FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない 作:Kurumimogomogo
「何もないよりは」
ゼルは拳を握った。
「ずっとマシだ」
数時間後。
ラグナロクはエスタの空を離れていた。
操縦席に座っているのはセルフィだった。
「よーし! 大海のよどみ探索隊、しゅっぱ~つ!」
「セルフィ」
後ろからキスティスが声をかける。
「遊びじゃないんだからね」
「わかってるって~」
言いながらも、セルフィの手つきは軽快だった。
ラグナロクが旋回し、海岸線を越える。
眼下を覆うのは青。
どこまでも続く海だった。
「で」
アーヴァインがゼルの持ってきた『オカルトファン』を開く。
「肝心の海洋探査人工島は?」
「この辺の海域のどっか」
「どっか?」
「……どっか」
「ゼル」
キスティスの声が低くなる。
「もう少し詳しい情報は?」
「だからオカルト雑誌なんだって!」
「あなたが持ってきたんでしょう!」
「しょうがねえだろ! 普通の地図に載ってねえんだから!」
セルフィが操縦席から振り返った。
「とりあえず飛んで探せばいいんでしょ?」
「簡単に言うねえ」
「ラグナロクなら速いもん!」
そして。
本当に探し始めた。
一時間。
「ないね~」
二時間。
「ないな」
三時間。
「……本当にあるの?」
リノアまで疑い始めた。
「ある!」
ゼルが言い切る。
「たぶん!」
「今『たぶん』って付いたよ」
「細かいこと気にすんな!」
セルフィは海面を睨みながらラグナロクを飛ばしていた。
「島って言っても、どれくらいなんだろ?」
「人工島だから、それなりに大きいと思うけど」
キスティスが答える。
「ただ、放棄されてからかなり経っているなら、上空から見つけやすい状態とは限らないわ」
「海に沈みかけてるとか?」
「可能性はあるわね」
「それ先に言ってよ~!」
セルフィが高度を下げる。
海面すれすれ。
「セルフィ、低い!」
「この方が見つけやすいもん!」
「波!」
「だいじょ~ぶ!」
ラグナロクが波頭をかすめる。
「全然大丈夫に見えないんだけど!」
リノアが座席につかまった。
「セルフィ!」
「はいはい、ちょっと上げま~す」
機体が上昇する。
アーヴァインは窓の外を眺めながら呟いた。
「スコールがいたら、何て言うかな」
「『墜落するぞ』」
ゼル。
「『セルフィ、代われ』じゃない?」
キスティス。
「『……好きにしろ』」
リノア。
三人が顔を見合わせる。
「最後のが一番ありそう」
「でしょ?」
少しだけ笑いが起きた。
けれど。
すぐに静かになった。
その本人は。
今もエスタで眠っている。
「……見つけよう」
リノアが言った。
セルフィが前を見る。
「うん」
さらに時間が過ぎた。
太陽の位置が大きく変わっている。
燃料にも余裕があるとはいえ、いつまでも探し続けるわけにはいかない。
キスティスが地図に印をつけていた。
「この海域はもう調べたわ」
「じゃあ次、こっち!」
セルフィが機首を振る。
「セルフィ」
「なに?」
「疲れてない?」
「ぜ~んぜん」
「嘘」
「ちょっとだけ」
「交代する?」
「やだ」
即答だった。
「見つけるまで、あたしが飛ぶ」
キスティスは少しだけセルフィを見る。
「……分かった。でも無理はしないで」
「りょーかい!」
さらに西へ。
雲が増えてきた。
視界が悪い。
「これじゃ見えないな」
ゼルが窓へ顔を寄せる。
「一度高度を上げる?」
「いや」
アーヴァインが窓の外を指差した。
「セルフィ。右」
「右?」
「もう少し」
ラグナロクが旋回する。
雲の切れ間。
海面に。
ほんの一瞬。
不自然な影が見えた。
「今の!」
セルフィも気づいた。
機体を反転させる。
「みんな、見て!」
雲を抜ける。
海。
そして。
「……あった」
リノアが立ち上がった。
巨大な人工構造物。
長い年月を海風に晒され、半ば海と一体化している。
遠目には島影にも見える。
けれど。
明らかに人工物だった。
ゼルが雑誌と見比べる。
「これだ」
声が弾む。
「海洋探査人工島!」
「ほんとにあった~!」
セルフィが操縦桿を握り直す。
「着陸するよ!」
ラグナロクが人工島へ降りる。
着陸地点を探すのにも苦労した。
施設は予想以上に荒れていた。
ようやく機体が止まる。
「到着~」
セルフィが操縦席から飛び降りる。
ゼルが伸びをした。
「長かった……」
「まだ入口よ」
キスティスが釘を刺す。
「ここからが本番」
「分かってるって」
五人は装備を確認した。
セルフィがラグナロクを振り返る。
「ちゃんと待っててね~」
「ラグナロクに話しかけてどうするの」
「大事だよ。帰りの足だもん」
その言葉に。
リノアだけが少し表情を変えた。
帰り。
その時には。
スコールを連れ戻す方法を見つけていたい。
内部は静まり返っていた。
砂。
錆。
崩れた壁。
長い年月、人間が使っていないことだけは分かる。
なのに。
「電気……生きてる?」
リノアが奥を見る。
青白い光。
規則的に明滅している。
「みたいね」
キスティスが答える。
「気をつけて」
五人は光へ近づいた。
その瞬間。
『……何を求めてここへ来た』
「!」
全員が止まる。
姿はない。
「誰だ!」
ゼルが叫ぶ。
返事はない。
ただ。
『何を求める』
声だけが頭の中へ響いた。
「スコールとラグナを助ける方法だ」
ゼルが答える。
『そのために』
光が強くなる。
『力を求めるか』
「力そのものが欲しいわけじゃない」
リノアが言った。
「帰ってきてほしい人がいるの」
沈黙。
そして。
『ならば示せ』
「何を……?」
次の瞬間。
咆哮。
「来る!」
巨大な赤い影が光の中から飛び出した。
「ドラゴン!?」
キスティスが叫ぶ。
「ルブルムドラゴンよ!」
「質問に答えたらこれ!?」
セルフィが武器を構える。
「ずいぶん乱暴な面接だね!」
アーヴァインが銃を抜く。
「来るぞ!」
戦闘。
炎が床を走った。
「散って!」
五人が左右へ飛ぶ。
ゼルが正面へ。
「うおおっ!」
拳を叩き込む。
ドラゴンが首を振る。
「ゼル、離れて!」
キスティスの鞭。
セルフィのヌンチャク。
リノアの魔法。
最後に。
銃声。
アーヴァインの弾丸が頭部を撃ち抜く。
巨体が崩れた。
「……勝った」
セルフィが息を吐く。
「いきなり強いよ~」
「これで終わりじゃないわ」
キスティスが奥を見る。
光は。
まだ消えていない。
五人が進む。
再び。
光。
『なぜ戦う』
「まただ」
ゼルが構える。
『戦いの先に何を見る』
「…………」
今度はキスティスが答えた。
「何かを守るためよ」
『守る』
声が反響する。
『力なき者に、何が守れる』
「力があるから守るんじゃない」
キスティスは光を見つめる。
「守ろうとするから、必要な力を使うの」
数秒の沈黙。
『ならば』
空気が震える。
『示せ』
「やっぱり来るのね!」
キスティスが鞭を抜く。
咆哮。
二体目のルブルムドラゴン。
「またぁ!?」
セルフィが叫ぶ。
「話し合いって言葉知らないの!?」
「たぶん知らない!」
ゼルが飛び込んだ。
二度目。
そして。
三度目。
進むたびに。
問いかけ。
答え。
戦闘。
施設そのものが五人を試しているようだった。
「はぁ……はぁ……」
ゼルが膝へ手をつく。
「あと何匹いるんだよ……」
「知らないわよ」
キスティスも肩で息をする。
「でも」
リノアが奥を見る。
光。
まだ続いている。
「行こう」
「もちろん」
セルフィがヌンチャクを握り直す。
「ここまで来て帰れないもんね」
進む。
再び。
『なぜ力を欲する』
ゼルが顔をしかめる。
「だから何回聞くんだよ!」
『答えよ』
「……俺たちは」
ゼルが口を開きかける。
だが。
リノアが前へ出た。
「そういう話は……興味ない」
「リノア?」
「何のために戦うとか」
光を睨む。
「力がどうとか」
一歩。
「そんなことを話しに来たんじゃない」
『…………』
「スコールを連れて帰る」
さらに一歩。
「ラグナも」
その声は震えていない。
「その方法を探しに来たの」
沈黙。
「邪魔するなら」
ブラスターエッジを構える。
「あなたとも戦う」
青白い光が初めて消えた。
「……え?」
セルフィが瞬きをする。
暗闇。
次の瞬間。
ズン。
施設全体が沈んだような衝撃。
ズン。
もう一度。
巨大な足音。
「これは……」
キスティスが上を見る。
闇の奥。
二つの眼が開いた。
『ならば』
低い声。
『我に示せ』
翼が広がる。
青い巨体。
圧倒的な魔力。
セルフィの表情から笑みが消えた。
「……これ」
ゼルが拳を構える。
「さっきまでと全然違うぞ」
キスティスが息を呑む。
「GF……」
アーヴァインが銃を構えた。
「名前は?」
キスティスが答える。
「バハムートよ」
伝説級のGF。
バハムートが五人を見下ろす。
『我を越えてみせよ』
ゼルが口元を上げた。
「やっと面接官本人のお出ましか」
「ゼル」
「分かってる」
構える。
「こいつを倒して」
リノアも武器を握る。
「先へ行く」
死闘だった。
ルブルムドラゴンとは比較にならない。
メガフレア。
光が施設を埋め尽くす。
「全員、防御!」
爆発。
「っ……!」
ゼルが吹き飛ばされる。
「ゼル!」
「動ける!」
「セルフィ!」
「はいっ!」
回復魔法。
「アーヴァイン、翼!」
「了解!」
銃声。
「リノア、右へ!」
「うん!」
ブラスターエッジ。
キスティスの鞭が脚へ絡む。
「今!」
「うおおおおっ!」
ゼルの拳。
バハムートの巨体が揺れる。
だが。
まだ倒れない。
『それが』
翼が開く。
『汝らの意志か』
「だったら何だ!」
ゼルが叫ぶ。
『ならば耐えよ』
「また来る!」
メガフレア。
光。
爆発。
それでも。
五人は立った。
リノアが顔を上げる。
「帰るの」
バハムートを見る。
「絶対に」
スコールの顔が浮かぶ。
「みんなで帰る!」
五人の攻撃が重なる。
轟音。
やがて。
バハムートの巨体が止まった。
『…………』
長い沈黙。
『よかろう』
身体が光へ変わっていく。
『我が力』
光が五人を包む。
『汝らに預ける』
そして。
消えた。
「……終わった?」
セルフィが床へ座り込む。
「たぶん」
ゼルもその場へ倒れる。
「強すぎだろ……」
だが。
リノアは立ったままだった。
周囲を見る。
「違う」
「リノア?」
「バハムートじゃない」
ここへ来た目的。
時空を越えるというGF。
「まだいるはず」
キスティスが『オカルトファン』を開く。
「ええ」
ページを確認する。
「記述が正しいなら……もっと深い場所がある」
その時。
ゴゴゴゴゴ……。
床の一部が動いた。
地下へ続く巨大な設備が姿を現す。
「ビンゴ」
アーヴァインが呟く。
ゼルが立ち上がった。
「よし」
操作盤を見る。
「ここからは俺に任せろ」
キスティスが嫌な予感を覚えた。
「……何を?」
「この機械」
ゼルが胸を張る。
「俺、機械に強いからな」
「…………」
「何だよ、その顔」
「何でもないわ」
ゼルが操作盤へ向かう。
「これだろ」
ガチャ。
無反応。
「…………」
「違うみたいね」
「待て」
別のレバー。
「これだな」
ガコン。
無反応。
セルフィが横から覗く。
「ゼル~」
「なんだ」
「ほんとに機械に強い?」
「強い!」
「機械の方が?」
「俺が!」
アーヴァインが壁にもたれる。
「僕には機械とゼルが五分五分に見えるけどね」
「見てろ!」
ゼルが操作盤を睨む。
「こういうのはな」
拳を握る。
「最後はここなんだよ!」
「待ちなさい、ゼル」
ゴンッ!!
「殴ったぁ!」
セルフィが目を輝かせる。
「セルフィ、喜ばない!」
数秒。
ガコン。
重い音を立てて扉が開いた。
「…………」
全員がゼルを見る。
ゼルは胸を張った。
「ほらな」
「機械に強いの意味が違うわよ!」
「開いたじゃねえか!」
「それは技術じゃない!」
「結果がすべてだ!」
「だから何と戦ってるのよ!」
「ゼル対機械、ゼルの勝ち~!」
「セルフィ!」
久しぶりに笑い声が響いた。
けれど開いた扉の向こうから流れてきた空気に。
その笑いは自然と消えていった。
地下。
さらに深く。
大海のよどみ。
その最深部へ。
ゼルはポケットから、一枚のカードを取り出した。
アルテマウェポン。
カードに描かれた異形。
そして暗闇の遥か下から。
何かの気配がする。
「……いる」
キスティスが呟く。
リノアは暗闇を見下ろした。
バハムートですら。
入口を守る存在に過ぎなかったのかもしれない。
この下にいるアルテマウェポン。
そして本当に時間と空間を越える力を持つGFがいるのなら。
「行こう」
リノアが言った。
「スコールのところまで」
五人は大海のよどみへ降り始めた。