FINAL FANTASY VIII 父さんは、息子の青春を知らない   作:Kurumimogomogo

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第九話 大海のよどみ

「何もないよりは」

 ゼルは拳を握った。

「ずっとマシだ」

 

 数時間後。

 ラグナロクはエスタの空を離れていた。

 操縦席に座っているのはセルフィだった。

「よーし! 大海のよどみ探索隊、しゅっぱ~つ!」

「セルフィ」

 後ろからキスティスが声をかける。

「遊びじゃないんだからね」

「わかってるって~」

 言いながらも、セルフィの手つきは軽快だった。

 ラグナロクが旋回し、海岸線を越える。

 眼下を覆うのは青。

 どこまでも続く海だった。

「で」

 アーヴァインがゼルの持ってきた『オカルトファン』を開く。

「肝心の海洋探査人工島は?」

「この辺の海域のどっか」

「どっか?」

「……どっか」

「ゼル」

 キスティスの声が低くなる。

「もう少し詳しい情報は?」

「だからオカルト雑誌なんだって!」

「あなたが持ってきたんでしょう!」

「しょうがねえだろ! 普通の地図に載ってねえんだから!」

 セルフィが操縦席から振り返った。

「とりあえず飛んで探せばいいんでしょ?」

「簡単に言うねえ」

「ラグナロクなら速いもん!」

 そして。

 本当に探し始めた。

 

 一時間。

「ないね~」

 二時間。

「ないな」

 三時間。

「……本当にあるの?」

 リノアまで疑い始めた。

「ある!」

 ゼルが言い切る。

「たぶん!」

「今『たぶん』って付いたよ」

「細かいこと気にすんな!」

 セルフィは海面を睨みながらラグナロクを飛ばしていた。

「島って言っても、どれくらいなんだろ?」

「人工島だから、それなりに大きいと思うけど」

 キスティスが答える。

「ただ、放棄されてからかなり経っているなら、上空から見つけやすい状態とは限らないわ」

「海に沈みかけてるとか?」

「可能性はあるわね」

「それ先に言ってよ~!」

 セルフィが高度を下げる。

 海面すれすれ。

「セルフィ、低い!」

「この方が見つけやすいもん!」

「波!」

「だいじょ~ぶ!」

 ラグナロクが波頭をかすめる。

「全然大丈夫に見えないんだけど!」

 リノアが座席につかまった。

「セルフィ!」

「はいはい、ちょっと上げま~す」

 機体が上昇する。

 アーヴァインは窓の外を眺めながら呟いた。

「スコールがいたら、何て言うかな」

「『墜落するぞ』」

 ゼル。

「『セルフィ、代われ』じゃない?」

 キスティス。

「『……好きにしろ』」

 リノア。

 三人が顔を見合わせる。

「最後のが一番ありそう」

「でしょ?」

 少しだけ笑いが起きた。

 けれど。

 すぐに静かになった。

 その本人は。

 今もエスタで眠っている。

「……見つけよう」

 リノアが言った。

 セルフィが前を見る。

「うん」

 

 さらに時間が過ぎた。

 太陽の位置が大きく変わっている。

 燃料にも余裕があるとはいえ、いつまでも探し続けるわけにはいかない。

 キスティスが地図に印をつけていた。

「この海域はもう調べたわ」

「じゃあ次、こっち!」

 セルフィが機首を振る。

「セルフィ」

「なに?」

「疲れてない?」

「ぜ~んぜん」

「嘘」

「ちょっとだけ」

「交代する?」

「やだ」

 即答だった。

「見つけるまで、あたしが飛ぶ」

 キスティスは少しだけセルフィを見る。

「……分かった。でも無理はしないで」

「りょーかい!」

 さらに西へ。

 雲が増えてきた。

 視界が悪い。

「これじゃ見えないな」

 ゼルが窓へ顔を寄せる。

「一度高度を上げる?」

「いや」

 アーヴァインが窓の外を指差した。

「セルフィ。右」

「右?」

「もう少し」

 ラグナロクが旋回する。

 雲の切れ間。

 海面に。

 ほんの一瞬。

 不自然な影が見えた。

「今の!」

 セルフィも気づいた。

 機体を反転させる。

「みんな、見て!」

 雲を抜ける。

 海。

 そして。

「……あった」

 リノアが立ち上がった。

 巨大な人工構造物。

 長い年月を海風に晒され、半ば海と一体化している。

 遠目には島影にも見える。

 けれど。

 明らかに人工物だった。

 ゼルが雑誌と見比べる。

「これだ」

 声が弾む。

「海洋探査人工島!」

「ほんとにあった~!」

 セルフィが操縦桿を握り直す。

「着陸するよ!」

 

 ラグナロクが人工島へ降りる。

 着陸地点を探すのにも苦労した。

 施設は予想以上に荒れていた。

 ようやく機体が止まる。

「到着~」

 セルフィが操縦席から飛び降りる。

 ゼルが伸びをした。

「長かった……」

「まだ入口よ」

 キスティスが釘を刺す。

「ここからが本番」

「分かってるって」

 五人は装備を確認した。

 セルフィがラグナロクを振り返る。

「ちゃんと待っててね~」

「ラグナロクに話しかけてどうするの」

「大事だよ。帰りの足だもん」

 その言葉に。

 リノアだけが少し表情を変えた。

 帰り。

 その時には。

 スコールを連れ戻す方法を見つけていたい。

 

 内部は静まり返っていた。

 砂。

 錆。

 崩れた壁。

 長い年月、人間が使っていないことだけは分かる。

 なのに。

「電気……生きてる?」

 リノアが奥を見る。

 青白い光。

 規則的に明滅している。

「みたいね」

 キスティスが答える。

「気をつけて」

 五人は光へ近づいた。

 その瞬間。

『……何を求めてここへ来た』

「!」

 全員が止まる。

 姿はない。

「誰だ!」

 ゼルが叫ぶ。

 返事はない。

 ただ。

『何を求める』

 声だけが頭の中へ響いた。

「スコールとラグナを助ける方法だ」

 ゼルが答える。

『そのために』

 光が強くなる。

『力を求めるか』

「力そのものが欲しいわけじゃない」

 リノアが言った。

「帰ってきてほしい人がいるの」

 沈黙。

 そして。

『ならば示せ』

「何を……?」

 次の瞬間。

 咆哮。

「来る!」

 巨大な赤い影が光の中から飛び出した。

「ドラゴン!?」

 キスティスが叫ぶ。

「ルブルムドラゴンよ!」

「質問に答えたらこれ!?」

 セルフィが武器を構える。

「ずいぶん乱暴な面接だね!」

 アーヴァインが銃を抜く。

「来るぞ!」

 

 戦闘。

 炎が床を走った。

「散って!」

 五人が左右へ飛ぶ。

 ゼルが正面へ。

「うおおっ!」

 拳を叩き込む。

 ドラゴンが首を振る。

「ゼル、離れて!」

 キスティスの鞭。

 セルフィのヌンチャク。

 リノアの魔法。

 最後に。

 銃声。

 アーヴァインの弾丸が頭部を撃ち抜く。

 巨体が崩れた。

「……勝った」

 セルフィが息を吐く。

「いきなり強いよ~」

「これで終わりじゃないわ」

 キスティスが奥を見る。

 光は。

 まだ消えていない。

 五人が進む。

 

 再び。

 光。

『なぜ戦う』

「まただ」

 ゼルが構える。

『戦いの先に何を見る』

「…………」

 今度はキスティスが答えた。

「何かを守るためよ」

『守る』

 声が反響する。

『力なき者に、何が守れる』

「力があるから守るんじゃない」

 キスティスは光を見つめる。

「守ろうとするから、必要な力を使うの」

 数秒の沈黙。

『ならば』

 空気が震える。

『示せ』

「やっぱり来るのね!」

 キスティスが鞭を抜く。

 咆哮。

 二体目のルブルムドラゴン。

「またぁ!?」

 セルフィが叫ぶ。

「話し合いって言葉知らないの!?」

「たぶん知らない!」

 ゼルが飛び込んだ。

 

 二度目。

 そして。

 三度目。

 進むたびに。

 問いかけ。

 答え。

 戦闘。

 施設そのものが五人を試しているようだった。

「はぁ……はぁ……」

 ゼルが膝へ手をつく。

「あと何匹いるんだよ……」

「知らないわよ」

 キスティスも肩で息をする。

「でも」

 リノアが奥を見る。

 光。

 まだ続いている。

「行こう」

「もちろん」

 セルフィがヌンチャクを握り直す。

「ここまで来て帰れないもんね」

 進む。

 再び。

『なぜ力を欲する』

 ゼルが顔をしかめる。

「だから何回聞くんだよ!」

『答えよ』

「……俺たちは」

 ゼルが口を開きかける。

 だが。

 リノアが前へ出た。

「そういう話は……興味ない」

「リノア?」

「何のために戦うとか」

 光を睨む。

「力がどうとか」

 一歩。

「そんなことを話しに来たんじゃない」

『…………』

「スコールを連れて帰る」

 さらに一歩。

「ラグナも」

 その声は震えていない。

「その方法を探しに来たの」

 沈黙。

「邪魔するなら」

 ブラスターエッジを構える。

「あなたとも戦う」

 青白い光が初めて消えた。

「……え?」

 セルフィが瞬きをする。

 暗闇。

 次の瞬間。

 ズン。

 施設全体が沈んだような衝撃。

 ズン。

 もう一度。

 巨大な足音。

「これは……」

 キスティスが上を見る。

 闇の奥。

 二つの眼が開いた。

『ならば』

 低い声。

『我に示せ』

 翼が広がる。

 青い巨体。

 圧倒的な魔力。

 セルフィの表情から笑みが消えた。

「……これ」

 ゼルが拳を構える。

「さっきまでと全然違うぞ」

 キスティスが息を呑む。

「GF……」

 アーヴァインが銃を構えた。

「名前は?」

 キスティスが答える。

「バハムートよ」

 伝説級のGF。

 バハムートが五人を見下ろす。

『我を越えてみせよ』

 ゼルが口元を上げた。

「やっと面接官本人のお出ましか」

「ゼル」

「分かってる」

 構える。

「こいつを倒して」

 リノアも武器を握る。

「先へ行く」

 

 死闘だった。

 ルブルムドラゴンとは比較にならない。

 メガフレア。

 光が施設を埋め尽くす。

「全員、防御!」

 爆発。

「っ……!」

 ゼルが吹き飛ばされる。

「ゼル!」

「動ける!」

「セルフィ!」

「はいっ!」

 回復魔法。

「アーヴァイン、翼!」

「了解!」

 銃声。

「リノア、右へ!」

「うん!」

 ブラスターエッジ。

 キスティスの鞭が脚へ絡む。

「今!」

「うおおおおっ!」

 ゼルの拳。

 バハムートの巨体が揺れる。

 だが。

 まだ倒れない。

『それが』

 翼が開く。

『汝らの意志か』

「だったら何だ!」

 ゼルが叫ぶ。

『ならば耐えよ』

「また来る!」

 メガフレア。

 光。

 爆発。

 それでも。

 五人は立った。

 リノアが顔を上げる。

「帰るの」

 バハムートを見る。

「絶対に」

 スコールの顔が浮かぶ。

「みんなで帰る!」

 五人の攻撃が重なる。

 轟音。

 やがて。

 バハムートの巨体が止まった。

『…………』

 長い沈黙。

『よかろう』

 身体が光へ変わっていく。

『我が力』

 光が五人を包む。

『汝らに預ける』

 そして。

 消えた。

 

「……終わった?」

 セルフィが床へ座り込む。

「たぶん」

 ゼルもその場へ倒れる。

「強すぎだろ……」

 だが。

 リノアは立ったままだった。

 周囲を見る。

「違う」

「リノア?」

「バハムートじゃない」

 ここへ来た目的。

 時空を越えるというGF。

「まだいるはず」

 キスティスが『オカルトファン』を開く。

「ええ」

 ページを確認する。

「記述が正しいなら……もっと深い場所がある」

 その時。

 ゴゴゴゴゴ……。

 床の一部が動いた。

 地下へ続く巨大な設備が姿を現す。

「ビンゴ」

 アーヴァインが呟く。

 ゼルが立ち上がった。

「よし」

 操作盤を見る。

「ここからは俺に任せろ」

 キスティスが嫌な予感を覚えた。

「……何を?」

「この機械」

 ゼルが胸を張る。

「俺、機械に強いからな」

「…………」

「何だよ、その顔」

「何でもないわ」

 ゼルが操作盤へ向かう。

「これだろ」

 ガチャ。

 無反応。

「…………」

「違うみたいね」

「待て」

 別のレバー。

「これだな」

 ガコン。

 無反応。

 セルフィが横から覗く。

「ゼル~」

「なんだ」

「ほんとに機械に強い?」

「強い!」

「機械の方が?」

「俺が!」

 アーヴァインが壁にもたれる。

「僕には機械とゼルが五分五分に見えるけどね」

「見てろ!」

 ゼルが操作盤を睨む。

「こういうのはな」

 拳を握る。

「最後はここなんだよ!」

「待ちなさい、ゼル」

 ゴンッ!!

「殴ったぁ!」

 セルフィが目を輝かせる。

「セルフィ、喜ばない!」

 数秒。

 ガコン。

 重い音を立てて扉が開いた。

「…………」

 全員がゼルを見る。

 ゼルは胸を張った。

「ほらな」

「機械に強いの意味が違うわよ!」

「開いたじゃねえか!」

「それは技術じゃない!」

「結果がすべてだ!」

「だから何と戦ってるのよ!」

「ゼル対機械、ゼルの勝ち~!」

「セルフィ!」

 久しぶりに笑い声が響いた。

 けれど開いた扉の向こうから流れてきた空気に。

 その笑いは自然と消えていった。

 地下。

 さらに深く。

 大海のよどみ。

 その最深部へ。

 ゼルはポケットから、一枚のカードを取り出した。

 アルテマウェポン。

 カードに描かれた異形。

 そして暗闇の遥か下から。

 何かの気配がする。

「……いる」

 キスティスが呟く。

 リノアは暗闇を見下ろした。

 バハムートですら。

 入口を守る存在に過ぎなかったのかもしれない。

 この下にいるアルテマウェポン。

 そして本当に時間と空間を越える力を持つGFがいるのなら。

「行こう」

 リノアが言った。

「スコールのところまで」

 五人は大海のよどみへ降り始めた。

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