俺の記憶が正しければこの世界は『リブラガール』と言う創作物の世界。
そして俺はそんな創作物に転生してしまった……転生と言っていいのかこれ?まあ、入り込んだ読者側の人間である。
俺の説明をする前にまずは『リブラガール』という物語がどういう世界なのか、知っていただきたい。
改めて『リブラガール』とは……。
剣と魔法のファンタジー世界の魔法学校を舞台にして、主人公たる一人の女性と、それに関わる5から10人の男が繰り広げる恋愛、そして主人公たる彼女が持つ神の定めた運命を変える魔法『リブラ』を巡る悲劇的結末、あるいは喜劇的結末が待っている。
作品評価はマチマチで、しかし女性向けと作られた割には男性ファンも多く、作品としては独特な立ち位置だっと思う、そういう俺もファンの一人だ。
全てを語ると長くなる、特に注意したいのは『主人公がどの男を選ぶかで世界の行く末が決まる』と言う部分、主人公の魔法『リブラ』は釣り合いの取れる代償を払うことで運命を変える、望んだ結果、望まない未来になることもある、連鎖的に世界に危機が訪れると言うこともある。
媒体ごとに結末が違うが、キャラ毎のストーリー自体は短い、下手すりゃすぐエンディング、この世界のベースはどの媒体か確かめたが確証を得られなかったので、恐らく全部混じってる、ということで予想不能である。
でも10通りのエンディングだけでしょって思った君。
いやいや、グッドバッドトゥルーの3パターンで30通りです、これ作ったやつアホかな、なんでこんなものマルチに展開した?
幾つかヤバいエンド持ちがいて今から怖いんだが? それが複合して更に酷くなるとかあり得るんだが???
で、上記を踏まえて俺はどうしたらいいのか、悩みに悩んだ結果、俺も物語へ飛び込むことにした。
飛び込んでバッド回避、そしてどのエンドでもいいからグッドに落ち着いてもらうことを目標にした、つまり攻略対象の10人以外の男を寄せ付けないムーブが求められるのだ、ここが現実である以上、予想を超える可能性もある。
物語の舞台である魔法学校、正式名称『ストルフォア王立魔法学校』、ストルフォア王国の庇護の下、貴族も平民も分け隔てなく魔法と基礎的な学問を修めることができる学校だ。
年齢制限があり18歳までしか居られない、逆に下限というものがないので才能が認められれば10歳からでも通える、通える年数は3年、季節のイベントや長期休暇などもあり、更に平民では到底無理な高級ホテル並みの宿舎もただで使わせてくれる。
凄まじいホスピタリティだが、ここを卒業したものは軍や政府へ直接編入されたり、王国辺境守備隊へ所属などなど、と言うことを踏まえれば最後の青春を華々しく暮らせるようにしてあげる慈悲、なのかもしれない。
こうでもしなければいけない理由もある、魔法は戦争の道具だ、より多く質のよい魔法使いを揃えれば勝てるだ、攻めるにしろ守るにしろ、今が平和だと思っても脅威は無くならない。
それに俺個人の私情を挟んだ所で何も変わらない、この世界の当たり前に何か思うことは、少し傲慢だろう。
で、そんな面倒な背景を無視するようで悪いが、俺は伯爵家の生まれで、しかも長男だ、そういう命懸けの場所へは行かない、むしろ内地でぬくぬく暮らしていくのを目標にしている、目標と言うか、それ以外許されないという家のしがらみ。
あと、ここが重要何なんだが、俺も魔法が使える、しかし恐ろしく戦闘向きではない、何なら使用用途を考えると限定的すぎて頭が爆発する。
魔法は人それぞれだ、替えの効かない魔法を使えるものは重宝される、逆に言えば生まれ持った魔法以外使えないと言うことでもある。
せっかく魔法がある世界なのに、そんな事許されていいのかよ! 幼い俺は慟哭した。しかし、魔法は変わらなかった。
俺の魔法は変身魔法、しかも女性への変身だけに留まる、残酷なくらい人外の美になれるよ、言ってしまえばそれだけ、TS魔法とはこれいかに。
魔法の才能が全て美容に回ってしまった俺の青春プライスレス。
そんな美人になるだけの俺が『ストルフォア王立魔法学校』へ入学するには先ず親の説得から始まった、そもそも貴族は自前で勉強できるし家庭教師を雇えば済む話を、わざわざ学校へ行こうとする俺がややこしくしているようなもの。
しかし交渉材料はある、あると言うか原作知識と事前調査で分かったことを伝えるだけでいい。
ちなみに説得は今からやる。
あ、回想だと思った君! これ俺の今までの振り返りと現実逃避だからね! 勘違いしないでよね!
「ふぅ……やるか」
「坊ちゃま、ファイトですぞ」
ありがとう爺や、俺を孫のように可愛がってくれた俺の理解者よ、俺は俺のやるべきと思ったことをやるよ!
書斎の扉をノックして、咳払いを一つ、名前を告げて返事を待つ。
「エラインです、お父様、入ってよろしいでしょうか?」
ガサゴソと言う音がしてから数分、威厳のある我が父の声がする。
「入ってよい」
俺はノブを捻り、爺やを置いて書斎へと入る、書斎は何時見ても本だらけだ、床から天井までを本で覆い尽くしている、最近では蔵書が四千冊を超えたとか。
背表紙を見るだけで堅苦しそうな内容だと思うものばかり、仕事人間の父にはぴったりの書斎だ。
書斎の奥にデスクがあり、父はそこに本を読みながら座っていた。
「珍しいなエライン、書斎に来るとは……お前もついに観念したか、魔法にうつつを抜かす暇があれば先を見据えるべきだと」
彼こそ我が父、仕事の擬人化、貴族としての責務を身に纏った人物。
整った柔和な顔つきとは裏腹に頑固なまでの信念を持ち、ともすれば老木と間違われそうな華奢な体に反して凄まじい魔法力を秘めている。
ユーステファン・ハルス・ジュターゼン、ストルフォア王国の伯爵であり辺境に領地を持つ、つまり国防の要でもある。
圧倒的な気配に押し負けそうになるが、俺だってあの父の血を引く男と自分を奮い立たせて、まずは挨拶から。
「おはようございます、本日はお日柄も良く──」
「スピーチの練習か?」
「場を和ませようとした愚息の気遣いです……」
「そんな気を使えたのか、不要だ、私たちは親子なのだから」
だめだ、どうにも上手く話せない、お母様とは普通に話せるんだがなぁ、もういいや、さっさと用件を話してしまおう。
「では単刀直入に、ストルフォア魔法学校への入学を認めていただきたい」
「その話か、ダメだ、ならぬ」
「だと思いました、が、今回は引き下がりませんよ」
「ほう」
まずは懐から手紙を取り出す、これは俺が爺やを通してお願いしていた事前調査の結果が記されている。
中身は今年の魔法学校の入学者だ、これだけで俺はお父様を動かせると思っている。
「これをお読みください」
「うむ」
両手で丁寧に差し出し、父がそれを確かめる。
しばし無言の時が流れ、成功を確信していても緊張から額に汗が滲む。
「……王子か、なるほど」
「ええ、セルヴァン第二王子の入学は確定しているようです、これを機にジュターゼン家と王家の結びつきを強くしてみてはいかがでしょうか」
セルヴァン第二王子、またの名を『甘やかしたい男子NO1』、イケイケドンドンな性格してるせいでプレイボーイに見られがちだが、心中は寂しさで満たされているギャップのやべーやつ。
要は普段楽しそうにしてるやつが不意に子供みたいに物憂げな顔したら興味惹かれないわけがないよね! ってキャラ。
なんだお前甘やかすぞ。
「ふむ、確かにジュターゼン家と王家の結びつきは強めたいのは事実、だが、もう一押しだな、それだけでは行かせられん」
「と、思いまして」
温めておいた二の矢を放つ、俺は懐から書状を取り出す、これは俺の原作知識を、俺の立場で知りうる範囲に留め、書き記した物。
「お父様、これを」
「見よう…………これをどこで知った?」
「爺や、元王国諜報部だったらしいですね、なので手伝ってもらいました」
「……『リブラ』か、ついに、現れたのだな……なるほど、お前は昔から魔法に傾倒していたな、これくらいは探してくるか……」
正確には俺の知識のすり合わせをするため爺やに頼んで調べてもらったってだけだ、もちろん爺やにそのことは伝えてない、今年の貴族入学者を調べていけば主人公の入学タイミングも自ずと分かる、セルヴァン王子が主人公の同級生であると分かっているならもうほぼ確、主人公は今年現れる、それを爺やに調べてもらっただけだ、そして現れているのは確定した。
いやー転生者ムーブ。
「その者と接触し、我が家の利となるよう働きかける事をお約束します」
「……あくまで自分のためではないと、言い張るのだな」
「はい……」
お父様の顔が歪む、悩んでいるのは分かる、しかしこれ以上の後押しも俺にはない、正確には用意できても説得力がない。
原作知識からいくらでもジュターゼン家への利益を生み出せるが、原因不明の知識など受け入れてもらえないだろう、誰だってそうする、俺だってそうする。
たっぷり悩んで数十分、お父様の口が開く。
「……認めよう」
「おお」
「だが条件をつける……はぁ、と言うよりも、条件が勝手に付いてくる……因みにだが、どうしても今年でなければならぬか? お前はまだ14だ、来年でも良かろう」
「今年を逃せば次どうなるか……予想不能です」
「今年であれば予想できると?」
「はい、そのために準備していましたから」
「く……母の才能が引き継がれていることに嬉しく思うが、頑固なのは私由来か……」
そうだね、俺転生者なのにお父様とそっくりだと俺も思うよ、やっぱりアレだね、似た者同士は惹かれ合うんだね。
そして条件付きでも認めさせられたのは大きいぞ、よくやった俺、安心して屁が出そうだ、貴族らしく部屋を出るまで我慢するぞ。
でも条件付き、内容は一体なんだとお父様に詳しく聞いておこう。
「ネストレス公爵は知っているな」
「一応は」
「そこのご令嬢は?」
「知りません」
「ま、そうだろうな」
ネストレスかぁ……ネストレスなぁ……。
「そのご令嬢も入学するらしくてな、お前に友人になってもらいたいそうなんだ……わかるな、公爵令嬢の友人だ、しかもネストレス公爵は我が家にとっても重要な友人だ……頼むぞ」
ネストレス公爵令嬢、確か悪役令嬢ってやつじゃなかったかなぁ、厳密には主人公と同じ男を狙った仲、なんだが悪辣な部分が多くてね、ワガママで遠慮ない暴君だからね、俺がそいつの友人? しかも格が高いから断れないと来た。
と言うかその話が上がっててなんで魔法学校に入れてくれなかったんだよ。
と、敬語フィルターに通して父に聞けば返ってきたのは困り顔。
「むぅ……ネストレス公爵は世話になっているが……お前は我が家の長男だ、向こうに取られたくない」
「……あ〜」
「とは言え、だ、学友として仲良くしてやってくれ」
そうかぁ悪女様と友人やりながら主人公たちの物語へ飛び込むのかぁ。
戦闘力がもっと欲しかったなぁ! TS魔法がせめて身体能力上昇だったらなぁ! 火の着いた導火線が見えてるのに爆弾持ち歩かないといけないのかぁ!
と言うことを入学式直前まで考えていた俺だった。