FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
バラムの街へ戻った頃には、空が朝焼けに染まり始めていた。
「ふわぁ~~~~~! やっと着いたな」
ゼルが両腕を伸ばす。
「ホント、ほんと」
セルフィも大きく息を吐いた。
実戦を終えた直後だというのに、この二人はもう普段の調子へ戻りつつある。
「さてと。あとは試験結果を待つのみ。んじゃ、スコール、またあとでな」
「そんじゃねぇ~」
二人が先へ行く。
ラグナはその背中を見送った。
(試験結果、か)
ちらりと横を見る。サイファーがいた。
いつものように堂々と歩いているけれど、何度も試験を受けていると聞いた。
今回も落ちるかもしれない。そんな不安など一片も見せない顔だった。
「何見てんだ」
「いや」
「気持ち悪いぞ」
「ひどいな」
サイファーは鼻を鳴らし、先へ行った。
(……受かるといいな)
素直に、そう思った。
ガーデンへ戻ると、すでにドールから追加の報告が入っていた。
「任務成功。まあ、めでたしめでたしってところね」
シュウが報告書を閉じる。
「候補生も全員帰還。もっとも、ガルバディア軍の狙いが廃棄された電波塔だったとは、
こっちも読めなかったけど」
「先ほどドール公国から連絡がありましてねえ」
シドが続けた。
「電波塔を発信可能な状態にする。それを条件にガルバディア軍は撤退したそうです」
「結局、撤退しちゃったか」
シュウが肩をすくめる。
「もう少し暴れてくれればSeeDの仕事も増えたんだけどねえ」
(たくましいな、この人)
「スコール」
キスティスが手招きした。
「試験結果はもうすぐよ。この辺にいて」
「はい」
「それにしても」
シュウがラグナを見る。
「キミ、なかなかやるじゃない?」
「え?」
「でしょ?」
なぜかキスティスが得意そうだった。
「私の自慢の生徒なの。昨日からはちょっと違うけど、無愛想なのよね」
(……無愛想)
最近、何度も言われる。
おそらく本来のスコールは相当に口数が少ない。
(俺、しゃべりすぎてる?)
今さらだった。
「スコール」
今度はシド。
「初めての戦場はどうでしたか?」
「…………」
ラグナは少し考えた。初めてではない。
けれど、スコールにとっては初めてだった。
「……怖かったです」
「ほう」
「考える暇がなくなると平気なんですけど。終わってから思い返すと、結構」
シドは穏やかに頷いた。
「まあ、最初はそんなものでしょうねえ」
そして周囲を見渡す。
「みんな大きなケガもなく、なによりです」
「スコール!」
振り返る。サイファーだった。
「聞いたか? 電波塔の話」
「今」
「撤収命令さえなけりゃ、俺たちが全部片付けてた。
今頃ドールの連中から感謝状でも貰ってたかもな」
「あなた」
キスティスが呆れた。
「やっぱり暴れたかっただけじゃない」
「先生」
サイファーの目が細くなる。
「そういう決めつけが生徒のやる気をなくすんだぜ。
半人前の教官には分からないかもしれないけどな」
「サイファー」
シュウの声が割って入った。
「いい気になるんじゃないよ」
サイファーが彼女を見る。
「B班の行動記録は全部確認した」
「…………」
「中央広場を確保。その後は待機。山頂へ移動するガルバディア兵を確認したが、
その時点では追跡せず持ち場を維持した」
サイファーの顔が真剣なものに変わる。
「その後、偵察要請を受けて電波塔方面へ移動。撤収命令受領後は、電波塔への突入を中止」
「…………」
「帰路では大型機動兵器と交戦しつつ撤退。さらに他班の候補生を救助した」
ゼルが小声で言った。
「こうして聞くと、ちゃんとしてんな」
「聞こえてるぞ」
「褒めてんだよ!」
「当たり前だ」
シュウは口元を少し上げた。
「今回はね」
「今回は、は余計だ」
「これまでがこれまでだからね」
「…………」
シドがサイファーを見る。
「命令に従うことは大切です」
サイファーは黙っている。
「ですが、私は君たちに、命令に従うだけの兵士になってほしいわけでもありません」
「…………」
「今回、君は撤収命令に従った。それと同時に、取り残された候補生を見捨てなかった」
シドは微笑んだ。
「いろいろですねえ」
「結局なんなんだよ」
「結果を待ちなさい、ということです」
「最初からそう言え」
「サイファー!」
キスティスの声が飛んだ。
『本日のSeeD選抜実地試験に参加した生徒は、速やかに二階廊下、教室前へ集合せよ』
放送があり候補生たちが一斉に動き始める。
廊下へ向かう途中。
「サイファー!」
雷神。その隣に風神。
「無事だったもんよ!」
「見りゃ分かるだろ」
「風神、ずっと気にしてたもんよ!」
「是」
「帰ってきてうれしいもんよ!」
「雷神」
「?」
「黙!」
風神の蹴りが炸裂した
サイファーが小さく笑った。
ラグナは三人を横目で見る。
仲がいい。口は悪いし、態度も悪い。
でもサイファーには、こういう連中がいる。
(スコール)
また知らなかった息子の世界が一つ増える。
(おまえ、この三人とずっとこんな感じだったのか?)
返事はない。
「なんか、一人ずつ名前呼ばれてるってよ」
ゼルが落ち着かない。
「…………」
セルフィも、さすがに静かだった。
サイファーは壁にもたれている。
腕組み。顔は平然。ただし。指先だけが、腕を一定の間隔で叩いていた。
教師が教室から出てくる。
「ゼル・ディン」
「やったぜーーーーっ!」
跳ねる。
「みんな、お先!」
「セルフィ・ティルミット」
「やったぁ!」
セルフィがゼルを追う。
「ニーダ」
少し離れたところにいた少年が呼ばれる。
そして。
「スコール・レオンハート」
「はい」
ラグナが歩き出す。
そこで教師は紙へ視線を戻した。
「それから」
サイファーの指が止まった。
「サイファー・アルマシー」
「…………」
誰もすぐには声を出さなかった。
サイファー本人さえ。
「サイファー」
教師がもう一度呼ぶ。
「聞こえなかったのか?」
「…………聞こえてる」
壁から背を離す。
「行くぞ」
ラグナが言った。
「言われなくても行く」
横を通り過ぎる。
その顔はいつもと変わらない。
「サイファー!」
雷神の声が廊下へ響いた。
「やったもんよぉぉぉ!」
「うるせえ!」
「喜」
風神。
「当然だ」
「サイファー、顔笑ってるもんよ!」
「笑ってねえ!」
「良」
「風神まで言うんじゃねえ!」
ラグナは少しだけ笑った。
今回の合格者は五名。
ニーダ。セルフィ。ゼル。スコール。
そしてサイファー。
「まずは、おめでとう」
シドが五人を見る。
「今日から君たちは、SeeDとして世界中へ派遣されることになります」
SeeD。バラムガーデンが誇る傭兵。
戦闘のスペシャリスト。だが、それだけではない。
「時が来れば」
シドが何かを続けようとした。
「学園長」
教師が遮る。
「会議の時間が迫っています」
「ああ、そうでしたねえ」
教師が一歩前へ出た。
「SeeDはガーデンの重要な商品だ。
その価値を高めるのも、おとしめるのも君たち自身にかかっている。心して任務にあたるように」
認定証。ランク通知。一人ずつ渡される。
サイファーが受け取る番になった時。
教師が小さく付け加えた。
「今回の君は、持ち場を守った。正式な偵察要請を受けて移動し、撤収命令にも従った」
「…………」
「その上で、他班候補生を救助した。戦闘能力だけで認定されたと思うな」
「説教ならもういい」
「最後まで聞け」
「…………」
「指揮官としての判断を評価した」
サイファーは認定証を見る。
「……そうかよ」
それだけでも紙を持つ指に。
ほんの少し力が入った。
「スコール」
シドがラグナを呼び止めた。
「君にはこれを」
「?」
「バトル計です。これから先、役に立つかもしれません」
「ありがとうございます」
受け取る。シドは声を落とした。
「いつか、じっくり話しましょう」
「…………?」
何を。聞き返す前にシドは離れていった。
(なんだろ)
妙に引っかかった。
「SeeD! シード! し~~どぉ~~!」
セルフィは絶好調だった。
「おう、スコール!」
ゼルも走ってくる。
「教室戻ろうぜ! クラスのみんなに挨拶して、その後は就任パーティー!」
「パーティー?」
「そう!」
セルフィが割り込む。
「パーティー!」
(パーティーか)
ラグナの顔が自然に明るくなる。
「スコール」
サイファー。
「ん?」
「浮かれんなよ」
「おまえも来るだろ?」
「当たり前だ」
「楽しみ?」
「殺すぞ」
「なんでだよ」
夜。SeeDの正装へ着替える。
鏡の中には、黒を基調とした制服に身を包んだスコールがいる。
ラグナは、しばらくその姿を見つめていた。
(似合ってるじゃん)
口元が緩むだが、すぐに少しだけ寂しくなった。
(レイン見せたかったな)
俺たちの息子SeeDになったぞ。
ガンブレード使いのSeeDだ。
きっと俺よりずっと立派な軍人になる。
いや
(……俺を基準にしたらダメか)
命令違反常習犯だった自覚はある。
今日サイファーに散々偉そうなことを考えていた自分を思い出し、ちょっとだけ反省した。
「あっ! はっけ~ん!」
セルフィだった。
「見て見て! SeeD服~!」
くるりと一回転。
「似合ってる?」
「似合ってるよ」
「えへへ~」
今度はこちらを見る。
「あ、スコールも似合う~!」
「ありがとう」
「じゃあ、パーティーにゴ~~~!」
会場は華やかだった。
音楽。料理。グラスを片手に談笑するSeeDたち。
つい数時間前まで本物の戦場にいたとは思えない。
「これからはお互いSeeDだな」
ゼルが嬉しそうに言う。
「よろしく頼むわ」
「ああ」
「おいゼル!」
セルフィがやって来た。
「学園祭実行委員なんだけど~」
「あっ」
ゼルが硬直する。
「俺、用事思い出した!」
「ゼル!」
「またな!」
逃げた。
「ぷ~~」
セルフィの頬が膨らむ。
そして。 くるり。
「スコール!」
「…………」
「学園祭実行委員」
「やるよ!」
ラグナはそう答えてから少し考えた。
(学園祭か)
彼らの青春。自分が知ることのできなかった、息子の学生時代。
「でもときどきでいい?」
「えっ?」
「SeeDの仕事もあるんだろ?」
「あるけど」
「だったら、手伝える時だけ」
一瞬セルフィが固まり、喜びの声をあげる。
「やった~~~~!」
「うわっ」
「これからSeeDで忙しくなるけど、学園祭の準備も頑張ろうね!」
「ああ」
「約束だよ~!」
セルフィが走っていく。
ラグナは、その背中を見送った。
(悪いな、スコール。勝手に引き受けちまった)
もっとも。
(学園祭くらい楽しんだっていいだろ?)
返事はない。
「ねえ」
突然背後から女性の声。
「?」
振り返る。青いドレス。黒髪。
見覚えのある顔。
いや見覚えどころではない。
「君が一番カッコいいね」
「…………」
ラグナの表情が止まった。
(…………え?)
「ね、踊ってくれない?」
(リノア?)
心臓が跳ねた。間違えるはずがない。
何度も会っている。未来でスコールの隣にいた少女。
スコールが追いかけ。スコールを笑わせ。
そしてスコールが命懸けで守ろうとした女性。
(待て待て待て)
頭が追いつかない。
(ここで!?)
リノアとスコールはここで出会ったのか?
「もしかして」
リノアが顔を覗き込んでくる。
「好きな子としか踊らないってやつ?」
「え?」
「ふ~ん」
リノアが悪戯っぽく笑う。
「私のことが……好きにな~る、好きにな~る」
「…………」
「ダメ?」
その顔を見て未来の記憶が重なる。
スコールの名前を呼ぶリノア。
その隣に立つ息子。
(そうかここなんだ)
二人の最初。ラグナは差し出された手を見る。
(……俺が踊っていいのか?)
急に怖くなった。
未来を知っている自分がここで何かを変えれば。
この少女と息子の未来まで変わるのではないか。
「…………」
「どうしたの?」
「いや」
断る?いや。
(くそ)
こんなところで未来を知っていることがこんなに怖いとは思わなかった。
「俺」
ラグナは言った。
「踊れないんだ」
これは本当にそうだった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
リノアは笑う。
「知り合いを探してるの。一人じゃダンスの輪に入れないからね」
「…………」
「だから」
もう一度。手。
「付き合って」
ラグナはその手を見つめる。
(スコール)
ほんの一瞬。目を閉じた。
そして手を取った。
(いやいやいやいや)
ラグナは早くも後悔していた。
(俺、本当に踊れないぞ!)
「右」
「え?」
「右足」
「あっ、ごめん!」
「次、左」
「はい!」
「ふふっ」
「笑った?」
「ちょっと」
「ごめんって!」
「謝りすぎ」
リノアが笑う。その笑顔。
ラグナは一瞬だけ足を止めそうになった。
(…………)
この笑顔を知っている。
未来で。何度も。そしてその隣にはいつも
(スコール)
胸が妙に熱くなる。
(こんなところから始まったのか)
「ほら」
リノアが手を引く。
「ちゃんと私見て」
「…………ああ」
見つめる。未来を知っている。
この少女がやがて息子にとってかけがえのない存在になる。
(言いたい)
ものすごく言いたい。
スコールは不器用だけど本当は優しい。
無愛想だけどちゃんと人を見ている。
自分からはなかなか言わないから面倒だと思う。
それでも飲み込む。
(あいつのことよろしく頼む)
喉まで出かかった。
(ダメだ)
今のリノアはまだスコールを知らない。
ここで自分が言ってはいけない。
それは息子と彼女が自分たちで作っていくものだ。
「…………?」
リノアが不思議そうに見ている。
「なに?」
「いや」
「なんか言いたそう」
「気のせい」
「ほんと?」
「ああ」
未来を知る父親は必死に何も知らない息子の顔をする。
「ふ~ん」
リノアは納得していない。
だが再び笑った。
「じゃあ次、回るよ」
「え?」
「はい!」
「うわっ!」
回される。
「逆逆!」
「え!?」
「そっちじゃない!」
「難しいって!」
「もう!」
笑われる。少しずつステップが合う。
不思議だった。ラグナ自身はこんなダンスなどほとんど知らない。
なのに身体が少しずつ彼女の動きに合わせていく。
そして胸の奥ラグナのものではないところが妙に騒いでいる。
(…………)
ラグナは気づく。この身体は彼女を目で追っている。
自分がそうしたいからではなく、スコールの身体そのものが。
「…………」
(もしかして)
少しだけ笑いそうになる。
(最初から結構気になってたんじゃないか?)
答えはない。
妙に父親として嬉しかった。
音楽が終わる。
「できたじゃない」
「先生がよかった」
「でしょ?」
リノアが得意げに笑う。その瞬間。
人混みの向こうを見る。
「あ!」
誰かを見つけた。
「じゃあね!」
「あ」
リノアが走り出す。
ラグナは反射的に呼び止めそうになった。
「リノ……」
止める。まだ名前を聞いていない。
ここで知っているはずがない。
リノアは気づかず。人混みへ消えていった。
「…………」
ラグナはしばらくその方向を見ていた。
(危なかった)
心臓が速い。ダンスのせいだけではない。
(未来を知ってるって思ったより面倒だな)
それでも口元が少しだけ緩む。
(会えてよかった)
スコールがどんなふうに彼女と出会ったのか。
知ることができた。
そして何より。
(リノア)
心の中だけで名前を呼ぶ。
(スコールを)
そこで。やめた。違う。
未来で既に知っているからといって。
彼女に息子を託すようなことを考えるのも少し違う気がした。
二人は二人だ。
父親が口を挟むことではない。
(……ま)
(頑張れ、スコール)
それくらいなら許されるだろう。
「ほんと成績優秀よね、あなた」
「!」
振り返るとキスティスがいた。
「さっきのダンスも満点よ」
「見てたの?」
「ええ」
「…………」
「何よ、その顔」
「いや」
キスティスが少し意地悪そうに笑った。
「知らない女の子とは踊るのに、私とは一緒にいるのもイヤなの?」
「いやいやいや」
「ずいぶん楽しそうだったじゃない」
「それは」
ラグナは人混みへ消えたリノアの方をほんの一瞬だけ見る。
「…………まあ」
「まあ?」
「ちょっと、嬉しかっただけ」
「何それ?」
「こっちの話」
キスティスが首を傾げる。
ラグナは小さく笑った。
「命令を伝えに来たの」
「命令?」
「私と一緒に、通称『秘密の場所』へ行きます」
「…………秘密の場所?」
「消灯時間を過ぎてから、生徒たちがこっそり会って話をするところ」
「先生が?」
「訓練施設の先よ」
「規則違反を注意する任務?」
「違う」
「じゃあ何するの?」
「私服に着替えて訓練施設入口へ集合」
キスティスが少し笑う。
「これは私の最後の命令よ」
「最後?」
「まあ」
視線を逸らす。
「いろいろあるの」
真夜中の秘密の場所。
「ここ、久しぶりだわ」
キスティスが腰を下ろした。
「何時?」
「真夜中過ぎ」
「あ~あ!」
突然。大きな声。
「私、キスティス・トゥリープは」
両手を広げる。
「ただ今をもって教官じゃなくなりました!」
「…………」
「これであなたと同じSeeD。一緒に仕事することもあるかもね」
「……そうか」
「それだけ?」
「…………」
キスティスが膝を抱える。
「私、教官失格なんだって」
声が少しだけ小さくなる。
「指導力不足」
十五歳でSeeD。十七歳で教官資格。それから一年。
「何が悪かったのかな」
「…………」
「いろいろ頑張ってきたんだけどね」
ラグナは黙って聞いていた。
「ねえ」
「うん」
「聞いてる?」
「聞いてるよ」
キスティスが少し驚いた顔をした。
「…………」
「何?」
「あなたなら『壁にでも話してろ』くらい言うかと思った」
「ひどくない?」
「普段のあなたなら言いそう」
(スコール)
ラグナは心の中で息子を見るように呼びかけた。
(おまえ、どんな奴だったんだよ)
それでもキスティスは明らかに落ち込んでいる。
「俺には」
ラグナは言葉を探す。
「教官のことは分からない」
「…………」
「何が正しかったかも」
「うん」
「でも」
少し考える。
「一年やってダメだったからって、今まで全部がダメだったことにはならないだろ」
「…………」
「俺だって今日、炎の洞窟に付き合って、ドールでは助けてもらったし」
キスティスが目を瞬く。
「……慰めてる?」
「たぶん」
「下手ね」
「ごめん」
「そこは謝らなくていい」
キスティスは笑った。
しばらくして。
「ねえ、スコール」
「ん?」
「誰だって一人で生きてるわけじゃないんだから」
「…………」
その言葉はラグナには痛いほど分かった。
キロス。ウォード。レイン。エルオーネ。
そして。17歳まで会うことのできなかった息子。
「そうだな」
静かに答えた。
翌朝。
「スコール! SeeD初仕事よ!」
セルフィに叩き起こされた。
「あたしたち、ティンバーへ行くみたい! 私服でカードリーダー前集合! 急げ~!」
「え」
時計。
「うわっ!もう出ないと!」
「間に合った!」
ゼルがTボードで飛び込んでくる。
「ガーデン内ではTボードは禁止だ」
「あ」
即没収。
「これ便利なんすよ! SeeDの任務にも絶対」
「役に立つかどうかは我々が決める」
「はい……」
「さて」
シドがメンバーを見渡す。
「初任務ですねえ」
目的地はティンバー。
現地組織の支援。駅で接触。合言葉は、
「ティンバーの森も変わりましたね」
そう言われたら
「まだフクロウはいますよ」
「覚えました」
「俺たち三人だけ?」
ゼルが聞く。
「いいや」
教師が書類を見る。
「今回、もう一名同行する」
足音。
「…………」
ゼルが露骨に嫌そうな顔。
「おい」
サイファーだった。
「なんだその顔」
「いや」
「言えよ」
「なんでおまえまでいるんだよ」
「俺もSeeDだからだ」
「そういう意味じゃねえ!」
「今回の任務は、新任SeeD四名で行う」
教師が遮る。
「班長はスコール」
「…………は?」
「俺?」
「君だ」
サイファーの眉間に深い皺。
「俺じゃないのか?」
「ドールで班長は経験しただろう。今回はスコールの指揮能力を見る」
「…………」
シドが微笑む。
「サイファー。今度は班員として、班長を支えてください」
「…………チッ」
「よろしく」
ラグナが言う。
「嬉しそうに言うな」
「そんなことないよ」
「顔が嬉しそうなんだよ」
「サイファー、教師からの命令だ」
「分かってる!」
セルフィがゼルへ小声。
「大丈夫かなぁ?」
「絶対揉めるぜ」
「聞こえてるぞ!」
バラム駅 ティンバー行き列車。
「私が見送ったSeeDさんたちは、みんな無事に帰ってきました」
駅員が笑う。
「だから心配いりません。お気をつけて」
「ありがとうございます」
列車へ乗り込んだ。
「この列車、すごいね~!」
「さすが大陸横断鉄道だろ?」
ゼルが得意げに説明する。
「海底トンネルで海を越えるんだぜ!」
「へえ」
「興味ないのね」
「いや、あるよ」
「じゃあもっと驚けよ!」
「難しいな」
「スコール。チケット」
「あ」
「班長!」
「ごめん!」
「先が思いやられるぜ」
サイファーが鼻で笑った。
「おまえは黙ってろ!」
チェッカー。確認。ロック解除。
「前の方も見てこよ~っと!」
セルフィが駆けていく。
「ここがSeeD専用キャビンだぜ!」
ゼルの目が輝く。
「うおっ! すげえ!」
セルフィは廊下で歌っている。
サイファーはソファへ座る。
「はしゃぎすぎだろ」
「おまえも嬉しいんだろ?」
「黙れ」
ゼルが雑誌を手に取った。
「なあ、スコール。ティンバーについて知ってるか?」
「いや」
「だろ?」
嬉しそう。
「じゃあ説明してやる!」
「お願い、物知りゼル」
「おう! 任せろって!」
サイファーが吹き出した。
「物知りゼル?」
「なんだよ!」
「いや。いい名前じゃねえか」
「笑うな!」
ゼルは咳払い。
「ティンバーは昔、森林に囲まれた国だった。
けど十八年前にガルバディアが侵攻して、そのまま占領」
ラグナの表情が少しだけ変わる。
十八年前ラグナはティンバーで任務に就いていた。
森で迷っていたからあんまり作戦は知らないが。
「今じゃ大小いろんなレジスタンス組織があるらしいぜ」
「……それで?」
「そんだけ」
「…………」
「なんだよ!」
「ありがとう、物知りゼル」
「おう!」
「しょぼい情報だ」
サイファーが笑う。
「なんか……変なの」
セルフィがふらついた。
「セルフィ?」
「すっごく……眠い……」
「疲れてるなら休んだ方がいい」
「うん……」
セルフィが崩れる。
「おい!」
ラグナが受け止める。
「セルフィ?」
「……あれ?」
ゼル。
「なんだ……これ……俺も……」
倒れる。
「ゼル!」
ラグナが駆け寄る。
「おい!」
「スコール……なんか……ねむ……」
意識を失う。
「おい、ゼル!」
「チッ」
サイファーが立つ。
「毒か?」
「分からない」
「車掌呼ぶぞ」
その時サイファーの身体へも影響がでる。
揺れた。
「……なんだ?」
「サイファー?」
「頭が……」
額を押さえる。
「おい!」
「クソ……なんだ、これ……」
「サイファー!」
ラグナが支える。
「おい!」
返事がない。
「セルフィ!」
呼吸はある。
「ゼル!」
同じく眠っている。
ただ異常なほど深い。
「…………」
ラグナだけ起きている。
(どうなってんだ?)
三人とも目を覚まさない。
「頼む」
ラグナはサイファーの肩を揺らす。
「起きろ」
反応なし。
「ゼル」
なし。
「セルフィ」
なし。
「おい……」
ラグナはただ三人が目を覚ますことを祈った。
光。
森。
銃声。
モンスター。
「本当にこっちかい? ラグナさんよ」
キロス。
「またやっちゃったんじゃあ……」
ウォード。
そしてその前を歩く若き日のラグナ。
いやただのラグナ。
(なんだよこれッ!)
その身体の奥でサイファーの意識が叫んでいた。
(誰だこいつ!?)
「なあ」
ウォードがぼやく。
「俺たち、戦争に来たんだよな?」
「ティンバー軍の兵士を相手にするはずだった」
キロス。
「それがどうして、こんなところでモンスターを相手にしている?」
「ん~」
ラグナが考える。
「それはあれだ」
「また道を間違えた」
「…………」
「…………」
「とにかく帰還だ!」
ラグナが勢いよく指を差した。
「デリングシティへGO!」
(…………)
サイファーは悪態をつく。
(こいつバカなのか?)
「こんな真ん中に停めるかよ!」
「気にしない、気にしない」
ラグナは車を降りる。
「さ~て! 飲みに行くか!」
「飲めないくせに」
キロス。
「目当ては酒じゃねえだろ」
ウォード。
「憧れのピアノねえちゃん」
「ピアノねえちゃんって言うな!」
(…………)
サイファーはラグナの中で呆然としていた。
(なんだ、この夢)
身体は動かせない。声も届かない。
ただ見える。聞こえる。そしてラグナの考えていることが妙に近い。
ホテルのバー。
「いらっしゃいませ! いつもの特等席どうぞ!」
ラグナが急に立ち止まった。
「……なんだ?」
「どうした?」
キロス。
「あ……いや」
ラグナが頭を振る。
「なんだろうな」
「もしかして」
ウォードが頭を指した。
「頭ん中、ザワザワするんじゃないか?」
「お、おう」
「俺もだ。ティンバー辺りから」
「私もだ」
キロス。
(…………!)
サイファーが初めて理解する。
(こいつら)
(俺たちに気づいてる?)
「疲れてるんだよ」
ウォード。
「飲めば治る」
「そうそう!」
ラグナ。
「飲もう!」
(適当すぎるだろ!)
ピアノ。 女性。 ジュリア。
ラグナの鼓動が跳ね上がる。
(ああ、ジュリアがこんな近くに)
(…………)
サイファー。
(なんだこいつ)
(戦場より緊張してんじゃねえか)
ラグナが立つ。
(行くのか?)
歩く。
(本当に行くのかよ)
足が止まる。
(あ)
攣る。
「っ……!」
(情けねえ!)
サイファーの感想とラグナ自身の感想が完全に一致した。
そしてジュリアがこちらへ来る。
「あ」
キロス。
「お」
ウォード。
二人が立つ。
「ラグナくん、私たちは失礼する」
「な、なんだよ!」
「ここは僕たちのおごりだ」
逃げる。
(見捨てられてるぞ)
「座っていい?」
ジュリアが後ろにいた。
「あ」
「邪魔だった?」
「ぜ、ぜぜん。ど、どぞう」
(なんだ、この男)
ラグナの頭の中はいっぱいいっぱいである。
(ジュリアだ本物だどうするキロスウォード助けてくれ何話すんだでも綺麗だいい匂い)
(うるせえ!頭ん中うるせえぞ!)
ジュリアの部屋。
ラグナは最初こそ緊張していた。
だが十分後には
「それでさ、戦場自体は好きじゃないんだけど、あちこち行けるだろ?」
(もう馴染んでる……)
「キロスとウォードが一緒だから楽しいんだ。あいつらいい奴でさ」
(こいつ)
「兵隊辞めたら、ジャーナリストになりたいんだ」
サイファーの意識が少し静かになる。
「自分で見たこと、聞いたことを、いろんな人に伝えたい」
夢。
(…………)
サイファーは聞いていた。こいつにも夢がある。
ジュリアが尋ねる。
「ジュリアは?」
「え?」
「俺ばかり話してる」
「ふふふ」
ラグナは頭を掻く。
「ジュリアにも夢ある?」
「私は」
ジュリアが少しだけ視線を落とす。
「歌いたい」
「歌?」
「ピアノだけじゃなくて」
「聴きたいな」
「でも歌詞が作れなくて」
「そっか」
ラグナが真面目な顔になる。
「難しいんだろうな」
ジュリアは彼を見る。
「でも、もう大丈夫」
「?」
「あなたのおかげで、詞ができそう」
「俺?」
ジュリアが笑う。
「あなたが見せてくれた、いろんな顔」
傷ついた顔。悩んだ顔それでも辛いものを包むように笑う顔。
「あなたがヒントをくれた」
「…………」
「きっと、いい歌になると思う」
ラグナは子供みたいに笑った。
「すげえ」
そして。
「夢みたいだ」
「夢じゃない、でしょ?」
(…………夢)
サイファーは黙っていた。
自分にもある。ロマンティックな夢。
そのために戦っている。
戦って。生き残って。一歩ずつ近づく。
この男女も違う形の夢を追っている。
「ラグナ!」
キロスの声。
「新しい命令だ! 大統領官邸前集合!」
「ええ!?」
「急げ!」
ジュリアがラグナを見る。
「また会える?」
「もちろん」
ラグナは迷わず答えた。
「歌、聴きに来なくちゃ」
世界が白くなる。
そして時間はさらに先へ。
エスタ。静かな部屋。
ベッドが二つ。一つにはスコール。
もう一つにはラグナ。
どちらも目を覚まさない。
機器の音だけが一定の間隔で鳴っている。
リノアはスコールの手を握っていた。
「…………」
誰も何も言えない。
エルオーネは少し離れたところにいる。
キスティス。セルフィ。アーヴァイン。そしてゼル。
「エルオーネでも」
ゼルが口を開く。
「ダメなんだよな」
「……うん」
エルオーネが答える。
「おじちゃんを送ることはできた。でも……戻せない」
リノアの指がスコールの手を強く握る。
「だったらさ」
ゼルが頭を掻いた。
「違うやり方、試してみないか?」
キスティスが振り向く。
「違うやり方?」
「ちょっと待ってくれ」
ゼルは荷物の中からカードケースを取り出した。
「これ」
一枚テーブルへ置く。描かれているのは異形の存在。
「アルテマウェポン」
セルフィが覗き込む。
「スコールのカード?」
「ああ」
「それがどうしたの?」
「こいつの生息地」
ゼルは別のもの、古びた雑誌を取り出した。
キスティスが眉を寄せる。
「……オカルトファン?」
「物知りゼルを舐めんなよ」
「誰も舐めてないわよ」
「大海のよどみ」
ゼルがページを開く。
「海洋探査人工島。そのもっと深いところ」
アーヴァインが壁から身体を起こした。
「アルテマウェポンがいるって話だったね」
「ああ」
ゼルの指が紙面をなぞる。
「でも、俺が気になってんのはこっちだ」
GF。そこに書かれている噂。伝承。真偽不明。
けれど。時空。その言葉だけが異様に重かった。
「大海のよどみには」
ゼルが言う。
「時間とか空間そのものを越える力を持ったGFがいるらしい」
沈黙が広がる。
キスティスが雑誌を取る。
「オカルト雑誌よ」
「分かってる」
「信頼できる情報とは言えないわ」
「それも分かってる」
ゼルはスコールを見る。
「でもさ」
眠ったまま戻ってこない。隣には同じように眠るラグナ。
「普通の方法は」
ゼルの声が低くなる。
「もう試しただろ?」
誰も否定できなかった。
「だったら」
ゼルがアルテマウェポンのカードを指で押さえる。
「行ってみようぜ大海のよどみへ」
セルフィがぽつりと言った。
「時空を越えるGF……」
リノアがようやく顔を上げる。
「それなら」
その目がカードへ向く。
「スコールのところまで、行けるかもしれない?」
「分からない」
ゼルは答えた。
「でも」
スコールが持っていたカード。アルテマウェポン。
大海のよどみ。そして時空を越えるというGF。
「何もないよりは」
拳を握る。
「ずっとマシだ」