FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

3 / 10
第三話 班長

バラム港に、潮風が吹いていた。

岸壁の先では上陸艇が低い唸りを上げている。

軍用艇。その無骨な船体を見た瞬間、ラグナの中に、ずいぶん昔の感覚が蘇った。

油の匂い。海の匂い。

出撃前の、妙に落ち着かない空気。

(懐かしい……って言ったらダメなやつだな、これ)

今から向かうのは観光地ではない。

戦場だ。しかも、

(スコール)

返事のない息子へ、心の中で呼びかける。

(おまえ、ここから初陣に行ったんだな)

知らなかった。当然だ。

ラグナはスコールがどんな学生だったのかさえ知らない。

誰と訓練し。誰と笑い。誰と喧嘩し。

どんな気持ちで初めて戦場へ向かったのか。

その人生を、今になって一つずつ拾っている。

「もう後戻りはできないぜ」

声に振り向く。

サイファーだった。口元にはいつもの笑み。

「ん? おまえもビビってるのか?」

「…………」

ラグナは少し考えた。

怖いか。

戦場を知っている。

だからこそ、怖くないとは言えない。

「まあ、ちょっとはな」

「へえ」

「なんだよ」

「おまえでも怖がるんだな」

「怖いものは怖いだろ」

サイファーが喉の奥で笑った。

「俺をガッカリさせないでくれ」

「そっちこそな」

「言うじゃねえか」

「おい! おまえたちが最後だ!」

ガーデンスタッフの声が飛ぶ。

「早く乗れ!」

「スコール、急いで!」

キスティスにも呼ばれ、ラグナは上陸艇へ駆け込んだ。

 

「やあ、キスティス」

艇内で待っていた女性が、気安く片手を上げた。

「これが今回のB班のメンバー。よろしくね、シュウ」

キスティスが三人を紹介する。

「よろしくお願いします!」

ゼルが勢いよく頭を下げた。

その横で、ラグナも軽く頭を下げる。

「……よろしくお願いします」

シュウの視線が最後にサイファーへ向かった。

「サイファー。今回で何度目?」

「俺は試験が好きなんだ」

即答。ゼルが横目で見る。ラグナも見た。

(答えになってないな)

でもサイファーは本気らしい。

「状況と任務を説明する。着席!」

シュウの声で、空気が変わった。

三人が座る。上陸艇が港を離れた。

 

依頼主はドール公国議会。

SeeD派遣要請が届いたのは十八時間前。

ドールは約七十二時間前からガルバディア軍の攻撃を受け、市街地を放棄。

現在は山間部で部隊を再編している。

ガルバディア軍は周辺山間部のドール軍排除を進めている。

バラムガーデン側はルプタン・ビーチから上陸。

まず市街地に残るガルバディア軍を排除して、市街区域を解放する。

その後、正規SeeD部隊が山間部から戻ってくるガルバディア軍を迎撃する。

「俺たちは何をするんだ?」

サイファーが聞いた。

「君たち候補生には、市街地へ入り込んだガルバディア兵を排除してもらう」

「責任重大だ!」

ゼルの顔が引き締まる。

ところが、

「楽しくないな」

サイファーは露骨につまらなそうな顔をした。

「要するに、SeeDの連中が取りこぼした分を俺たちが片付けるだけだろ?」

「…………」

シュウがサイファーを見る。

そして、ため息交じりに続けた。

「ひとつだけ絶対に忘れるな。撤退命令は最優先だ」

ラグナの目が少し細くなった。

「命令が出たら、理由が何であれ従うこと。間もなく上陸する。

下船直後から戦闘になる可能性が高い。準備しておけ」

説明終了。

シュウが奥へ移動する。

ラグナは腕を組んだ。

(撤退命令は絶対、か)

昔。似たようなことを何度も聞いた気がする。

そして。何度も怒られた気もする。

(…………)

今は思い出さないことにした。

 

「スコール、どうしたの?」

キスティスに声をかける。

「さっきの作戦、もう一回確認していい?」

「もちろん」

キスティスは指を一本立てた。

「目的はドール市街に侵入したガルバディア兵の排除。それから」

二本目。

「撤退は最重要命令。撤退指示が出たら、何をしていても海岸へ戻ること」

「了解」

「もうすぐ上陸よ。しっかりね、スコール」

「はい」

その会話をサイファーが横で聞いていた。

「ずいぶん真面目だな」

「確認しただけだよ」

「だったら俺からも教えてやる」

サイファーが身を乗り出す。

「今回の目的は簡単だ。街に入り込んだガルバディアの連中を、片っ端から叩きのめす」

「…………」

「おまえたちは班長の俺に従ってりゃいい」

ラグナはキスティスを見る。

キスティスもラグナを見る。

「……説明がだいぶ違わない?」

「気にすんな」

「気になるよ」

 

「初の実戦か……」

ゼルが呟いた。膝が小さく上下している。

「緊張するぜ」

「ビビってチビるなよ」

サイファー。

「あん? 誰に言ってんだ?」

「ククク……」

「……ムカつく野郎だぜ」

「おしゃべりはそこまで」

キスティスが止めた。

「間もなく上陸よ。それぞれ準備して」

「了解」

ゼル。

「了解」

ラグナ。

「りょーかい」

サイファー。

そして

「さて、スコール」

「ん?」

「外の様子を見てこい」

「…………」

ラグナは扉を見る。

揺れる船。飛沫。立ったまま覗くには、地味に面倒くさい。

「……イヤだ」

「…………」

ゼルが振り向いた。

キスティスも振り向いた。

サイファーだけが笑った。

「班長命令だぞ」

「…………」

「外を見てこい」

「…………了解」

立ち上がる。背後からゼルの声。

「結局行くのかよ」

「班長命令だからな」

サイファーが満足そうに笑った。

 

海面の向こう。

ドールが見える。

煙。

砲撃。

戦場。

ラグナの表情から、自然と笑みが消えた。

(ガルバディア軍……)

かつて自分が所属していた軍隊。

妙な巡り合わせだった。

父親はガルバディア兵。

息子の初陣は、そのガルバディア軍との戦闘。

(人生って分かんないもんだな)

いや今の状況そのものが、一番分からない。

 

ルプタン・ビーチ。

上陸艇の扉が開いた。

「B班の担当は中央広場よ!」

キスティスの声が飛ぶ。

「戦闘前にGFの装備確認を忘れないで!」

「行くぞ」

サイファーが飛び出した。

ゼルが続く。

ラグナもガンブレードを抜いた。

瞬間。身体が切り替わった。重心が下がる。

握り。呼吸。視線。

何も考えなくてもスコールの身体は、戦う方法を知っている。

(頼むぞスコール)

 

 市街地。ガルバディア兵。銃声。

 ラグナは一瞬だけ、その制服を見た。

 懐かしいなどと考えている場合ではない。

「スコール!」

「!」

身体が先に動いた。

横へ銃弾を避ける。

踏み込むガンブレードを一閃。引き金。爆発。

敵兵が倒れる。

「ボサッとすんな!」

サイファーが叫ぶ。

「悪い!」

「足引っ張るなら置いてくぞ!」

「それ班長の台詞?」

「班長だから言ってんだ!」

ゼルが別の兵士を殴り倒す。

「戦闘中に喧嘩すんな!」

「おまえにだけは言われたくねえ!」

「なんでだよ!」

三人。前へ。戦う。

中央広場へ向かう。

 

「この先だ」

サイファーがガンブレードを担ぐ。

そして大声。

「おい、ガルバディアの臆病者ども! 隠れてないで出てこい!」

「…………」

ゼルが顔をしかめた。

「バカだぜ、あいつ」

「聞こえてるぞ!」

「聞かせたんだよ!」

ラグナは苦笑した。敵兵が出てくる。

戦闘。一人。二人。三人。

最後の兵士が倒れる。

「まだいそうだな」

ラグナが周囲を見る。

「じゃあスコール」

サイファーが顎で示した。

「近くを見てこい」

「俺?」

「ぼやぼやすんな」

「班長も働こうよ」

「班長は指示を出してる」

「便利だな、班長」

「いいから行け!」

「はいはい」

 

周囲を確認し戻る。

「敵の気配はなくなった」

「よし」

サイファーが石段へ腰を下ろした。

「敵さんが来るまで待機だ」

一秒。二秒。三秒。

「…………」

サイファーが顔をしかめる。

「待機」

吐き捨てる。

「退屈な言葉だ」

「早いな」

「何が」

「飽きるのが」

「うるせえ」

 

遠くから。戦闘音。

「始まったみたいだな」

ラグナが言う。サイファーが立ち上がる。

「歓迎してやるか」

しかし敵は来ない。

「…………」

待つ。

「…………」

まだ来ない。

「…………来ないな」

ラグナ。

ゼルも頭を抱えた。

「なんてこった。さすがに退屈だぜ。これでいいのかよ!」

「まだおあずけか……」

サイファーの足が揺れる。

「もう限界だ!」

立つ。

「耐えられねえ! 犬の訓練じゃねえんだぞ!」

「さっきまで班長らしかったのに」

「いつだ!」

「船の中」

「それは気のせいだ」

「本人が言うなよ」

 

「おい」

ラグナが立った。

「敵だ」

数人のガルバディア兵。

だがこちらへは来ない。

市街地を抜け山の方へ移動していく。

「どこ行くんだ、あいつら」

ゼルが目を細める。

その先の山頂に巨大な施設がある。

「なんだ? あれ」

「…………」

サイファーの顔が変わった。

「あそこへ行くぞ」

「は?」

「山頂だ」

「そりゃ命令違反だぜ!」

「さっきまで暇だって言ってただろ?」

「それとこれとは別だ!」

ゼルがラグナを見る。

「スコール!」

サイファーも見る。

「…………」

スコールなら何と答えたのだろう。

分からない。でもラグナには答えがあった。

「待て」

サイファーの眉が動く。

「なんだ?」

「俺たちの命令は中央広場の確保と待機だろ」

「敵が動いてる」

「だから?」

「追う」

「その命令は?」

「…………」

サイファーの目が細くなる。

「俺が班長だ」

「うん」

「現場の判断は俺がする」

「それも分かる」

「だったら」

「でも今、山へ向かう理由は」

「何かある」

「たぶんな」

「なら確認する」

「俺たちが?」

「…………」

サイファーの苛立ちが目に見えて膨らんだ。

「スコール。おまえだって暴れたいんだろうが」

「それは」

少し考える。スコールの身体で戦う。

それ自体には興味がないと言えば嘘になる。

この身体が。息子が。どんな戦士だったのか。

知りたい。

「まあ、ちょっとは」

「ほら見ろ」

「でも命令違反はダメだろ」

「…………」

「軍人ってのは」

ラグナは少し胸を張った。

「命令を守るもんだ」

「…………」

ゼルが感心したようにラグナを見る。

サイファーも意外そうな顔。

その瞬間ラグナの脳裏にキロスとウォードの顔。

命令無視。独断行動。迷子。無茶。勝手な突撃。

(…………)

目を逸らす。

(俺のことは棚に上げよう)

今は教育の時間だ。

「一人が勝手に動けば、そいつを助けるために別の奴まで動く」

ラグナは続ける。

「班長ならなおさらだ」

「…………」

「俺とゼルは、おまえの判断で動くんだろ?」

サイファーが黙った。

「なら」

ラグナは山頂を見る。

「自分が行きたいかどうかだけで決めるなよ」

「…………」

長い沈黙。ゼルも口を挟まない。

やがて、

「チッ」

サイファーがガンブレードから手を離した。

「待機だ」

ゼルの目が少し丸くなる。

「サイファー?」

「聞こえなかったのか、チキン野郎」

「聞こえたけどよ」

「だったら黙ってろ」

乱暴に石段へ座る。

ラグナもその横へ座った。

「なんだ」

「いや」

「ニヤニヤすんな」

「してないよ」

「してる」

「してないって」

「殺すぞ」

それでもサイファーは山頂を見続けていた。

 

しばらくして。

「B班!」

声がして三人が立ち上がる。

別班の候補生が、息を切らして広場へ駆け込んできた。

「伝令! 市街地のガルバディア軍が山頂方面へ移動している!」

サイファーの目が輝く。

「目的地は?」

「山頂施設と推定! 周辺の状況を確認する必要がある。B班は山頂方面を偵察!」

「了解!」

早い。あまりにも早い。

ゼルがラグナを見る。

「…………」

「…………」

二人。同じことを考えた。

「何だ、その顔!」

「いや」

ラグナが立ち上がる。

「よかったな」

「何がだ!」

「堂々と行ける」

「うるせえ!」

サイファーがガンブレードを抜く。

隠しきれない笑み。

「敵目標は山頂の施設と判明!」

さっきまでの不機嫌が嘘のようだ。

「B班、偵察に向かう! 出発だ!」

「了解」

「……了解!」

ゼルも続いた。

 

山道の途中。

ドール兵と遭遇した。

「うわっ! あ、あんたたちは!?」

「ガーデンから来たSeeD候補生だ」

ラグナが答える。

サイファーはすぐ本題。

「山頂はどうなってる?」

「ガルバディア兵が電波塔へ入ってる。

それに、あそこはもともとモンスターの巣窟だ。行くなら気をつけ……」

遠くでモンスターの声。

「うわっ!」

ドール兵が慌てて走っていく。

「モンスターもいるのか」

ラグナ。

「面倒だぜ」

ゼル。

「お楽しみが増えただけだ」

サイファー。

「おい、おまえら」

「ん?」

「敵が倒れる瞬間の顔が、俺は大好きだ」

「…………」

「だから最後の一撃は俺に回せ」

ラグナは数秒。サイファーを見た。

(さっきちょっと見直したのに)

「何だ」

「いや」

「文句あんのか」

「ないよ」

ゼルが呟く。

「……お楽しみだぁ?」

 

電波塔が近づく。

ガルバディア兵たちの声が聞こえてきた。

発電装置にブースター、ケーブル交換。

どうやら壊れていた設備を修理している。

「何やってんだ、あいつら」

サイファーが物陰から覗く。

「修理……かな」

ラグナも見る。

「まあ、俺たちには関係ねえか」

サイファーはふとラグナを見る。

「おまえ、本物の戦場は初めてだろ」

「…………」

「怖いか?」

 ラグナは一瞬言葉に詰まった。

 スコールにとっては初めて。

 ラグナにとっては違う。

 今ここにいるのは。

 スコール・レオンハートだ。

「……分からない」

 少しだけ本当の気持ちを混ぜる。

「考えたら、怖くなるかもな」

「俺は好きだぜ」

「戦場が?」

「戦闘が」

サイファーは笑う。

でもその目は冗談を言っている目ではなかった。

「怖いことなんて何もない」

電波塔を見上げる。

「戦いが終わって、それでも俺が生きてる」

口元が上がる。

「それだけ、夢の実現に近づいてるってことだからな」

「夢?」

ラグナが思わず聞き返した。

「なんだ。おまえにだってあるだろ?」

「…………」

夢。その言葉が胸の奥に落ちる。

ラグナにはたくさんあった。

旅。映画。音楽。そしてレイン、エルオーネ、家族。

叶った夢もある。

叶わなかった夢もある。

間に合わなかった夢も。

「……そういう話なら」

ラグナは少し笑った。

「今はパスかな」

「なんだよ!」

ゼルが割って入る。

「俺にも聞かせろよ!」

「その他大勢は引っ込んでろ」

「誰がその他大勢だ!」

「どうしたゼル? ハエでも飛んでたのか?」

「くっ……!」

「みぃ~つけた!」

三人は振り返る。

少女が坂道を走ってくる。

「あれ?」

少女もラグナを見る。

「君って、たしか……案内してくれた人だよね~!」

「あ」

ガーデンでぶつかってきた転校生。

「ありがと~。おかげで少し迷わなくなったよ~」

 胸を張る。

「そだ。名前まだ言ってなかったよね。あたし、A班のセルフィ。伝令!」

(セルフィ)

 ラグナはそこで初めて。

 名前と顔を結びつけた。

「班長はサイファーだよね? どこ?」

「ここだ」

サイファーが答える。

そして、さっきの話を終わらせるように。

「いつか聞かせてやるさ」

「何を?」

ゼル。

「俺の」

サイファーは大げさに両手を広げる。

「ロマンティックな夢をな!」

「…………」

ラグナは少しだけ笑った。

(ロマンティックなんだ)

そこは予想外だった。

 

「B班班長!」

セルフィが今度は伝令の顔になる。

「命令です!」

サイファーが表情を変える。

「SeeDおよび候補生は、十九時に撤収! 海岸へ集合!」

「…………」

サイファーの顔から表情が消えた。

「撤収?」

電波塔を見る。

「まだ敵はいるんだろ?」

「そんなこと言われても、あたし伝令だし~」

「…………」

電波塔はあと少し。目の前。

ガルバディア軍が何かをしている。

戦争の目的はほぼ間違いなくあそこ。

サイファーの拳が握られる。

「…………」

ラグナは船内を思い出した。

シュウ。キスティス。

どちらも同じことを言った。

「サイファー」

「…………」

「撤収は最重要命令だ」

「分かってる」

低い苛立った声。それでもサイファーは動かない。

電波塔を見ている。戦いたい。

確かめたい。夢へ近づきたい。

けれど今は、

「班長」

ラグナがそれだけ言った。

「…………」

サイファーが振り返る。スコール。ゼル。セルフィ。

そして電波塔。

「…………チッ」

ガンブレードを収めた。

「何時集合だ?」

「十九時!」

「あとどれくらいだ」

「三十分!」

「…………」

サイファーが電波塔へ背を向けた。

「B班、撤収する」

ゼルが少しだけ目を見開いた。

「サイファー」

「なんだ」

「いや……」

「言いたいことがあるなら言え」

「ねえよ」

ラグナは笑った。

「了解、班長」

「その言い方ムカつくんだよ!」

「なんで!?」

 

その時だった。

「うわああああああっ!」

電波塔から悲鳴。

「なんだ?」

四人が振り返る。

二人のガルバディア兵が全速力で飛び出してきた。

「ビッグス少佐ぁぁぁ!」

「うるさい! 走れウェッジ!」

「起動を待ってたら死んでしまうであります!」

「私だって分かっとるわ!」

二人。こちらへものすごい勢い。

「どけどけどけぇぇ!」

「うわっ!」

ゼルが避ける。セルフィもぴょんと横へ。

二人はB班を攻撃するどころか。

そのまま横を駆け抜けた。

「もう少しで起動したのにぃぃぃ!」

声が坂の向こうへ消える。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

セルフィが首を傾げた。

「逃げてったねぇ」

「逃げてったな」

ゼル。

「何からだ?」

サイファー。ラグナは。

上を見た。

「…………たぶん」

影。

「これ」

 

翼が空を覆った。

「上!」

巨大な異形。エルヴィオレが急降下してくる。

「散れ!」

サイファーが叫ぶ。

四人が飛ぶ。

直後石畳が砕けた。

「なに、こいつ!」

セルフィが武器を構える。

「撤収命令出たばっかだろ!」

ゼル。

「だったら」

サイファーがガンブレードを抜いた。

「速攻で片付ける!」

「それなら賛成!」

 ラグナも刃を構えた。

 

エルヴィオレが翼を広げる。風。

ラグナの身体が自然に低く沈む。

「セルフィ!」

「分かってるよ~!」

「ゼル、右!」

「おう!」

サイファーの指示は迷いがない。

ラグナは一瞬だけ彼を見る。

(ちゃんと班長してるじゃん)

前へ。スコールの身体。ガンブレード。

サイファーも同時に踏み込む。

二本の刃。左右から。叩き込む。

エルヴィオレが大きくよろめく。

「今だ!」

ゼル。拳。

セルフィ。追撃。

そして。サイファーとラグナが同時に走る。

「スコール!」

「分かってる!」

一閃。巨体が。地面へ落ちた。

 

「……終わった?」

セルフィ。

「終わっただろ」

ゼルが息を吐く。

「撤収するぞ」

サイファーはもう電波塔を見なかった。

その時。ガシャン。金属音。

地面が震える。

「…………」

全員が止まった。

電波塔方面から巨大な機械がこちらへ来る。

六本の脚蜘蛛のようなガルバディア製の大型兵器。

「げ」

ゼル。

「なにあれ」

セルフィ。

「ガルバディアの機動兵器か」

ラグナ。

サイファーだけが少し笑った。

「ちょうどいい」

「撤収命令」

「…………」

「サイファー」

「分かってる!」

明らかに不満。それでもサイファーは敵を見る。

脚。胴体。進行速度。

「脚を潰せ!」

「え?」

「動きを止めたら走る!」

ゼルがにやりとした。

「了解!」

ラグナもガンブレードを構える。

「了解、班長」

「それやめろ!」

 

壊す。止まる。

「走れ!」

逃げる。背後。ガシャン。

「もう直ってるよ~!」

「早ぇよ!」

また戦う。脚部へ攻撃。崩れる。

「撤収!」

走る。追ってくる。止める。走る。その繰り返し。

サイファーは倒そうとしなかった。

必要なだけ壊す。そして逃げる。

(あいつ)

ラグナは少しだけ笑う。

(戦いたくて仕方ないくせに)

それでも命令を守っている。

 

市街地。

「助けて!」

声だ。サイファーが最初に止まった。

「左だ!」

路地候補生が二人。一人が足を負傷している。

「C班か?」

「撤収途中で……」

ゼルが駆け寄る。

「立てるか?」

「無理だ」

背後に金属音。来る。

海岸までの時間。負傷者。追撃。

サイファーは時計を見る。海岸を見る。

候補生を見る。

「…………」

一瞬迷う。でも答えは早かった。

「ゼル!」

「おう!」

「そいつ背負え!」

「了解!」

「セルフィ、もう一人を頼む!」

「まかせて!」

「スコール」

ラグナはもうガンブレードを抜いていた。

「俺と残るぞ」

「了解」

「……班長って言わねえのか?」

「言ってほしいの?」

「言ったら殺す」

「難しいな、おまえ」

「うるせえ!」

 二人が並ぶ。

 

巨大兵器が迫る。

ラグナは脚部を見る。破壊しても自動で直る兵器は面倒だが、

ほんの少しの時間だけでも動けなくすればいい。

「右脚!」

「分かってる!」

ラグナが関節へサイファーが反対側から同時に攻撃する。

トリガーによる反動が腕に響く。

「もう一発!」

「おう!」

二本のガンブレードが交差し脚部が砕ける。

機械が崩れた。

「走れ!」

今度はラグナが自分から叫んだ。

 

海が見える。

「船!」

セルフィの声。

上陸艇のエンジンはすでに動いている。

「急いで!」

キスティス。

負傷者。

ゼル。

セルフィ。

順番に乗る。

ラグナも船へ。

「サイファー!」

最後尾サイファーが走る。

そして背後にはまたあの機械。

「しつけぇ!」

サイファーが振り返る。

「サイファー!」

ラグナが手を伸ばす。

「来い!」

「命令すんな!」

「いいから!」

腕を掴み。引っ張る。

サイファーが船へ飛び込んだ。

機械は止まらない。

「まずい!」

その時。

「耳を塞ぎなさい!」

キスティスは船上のガトリング砲の銃座についていた。

銃身が回る。

「全員、耳を塞げ!」

轟音と火線が海岸を薙いだ。

装甲 脚 胴体が次々と弾ける。

それでも一歩ずつ機械が進む。

キスティスは撃ち続けた。

内部で爆発があり黒煙があがる。

巨大な機械が完全に沈黙した。

「…………」

ラグナはキスティスを見る。

「先生」

「なに?」

「さすがですね」

「ありがと」

 

船がドールを離れる。

遠ざかる海岸サイファーは壁へ背を預けていた。

「…………」

「…………」

ラグナも隣へ座る。

「おつかれ」

「うるせえ」

「なんで?」

「おまえのせいで疲れた」

「俺?」

「班長、班長って」

「班長だったじゃん」

「…………」

沈黙、少ししてラグナが聞く。

「なあ」

「なんだ」

「電波塔」

「…………」

「行きたかっただろ」

「当たり前だ」

 即答だった。

「あと少しだった」

「うん」

「敵の目的も確認できた」

「うん」

「もっと戦えた」

「やっぱりそこなんだ」

「一番大事だ」

「おい」

サイファーが小さく笑った。

けれどすぐに海を見る。

「俺には夢がある」

「…………」

「今日だって」

自分の手を見る。

「そのために結果を出したかった」

ラグナはしばらく何も言わなかった。

「出したじゃん」

「は?」

「全員戻った」

スコール。ゼル。セルフィ。

助けた候補生。そしてサイファー。

「班長としてさ」

ラグナは笑う。

「それ以上の結果って、ある?」

「…………」

サイファーは答えなかった。

ただ遠ざかるドールを長い間見ていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。