やぁ皆、エラインだよ、偉いからエライン、何つって!
よし、掴みは絶好調だな。
今はストルフォア魔法学校へと向かう道中を馬車でゆったりと進んでいるところだ。
これを読む皆、馬車はすごくいいぞ、忙しい現代人に足りないのは暇な過程をどう楽しむかだ、つまらないからと暇をカットしてしまうと、何が無駄なのかを考える余裕すら無い、馬車は景色を見ながら揺られて、軽い瞑想ができる。
……やっぱ車の方が速くて楽で良い、どこかの魔法使いが車を作ってくれないかなぁ!
馬車は遅い、今度から乗らない、いややっぱ暇だったら乗るかもしれない。
と言うか現在時刻は朝日も見えない早朝だ、こうなったのも俺のわがままが原因なのだが、わがままを言う場所を間違えたと後悔してるから許してね、誰が許してくれるってんだ
この馬車は爺やが御者をやってくれてる、豪華で性能に優れるこの高級な貴族用馬車もお手の物、流石爺や、俺の爺やすげぇ。
「すぅ……はぁ……早朝ってなんかいいよな爺や」
「そうですか、坊ちゃまは感性が豊かですな、この年になりますと寒さが老骨に染みまする」
「って言いながら平気な顔してるのは誰って話だ爺や」
「元気が取り柄の爺やでございますぞ」
……ご老人のあの有り余る元気、どこから来るんだろうな。
さてと、到着までまだ時間があるようなので脳内会議でも開こうか。
議題は『ネストレス公爵令嬢とどうやって付き合っていくか』だ。
マイアミリア・ハルス・ネストレス、それが彼女の名前である。
因みにハルスと付くのは貴族ですよって証だ、王国から貴族として認められた一族に付けられる、付けられた以上いつ如何なる時も貴族であることを忘れてはいけないと言う特権階級の証であり、枷でもある。
マイアミリアと言う女は物語上の役割としては悪役になるんだろう、彼女は家の命令によってセルヴァン王子にハニトラ仕掛けに来たはずだ、彼女は自分の容姿と立場に絶対の自信を持っていたので当然セルヴァン王子を靡かせることが出来るだろうと思っていた所に……。
我らが主人公の登場だ、主人公たる彼女はセルヴァン王子をゴリラ並みの恋愛力で掻っ攫い恋仲まで突き進んでいく、そうなれば彼女はキレる、荒れに荒れ、主人公憎しで様々な妨害を仕掛けるようになってしまった。
元々のマイアミリアのワガママすぎる性格が災いしてそうなってる風である、全部本人が悪いので庇いようはないんだけど。
セルヴァンの立場で考えると色々慣れてる貴族のハニトラよりもなんか不器用な平民の主人公の方がいいよね、男としては。
と言うのが俺から見たマイアミリアの感想。
「え? こんなのと友達になるの?」
「坊ちゃま?」
「何でもないよ」
俺の目的は主人公がどストレートに誰でもいいからグッドエンドへ向かってくれることなので、セルヴァンルートは安牌の一つ、なんせ王子と結婚して終わりだ、王道ルートだろう。
主人公がどう動くか分からないが、俺がマイアミリアの妨害を抑えつけるだけでセルヴァンルートの確率アップだ。
その押さえつけが難しいんだがね、どうしよっかなぁ。
「爺や爺や」
「何でございましょう?」
「女性の友人との付き合い方って何?」
「難しいですなぁ……ま、過去の経験からいいますと、性別に関わらず共有出来るモノがあれば少なくとも友人として問題ない……ですかな?」
「そうか、共有出来るモノね……」
「聡明な坊ちゃまのことです、きっかけ一つでいかようにも出来ますとも」
「そうかなぁ」
前世では異性の友人少なかったんだよなぁ、なんか付き合い方が分かんないし、話題も全然違うし、いっそ俺が女なら分かり合えたかもって子は多かったけど。
あ、閃いた。
まず俺は男の俺としてマイアミリアに接触し、それとなく付き従えばいい、他の取り巻き同様にしていれば悪目立ちするってことはないだろう。
で、たまに女の俺として彼女に接触し男の俺の評価を聞き出せばいい、他人だったとしてもやっぱり同性とは会話が弾むはずだ、それを利用して男の俺に足りないものをフィードバックして行けば完璧な友人の出来上がりだ。
この時気を付けたいのは、男の俺と女の俺が同一人物だとバレてはいけないこと、バレたら俺の自尊心がミンチになるからね!
でだ、完璧な友人ならマイアミリアだって無視しないだろう、助言という形で主人公やセルヴァンに関わらない方向に誘導できればOK、無理なら主人公が『リブラ』持ちであることを明かして運命レベルで負けヒロインだと知らせてあげよう、それが彼女のためにもなる。
そう、別にセルヴァンルートに主人公が向かわなくとも彼女のハニトラが成功する保証がないのだ、だから親から言われてハニトラするより自由に青春してくれ、見た目は良いから誰とでも付き合えるさ、性格は知らんけどそれも認めてくれる人が現れるよきっと恐らくメイビー。
「坊ちゃま、日が出て参りました……見えましたぞ、ストルフォア魔法学校が」
「良いねぇ、ちょうど良いタイミングだよ、俺も考えがまとまった所なんだ」
「それはよう御座いますな、坊ちゃまに掛かればどの様な女性もイチコロで御座いましょう」
「よせやいガハハ!」
爺やのリップサービスに浮かれてしまうくらいには良い感じに考えがまとまったぜ! いやー綺麗に転生者ムーブかまして世界救っちゃおうかなぁー!!
「…………そこが無自覚な所もお母上譲りですかな」
爺やなんか言った?
◆
到着! ストルフォア魔法学校!
ストルフォア魔法学校は王都や主要都市から離れた位置にある学校でありながら一つの都市のような場所、そう言う事もあってここに住む人々のほとんどは学校関係者なのでセキュリティ面ではかなり優秀だ。
俺としては大きな壁に囲われた中にぎっしり詰まった街があって、その中央に学校がある立地が面白いと思う、なんか侵略を想定してそうな作りなんだよね。
で、肝心の学校を説明しなかったな。
俺の目の前に荘厳華麗な城が、いや校舎が建っている、白い壁、青い屋根、無数に並ぶ窓、三階建てで、しかも中庭もある、グラウンドもある。
校舎はH型で、その中央に高い塔が建っている、窓があるのでそこまで行けるのだろう、眺めが良さそう。
そんな校舎前には入学式へ来たのだろう生徒たちがわらわらぞろぞろとたむろしている、大きく二つのグループに分かれている所を見ると、貴族グループと平民グループなのだろうな。
若干貴族グループの方が人数が多い、その中でも一際人が集まるのは……ああ、
遠目から見てもわかる整った容姿、親しみのある笑顔、金髪碧眼というこの世界での典型的美形なのだが、彼はもう1段上がった上品さすらある。
「いえーい! 皆よろしくな! 俺がこの国の第二王子のセルヴァンだ!」
人の中心に居ることが当たり前って顔してる、陽の者か……なんであんなのが心に寂しさ満ちてるのよっ!
甘やかしたろか?
今は一旦彼のことを無視して、マイアミリアを探さないと、確か彼女は赤毛だ、金髪だらけのこの世界でそれ以外は珍しいんだが……。
「そこの貴方」
「はい、何でございま……あぁ、これは失礼しました」
探し人が向こうから来てくれたか。
立場的に向こうが上なので、俺は一歩下がって頭を下げる
「お初にお目にかかります、マイアミリア様、エライン・ハルス・ジュターゼンと申します」
「ジュターゼン……田舎貴族の……知ってるわよ貴方のこと」
「恐れ入ります」
腕を組み、人を遠慮なく値踏みする目を向ける赤毛の彼女はマイアミリア、悪女になる前の余裕たっぷりの彼女はまだ口が悪くてワガママなだけだ、それってもうアウトじゃない?
「お父様に頼んで貴方を友人にしてもらったのよ、だから仲良くしましょうね?」
「ええ、もちろんでございます」
良しこれでいい、グッドでもバッドでもない、ノーマルな接触だ。
「ねぇ
ん? なんかおかしくない?
「と、言いますと?」
「以前お父様と共に貴女の屋敷へ伺ったことがあるのよ、その時貴女を見かけてね……正体を知って驚いたわ」
……おい、なんでバレてんだ? 俺が女になれるのをなんで知ってんだよ……? 怖くない? そんな見せるような所で俺が変身することないし……覗かれた?
「あの時から私は心に決めていたことがあるの、貴女ののような
えーと、その、え?
「男なんすけど?」
「だから何? 女にもなれるんでしょ?」
──セルヴァン王子を落とさなければ、全部バラすわよ?
この言葉が強烈過ぎて、入学式の事、さっぱり頭に入らなかった。
皆、過程は大事だぞって話、今にこそ必要なんだけど、俺の過程どっかに落ちてない?