァインが銃を構え直した。
「同感だね」
セルフィが笑った。
「まだまだ行けるよ!」
スコールはガンブレードを握り直した。
オメガウェポンは、なおも巨大な魔力を放ち続けている。
次の攻撃が、いつ来てもおかしくない。
スコールは仲間たちを見回した。
「……みんな」
五人が顔を上げる。
「ここからが本番だ」
ゼルが笑った。
「望むところだぜ!」
キスティスが頷く。
「ええ」
アーヴァインが帽子を直した。
「最後まで付き合うよ」
セルフィが笑う。
「もちろん!」
リノアがスコールの隣へ立った。
「一緒に行こう」
スコールは頷いた。
「……ああ」
オメガウェポンが、巨大な腕を振り上げた。
その身体から、幾つもの魔力が溢れ出す。
大地が震える。
空が歪む。
そして、六人は再び駆け出した。
未来のエスタ大陸。
そこで、最後の戦いが始まっていた。