FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
ティンバーの街は完全に封鎖されつつあった。
大通りにはガルバディア兵。
駅にも兵士。
放送局周辺は言うまでもない。
リノアに案内されて路地裏を走り抜け、ようやく森のフクロウのアジトへ戻った時には、そこもすでに安全ではなくなっていた。
リノアが荒らされた車内を見て、立ち尽くす。
「……アジトを見つけられて、ぐちゃぐちゃにされちゃったの」
「他のみんなは?」
セルフィが訊く。
「大丈夫。みんな逃げるのは得意だから」
「それ自慢していいのか?」
ゼルが言う。
「レジスタンスには重要な能力なの!」
「まあ、それはそうだな」
ラグナは車内を見る。
ここにはもう留まれない。
リノアも同じ結論に達したらしい。
「しばらくティンバーを離れなくっちゃ」
そしてラグナを見る。
「ね、わたしを安全な場所まで連れだして」
そこで急に人差し指を立てた。
「これは命令で~す。クライアントの依頼で~す」
「……了解」
「軽いな、おまえ」
サイファーが言った。
「依頼人の命令だからな」
「便利な言葉覚えやがって」
リノアがくすっと笑った。
その笑顔を見てから、サイファーは何でもないように顔を背ける。
ラグナはそれを見逃さなかった。
(……なるほどねえ)
パーティーでリノアと踊った時のことを思い出す。
あの時は知らなかった。
この子がサイファーの知り合いだということも。
そして。
(スコールも、たぶんこの子のこと……)
胸の奥に残る妙な感覚。
リノアが近くにいると、ときどきこの身体が自分より先に反応する。
それがスコール自身の感情なのか、それともただの錯覚なのか。
(……いやいやいや)
ラグナは頭を振った。
(息子の恋愛事情を身体の反応で探る父親って、最低じゃないか? やめよう。これはやめよう)
「スコール?」
「なんでもない」
「また変なこと考えてたでしょ」
「なんで分かるんだよ」
「顔」
「そんなに出る?」
「出る」
リノアとサイファーの声が重なった。
「…………」
二人が顔を見合わせる。
「真似しないでよ」
「そっちが合わせたんだろ」
「はいはい」
ラグナは苦笑した。
(こっちはこっちで、長い付き合いなんだな)
少なくともリノアはサイファーを怖がっていない。
サイファーも、彼女にだけは妙に遠慮がない。
恋人。
そう呼ぶには少し違う気もする。
けれど、ただの知り合いでもない。
(で、スコールはそこに入っていくのか?)
考えた瞬間。
(……俺、何考えてんだ)
自分で頭を抱えたくなった。
◇
「リノアちゃん!」
裏通りへ出たところで、年配の女性に呼び止められた。
「あんたたちのアジト、大変だって話じゃないか。ほとぼりが冷めるまでウチにおいでよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
リノアが振り返る。
「みんな、こっち!」
案内された家へ入り、ようやく一息つく。
そこには先客がいた。
「遅かったわね」
「キスティス!」
セルフィが声を上げる。
キスティスは四人を順番に確認し、最後にサイファーを見る。
「……あなたまでちゃんといるのね」
「なんだ、その言い方」
「あなたがいると聞いていたからよ。途中で勝手なことをしてないか心配してたの」
「俺は正式な任務で来てんだぞ」
「それとあなたが勝手なことをするかどうかは別問題でしょう?」
「ぐ……」
言い返せないらしい。
ラグナは思わず笑った。
「笑うな、スコール」
「悪い悪い」
キスティスが首を傾げる。
「あなたたち、前より仲良くなってない?」
「なってねえ」
「なったかな?」
「なってねえ!」
リノアが笑う。
「息ぴったり」
「おまえまで言うな」
そこへ外から怒鳴り声が聞こえた。
「この家の者はいないのかっ!?」
全員の表情が変わる。
「ガルバディア兵……」
「二階へ!」
家の女性に促され、一行は階段を上った。
「おばさん大丈夫なの?」
リノアが心配そうに振り返る。
「大丈夫よ、きっと」
家の娘らしい女性が平然と言った。
「母さんには昔、兵士を腕と料理と美貌で倒したという三つの伝説が残っているらしいから」
「最後のビボ~ってところ、なんかいかにも伝説っぽ~い」
「セルフィ、そこ拾うのか?」
ゼルが呆れる。
「料理で兵士倒す方が気になるけどな」
ラグナが言うと、
「毒じゃねえだろうな」
サイファーが真顔で返した。
「怖いこと言うなよ」
兵士が去った後も、しばらく外へは出られなかった。
「疲れたね~」
セルフィが床に座り込む。
リノアは窓の外を見ていた。
「……これから、どうなるんだろ」
誰もすぐには答えなかった。
キスティスがラグナを見る。
「班長。行くあてはある?」
「まずティンバーを出る。それから……」
「とにかく街を出ればいいってものじゃないわ」
「じゃあ心当たりが?」
キスティスは教師時代そのままの顔で人差し指を立てた。
「ガーデン関係者心得、第八条七項」
「…………」
サイファーが眉を寄せる。
ゼルも固まった。
「なんだっけ?」
「おまえ覚えてねえのかよ」
「サイファーは?」
「……確認してるだけだ」
「覚えてないんだな」
「うるせえ」
だがラグナの頭には、スコールの記憶が自然と浮かんできた。
「所属ガーデンに帰還不能などの緊急時、ガーデン関係者は速やかに最寄りのガーデンへ連絡する」
「ヴェリー・グーッド」
キスティスが微笑んだ。
「ここからならガルバディア・ガーデンね」
「学園東!」
リノアが言った。
「ここの駅から列車が出てる。学園東で降りて、西の森を越えればガルバディア・ガーデンよ」
「決まりだな」
ラグナが立ち上がる。
「ティンバーを離脱する。目的地はガルバディア・ガーデン」
サイファーも立つ。
「異議なし」
「わたしも!」
「オレも!」
「はいは~い!」
キスティスが少しだけ笑った。
「ちゃんと班長してるじゃない」
「だろ?」
「そこで得意げにならなければもっと良かったわ」
「厳しいなあ」
駅へ向かう途中、ガルバディア兵の格好をした男が飛び出してきた。
「やばいぜ!」
ゼルが構える。
「オレっス! オレっスよ!」
「ワッツ!?」
帽子を取る。
「情報あるッス! ティンバーの駅が一時閉鎖されるッス!」
「絶体絶命ピ~ンチ!」
「そうでもないッス!」
ワッツがセルフィに負けない勢いで返す。
「まだ完全閉鎖じゃないッス! もうすぐ学園東行きの列車が出るッス。閉鎖はその後ッス!」
「その列車に乗る」
ラグナが即決する。
「リノアも一緒に行くッスね!」
「うん。ワッツは?」
「オレは残るッス。情報集めるッス!」
「無茶しないでね」
「任せるッス!」
そしてワッツはラグナを見る。
「スコールさん。リノアをよろしく頼むッスよ」
「ああ。心配するな」
少し考えて付け足す。
「クライアントの命令だからな」
リノアが吹き出した。
「それ気に入ったの?」
「便利だから」
「ちゃんと守ってよね」
「そのつもり」
その横でサイファーが無言でこちらを見ている。
「……何だよ」
「別に」
「何か言いたそうじゃん」
「別にって言ってんだろ」
(……父親としては非常に気になる)
だが黙っておいた。
列車は、閉鎖寸前のティンバー駅を滑り出した。
ホームが遠ざかっていく。
ガルバディア兵の姿も、封鎖されつつある街並みも、やがて建物の向こうへ消えた。
六人はようやく息をつく。
セルフィだけは窓に張りついている。
「きしゃ~♪ きしゃ~♪」
「元気だな……」
ゼルが呟く。
「セルフィはどこでも変わらないわね」
キスティスが苦笑する。
「いいじゃん。せっかく列車乗ったんだよ~?」
「さっきまで絶体絶命ピンチとか言ってただろ」
「それはそれ、これはこれ!」
「切り替え早えな」
サイファーが呆れたように言った。
「サイファーも歌う?」
「歌わねえ」
「きしゃ~♪」
「やめろ」
ラグナは座席へ身体を沈めた。
(とりあえず脱出成功、と)
ティンバーでは、想像以上に色々なことが起こった。
大統領誘拐作戦。偽物。放送局。
そして魔女イデア。
何より、サイファーだ。
あの時。
イデアの差し出した手へ、サイファーは確かに揺れていた。
騎士。
その言葉が、あいつの中にある何かを強烈に刺激した。
それでも最後には、地面に落ちたSeeDの証を拾った。
(今はSeeD、か)
あの言葉を思い出す。
妙にサイファーらしかった。
夢を捨てたわけではない。
迷いが消えたわけでもない。
それでも今、自分が何者なのかを選んだ。
(……あいつ、思ってたよりずっと真面目なんだよな)
口も態度も悪い。
すぐ突っかかる。
自信過剰。
それでも、正式にSeeDになったことを誰より大事にしている。
ラグナは少しだけ笑った。
そのサイファーは、向かい側でリノアと話していた。
「さっきさ」
「なんだ」
「魔女のところ」
「…………」
サイファーの表情が僅かに硬くなる。
「ありがと」
「何がだ」
「戻ってきてくれたから」
「任務中だっただけだ」
「それでも」
「……そうかよ」
サイファーが窓を見る。
それ以上話したくないらしい。
だがリノアも追及しなかった。
昔から互いを知っているだけあって、その辺りの距離感は分かっているようだった。
(青春だねえ)
妙に懐かしい気分になる。
同時に。
胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。
「…………」
ラグナは自分の胸を見る。
(……スコール?)
まただ。
リノアとサイファーを見ている時だけ、ときどきこの身体から自分ではない感情が浮かんでくる。
嫉妬。
そこまで明確ではない。
ただ。
面白くない。
そんな小さな棘。
(おまえ……分かりやすいような、分かりにくいような)
パーティーでリノアと踊った時にも、似たようなものを感じた。
あの時より少し強くなっている気もする。
問題は。
リノアが知っている『スコール』は、今ここにいる自分だけだということだった。
本来のスコールとは、まだまともに言葉すら交わしていない。
(これ、どうなるんだ?)
父親としてどうしたものか。
応援。
静観。
いや。
(そもそも俺が何かするのおかしいだろ)
今のリノアが親しくしている『スコール』は自分だ。
そこで息子の恋路を応援しようなどと考え始めると、話が猛烈にややこしくなる。
しかもサイファーとリノアの間にも、自分の知らない過去がある。
あの二人の会話を見ていれば、それくらいは分かる。
(サイファーも悪い奴じゃないしなあ)
むしろ今回の一件で、かなり見方が変わった。
だから余計に困る。
(……よし)
ラグナは結論を出した。
(見なかったことにしよう)
これが一番である。
「スコール?」
「ん?」
リノアがこちらを見ていた。
「何ひとりで百面相してるの?」
「してた?」
「してた」
「考え事」
「また?」
「俺、そんなに考え事してる?」
リノアが頷く。
「最近多いよ」
「そうかな」
「多い」
サイファーが横から鼻を鳴らす。
「考えてるように見えて、どうせ大したこと考えてねえだろ」
「失礼だな」
「じゃあ何考えてた」
「…………」
ラグナはリノアを見る。
サイファーを見る。
もう一度リノアを見る。
「言えない」
「余計怪しいわ!」
リノアが身を乗り出した。
「何? わたしのこと?」
「違う違う」
「今わたし見た!」
「見ただけ!」
「その後俺も見ただろ」
「サイファーまで入ってくんなよ!」
「だったら何考えてたか言え」
(おまえら二人の関係と、うちの息子の恋愛事情について考えてました)
言えるわけがない。
「……世界平和について」
「嘘つけ」
サイファーが即答した。
「即答!?」
「顔見りゃ分かる」
「スコール、嘘下手だよね」
リノアまで頷く。
「そうか?」
「うん」
「致命的ね」
キスティスまで会話に入ってきた。
「キスティスまで!?」
「班長が分かりやすいのは悪いことじゃないわ」
「フォローになってない」
「スコールって面白いね~」
セルフィが窓から戻ってくる。
「最初会った時、もっとクールな人かと思ってた!」
「俺もだ」
ゼルが頷いた。
「無口で何考えてるか分かんねえ奴だと思ってた」
「……そんな印象だったの?」
「最初はな」
ラグナは少し黙った。
(それって)
たぶん。
(本当のスコールのことだよな)
胸の奥に、小さな引っかかりが残った。
今ここにいる自分と、本来ここにいるべき息子。
周囲の人間が知る『スコール』が、自分によって少しずつ塗り替えられている。
笑って済ませていいことなのか。
ラグナには、まだ分からなかった。
そんなラグナの様子を、サイファーだけが僅かに目を細めて見ていた。
「……おまえ」
「ん?」
「いや」
サイファーは視線を逸らした。
「何でもねえ」
列車は山間部へ入っていく。
やがて車内アナウンスが流れた。
『まもなく、学園東。学園東です』
「着いた!」
セルフィが立ち上がる。
「ガルバディア・ガーデンはもうすぐね」
キスティスも荷物を持った。
「学園東で降りて、駅の西にある谷間の森を抜ける。そこからなら歩いてすぐよ」
「よし」
ラグナも立ち上がる。
「行こう」
学園東で列車を降りる。
列車が走り去ると、ティンバーとは打って変わって静かな景色が広がった。
「こっちよ」
キスティスが先頭に立つ。
六人は街道を外れ、谷間の森へ入った。
木々が日差しを遮り、辺りが薄暗くなる。
「かなり雰囲気違うなあ」
セルフィが上を見上げる。
「静かだな」
ゼルも周囲を見回した。
「ガルバディア・ガーデンまで、そんなに遠くないわ」
キスティスが振り返る。
「いまさらだけどさ~」
セルフィが両手を頭の後ろで組んだ。
「ガルバディア政府から良くない連絡入ってるかもよ。着いた瞬間に捕まっちゃって、そのまま世界に放送されちゃったりして」
「縁起でもねえこと言うなよ!」
ゼルが声を上げる。
「そんときゃ、そんときでいいだろ! それより早く行こうぜ。オレ、バラム・ガーデンの様子が知りたいんだ」
そこまで言ってゼルの勢いが、ふっと落ちた。
「…………」
「ゼル?」
セルフィが覗き込む。
ゼルは少し俯いた。
「……ガーデンに何かあったら、オレのせいだ」
ラグナがゼルを見る。
「みんながガーデンから来たってバラしたの、オレだから……」
ティンバーの放送局。
デリング大統領を前にして、ゼルは口を滑らせた。
バラムの名は出していない。
SeeDであることも知られていない。
だがガーデンから来た人間が、ティンバーのレジスタンスと行動を共にしていた。
そこまでは知られた。
「なあ、スコール」
「ん?」
「あの大統領……ガーデンに報復するかな?」
ラグナは少し考えた。
「可能性はあるな」
「…………」
ゼルの顔が固まった。
「え」
「可能性の話だぞ」
「いや、今さら付け足しても遅えよ!」
「でも、ないとは言えないだろ」
「スコール」
リノアがじとっとした目を向ける。
「そういうときは、もうちょっと言い方ってものがあると思う」
「え?」
「ゼルの顔見て」
言われて見る。
「…………」
青い。
思った以上に青い。
「……悪い」
「おまえなあ!」
ゼルが頭を抱えた。
「やっぱヤバいのかよ!」
「落ち着けって。まだバラムだとは知られてない」
「でも調べられたら分かるかもしれねえだろ!」
「まあ、それは」
「スコール!」
「分かった、黙る」
ラグナは口を閉じた。
サイファーが呆れたように息を吐く。
「おまえ、励ます気あるのか?」
「あるよ」
「ないだろ」
「あるって」
「なら余計なこと言うな」
「ひどくない?」
「妥当よ」
キスティスまで加わった。
四対一になりそうだったので、ラグナは話を戻す。
「とにかく」
ゼルを見る。
「今の時点でデリングが知ってるのは、俺たちがガーデンと関係あるってことだけだ」
「……うん」
「どこのガーデンかまでは知られてない」
「うん」
「だから、いきなりバラム・ガーデンに軍隊が押し寄せるとか、そういう話じゃない」
ゼルが少しだけ顔を上げた。
「……ほんとか?」
「そこまでは心配しなくていいと思う」
「最初からそう言えよ!」
「いや、報復する可能性を聞かれたから」
「真面目か!」
「真面目だよ!」
サイファーが鼻で笑った。
「変なところだけな」
「うるさい」
少しだけ空気が戻る。
だが、ゼルの表情は完全には晴れなかった。
「でもさ」
「ん?」
「もし調べられて……バラムまで辿られたら?」
ラグナは今度こそ、すぐには答えなかった。
ゼルは本気で気にしている。
なら、適当に「大丈夫」と言うのも違う。
「そのときは、そのとき考える」
「なんだよそれ」
「だって今、分からないだろ?」
「…………」
「ガルバディア政府がどこまで掴んでるのか。バラムに何か連絡が入ってるのか。それすら分かってない」
ラグナは前方を指した。
「だからガルバディア・ガーデンへ行く」
一つ。
「状況を確認する」
二つ。
「バラムと連絡を取る」
三つ。
「それから考える」
ゼルは黙って聞いていた。
「今ここで、おまえ一人が全部背負っても何も分からない」
「でも、口滑らせたのはオレだぜ」
「それはそう」
「おい!」
「そこ否定したら嘘になるだろ」
「ちょっとは庇えよ!」
「じゃあ次から気をつけよう」
「軽い!」
ラグナは笑った。
それから、少しだけ声を落とす。
「それに、おまえ一人の責任じゃない」
「え?」
「ティンバーへ来たのは任務だ。大統領誘拐作戦に参加したのも、放送局へ行ったのも、俺たち全員だ」
ゼルを見る。
「俺は班長だしな」
「……スコール」
「何かあったら、まず俺の責任になる」
「いや、それは」
「班長ってそういうもんだろ?」
ゼルが言葉に詰まる。
ラグナはサイファーを見る。
「な?」
「俺に振るな」
「そこは同意するとこだろ」
「まあ」
サイファーは肩をすくめた。
「ゼル一人の責任じゃねえのは確かだな」
ゼルが少しだけ表情を緩める。
「サイファー……」
「口が軽かったのも確かだが」
「おまえらさあ!」
「ほら、元気になった」
ラグナが言う。
ゼルが睨んできた。
「もしかしてわざとか?」
「何が?」
「オレを怒らせて誤魔化そうとしてない?」
「まさか」
「目ぇ逸らすな!」
リノアが小さく笑った。
セルフィもつられて笑う。
ゼルはまだ何か言いたそうだったが、やがて大きく息を吐いた。
「……分かったよ」
「うん」
「ガルバディア・ガーデンで状況確認する。それまでは考えすぎない」
「そうしろ」
「でも」
ゼルがラグナを指差す。
「何かあったらちゃんと教えろよ」
「もちろん」
「一人で勝手に決めんなよ」
「分かってるって」
「ほんとか?」
「信用ないなあ」
「おまえだからな」
サイファーが言った。
「なんでおまえまで参加してんだよ」
「事実だろ」
「班長失格だな」
「じゃあおまえやれよ」
「断る」
「即答かよ」
「面倒だからな」
「ずるくない?」
「知るか」
ゼルが二人を見る。
そして。
「……なんか、悩んでるの馬鹿らしくなってきた」
「それでいい」
「半分おまえのせいだけどな!」
「元気になったじゃん」
「結果論だろ!」
「はいはい」
キスティスが振り返った。
「話が終わったなら進むわよ。ここで立ち止まっていても、ガーデンには着かないんだから」
「はーい」
セルフィが元気よく答える。
六人は再び森の奥へ進んだ。
ラグナもその後に続く。
表情からは、いつもの軽さを崩さない。
けれど。
(……実際、笑い話じゃないんだよな)
デリングに知られたのは、ガーデンとの繋がりだけ。
まだバラムまでは辿り着かれていない。
だが、調べられればどうなるかは分からない。
何より問題はデリングだけではない。
(魔女……)
ラグナは僅かに目を細めた。
あの放送なら知っている。
遠い未来。
エスタ大統領となった自分は、記録としてあの映像を見たことがある。
デリング大統領が、魔女イデアを世界へ紹介した瞬間。
あれを境に、歴史は大きく動き始める。
本来なら。
(サイファーは、あそこで魔女についていく)
横目で見る。
サイファーは少し前を歩いていた。
いつも通り、不機嫌そうな顔で。
こちらの視線に気づいたのか、振り返る。
「なんだ」
「いや」
「気持ち悪いな」
「見るくらいいいだろ」
「よくねえ」
「ケチ」
「斬るぞ」
ラグナは前を向いた。
(やっぱり違う)
サイファーはここにいる。
魔女の騎士にはならなかった。
自分が知っている歴史から、もう外れ始めている。
ならこれから先、自分の知っている出来事がそのまま起きる保証もない。
(「知ってる未来だから大丈夫」なんて、一番言っちゃいけないな)
ガルバディア・ガーデンがどうなっているのか。
バラムは無事なのか。
魔女は次に何をするのか。
もう、記憶だけを頼りにはできない。
「…………」
そのときだった。
ラグナの足が止まる。
胸の奥を何かが、撫でた。
「……ん?」
風ではない。
殺気でもない。
もっと奇妙な感覚。
遠くから誰かに見られているような。
いや。
違う。
(これ……)
知っている。
自分自身が、何度も経験した感覚。
誰かの意識が、自分のすぐそばまで近づいてくる。
「スコール?」
リノアが振り返った。
「どうしたの?」
「いや……」
ラグナは周囲を見回す。
森は静かだった。
木々が風に揺れている。
鳥の声。
葉の擦れる音。
何もおかしくない。
なのに。
(まさか)
ぞくりとした。
ラグナには分かる。
この感覚を知っている。
知っているどころではない。
かつて何度も。
自分はこれに巻き込まれた。
「……エル?」
小さく名前が漏れた。
その瞬間。
「……っ」
先頭を歩いていたキスティスの足が止まった。
「キスティス?」
額を押さえる。
「なに……これ……」
「おい?」
サイファーが振り返る。
直後。
「うっ……!」
ゼルが膝をついた。
「ゼル!」
「なんだ……急に……」
「あれ……?」
セルフィまで身体を揺らす。
「なんか……眠……」
ラグナの顔色が変わった。
(やっぱり……!)
キスティス。
ゼル。
セルフィ。
三人が、ほとんど同時に崩れ落ちた。