FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第八話 セントラ発掘現場

 暗い。

 湿った空気。

 足元から伝わってくる、硬い岩の感触。

 キスティスは、ぼんやりと意識を取り戻した。

(……?)

 最初に感じたのは、妙な違和感だった。

 身体が重い。

 視線が高い。

 肩幅も、自分のものとはまるで違う。

 そして。

(ん……?)

 腰の辺りに意識が向く。

(…………付いてる?)

 一瞬、思考が完全に停止した。

(え?)

 もう一度、感覚を確かめる。

(付いてる!?)

 何が、とは考えない。

 考えたくない。

(な、なにこれ!? どういうこと!?)

 声を出そうとした。

 出ない。

 手を動かそうとする。

 動かない。

 それどころか身体はキスティスの意思を完全に無視して、勝手に歩いていた。

(待って。落ち着いて。状況を整理しましょう)

 自分は谷間の森にいた。

 突然、意識が遠のいた。

 そして今。

(男の人の身体の中……?)

 意味が分からない。

 夢。

 そう考えるのが一番自然だった。

 だが、あまりにも感覚が生々しい。

 靴底から伝わる地面の硬さ。

 服が肌に擦れる感触。

 腰の武器。

 呼吸。

 体温。

 全部がある。

 その時。

「キロス、ここでいいのか?」

 横から低い声がした。

 大柄な男だった。

「間違いない」

 反対側にいる細身の男が答える。

「こないだみたいに全然違う場所偵察すんのはかなわねえぜ」

(偵察……?)

 キスティスが混乱していると、自分が入っている男の口が勝手に開いた。

「わりぃ、間違った。現場はここじゃねえ」

(え?)

「ここで正解だ。行くぞ、隊長さん」

「?」

 身体の主が地図を見る。

「地図、間違っちまった」

(今この人が間違えたんじゃ……)

「ぬあ~にっか、イヤ~な予感がするな……」

 男は辺りを見回した。

 数秒。

「気のせい、気のせい……と」

(切り替え早いわね)

「ちゃんと装備を確認したか? じゃぁ、一応、仕事だしな。ちぃーっとばかし、様子を見に行ってみっか」

(…………)

 キスティスはようやく理解した。

 この男。かなり変だ。

     

 一方。

(……またか~)

 セルフィはキスティスとは対照的に、驚くほど冷静だった。

 目の前には谷間の森とは似ても似つかない巨大な発掘現場。

 (……付いてるのにも慣れちゃった)

 自分がいるのはキロスの中だ。

 身体は動かせない。

 キロスが見ているものが見える。

 聞いているものが聞こえる。

 前回の経験がある分、今回は混乱も少なかった。

(またラグナさまの昔なんだ)

 むしろ少しだけ興味が湧いてくる。

(今回は何するんだろ?)

 

 ゼルも似たようなものだった。

(……またウォードかよ)

 視線が高い。

 腕が太い。

 身体の作りそのものが自分とは違う。

(やっぱすげえな、この身体)

 思わず筋肉に意識が向く。

(オレも鍛えたらここまで……)

 なれるだろうか。

 少し考える。

(……いや、さすがに無理か?)

 そんなことを考えている間にも、三人は発掘現場の奥へ進んでいた。

「でもよ……な~んか変なところだよな……」

 ラグナが巨大な岩のような構造物を見上げる。

「このでっかい岩のカタマリは、いったいなんだ? ただの自然の岩じゃねえのか? 岩彫って墓石でも作ってんのか?」

「さあ……な」

 キロスが答える。

 ウォードがラグナを見る。

「変といえば……さっきから、なんで……そんな奇妙な走り方をしてるんだ?」

(確かに)

 ゼルも同意した。

 妙に腰を落とし、辺りを警戒しながら走っている。

「変とはなんだ……変とは。警戒しながら進むのが基……」

 ラグナが止まった。

「……お?」

 前方。兵士。

「エスタ兵発見だぜ。相変わらずシャレた軍服だねえ」

「……?」

 キロスの空気が変わる。

「ラグナ……!!」

 ウォードが叫ぶ。

「びびるなって!」

 次の瞬間。

 エスタ兵が一斉に武器を構えた。

「おわっ!?」

(いや、びびるだろ!!)

 ゼルは心の中で全力で突っ込んだ。

 

 戦闘が始まった。

 そこでキスティスはさらに混乱した。

(身体が……勝手に)

 銃を抜く。

 構える。

 撃つ。

 攻撃をかわす。

 キスティスは何もしていない。

 それなのに銃の反動も、足への衝撃も、呼吸が乱れていく感覚も伝わってくる。

(これ、本当に夢なの?)

 そして。

 もっと奇妙なのは。

 身体の主の感情まで、微かに伝わってくることだった。

(この人……)

 怖がっている。

 口調からはまるで分からない。

 しかし身体の奥には確かな緊張がある。

 死ぬのが怖い。

 それ以上に。

 仲間を死なせるのが怖い。

「右!」

 ウォードへ声を飛ばす。

「キロス、後ろ!」

 仲間の位置を常に見ている。

(隊長さん……)

 キスティスは思い出す。

 先ほどキロスがそう呼んでいた。

(この人が隊長なのね)

 普段の言動からは想像しにくい。

 だが戦いになれば、仲間を見る目だけは途切れなかった。

 やがて最後の敵が倒れる。

「偵察だったよな、確か今回の任務は……」

 キロスが呟く。

「なんでこんなことになるんだあ?」

 ウォードもぼやく。

「オレだって……聞いてねぇよ~!!」

(…………)

 キスティスの中で、上がりかけた評価が少し戻った。

 

「まだまだ来そうだぜ……?」

 ウォードが後方を見る。

「キリがないぞ!」

「ここは逃げたもん勝ちだ!」

 ラグナが即断した。

 三人が走り出す。

(判断はええ!)

 ゼルは素直に感心した。

 ただし。

(逃げ足が速いだけかもしれねえけど)

 その途中。

 ラグナが急に止まった。

(な~んか、落ちてるな……)

 何かを拾う。

(拾うの?)

 キスティスが思う。

 迷いなくポケットへ。

 しばらくして。

(な~んか……スカスカすんなぁ)

「……!」

 ラグナが尻を触った。

「お……おケツのポッケに穴が開いてるじゃねっかよ~!!」

(…………)

 地面を探す。

(みつかんねぇ……)

「まぁ、いっか。タダより安いもんはねぇっていうしな」

「タダより……」

 キロスが振り返る。

「……安い?」

 ウォードまで首を傾げる。

「……ん? どうかしたか? ほら……行くぞ」

(この人、本当に隊長なの?)

 先ほどとは別の意味で不安になってきた。

 

 次にラグナが見つけたのは、床のハッチだった。

「なんだ……ハッチのレバーが弱ってるだけか……」

 がちゃがちゃと触る。

「……!!!」

(何?)

「これだ!」

(嫌な予感がする)

「こいつを使えば……いくら、しつこくねばっこい奴らでも二度と復活できねぇはずだ!」

「何をたくらんでる?」

「また、どうせつまらんことだろ?」

「おまえら……今のうちに反省しとけよ」

 ラグナが胸を張った。

「天才をバカにするやつは天才に泣くっていうからな」

「?」

「それって、もしかして……『1ギル』のことじゃ……?」

「だ~~~~~~! うるさい!」

(何の話なの……)

「と・に・か・く! このハッチのレバーは壊れかかってる。で、ちょっとだけレバーをいじってさらにゆるめとけば……」

「向こうから奴らが来て上に乗った時に……」

「そう! そうなんだよ!」

 ラグナが嬉しそうに指を鳴らす。

「奴らは何も知らずに、この上に乗る! するってぇ~と、ガッシャ~ン! ……と下に落ちていくってわけだ。やっぱ……オレって天才だね」

「けっ。エスタ兵が、こんなちゃっちぃワナにひっかかるかよ」

「何事もやってみなけりゃ、わかんねぇ!」

 そこで。

 ラグナの声が少しだけ変わった。

「だから、やらない奴には、一生わかんねぇ! だったら、オレは……やってやるぜ!」

(…………)

 キスティスは少しだけ引っかかった。

 普段の言動は滅茶苦茶だ。

 ことわざも怪しい。

 それなのに。

 時々、この男の言葉は妙に真っ直ぐだった。

「ただ……レバーをいじると向こうには行けなくなるのは覚えとけ! 仕掛けたワナに自分でかかるわけにはいかねぇからな」

 レバーへ手を伸ばす。

「おまえら危ないからさがっとけ」

 がちゃん。

「これで、よしと」

 

 さらに別のレバー。

「もしかすっとここのレバーも……? おまえら危ないからさがっとけ」

「仕掛けたワナに……自分でかかるつもりか?」

「……?」

「すでに、道は行き止まりだ」

 キロスが淡々と指摘する。

「それなのに、今来た道をわざわざふさぐワナを作るつもりか? このレバーを上げても……普通は、意味がないな」

「おぉ……なるほど」

(納得するんだ)

「まぁ……丁度良かった……かな? なんつーか、その……ここのレバーも弱まってるからほっときゃいいか……って思ってたところだ」

「あいかわらず……調子がいいな」

「おぉ! もちろん、オレは……いつでも絶好調だぜ」

「……」

(絶対そういう意味じゃないよね~)

 セルフィはすっかり楽しんでいた。

 

 少し進む。

(な~んか、落ちてるな……)

(また!?)

 キスティスが警戒する。

 ラグナが拾う。

(今度は……胸ポッケだからだいじょう……ぶ……)

「ぶ……ぶぇ……」

(え?)

「ぶぇっくしゅん!」

 何かが飛んだ。

「また、やっちまったのか!?」

(…………)

 探す。

 見つからない。

(みつかんねぇ……まぁ、いっか、死ぬわけでもねぇしな)

(細かいことを気にしないにも限度があるわ)

 さらに進んで。

「い……いててて!」

「どうした?」

「あああ足つった!!」

(今度は何!?)

「……ふぅ~、なおった、なおった! 急に運動すっと体に悪いぜ、まったく」

「ついさっきやった戦闘は運動のうちには入らんらしいな」

「……あん? なんか言ったか?」

「……なんでも」

(キロスさん、苦労してるのね)

 会ったこともない男に、キスティスは少し同情した。

 

 そして今度は。

「なんだ、こりゃ?」

 青と赤。

 二つのスイッチ。

「青と赤のスイッチと導火線2本……?」

「ダイナマイトの……作動装置じゃないのか?」

「なるほど、なるほど~」

(嫌な予感しかしない)

「青い導火線は短いからそこの岩用で……? 赤いやつは長いから遠くの岩につながってる……ってとこか?」

「おい! ラグナ……おまえまさかっ!」

 ウォードが慌てる。

「どんくらいの破壊力があるかわからんダイナマイトを、今ここで使う気か!?」

「どうせ、大した破壊力はねぇはずさ」

(根拠は?)

「作動装置がここにあるってことは、ここにいりゃ被害がないってこった」

「まぁ……確かに……」

(納得しちゃった)

「さぁってと。どうすっかなぁ~」

 スイッチを押す。

 数秒。

 ドォォォン!!

「なな!?」

 三人の身体が跳ねる。

「思いのほか……大きい音だったな」

「普通に待機だったんじゃないのか?」

「だから、最初に言ったろ? 破壊力がわかんねぇものはよく確かめてからだな……」

「それは俺が言ったんだよな、確か?」

「……ま……まあ、いっじゃねっか。こうして、ピンピンしてんだからよ!」

(この人……)

 キスティスの中で。

 呆れと妙な面白さが。

 だんだん半々になってきた。

 

 さらに進んだところで。

「……? おわっ……!?」

 ラグナが何気なく触れた岩が崩れた。

 向こう側にいたエスタ兵まで巻き込まれる。

「あぶねぇ、あぶねぇ……」

「ガキみたいに、なんでもさわるからこんなことになるんだぜ」

「ちょっとは……落ちつけよ」

「いいじゃねぇ~かよぉ~!」

 ラグナはまったく懲りていない。

「オレのおかげで、うるさい敵さんが岩と一緒にサヨナラしたんじゃねぇか。これで一石二鳥ってなもんよ」

 胸を張る。

「やっぱ、すごいね、て~ん~さぁ~い~」

「だれかふたつも得したか……?」

「さぁ……?」

(この三人、ずっとこんな感じなの?)

 キスティスには分からない。

 ただ妙に息が合っている。

 長く一緒にいる人間同士にしか出せない空気だった。

 

 しかし その空気は長く続かなかった。

 足音。

 また敵。

 しかも多い。

「もしかして……」

「最悪な……」

「パターン……?」

 戦闘。

 さらに戦闘。

 逃走。

 また戦闘。

 身体が限界へ近づいていく。

 キスティスにも、それが嫌というほど伝わってきた。

(もう……この人たち……)

 立っているだけでもおかしい。

 それでも三人は進む。

 そして。

 突然、視界が開けた。

「見ろよ、海だぜ……!」

 ラグナの声が弾む。

「助かったぜ! なんてついてるんだ……オレたちよぅ。ガルバディアまで逃げられるぞ!!」

 キロスが崖下を見る。

「追いつめられた……とも言うな。……普通は……そう言うな」

「そんなこと言うと、ホントになるぜ。おばあちゃんに言われなかったか?」

「……悪いこと……言葉にすると本当になる……ああ、言われたな」

「ぜ……ひぃ……」

 ウォードの声がおかしい。

 ラグナの中に緊張が走った。

「なん……だって?」

「ノド……やられたみたい……だ」

 キロスも息が荒い。

「声……出ない……だろう」

「た……かっ……」

「なんだって?」

「た……の……しか……った……」

 ウォードが、必死に声を絞り出す。

「ラグ……ナと……キロ……スと……楽……し……かった……」

 その瞬間。

 キスティスは感じた。

 ラグナの中に走った、強烈な恐怖を。

(…………)

 この人は分かっている。

 ウォードが、死を覚悟してそんなことを言ったのだと。

 だから。

「ウォード君……減点」

 声だけは明るかった。

「そういうこと……言うのは減点」

 ラグナの中の感情と、口から出る声がまるで違う。

「罰として……ピヨピヨグチの刑だ! 悔しいかあ? 悔しかったらな……ほら、来い!」

「……」

 返事がない。

「……」

 ほんの一瞬。

 ラグナは黙った。

 怖い。

 この二人を失うのが怖い。

 自分も死ぬかもしれない。

 それでも、それを言葉にはしない。

「おわっ!!」

 突然叫んだ。

「見ろ……船だっ! あれ、乗るぞ!」

「ボート……とも言うな。……普通は……そう言う」

「ボートでもいいぜ~。あれに乗って、ガルバディアへ帰る!」

(…………)

 キスティスはもう笑えなかった。

 この男は。

 怖くなるほど喋る。

 仲間が不安になるほど、馬鹿なことを言う。

 絶望しそうになるほど、明るく振る舞う。

「おまえら……スゲエ勇気だぜ」

 キロスが飛んだ。

「こんなとこから……」

 ウォードも続く。

「よく飛ぶよな~」

(え)

 ラグナが崖下を見る。

(ちょっと待って)

「お……わ!」

(まさか)

「……マジかよ」

(この高さから!?)

「ああっ!!」

 落下。

(ちょっ……!!)

 そこで。

 キスティスの意識が途切れた。

 

「……っ!」

 目を開く。

 木漏れ日。

 森。

「キスティス」

 目の前にスコールがいた。

「大丈夫?」

「…………」

 キスティスは身体を起こす。

 そしてまず自分の身体を確認した。

「……戻ってる」

「何が?」

「なんでもない」

 即答だった。

 絶対に説明したくない。

「んん……」

 隣でセルフィが目を覚ます。

 ぱちぱちと瞬きをして。

「あ~……戻ってきちゃった」

「セルフィ!」

 リノアが駆け寄る。

「大丈夫?」

「うん!」

 セルフィは身体を起こすなり言った。

「でもラグナさま、ピンチなんだよ~! どうなったのかな~!!」

「……またラグナか?」

 ゼルも起き上がる。

 サイファーが腕を組んだ。

「おまえらもか」

「おう」

 ゼルが頭を振る。

「オレ、またウォードだった」

「あたしもまたキロス~」

「…………」

 キスティスが二人を見る。

「待って」

「ん?」

「『また』って何?」

「あ」

 セルフィが瞬きをする。

「そういやキスティスは初めてか」

 ゼルが言う。

「何なの、これ?」

 キスティスは眉を寄せた。

「夢……じゃないわよね? 三人とも同じ場所にいた」

「うん」

「前にもあったんだよ」

 セルフィが答える。

「あたしがキロスで、ゼルがウォード」

「前は俺がラグナだった」

 サイファーが続けた。

「あなたが?」

「ああ」

 キスティスは少し考える。

「つまり今回は、サイファーの代わりに私がラグナの中へ?」

「そうなるな」

「どういう現象なの?」

「知るか」

 サイファーは即答した。

「分かってりゃ苦労しねえよ」

「私、全然分かんないんだけど……」

 リノアが困った顔をする。

「三人とも、同じ夢を見てたってこと?」

「俺にも分からない」

 スコールが答えた。

 だがその中にいるラグナだけは、まったく別のことを考えていた。

(セントラ発掘現場か……)

 忘れられるはずがない。

 ウォードが喉をやられた日。

 キロスも、自分も重傷を負った。

 そして三人の人生が大きく変わることになった一日。

(エルオーネ……おまえ、何をしようとしてる?)

 前回はサイファー。

 今回はキスティス。

 セルフィとゼルは変わらない。

 偶然とは思えない。

 だが意図が読めない。

「スコール?」

「ん?」

 キスティスがこちらを見ていた。

「どうしたの?」

「いや。なんでもない」

「……そう」

 キスティスは少し考えてから言った。

「ラグナって人……変な人ね」

(ですよね)

「でも面白いよ~!」

 セルフィが笑う。

「前よりすっごいことになってた!」

「無茶苦茶だったけどな」

 ゼルも苦笑する。

「でも、あの三人かなり仲良いよな」

「そうね」

 キスティスは静かに頷いた。

「ラグナは……」

 一度、言葉を選ぶ。

「最初は、ただ落ち着きのない人だと思った」

(ぐっ)

「ことわざは間違えるし」

(ぐぐっ)

「何でも触るし」

(いや、それは)

「拾ったものはなくすし」

(やめて)

「ダイナマイトまで爆発させるし」

(全部事実だけどさあ!)

「でも」

 キスティスの声が少し変わった。

「最後は、少し印象が変わった」

 ラグナは黙る。

「ウォードがあんなことを言った時、本当はすごく怖がってた」

「…………」

「それでも、あの二人を不安にさせないようにしてた」

 セルフィが頷く。

「うん」

「キロスとウォードが生きて帰れるって、自分自身にも言い聞かせてたのかもしれない」

 キスティスは少し考える。

「だから……隊長だったのかもしれないわね」

(いやあ)

 ラグナは遠い目をした。

(そこまで立派な理由で隊長やってたわけじゃないんだけどなあ)

「スコール?」

「何?」

「また変な顔してる」

「気のせい」

 サイファーが鼻で笑う。

「最近それ多いな、おまえ」

「うるさい」

「で」

 キスティスがサイファーを見る。

「あなたは前回、あれを最初から最後まで?」

「ああ」

「よく平気だったわね」

「平気じゃねえよ」

 返事は早かった。

「あいつの頭ん中まで流れ込んでくるんだぞ」

「……分かる」

 キスティスは初めてサイファーに心から同意した。

「ずっと喋ってる感じがするのよね」

「ああ」

「黙っていても頭の中で別のことを考えてるし」

「ああ」

「思考があっちこっち飛ぶし」

「だろ?」

「二人とも」

 セルフィが笑う。

「なんか意気投合してる~」

「してない」

 二人同時だった。

「息ぴったりじゃん!」

「違う!」

 今度はキスティスまで声を上げた。

 ゼルが吹き出す。

 張り詰めていた森の空気が、少しだけ緩んだ。

 やがてキスティスが立ち上がる。

「でも、本当に何なのかしら」

 セルフィとゼルを見る。

「三人同時に同じ過去を見るなんて」

「俺だけならふざけた夢ってことで終わりにできるけどな」

 サイファーが言った。

「三人とも同じ場所、同じ時間じゃ偶然じゃねえ」

「だよな」

 ゼルが腕を組む。

「しかも前回と同じ奴の中だったし」

 ラグナは立ち上がった。

「ここで考えても、きっと何も分からないよ」

 森の先を見る。

「ガルバディア・ガーデンへ行こう。今はそっちが先だ」

「そうね」

 キスティスも頷く。

「バラム・ガーデンの状況も確認しないと」

「お、行こうぜ!」

 ゼルが勢いよく立ち上がる。

「もうすぐ到着なんだろ?」

「ええ。この森を抜ければ、それほど遠くないわ」

「身体は大丈夫?」

 リノアが三人を見る。

「うん!」

 セルフィが跳ねる。

「あたしは平気~!」

「オレも問題なし!」

「私も大丈夫」

 キスティスが服についた葉を払った。

「じゃあ行くか」

 サイファーが先を見る。

 六人は再び歩き始めた。

 少し進んだところで、リノアがラグナの隣へ並ぶ。

「ねえ、スコール」

「何?」

「こういうの、よくあるの?」

「こういうのって?」

「SeeDの任務」

 リノアは後ろを振り返る。

 セルフィとゼル。

 そしてキスティス。

「急に仲間が三人とも倒れて、起きたら知らない人の人生を見てました、みたいなの」

「あるわけないだろ」

「だよね」

 リノアが笑った。

「ちょっと安心した」

「何に?」

「SeeDってもっと何でも平然としてるのかと思ってたから」

「…………」

「でもスコールも分かんないんだね」

「ああ」

「そっか」

 それだけ言って、リノアは前を向いた。

 ラグナは横目でその顔を見る。

(……この子、距離詰めるの自然だなあ)

 パーティーでもそうだった。

 気づけば隣にいる。

 気づけば話しかけている。

 そしてスコールの身体は、それを嫌がっていない。

(むしろ、ちょっと嬉しい?)

 自分の感情ではない、小さな温度が胸の奥にある。

 ラグナは何となく前を向いた。

(ま、そこは本人が戻ってから自分で考えればいいか)

 今はそれより。

(エルオーネ……)

 さっきまでの軽い気分が消える。

 前回はサイファー、セルフィ、ゼル。

 今回はキスティス、セルフィ、ゼル。

 自分だけは、やはり何も起こらない。

(俺がもう、おまえの力でこの時代に来てるからなのか?)

 分からない。

 そもそも未来のエルオーネが、何を目的として自分をスコールの身体へ送り込んだのかさえ聞けていない。

 そして今過去の自分まで、彼らに見せ始めている。

(何を見せたいんだ?)

 自分の失敗?

 キロスとウォード?

 それともこの先にある何か。

「スコール!」

 前からゼルの声。

「置いてくぞ!」

「ああ、今行く!」

 ラグナは思考を切った。

 森の出口へ向かって歩き出す。

 木々の向こうから、人工物の輪郭が見え始めていた。

 ガルバディア・ガーデン。

 ラグナは目を細める。

(まずは、今だ)

 過去の理由を考えるのは後でいい。

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