FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第五話 森のフクロウ

三人が目を覚ましたのは、列車が海底トンネルを抜けてしばらくしてからだった。

「……っ!」

最初に身体を起こしたのはサイファーだった。

ソファから勢いよく立ち上がり、周囲を見回す。

「ここは……列車か」

「ふわぁ……」

セルフィが目をこすった。

「なんか、すっごく長い夢見てた気がする~」

「オレも……って、あれ?」

 ゼルが固まる。

 三人の視線がぶつかった。

「……おまえら」

 サイファーが眉を寄せる。

「もしかして、ガルバディア兵の夢を見たか?」

「見た!」

「オレもだ!」

「…………」

一人だけ起きたままだったラグナは、窓際から三人を見ていた。

(嫌な予感しかしないんだけど)

サイファーが口を開く。

「ラグナって男と、キロスとウォード」

ラグナの眉がわずかに動いた。

「ティンバーで道に迷って、デリングシティまで戻った」

「そうそう!」

セルフィが身を乗り出す。

「ラグナ様、ず~っとジュリアさんのこと気にしてたよね~」

「ラグナ様?」

「だって面白かったんだもん」

「面白いって……」

ラグナは額を押さえた。

間違いない。ただの夢ではない。自分の過去だ。

(……エルオーネか?)

真っ先に浮かんだのは、あの子だった。

人の意識を過去へ送り込む力。

今の自分がスコールの身体でこの時代にいることにも、未来のエルオーネが関わっている。

今回もそうだと考えれば、三人が同時に眠ったことには説明がつく。

だが。

(なんで俺には何もなかったんだ?)

三人が眠っている間も、ラグナはずっと起きていた。

眠気すらなかった。

すでにエルオーネの力でこの時代へ送られているからなのか。

スコールの身体に入っているからなのか。

それとも、まったく別の理由なのか。

分からない。

「おい、スコール」

サイファーに呼ばれ、ラグナは顔を上げた。

「なんだ?」

「俺たちがぶっ倒れてる間、何かあったか?」

「いや。急に三人とも眠った。それだけだ」

「三人同時に?」

「ああ」

ゼルが腕をさする。

「気味悪いな……。しかも同じ夢だぜ?」

「夢って感じじゃなかったよ~」

セルフィが首を傾げる。

「なんていうのかな。本当にそこにいた感じ。あたし、キロスって人のところにいたみたい」

「オレもだ」

ゼルが自分の身体を確かめるように腕を見る。

「ウォードって奴の身体の中にいたような……。自分で動いてるわけじゃねえのに、あいつが見てるものは見えるし、聞いてるものも聞こえるんだ」

サイファーが眉を寄せた。

「俺はラグナだった」

「ラグナ?」

「ああ」

サイファーは自分の手を見る。

「身体は勝手に動く。喋るのも俺じゃねえ。だが、ラグナが見てるものも聞いてるものも分かった」

そこで、さらに顔をしかめる。

「考えてることまで頭に流れ込んできた」

「…………」

ラグナは何とも言えない顔になった。

(よりによってサイファーかよ)

これで整理できた。

サイファーは自分。セルフィはキロス。ゼルはウォード。

三人は同じ時間、同じ場所を、それぞれ別の人間の側から体験している。

しかもサイファーだけは、ラグナ自身の内側にいた。

(どこまで見られたんだ、俺……)

セルフィが楽しそうに笑った。

「でもラグナ様、面白かったよね~。ジュリアさん見てる時なんて、すっごく分かりやすかった!」

「確かにな」

ゼルも笑う。

「ウォードもキロスと顔見合わせてたもんな」

「…………」

ラグナは窓の外へ顔を向けた。

(キロス、ウォード。おまえら、そんな目で俺を見てたのか)

過去の仲間にまで今さら腹が立ってきた。

セルフィがサイファーを見る。

「ねえねえ。それでジュリアさんに呼ばれた後は?」

「……あ?」

「あたしたち、そこから先は知らないんだけど」

ゼルも振り向く。

「そういやそうだな。ラグナだけ部屋に呼ばれてたよな」

「俺に聞くな」

「だってサイファーだけラグナだったんでしょ?」

「…………」

サイファーが露骨に嫌そうな顔をした。

「部屋に行った」

「やっぱり!」

「それで?」

「知らねえ」

「知ってるでしょ~!」

「うるせえ!」

ラグナの顔が引きつる。

(待て待て待て)

キロスとウォードが知っているのは、ジュリアに声をかけられたところまで。

その後のことは知らない。

だがサイファーは違う。

ジュリアの部屋で二人きりになったこと。

兵士を辞めてジャーナリストになりたいと話したこと。

ティンバーマニアックスに自分の文章が載ったこと。

あの夜、自分が何を考えていたのかまで。

(俺とジュリアしか知らなかった話を、サイファーが知ってるのか……)

頭が痛くなってきた。

サイファーがちらりとラグナを見る。

「……なんだ、その顔」

「いや?」

「さっきから妙にこの話を嫌がってねえか?」

「人の恋愛話を面白がるのは趣味が悪いなと思って」

「おまえに関係ねえだろ」

「そうだな」

ラグナは即答した。

(ものすごく関係あるけどな)

サイファーは怪訝そうにしたものの、それ以上は追及しなかった。

「それより妙なのは、そこじゃねえ」

サイファーの声から冗談めいた空気が消えた。

「俺たち三人が同時に同じ場所へ飛ばされた。それなのに、おまえだけ何ともなかった」

「ああ」

「変じゃねえか?」

「変だよ」

ラグナは即答した。

「だから俺にも分からない」

「本当に何もなかったのか?」

「何も。おまえらが突然寝て、しばらくしたら起きた。それだけ」

サイファーはしばらくラグナを見つめる。

探るような目だった。

ラグナは視線を逸らさなかった。

エルオーネの名前を出すつもりはない。

今ここで話したところで、説明できないことの方が多すぎる。

何より。

(俺自身が、なんで影響を受けなかったのか分かってないんだ)

そんな状態で半端な情報だけ与えても混乱させるだけだ。

「……まあいい」

意外にも、サイファーは引いた。

「ガーデンに戻ったら報告するぞ」

「ああ。それがいい」

「催眠ガスとかじゃねえよな?」

ゼルが周囲を見回す。

「だったらスコールも寝てるでしょ~?」

セルフィが荷物を確認する。

「何か盗られたりもしてないみたい」

「外から何かされた様子もなかった」

ラグナは答えながら、もう一度考える。

(エル……おまえなのか?)

答えは返ってこない。

「でもさ」

ゼルが言った。

「なんだ?」

「ラグナって奴、今どうしてんだろうな」

「…………」

本人は目の前にいる。

ラグナは真顔を保った。

「さあな」

「生きてたら、結構いい歳だよな?」

「そうだな」

「まだ兵士なのかな~?」

セルフィが楽しそうに言う。

「…………どうだろうな」

(エスタの大統領になったよ)

言えるわけがない。

しかもその大統領本人が今、息子の身体に入って初任務へ向かっている。

(改めて考えると、とんでもない状況だな、これ)

「あっ、街!」

セルフィが窓の外を指差した。

景色が変わっていた。

建物が増え、線路が幾重にも分岐している。

列車が速度を落とし始める。

『次の停車駅は~ティンバー~ティンバーです』

車内アナウンスが響いた。

ラグナは立ち上がった。

「この話は後だ。まず任務を優先する」

「まあ、そうだな」

サイファーも立つ。

「初任務で夢の研究してました、じゃ話にならねえ」

「うん!」

列車がホームへ滑り込んだ。

扉が開く。

懐かしい空気が流れ込んできた。

「…………」

ラグナは一瞬だけ足を止める。

(ティンバーか)

自分がガルバディア兵だった頃にも訪れた街。

あれから十七年。

今度はSeeDとして降り立つことになるとは、当時の自分なら笑い飛ばしただろう。

「スコール?」

セルフィが振り返る。

「行かないの?」

「ああ。行くよ」

ラグナはホームへ降りた。

一人の青年が、落ち着きなく辺りを見回していた。

四人を見つけると、小走りで近づいてくる。

「いや~。ティンバーの森も変わったッスよね」

合言葉。

ラグナは答える。

「まだフクロウはいますよ」

青年の表情が明るくなった。

「ようこそティンバーへ……ッス! ついてきてくださいッス!」

ワッツと名乗った青年についていくと、停車していた別の列車へ案内された。

レジスタンスの拠点そのものが列車になっているらしい。

(小規模だな)

ラグナは車両を見回す。

(でも、十七年も占領されてる街で抵抗を続けてるんだ。それだけでも簡単なことじゃない)

車内へ入る。

そこにいた男が立ち上がった。

「あんたたちがSeeDか」

「ああ」

ラグナは一歩前に出た。

「俺が班長のスコール。ゼル、セルフィ、それからサイファーだ」

「よろしくな。俺が森のフクロウのリーダー、ゾーンだ」

ゾーンは四人を見回した。

「それじゃ、あとはウチの姫さまか」

「お姫さまはお昼寝タイムっス」

「しょうがねえなあ。悪いんだけどスコールさあ、呼んできてくれないか? 一番奥の部屋だ」

「…………」

ラグナは少し考えた。

「それは任務に関係あるのか?」

「え?」

「俺たちは雑用のために派遣されたわけじゃない。必要な指示なら従う。でも、そうじゃないなら自分たちでやってくれ」

サイファーが口元だけで笑った。

「言うじゃねえか」

(だってこれ、絶対おまえにナメられるなって言われるやつだろ)

「イテテテテ……」

突然ゾーンが腹を押さえた。

「は、腹が……」

「作戦説明の準備するッス!」

ワッツが慌てて動き始める。

セルフィがラグナの袖を引いた。

「スコール、なかなかいい感じぃ」

「ほんと?」

「班長っぽい」

「そうか?」

「ナメられたら終わりだもんね~」

ゼルも頷く。

「頼りない連中だよなあ」

「おまえが言うな」

「なんでだよ!」

結局、ラグナが奥の部屋へ向かうことになった。

扉をノックする。

「入っていいか?」

「は~い」

扉を開ける。

ベッドに腰掛けていた少女が振り返った。

目が合う。

「あっ!」

「……あ」

ラグナも思わず声を漏らした。

就任パーティーで踊った少女だった。

「あなた、あの時の! ほら、パーティー会場で踊った……。じゃあ、もしかしてあなたがSeeDなの!?」

「ああ。俺が班長のスコールだ。あと三人来てる」

「やった~! SeeDが来てくれた~!」

「そんなに喜ぶことか?」

「喜ぶよ! ず~っとガーデンに依頼してたけど全然来てくれなかったんだから。直接シドさんに依頼して良かった~!」

「……パーティーで捜してた知り合いって、学園長だったのか」

「うん。それでね」

少女がふと思い出したように尋ねた。

「サイファー、知ってる?」

「知ってるも何も」

ラグナは親指で後ろを示した。

「来てるぞ」

「え?」

「今回の任務のメンバーだ」

「ええっ!?」

少女は勢いよく立ち上がった。

「サイファー、SeeDになれたの!?」

「ああ」

「うそ!」

「なんで俺が嘘つくんだよ」

その時。

「聞こえてるぞ」

扉の向こうから声がした。

サイファーが腕を組んで立っていた。

「人を不合格前提で話すんじゃねえ」

「サイファー!」

少女の顔がぱっと明るくなる。

「久しぶり!」

「……元気そうだな、リノア」

「そっちもね」

(リノア、か)

ようやく名前を知った。

リノアはラグナを見る。

「あ、そうだ。まだ名乗ってなかったよね。リノア。リノア・ハーティリー」

「よろしく」

「うん。よろしく、スコール」

そして再びサイファーを見る。

「でも本当にSeeDになったんだ」

「これが証だ」

サイファーは懐から認定証を見せる。

「悪いか」

「悪くないよ。ちょっと意外だっただけ」

「相変わらず一言多い女だな」

「サイファーもね」

ラグナは二人を見比べた。

(なるほど)

遠慮がない。

でも、険悪というわけでもない。

以前からかなり親しいのだろう。

(サイファーとリノアは、こういう感じだったのか)

未来でラグナが知っているリノアは、スコールの隣にいる。

そしてスコールが、あれほど大切にした少女だ。

宇宙まで追いかけ、世界を敵に回してでも取り戻そうとした。

そのリノアが、今はサイファーとこんなふうに笑っている。

(……なんか変な感じだな)

息子の恋愛事情を過去から覗いているようで、妙に落ち着かない。

(いや、スコール本人じゃない俺が考えることじゃないんだけど)

そう思っても、どうしても父親の目になってしまう。

リノアがこちらを見る。

「そういえば」

悪戯っぽく笑う。

「SeeDってダンスも習うの?」

「ダンスはどうだろう?」

「習わねえな」

ラグナはサイファーに確認する。

「かなりいい感じだったよ」

「……そう?」

「そうだよ」

ラグナは少し困って視線を逸らした。

(スコール、おまえ、この子とあんなことになるんだぞ)

当然、身体の主から返事はない。

サイファーが鼻で笑った。

「何だよ」

「別に」

「今笑っただろ」

「気のせいだ」

「サイファー」

リノアが腰に手を当てる。

「スコールいじめない」

「誰がいじめてんだ」

「はいはい。じゃ、作戦会議行こ!」

リノアは部屋を出ようとして、振り返った。

「あ、紹介しとくね」

そこには犬がいた。

「わたしのパートナー。アンジェロ!」

サイファーが固まった。

「…………俺はそいつとはよろしくしない」

アンジェロが尻尾を振る。

サイファーが一歩下がる。

「サイファー?」

「なんだ」

「いや」

「何だよ」

「別に」

「その顔やめろ」

リノアがうんうんと頷く。

「サイファー、犬苦手だったね」

「苦手じゃねえ」

即答だった。

アンジェロが一歩近づく。

サイファーも一歩下がった。

「…………」

「…………」

「苦手じゃねえ」

「誰も二回聞いてないぞ」

「黙れ、スコール」

(こいつ、こんな分かりやすい弱点あったのか)

ラグナは笑いを堪えながら作戦室へ戻った。

机には、列車の模型が並べられていた。

ゾーンが胸を張る。

「はっきり言って今回の計画はかなり本格派だ」

ワッツが続ける。

「ガルバディアの超VIPがティンバーに来るって情報を手に入れたッス!」

「その名もビンザー・デリング大統領!」

「…………」

ラグナの表情がわずかに変わった。

(デリング)

その名前は嫌でも知っている。

自分がガルバディア兵だった時代から権力の頂点にいる男。

そして未来の自分にとっても、決して無関係ではない人物だ。

「それで?」

サイファーが訊く。

リノアが模型を指差した。

「大統領の特別列車から大統領車両だけ切り離して、このアジト列車に繋ぐ」

「列車ごと拉致するのか」

「そう!」

サイファーが模型を見る。

「……悪くない」

「マジか?」

ゼルが驚く。

「少なくとも正面から大統領列車に突っ込むよりはな。ただし情報が正確なら、だ」

リノアの眉が動く。

「どういう意味?」

「本人かどうか、警備の人数、センサー、走行速度、切り替えポイント。どれか一つ間違ってりゃ全滅だ」

「情報ならちゃんと集めてるよ」

「なら問題ない」

(サイファー、ちゃんとSeeDやってるな)

ラグナは二人の間に入った。

「続けてくれ」

リノアは頷き、模型を使って説明を続けた。

護衛車両への飛び移り。

音声センサーと温度センサーの回避。

大統領車両の通過。

二か所での連結解除。

ダミー列車との交換。

すべてを五分以内。

「……五分!?」

ゼルが声を上げた。

「短くないか!?」

「私たちのシミュレーションなら三分!」

「おまえらと実際に走る列車じゃ違うだろ!」

「SeeDなら楽勝、楽勝~!」

セルフィが笑う。

「セルフィ、おまえどっち側だよ!」

「楽しそうな側~」

説明が終わる。

ラグナは模型を見る。

大統領車両だけ妙に歪んでいる。

「これだけ手作り?」

「…………」

リノアが固まった。

ゼルが覗き込む。

「あ、ホントだ。なんか塗り方も……」

「わざとよ!」

「まだ最後まで言ってねえ!」

「デリングへの憎しみがそうさせたの!」

サイファーが模型を持ち上げる。

「憎しみで車輪まで曲がるのか」

「返して!」

「おい、壊すなよ。作戦用だろ」

「壊してない! 最初からそうなの!」

ラグナは思わず笑った。

(……スコール)

リノアとサイファーを交互に見る。

(おまえ、結構大変なところに入っていったんだな)

昔から知る二人。

軽口を叩き合える距離にいるサイファー。

そして未来では、リノアの隣にいるのはスコールだ。

どちらがどうだった、という話ではない。

ただ。

(おまえら三人、思ってたよりずっと複雑だったんだな)

「まあ、作戦が分かればいいだろ」

「スコール!」

「俺は何も言ってないぞ」

「顔が笑ってる!」

「よし」

ラグナは誤魔化すように模型から顔を上げた。

「やろう」

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