私が初めて
お父様と長年付き合いのあるジュターゼン家へと私の顔見せへ訪れた時の事を、よく覚えている。
「ほう、君がね……私はユーステファンだ、こんなナリだが許してくれよ」
「なはは! ユースは昔から細いなぁ……マジで何食って生きてるんだ?」
「……ネストレス公爵、はぁ……ベイル! お前は立場と言うものを分かってない、教育に悪いからもっと真面目にやれ」
「そう言うなよ、顔見せを理由に仕事抜けてきたんだからよ!」
「そこ直せそこを」
いつも気難しそうにしていたお父様が、この日ばかりは楽しそうに、お母様や兄弟たちに見せない顔をしていた。
あとから聞いた話では、お父様とユーステファン伯爵は魔法学校からの付き合いで、ずっと縁が切れなかった変わり者らしい、お互い変わり者で気が合うとお父様言っていた。
「そうだ、ユース、お前の所の坊主はでかくなったか?」
「……む、ま、なぁな……」
「どうした? 歯切れが悪いぞ?」
「いや、まぁ、何と言うかな……もう魔法が使える様にもなったな」
「もう!? 6歳だろ!? ちょっと見せてくれよ!」
「ただ、なぁ、まぁ……うん……大したことはない、見ないほうがいい、見たら目をやられるぞ」
「ほー、雷系統か?」
「ははは……」
このときのユーステファン伯爵の歯切れの悪さは今になってようやく理解できるようになった、あの様な魔法に目覚めた物をどう扱えば良いのか、親としては悩んで当然だろう、ともすれば意味のない争いすら起こしてしまいそうなほど。
だけどこの時の幼い私は同い年でもう魔法が使えるようになった彼に興味津々で、トイレへ行くと偽って、彼を探した。
ユーステファン伯爵の屋敷は広いが、人一人を探せないほどではない、案外、あっさりと見つけられた。
私と同じくらいの年頃の男の子が、屋敷の裏庭にある小さな池の前でしゃがみ込み必死に水面を眺めていた、自分の顔もペタペタと何度も触り、頭を傾げていた。
声をかけようと思い近寄ると彼がこちらを向きそうになったので思わず茂みに隠れた、バレはしなかったが、これが私の始まりとなるとは思わなった。
「ふぅ……やっぱ俺の魔法は変身かぁ……しかもこれか……」
指を鳴らす、それだけの行為で彼は彼女となった。
腰ほどまである艷やかな黒髪、見たことのないカットだが
何よりも、憂いのある鋭い目、筋の通った鼻、光を反射しているかのような白い肌、小さく締まった赤い唇、すべてのパーツは神の手によって整えられ、神も作り上げたことを後悔するような美貌、もはや人外の美がそこにあった。
女神だと思った、私は本気で、本気の本気で、神話に登場する美の女神がそこに居たんだと思い込んだ。
「……美人なのは美人だけど、これかぁ……これかぁ……もっとアイスアンドファイアみたいな魔法が良かったなぁ……」
幼くあどけない顔をしていた男の子が、一瞬で大人びた女性へと変身した、魔法とは理屈を無視した結果の反映だと言うのは今ならわかるが、その時は意味がわからなった。
男は女にならないし、女は男にならない、魔法であっても変わらないと、自然に考えていた。
しかし、もう、そんなことはどうでも良い。
私は彼の持つ、美の信者となった。
あの美を、何処へも行かせてはならない、あの美を、人間の手の届く所で留めておきたい、だから私はあの美に釣り合う何かを探した。
◆
と、言うことらしいですね、マイアミリア本人から聞きました。
いやー、困ったなぁ、転生してから1週間くらいの話だぜそれ、そのタイミングで見られたらもう隠すもクソもないよ。
あーあ、死にて、恥ずかし過ぎる。
「殺してくれ、俺を殺してくれ、美人になるしか能の内男なんだ、殺してくれ……」
「世の女性に教えて上げなさい、喜んでぶち殺されるわよ」
「…………やめときます!」
「ほら、さっさと変身なさい、そしてその美貌を愚民に見せつけるのよ」
「そんな事したら自分で言うのもあれだけどテロだよテロ!」
「あまり叫ぶと人が来るわよ?」
因みにここは宿舎、入学式を終えてからすぐに利用出来るようになったので、俺は部屋を借りて頭を冷やしたかった、のに、コイツ、マイアミリアが部屋まで来て俺にセルヴァン王子とくっつけと催促するんだ。
バカがよぉ! 男と男がくっつくわけねーべ! 俺はノーマルだ!
と訴えてもそんなこと知らないのか、言葉がまるで違うのか彼女を揺るがすことは一切なかった。
ということで馬車の中で組み立てていたマイアミリアとの付き合い方、全部捨てます、あんなものでこの女を動かせるわけがないだろ! もうセルヴァン王子のハニトラやらないどころか俺にしろと押し付けてくるんだからな!
入学式の内容がまるで頭に入ってない、せっかく主人公を探せると思ったのに。
まぁ、これから嫌でも探せるだろう、それに俺がセルヴァン王子とくっつく訳がない、なんならこの状況は利用できる、主人公とセルヴァン王子がくっつく為の当て馬、それが俺になるだけだ。
……さてと、セルヴァンルートでマイアミリアが出てこないパターンが合ったはずだ、よく思い出せ俺。
……そう、アルルリスルートへの分岐だ、アルルリス・ハルス・ベルクベン、セルヴァン王子の友人にして『凍てる仮面』のアルルリス、状況が似ている。
アルルリスルートはセルヴァン王子とアルルリスの間で主人公を取り合う事になる、そこに悪役の概念はない、同じ女に惚れた男の意地のぶつかり合いになる。
だが、肝心の主人公の動きが分からない以上、決めつけるのは止めよう。
セルヴァンルートの悪役が俺にすり替わっただけの可能性もある、これで俺が振られたらコイツ怒り狂うんじゃないか……あっ、やば、これに気づいて良かった。
「変身なさいよ、ほら、ほら」
「困ります、困るんです! 無理!」
「……ふぅん? バラすわよ」
「その切り札早く捨ててくれよぉ……」
マイアミリアの妨害のかわりに俺が出るのは不味い、自慢じゃないが変身すると人外の美になる、APP21とかその辺だから俺は這い寄る混沌の一人なのかもしれない。
変身した姿を俺が見ても軽く惚れそうになる、自分という自覚がないと一生自分にしか好意を抱けない哀れな男になるんだよ俺。
俺がそうならほかの男は? そんな哀れな量産機になるつもりはない、あと男ってバレた時に男子たちの脳みそぶち壊れるんじゃないの?
「気軽に他人に見せられないからね?」
「セルヴァン王子は貴女に釣り合わない?」
「釣り合うも何も俺は男だっての」
「でも女でもある」
「魔法で変身しただけで性自認は変わんねぇですよ」
「普通は一つの容姿に一つの性別しか持たないけれど、貴女は特別なのよ、その美を封印したまま生きているのは人類の損失よ」
え、なんでここまで入れ込んでるの?
あ、俺がこの人の脳を知らずに焼いちゃったからかぁ……幼少の頃に焼けたらもう一生モノだよね、今からでも直せないのか!洗脳的な魔法で!
「あのそろそろ時間ですよ、お部屋に戻られたほうが良いのでは?」
「そうね、今は引くけど、考えとくわ、貴女が変身したくなるような事を」
「やめてくれよ……」
彼女はまた来ると言い残して部屋から出ていった、俺は宿舎に備え付けられたベッドに横になり、恐ろしく深いため息をついた。
「あいつ、同性の自分が一度見ただけでああなってるのに気が付いてないのかよ、絶対男子に見せたらダメだっての、俺のお父様も性癖歪みかけたんだならな……」
お母様、よくお父様を人間の性癖に留めたよな……、グッジョブ母上、ここにも来てほしいくらいだよ。
しかし、ああもうしかしって言っちゃうぜ。
どうにもならない時には変身するしかない、俺とバレないようにだ、主人公の恋愛がスムーズに行くように俺は立ち回りたかったのに、これでは最大級の壁になってしまう。
なんとしてもそれだけは避ける、じゃないと『リブラ』で俺の死の運命が確定するかもしれない、『リブラ』怖いよ〜。
明日は初の授業だ、自己紹介のターンがあるはず、その時が狙いか、主人公を見極め、接触し、まずはセルヴァン王子ルートに落とし込む、ダメならアルルリスルートだ。
それでもだめなら? 残弾は八つあるぞ!