FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
オメガウェポンの巨大な腕が振り下ろされた。
「散れ!」
スコールの声に、六人が一斉に動いた。
拳が大地へ叩きつけられる。
衝撃で地面が裂け、砕けた岩が四方へ飛び散った。
ゼルが巨体の側面へ回り込む。
「おらあっ!」
前脚へ拳を叩き込み、続けて回し蹴りを放った。
オメガウェポンの身体が僅かに揺れる。
だが、それだけだった。
「……くそっ!」
ゼルが飛び退く。
直後、巨大な腕が横薙ぎに振るわれた。
ゼルは咄嗟に両腕を交差させたが、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされた。
「ゼル!」
キスティスが叫ぶ。
「平気だ!」
地面を転がりながら、ゼルが立ち上がる。
だが、右腕を押さえていた。
スコールはガンブレードを構え直した。
オメガウェポンの胸部には、幾つもの傷が残っている。
これまでに放った攻撃は、どれも並のモンスターなら戦闘を終わらせるほどの威力だった。
それでも、オメガウェポンは倒れない。
傷口から漏れ出す黒い魔力が、砕けた装甲を修復していく。
(……このままじゃ)
スコールは歯を食いしばった。
攻撃は効いている。
だが、倒しきれない。
こちらが傷つける速度よりも、相手が修復する速度の方が速い。
その時、オメガウェポンが両腕を広げた。
周囲に巨大な魔法陣が現れる。
「……また来る!」
キスティスが叫んだ。
空が暗くなる。
無数の岩塊が、上空に現れた。
「メテオ!」
セルフィが叫ぶ。
隕石が降り注いだ。
大地が爆発する。
六人は必死に身を守った。
だが、衝撃は凄まじかった。
「ぐあっ!」
ゼルが吹き飛ばされる。
アーヴァインも地面へ倒れた。
スコールはガンブレードを地面へ突き立て、身体を支えた。
隕石の雨が止む。
土煙の向こうで、オメガウェポンがゆっくりと顔を上げた。
その周囲に、再び魔力が集まり始める。
「……冗談だろ」
アーヴァインが呟いた。
「休ませてくれないねえ」
キスティスは荒い息を整えながら、オメガウェポンを見つめた。
「……このままでは、こちらが先に力尽きるわ」
誰も反論しなかった。
セルフィのフルケアがなければ、すでに全滅していたかもしれない。
だが、どれだけ回復しても、また傷つく。
魔力にも、体力にも限界がある。
スコールはガンブレードを握り直した。
(……何か方法があるはずだ)
その時。
「……ねえ」
セルフィが口を開いた。
いつもの明るい声ではなかった。
何かを決意したような、静かな声だった。
「みんな、ちょっと聞いて」
スコールが振り返る。
「……何だ?」
「ひとつだけ、試してみたいことがあるの」
ゼルが顔を上げた。
「何だよ?」
セルフィは少し迷った。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……ジエンド」
キスティスが眉を寄せる。
「ジエンド?」
「うん。私のスロットで出てくる、特別な魔法」
アーヴァインが帽子を持ち上げた。
「初めて聞くねえ」
「ほとんど出ないからね」
セルフィは苦笑した。
「私だって、ちゃんと使えたことは数えるほどしかないし」
スコールは目を細めた。
「……どんな魔法だ?」
「戦いを終わらせる魔法」
セルフィはオメガウェポンを見た。
「相手がどれだけ強くても、どれだけ元気でも関係ないの。魔法が完成したら、その相手との戦いが終わる」
「……つまり、倒せるってことか?」
ゼルが尋ねた。
「うん」
セルフィは頷いた。
「相手の防御力も、魔法への耐性も関係ない。どんなに強い相手でも、一度で終わらせられる」
キスティスが考え込んだ。
「……通常の攻撃魔法とは、仕組みが違うのね」
「たぶんね」
セルフィは少し困ったように笑った。
「私にも、どうして使えるのかよく分かんないんだけど」
スコールは黙って聞いていた。
普通なら、そんな魔法を信じることは難しい。
だが、セルフィのスロットには、通常の魔法体系では説明できないものがある。
これまでの戦いでも、何度か目にしてきた。
「……成功する確率は?」
スコールが尋ねた。
セルフィは首を横に振った。
「分かんない」
「……そうか」
「でも、探し続ければ、いつかは出ると思う」
セルフィは五人を見回した。
「だから……」
少しだけ言葉を詰まらせる。
「私が魔法を探してる間、守ってほしいの」
ゼルが拳を握った。
「何だ、そんなことか!」
セルフィが目を丸くした。
「え?」
「任せろよ!」
ゼルは笑った。
「俺たちが時間を稼げばいいんだろ?」
アーヴァインも頷いた。
「そういうことなら、僕にもできるね」
キスティスが微笑んだ。
「私たちが攻撃を続けて、注意を引きつけるわ」
リノアはセルフィの手を握った。
「大丈夫。絶対に守るから」
セルフィは五人を見回した。
そして、最後にスコールを見た。
「……スコール?」
スコールはオメガウェポンへ視線を向けた。
巨体は、なおも魔力を集め続けている。
この作戦が失敗すれば、全滅する可能性もある。
だが、ほかに決定的な方法はなかった。
「……やろう」
セルフィが顔を上げた。
「いいの?」
「ああ」
スコールは頷いた。
「俺たちが守る」
セルフィの表情が明るくなった。
「……うん!」
スコールはガンブレードを構えた。
「ただし、無理はするな。危なくなったら中断しろ」
「分かった!」
セルフィは元気よく頷いた。
そして、少し離れた岩陰へ移動した。
五人が、その前へ立つ。
スコールは仲間たちを見回した。
「……行くぞ」
ゼルが拳を鳴らす。
「おう!」
アーヴァインが銃を構えた。
「了解」
キスティスが頷く。
「ええ」
リノアはセルフィを振り返った。
「お願いね」
「うん!」
セルフィは両手を胸の前で組み、目を閉じた。
スロット。
魔力が、彼女の周囲へ集まり始める。
その瞬間、五人が一斉に駆け出した。
スコールはオメガウェポンの正面へ向かった。
ガンブレードを構える。
一撃。
二撃。
三撃。
連続する斬撃が、巨体の胸部へ叩き込まれる。
その側面から、ゼルが飛び込んだ。
「おらあっ!」
拳。
蹴り。
さらに拳。
オメガウェポンの脚へ、連続して攻撃を加える。
アーヴァインの銃声が響いた。
連射弾。
無数の銃弾が、巨体の上半身へ集中する。
続けて徹甲弾。
硬い装甲に、深い傷が刻まれた。
オメガウェポンが咆哮する。
巨大な腕が振り上げられた。
「……来る!」
キスティスが叫ぶ。
拳が地面へ叩きつけられた。
スコールとゼルが飛び退く。
衝撃波が周囲へ広がった。
岩片が飛び散る。
その一つが、セルフィのいる岩陰へ向かった。
「……っ!」
リノアが咄嗟に魔法を放つ。
防御障壁が岩片を弾いた。
セルフィは、まだ目を閉じている。
魔法の流れを追い続けていた。
(……違う)
ファイガ。
ブリザガ。
サンダガ。
フルケア。
ウォール。
幾つもの魔法が、意識の中を流れていく。
(……これじゃない)
セルフィは集中した。
(……ジエンド)
だが、目的の魔法は現れなかった。
その間にも、戦いは続いている。
スコールがガンブレードを振り抜いた。
ゼルが拳を叩き込む。
アーヴァインの銃声が響く。
キスティスが魔法で援護する。
リノアはセルフィの周囲に防御魔法を展開していた。
五人は、オメガウェポンを倒すためではなく、セルフィに時間を与えるために戦っていた。
だが、その時間は決して安くなかった。
オメガウェポンの腕が、突然スコールへ向けて振るわれた。
「……っ!」
スコールはガンブレードで受け止めた。
衝撃が腕を伝わる。
骨が軋むような感覚。
足元の地面が砕けた。
「……ぐっ!」
さらに、反対側の腕が振り下ろされる。
スコールは避けきれなかった。
巨大な拳が身体を捉える。
吹き飛ばされた。
「スコール!」
リノアが叫ぶ。
だが、スコールは地面を転がりながら立ち上がった。
「……構うな!」
口元から血が流れている。
「セルフィを守れ!」
リノアは唇を噛んだ。
そして、セルフィの前へ戻った。
スコールはガンブレードを構え直した。
(……まだだ)
身体が痛む。
だが、倒れるわけにはいかなかった。
セルフィは、まだ魔法を探している。
その時、オメガウェポンが顔を上げた。
周囲に巨大な魔法陣が現れる。
「……メテオ!」
キスティスが叫んだ。
空が暗くなる。
無数の岩塊が、上空に現れた。
「全員、セルフィの前へ!」
スコールが叫ぶ。
五人が一斉に動いた。
隕石が降り注ぐ。
大地が爆発した。
リノアが防御魔法を展開する。
キスティスも魔力を重ねた。
だが、隕石の数が多すぎる。
最初の一撃で障壁が激しく揺れた。
二撃目。
三撃目。
障壁に亀裂が走る。
「……くっ!」
リノアが歯を食いしばった。
四撃目。
障壁が砕け散った。
その瞬間、スコールが前へ飛び出した。
ガンブレードで飛来する岩片を弾く。
ゼルも拳で岩を砕いた。
アーヴァインは銃撃で大きな岩塊を破壊する。
だが、すべてを防ぐことはできなかった。
巨大な岩片が、キスティスの肩を捉えた。
「……あっ!」
キスティスが倒れ込む。
「キスティス!」
ゼルが叫んだ。
「……大丈夫!」
キスティスは立ち上がろうとした。
だが、右腕が上がらない。
肩を強く打ったらしい。
それでも、彼女は左手で鞭を握り直した。
「……セルフィは?」
「無事だ!」
スコールが答える。
キスティスは小さく息を吐いた。
「……なら、よかった」
その言葉に、スコールは胸が詰まるような感覚を覚えた。
仲間たちが、傷ついていく。
自分も。
ゼルも。
キスティスも。
アーヴァインも。
リノアも。
ただ一人、セルフィを守るために。
スコールは岩陰を見た。
セルフィは目を閉じたまま、魔力を探し続けている。
(……頼む)
スコールは心の中で呟いた。
(……間に合ってくれ)
セルフィの意識の中では、魔法の流れが続いていた。
ファイガ。
アルテマ。
メテオ。
フルケア。
ウォール。
(……違う)
セルフィは唇を噛んだ。
(……違う、違う!)
目的の魔法が現れない。
何度探しても。
何度やり直しても。
ジエンドが見つからない。
(……何で?)
呼吸が速くなる。
(……どうして出ないの?)
遠くで爆発音が響いた。
誰かの叫び声が聞こえる。
ゼルの声。
アーヴァインの声。
キスティスの声。
セルフィは目を開けそうになった。
だが、堪えた。
(……駄目)
今、集中を切らせば、最初からやり直しになる。
(……みんなが守ってくれてるんだから)
もう一度、魔力の流れを追う。
だが。
ジエンドは現れなかった。
その時。
「……ぐあっ!」
ゼルの声が響いた。
セルフィの身体が震えた。
(……ゼル?)
目を開けたい。
何が起きたのか確かめたい。
だが、できない。
スロットを維持するためには、集中を切らしてはいけない。
(……大丈夫)
セルフィは自分に言い聞かせた。
(……みんな、大丈夫)
だが、その言葉には確信がなかった。
戦場では、ゼルが地面へ倒れていた。
オメガウェポンの拳をまともに受けたのだ。
左腕が不自然な角度に曲がっている。
「……くそっ!」
ゼルは右腕で身体を起こした。
だが、立ち上がれない。
その頭上へ、巨大な拳が振り下ろされる。
「ゼル!」
スコールが駆け出した。
ガンブレードを振り抜く。
拳の軌道を僅かに逸らした。
だが、その衝撃でスコール自身も吹き飛ばされた。
地面を転がる。
胸が痛む。
呼吸が苦しい。
「……スコール!」
リノアが叫んだ。
だが、スコールは立ち上がった。
「……まだだ」
ガンブレードを握り直す。
「……まだ、終わってない」
オメガウェポンが両腕を広げた。
周囲に、十六の光点が浮かび上がる。
キスティスの表情が変わった。
「……テラ・ブレイク!」
スコールは歯を食いしばった。
先ほど、六人を瀕死に追い込んだ攻撃。
十六の光の矢。
今度は、セルフィを守りながら耐えなければならない。
「……全員、セルフィの前へ!」
スコールが叫んだ。
五人が集まる。
ゼルは左腕を押さえながら立ち上がった。
キスティスは右肩を庇っている。
アーヴァインは額から血を流していた。
リノアも、魔力の消耗で顔色が悪い。
それでも、誰も退かなかった。
第一の矢。
スコールがガンブレードで受け止める。
衝撃で腕が痺れた。
第二の矢。
ゼルが身体を投げ出して軌道を逸らす。
第三の矢。
キスティスの防御魔法が砕けた。
第四の矢。
第五の矢。
第六の矢。
光の矢が、次々と放たれる。
五人の身体に傷が増えていく。
第七の矢。
アーヴァインがセルフィの前へ飛び出した。
銃を構える。
波動弾。
魔力を帯びた弾丸が、光の矢へ激突した。
爆発。
だが、衝撃波がアーヴァインを吹き飛ばした。
「……ぐっ!」
地面へ倒れ込む。
第八の矢。
第九の矢。
リノアが防御障壁を展開する。
だが、光の矢が次々と突き刺さる。
第十の矢。
障壁に亀裂が走った。
「……っ!」
リノアが歯を食いしばる。
第十一の矢。
障壁が砕け散った。
「……きゃっ!」
リノアが倒れ込む。
第十二の矢。
キスティスが咄嗟に前へ出た。
左手で鞭を振るい、光の軌道を逸らそうとする。
だが、光は鞭を弾き飛ばした。
衝撃が身体を捉える。
「……あっ!」
キスティスが地面へ倒れた。
第十三の矢。
スコールが受け止める。
ガンブレードが激しく震えた。
第十四の矢。
ゼルが飛び込む。
「……おらあっ!」
残った右腕で拳を振り抜く。
光の矢が爆発した。
ゼルの身体が吹き飛ばされる。
「……ゼル!」
スコールが叫ぶ。
第十五の矢。
アーヴァインが立ち上がった。
銃を構える。
だが、引き金を引くよりも早く、光が身体を捉えた。
「……ぐあっ!」
再び地面へ倒れ込む。
そして。
第十六の矢。
最後の光点が、ひときわ強く輝いた。
その狙いは、セルフィだった。
スコールは顔を上げた。
(……まずい)
五人は、ほとんど動けない。
ゼルは倒れている。
キスティスも。
アーヴァインも。
リノアは膝をついたまま、立ち上がれずにいた。
スコール自身も、身体中が痛む。
だが。
(……守る)
ガンブレードを握り直す。
セルフィの前へ立った。
光の矢が放たれる。
スコールは刃を構えた。
衝撃。
凄まじい魔力が、ガンブレードへ激突した。
「……ぐっ!」
腕が軋む。
足元の地面が砕ける。
光が、刃を押し込んでくる。
(……負けるか)
スコールは歯を食いしばった。
背後には、セルフィがいる。
仲間たちが命懸けで守ってきた、最後の希望。
(……絶対に)
光が弾けた。
スコールの身体が吹き飛ばされた。
地面を転がる。
ガンブレードが手から離れた。
だが、光の矢はセルフィへ届かなかった。
スコールは倒れたまま、顔を上げた。
「……セルフィ」
声が掠れた。
「……頼む」
セルフィは、まだ目を閉じていた。
魔法の流れを追い続けている。
(……違う)
アルテマ。
メテオ。
フルケア。
ウォール。
(……違う!)
何度も。
何度も。
目的の魔法を探す。
だが、ジエンドは現れなかった。
(……何で)
セルフィの呼吸が乱れる。
(……何で出ないの!?)
遠くで、スコールの声が聞こえた。
掠れた声。
苦しそうな声。
(……スコール?)
セルフィの身体が震えた。
目を開けたい。
仲間たちの様子を確かめたい。
だが、今ここで集中を切らせば。
(……駄目)
セルフィは唇を噛んだ。
(……お願い)
魔法の流れを追い続ける。
(……お願いだから)
ジエンドは現れない。
その間にも、オメガウェポンが動き始めた。
巨大な腕を持ち上げる。
その掌に、魔力が集まっていく。
スコールは顔を上げた。
(……また、来る)
だが、身体が動かない。
ガンブレードは少し離れた場所へ落ちている。
仲間たちも倒れている。
セルフィだけが、まだ立っていた。
オメガウェポンの掌に、巨大な光が集まる。
アルテマ。
スコールは歯を食いしばった。
(……間に合わない)
その時。
「……セルフィ」
小さな声が聞こえた。
アーヴァインだった。
彼は地面に片膝をつきながら、銃を構えていた。
「……大丈夫」
荒い息を吐く。
「……僕たちが、守るから」
引き金を引いた。
銃声。
弾丸がオメガウェポンの胸部へ命中する。
だが、巨体は怯まない。
アーヴァインは再び引き金を引いた。
もう一度。
さらにもう一度。
弾丸が尽きるまで。
やがて、銃声が止まった。
アーヴァインは銃を下ろした。
「……ごめん」
小さく呟く。
「……もう、弾がないや」
そのまま、地面へ倒れ込んだ。
セルフィの頬を、涙が伝った。
(……アーヴァイン)
聞こえていた。
すべて。
ゼルの叫び声も。
キスティスの苦しそうな声も。
リノアが魔法を使う気配も。
スコールが何度も立ち上がる音も。
みんなが、自分を守るために傷ついている。
(……私のせいで)
セルフィは唇を噛んだ。
(……みんなが)
魔法の流れが乱れた。
集中が途切れかける。
(……駄目)
セルフィは必死に意識を繋ぎ止めた。
(……泣いてる場合じゃない)
もう一度、魔法を探す。
ファイガ。
ブリザガ。
フルケア。
ウォール。
(……違う)
アルテマ。
メテオ。
トルネド。
(……違う!)
オメガウェポンの頭上で、巨大な魔法陣が完成しようとしていた。
スコールは地面に手をついた。
身体が動かない。
それでも、立ち上がろうとした。
「……まだだ」
声が掠れる。
「……まだ、終わってない」
リノアが顔を上げた。
「……スコール」
彼女も立ち上がろうとする。
だが、膝が震えていた。
キスティスが、左手で地面を押した。
ゼルも、歯を食いしばって身体を起こす。
アーヴァインは、もう動かなかった。
五人のうち、四人が辛うじて立ち上がった。
だが、誰もまともに戦える状態ではなかった。
オメガウェポンが、巨大な魔力を集める。
アルテマ。
これまでのものよりも、さらに強大な魔力。
スコールはセルフィの前へ立った。
ゼルも並ぶ。
キスティス。
リノア。
四人が、最後の力を振り絞って防御魔法を展開した。
「……セルフィ」
スコールが呟いた。
「……頼む」
その声は、セルフィにも聞こえた。
(……スコール)
涙が止まらなかった。
自分を守るために、仲間たちが倒れていく。
それでも、誰も責めない。
誰も、諦めろと言わない。
(……何で)
セルフィは歯を食いしばった。
(……何で、そんなに信じてくれるの)
魔法の流れが、さらに速くなる。
ファイガ。
アルテマ。
フルケア。
ウォール。
(……違う)
もう何度探したか分からない。
魔力も、集中力も、限界に近かった。
オメガウェポンの魔法陣が、さらに強く輝く。
スコールたちの防御魔法が、激しく揺れた。
まだアルテマは放たれていない。
それなのに、溢れ出す魔力だけで障壁が軋んでいた。
「……くっ!」
ゼルが歯を食いしばる。
キスティスの身体が震える。
リノアは両手を突き出したまま、目を閉じていた。
スコールはガンブレードを構えた。
(……ここまでか)
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
だが、すぐに振り払う。
(……違う)
背後には、セルフィがいる。
彼女はまだ諦めていない。
(……だったら)
スコールは歯を食いしばった。
(……俺たちも、諦めるわけにはいかない)
その時。
セルフィの意識の中で、一つの魔法が現れた。
それは、ほかの魔法とはまるで違っていた。
炎でもない。
氷でもない。
雷でもない。
光でも、闇でもない。
ただ、静かだった。
不思議なほど、静かな魔法。
(……あ)
セルフィは息を呑んだ。
見覚えがある。
ずっと探していたもの。
何度も何度も、流れていく魔法の中から探し続けていたもの。
(……これ)
魔法の気配が、ゆっくりと形を取る。
セルフィは目を見開いた。
(……見つけた)
だが、その瞬間。
オメガウェポンの魔法陣が完成した。
アルテマ。
巨大な光が、六人へ向けて放たれる。
「……来るぞ!」
スコールが叫んだ。
四人が防御魔法へ力を注ぐ。
障壁が、眩い光に包まれた。
衝撃。
大地が震える。
障壁に亀裂が走った。
「……ぐっ!」
ゼルが膝をつく。
キスティスの身体が後方へ押し戻される。
リノアの魔力が、急激に弱まった。
スコールはガンブレードを構えたまま、歯を食いしばった。
(……耐えろ)
障壁が砕け始める。
(……あと少し)
その時。
「……みんな!」
セルフィの声が響いた。
スコールは振り返った。
セルフィが、目を開けていた。
涙で濡れた頬。
だが、その表情には、確かな笑みがあった。
「……見つけたよ」
スコールの目が見開かれた。
「……セルフィ」
セルフィは頷いた。
「……ありがとう」
その周囲に、淡い光が広がり始める。
「……みんなが守ってくれたから」
オメガウェポンのアルテマが、障壁を押し潰そうとしている。
だが、セルフィはもう慌てなかった。
ゆっくりと両手を広げる。
そして、静かに告げた。
「……ジエンド」
その瞬間。
世界が、静かになった。
轟音が消える。
大地の震えが止まる。
目の前まで迫っていたアルテマの光が、空中で静止した。
そして、音もなく消えた。
スコールは目を見開いた。
(……何だ?)
オメガウェポンは、まだそこに立っていた。
巨大な身体。
黒い装甲。
複数の魔女から奪った膨大な魔力。
そのすべてが、確かに存在していた。
だが、動かない。
セルフィの周囲から、淡い光が広がっていく。
それは攻撃魔法のように、オメガウェポンへ向かって飛んでいくものではなかった。
光は、ただ周囲を満たしていく。
やがて、オメガウェポンの身体を包み込んだ。
黒い装甲が、ゆっくりと崩れ始めた。
傷ついた箇所からではない。
全身が、同時に。
まるで、その存在を繋ぎ止めていた何かが失われたかのように。
「……何だよ、これ」
ゼルが呟いた。
キスティスも、言葉を失っていた。
オメガウェポンの身体から、幾つもの光が浮かび上がる。
赤。
青。
紫。
複数の魔女の魔力。
それらは互いに衝突することもなく、静かに離れていった。
そして、光の粒となって消えていく。
オメガウェポンが、最後に顔を上げた。
その瞳が、セルフィを捉える。
だが、攻撃はしなかった。
できなかった。
巨体が、ゆっくりと崩れていく。
腕が消える。
脚が消える。
胸部が光へ変わる。
そして。
オメガウェポンは、完全に消滅した。
何も残らなかった。
爆発もない。
断末魔もない。
ただ、そこに存在していたものが、いなくなった。
静寂が訪れる。
スコールは、しばらく動けなかった。
目の前には、荒れ果てた大地が広がっている。
オメガウェポンの姿は、どこにもない。
「……終わった?」
リノアが呟いた。
キスティスが周囲を見回す。
「……魔力反応が、消えてる」
ゼルが、ゆっくりと立ち上がった。
「……マジかよ」
そして、セルフィを見た。
「……本当に、倒したのか?」
セルフィは少しだけ笑った。
「……うん」
だが、次の瞬間。
身体がふらついた。
「……あれ?」
膝が折れる。
そのまま倒れそうになったところを、スコールが抱き止めた。
「……セルフィ!」
セルフィは、ぼんやりとスコールを見上げた。
「……えへへ」
力なく笑う。
「……やったよ」
「……ああ」
スコールは頷いた。
「……よくやった」
セルフィは目を閉じた。
「……みんな、無事?」
スコールは仲間たちを見た。
ゼルは左腕を押さえながら立っている。
キスティスは右肩を庇っていた。
リノアも、壁にもたれるようにして身体を支えている。
アーヴァインは、まだ地面に倒れていた。
スコールの表情が変わった。
「……アーヴァイン!」
キスティスが駆け寄った。
膝をつき、呼吸を確かめる。
「……大丈夫。息はあるわ」
ゼルが大きく息を吐いた。
「……よかった」
リノアが回復魔法を放つ。
アーヴァインの身体を、淡い光が包み込んだ。
しばらくして、彼がゆっくりと目を開いた。
「……あれ?」
ぼんやりと周囲を見回す。
「……僕、どうなった?」
ゼルが笑った。
「おまえ、最後まで寝てたぞ!」
「……え?」
アーヴァインが目を丸くした。
「……終わったの?」
「終わったよ!」
セルフィが叫んだ。
スコールに支えられながら、笑っている。
「勝ったんだよ!」
アーヴァインは、しばらくセルフィを見つめた。
そして、苦笑した。
「……そっか」
帽子を持ち上げる。
「……やるじゃない」
セルフィが笑った。
「えへへ!」
だが、その目から再び涙が溢れた。
「……ごめんね」
突然の言葉に、ゼルが目を丸くした。
「……何が?」
「……みんな、いっぱい怪我しちゃって」
セルフィは俯いた。
「私が、もっと早く見つけられてたら……」
声が震える。
「……こんなに、傷つかなくて済んだのに」
誰もすぐには答えなかった。
スコールは、セルフィの肩を支えたまま口を開いた。
「……セルフィ」
彼女が顔を上げる。
「……何?」
「俺たちは、自分で決めた」
スコールは静かに言った。
「おまえを守るって」
セルフィは黙った。
「だから、謝る必要はない」
ゼルが頷いた。
「そうだぜ!」
左腕を押さえながら笑う。
「俺たちだって、ただ守ってただけじゃねえしな!」
キスティスも微笑んだ。
「あなたが最後まで諦めなかったから、勝てたのよ」
リノアがセルフィの手を握った。
「ありがとう」
アーヴァインも頷いた。
「まあ、正直ちょっと怖かったけどねえ」
セルフィが笑った。
「……うん」
涙を拭う。
「……ありがとう」
スコールはゆっくりと立ち上がった。
ガンブレードを鞘へ収める。
周囲を見回した。
荒れ果てた大地。
砕けた岩山。
幾つもの巨大な亀裂。
だが、オメガウェポンはもういない。
(……終わった)
スコールは小さく息を吐いた。
アルティミシア。
時間圧縮。
そして、オメガウェポン。
長い戦いが、ようやく終わった。
その時。
通信機が鳴った。
『スコール!』
ラグナの声だった。
「……ラグナ」
『おお! 繋がった!』
通信の向こうで、慌ただしい声が聞こえる。
『無事か!?』
「……ああ」
『オメガウェポンは!?』
スコールは仲間たちを見た。
そして、静かに答えた。
「……倒した」
通信の向こうが静まり返った。
数秒後。
『……本当か!?』
「ああ」
『やったああああ!』
ラグナの叫び声が響いた。
スコールは思わず通信機を耳から離した。
『キロス! ウォード! 聞いたか!? スコールたちが勝ったぞ!』
遠くで、キロスの笑い声が聞こえた。
『聞こえてるよ、ラグナ』
『エルオーネ! スコールが勝ったって!』
『うん!』
エルオーネの嬉しそうな声が聞こえる。
スコールは少しだけ笑った。
『……スコール』
ラグナの声が、少し落ち着いた。
「……何だ?」
『お疲れさん』
スコールは黙った。
『本当に、よく頑張ったな』
その声は、いつになく優しかった。
スコールは少しだけ目を伏せた。
「……ああ」
そして、答えた。
「……ただいま」
通信の向こうで、ラグナが息を呑む気配がした。
やがて。
『……おかえり』
静かな声が返ってきた。
スコールは通信を切った。
顔を上げる。
エスタの空は、すっかり元の青さを取り戻していた。
時間圧縮の痕跡は、もう見えない。
異なる時代を繋いでいた亀裂も、完全に消えている。
スコールは空を見上げた。
(……終わったんだな)
そして、仲間たちを見た。
ゼルが笑っている。
セルフィが涙を拭っている。
アーヴァインが帽子を直している。
キスティスが微笑んでいる。
リノアが、こちらを見ていた。
「……帰ろうか」
リノアが言った。
スコールは頷いた。
「……ああ」
六人は、互いに肩を貸しながら歩き始めた。
ラグナロクが待つ場所へ。
誰一人、無傷ではなかった。
だが、誰一人欠けることもなかった。
長い戦いが、ようやく終わった。
今度こそ、本当に。