TS魔法ってタイトルだけどまだ使わねぇなコイツ……さっさと使えよ(他人事)
入学式を終えて今日から魔法学校の一年生として授業がスタートする、クラスメイトや教室なんかは入学式のタイミングで書類として渡されていたので助かった、内容何一つ覚えてないもん。
紙を片手に校舎をフラフラあちこちして、先輩たちに聞きながら、一年A組の教室へと辿り着いた。
良かった、一年A組か、主人公が居るクラスだ。
まだ、この段階でルートは確定してないはずだ、好感度は多少上下しているだろうけど、ルートが確定するにはイベントが必要、現実即した言い方だと告白だったりピンチを助けられたりといったぐっと来るやつ。
教室に入る前に気合い入れて、寝ぼけた顔を叩き、目立たないようにゆっくりと入室した。
「おはようー」
「おはようございます」
「おっはよ〜!」
教室では席の近い者同士が軽く挨拶しつつ早速自己紹介に沸いていた、それを聞き流しつつ席を探して、俺の座席は教室の最後列、窓際から一個隣だ。
最後列の窓際って主人公の席になるはず、この世界はリアルだから絶対とは言わないけど。
……非常に不味いんでは、と思うと同時に、ギャルゲのヒロイン好感度メーターこと友人枠に収まるのもいいか、とも思う、『リブラガール』にその枠はいなかった訳だ、原作に居なかった俺が務めてこそだろう。
マイアミリアのセルヴァン落としてこいって圧力は、早急にセルヴァン王子と主人公をくっつける事で回避するしかないだろう。
教室内が会話で賑やかになる間、俺は一人静かに授業開始のチャイムを待った。
ただ待つばかりだと暇なので、一年A組の攻略対象たちを中心に眺めてみる。
まずセルヴァン王子、前の方の席にいる、相変わらず明るく人を惹きつける笑顔で、しかも王族らしからぬフランクさでファンを早速獲得していた、そうファンだ、友人が出来ることはそうそうないのも彼の寂しさの一因かな。
それから横にそれてアルルリス、『凍てる仮面』のアルルリスとは彼の死んだ表情筋を表すのに使われている、何を話しても澄ました顔をしているのでクール系に分類されるが、意外と独占欲というか一途な気質、王の護衛を兼ねているから強いし美形で人気もある、総評するならクールすぎる強引なやつ。
セルヴァンに比べて人は少ないが集まっている、本人はほとんど相手にしてないが、相槌だけはしてる。
あと一人いる、アジェンテ・プリウム、平民の出の彼は魔法の才能が認められて入学してきた。
彼は見た目の印象から気弱で暗い奴と言われるが、根はしっかり者で危険な時は自分よりも誰かを助けられる男だ、普段は見た目の評価通りだが。
気弱な子が気を許してグイグイ来てくれると嬉しい需要が存在するなら彼の事だろう。
平民出身だからか、同じ出の仲間に巻き込まれている、そう、巻き込まれているんだ、彼もまたアルルリスとは違うが相槌だけはしてる。
「ふぅ、いいね」
こんな状況だが、やっぱり物語の登場人物たちと同じ空気、同じ空間で過ごしていると言うのは楽しい、転生してから主人公とエンディングばかりが悩みとして伸し掛かってきていたが……まぁ、そうそう悪い方へ傾かないだろう。
「おはようございます」
しかしながら、マイアミリア、あの狂信者が何か仕掛けてこないでもない、既に想定外が一個できているのが爆弾すぎる、主人公と接点を持つの、実は避けたほうが良いと言う事もあるのか?
「あの、おはよう……ございます? おーい、おーい?」
「んぉ?」
唐突に視界に手が現れた、うわ素敵な手ですね……仕事をしている人間の手だ、しかしケアはしっかりされている。
手が伸びて来た方を見ると、固まった。純朴ながら愛らしい天使がそこにいた。
そして、直感した、この庇護欲を掻き立てるような、それでいて芯がある彼女は間違いない、主人公だと。
「私、エミリア・ロウマスっていいます」
「ぉ……」
にっこり微笑んだ彼女は、あまりにも眩しかった。
これが主人公か、オーラが違うな……確かにきっかけ一つで傾国の乙女になるわ、あかんこの子貴族キラーだ。
主人公、もといエミリアは俺と仲良くしたいらしい、隣の席だから当たり前だが、それを俺は利用させてもらう、違うな、利用させて頂く。
「俺はジュターゼン家の長男で、エライン・ハルス・ジュターゼンだ、よろしく頼む」
握手をしようと手を差し出し、彼女はそれに応じてくれた、こういう触れ合いは貴族として振る舞う俺にとって造作もない、シラフの俺だと挙動不審になりそう。
手の感覚から分かるのはこの子は家事手伝いをよくやっているのだろうと言う事、皮膚が若干硬い、まだ季節的に水が冷たい事もあって少し指が切れている。
こんな可愛い子に傷跡なんて許せん! あと、好感度も稼いで友人枠に収まっておきたいので、ここは一つ俺の魔法の応用を試してみよう。
「エミリアさん、少し手を切ってるな」
「あ、失礼しました、ジュターゼン様……」
「かしこまらなくて良いよ、ここは魔法学校、貴族も平民もない、それよりも手の怪我を俺に任せてみないか、治せる」
「あ、治癒魔法が使えるんですか?」
「似たようなもんかな」
変身魔法は本来本人しか効果がない、しかし俺は抜け穴を見つけた、変身の瞬間触れていたものは僅かに影響を受けるということだ、恐らく魔力が動いてから自己と他者を判定してるからだろう。
で、変身魔法、あれ実は肉体を魔力で置換してるっぽい、詳しくは分からないが、欠損してようが変身魔法使えば腕が生えてくるレベルだと思う、髪を切って変身魔法を使った場合は生えてくるしおそらく間違いない。
俺の指先に変身魔法をちょっとだけ発動する、その余波で彼女の僅かな傷程度は俺の魔力を正常な細胞組織に置換されすんなり治った、これぞ魔力パテ治療ってね。
「ほら、どうかな」
「ありがとうございます、わあ、ホントに魔法学校なんだ……」
「ハハハ、確かに馴染みがないとそんなもんか、ま、これから仲良くしてくれる友人への計らいということで」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
にっこり頂きました、ついでに友人枠ゲットしました、上手く行き過ぎて逆にエミリアさんの将来が不安になってきたよ。
いや、よく考えればずっと他人の将来を不安視してるな俺、今更だわ。
「それであの、その、ジュターゼン様」
「硬いな、そんなに気を使わないでいいのに、気軽にエラインと、エリーでもいいぞ」
「そそそそんな! いつもお世話になってるジュターゼン伯爵様のご子息様なのに!」
「……あん? あ、うちの領民だったの?」
「はい!」
なるほど、だから爺やがあそこまで精細に情報を持ってこれたのか、自分の庭を手入れするような感覚だったろうな爺や、教えといてくれよ爺や。
「だったら尚更、肩肘張らずに行こうか……3年間それが続くと疲れるからさ」
「た、確かに、ではその……エリーさん?」
「いいね、よろしくエミリアさん」
「あ、なら私のこともエミーと!」
「いや、それは出来ないね、ノブレス・オブリージュ的にレディの愛称は回避したい」
「え〜、結構チャラそうなのに」
「君も結構言うなぁ……」
うんうん、いい感じに打ち解けてきたな、これなら友人枠で収まれそうだ、さてと、早速行動に移していこうか。
幸い彼女には予定通り意中の相手が居るようだし?
「所で、エミリアさん、さっきからチラチラと見ているのは……気になるって事かな」
「え、バレました?」
「分かるとも、分かりますとも……セルヴァン王子、気になるでしょ?」
「それはその……まぁなんて言うか〜……えへへ」
……くっ、この子をセルヴァン王子とくっつけようとしているのか俺は! 可愛すぎ、流石主人公可愛すぎ、あざとすぎ、こら、指を合わせてモジモジしない! この可愛いやつめ〜!
ふふ、行ける、セルヴァンルートでエンディング行ける! まんざらでもなさそうだから行ける! やったぜフラ……なんかフラグになりそうだな。
もうちょいと背中押してやるか、乙女の純情を手助けするのも紳士の務め。
「エミリアさんが良ければ、俺が橋渡し役をやろうか?」
「え! ……で、出来るんですか? 王子様ですよね? その、取り巻きの人たちも美男美女ばかりで……私には無理ですよ……」
「バカおっしゃい、あーたの魅力でイチコロよ」
「誰ッ?!」
もう、俺も魔女帽子みたいなカツラかぶろうかな、徹男の部屋ってことで、エミリアさんに限り無敵の恋愛相談をしてあげますってね!
「まずは取り巻きを引き剥がして、それからセルヴァンと二人きり、ってのが良いのか?」
「いきなり2人きり!?」
「それもそうか……ふむ……」
原作はどうだったかな、2人の出会いはどうだったかな?
セルヴァンルートの導入を思い出してみる、言ってしまえばメイン攻略対象だから序盤では一番多くの出番がある、何するにしても王子と言う身分が役回りとして使いやすいってことなんだろう。
セルヴァンと主人公エミリアは入学してからの出会い、エミリアがセルヴァンの人柄の良さに友人のような好意を寄せる、セルヴァン側は有象無象のファンの一人として認識していた、まるで羊飼いのように人を動かせる彼にとって単なるファンは名前も顔も覚えるまでもないのだろう。
そんなセルヴァンが、エミリアを個人として見始めたのは、彼女の心からの謝罪だったかな。
上っ面だけの友情を作り続ける彼を見てエミリアは、ごめんなさいと謝罪をした、友人になるには私では足りないと、そして去ろうとした。何という、いい子なんだ。
だが、心の内を見抜かれたような感覚に陥った彼は、初めて彼女の事を認識するに至り、改めて友人にならないか、そう言って一旦幕を下ろす。
ああ、出来ればこの目で見たいシーンだ。
「エリーさん、あ、あの……そんなに見つめられても困ります……?」
どうにかして一発でセルヴァンの友人枠に彼女をねじ込みたい、彼女の為に、俺の為に、世界の為に。
……あ、閃いた。
「セルヴァン王子ともなれば押しても引いてもびくともしない、硬い扉みたいなものさ、ならその扉を開けさせるための
「合言葉?」
「セルヴァン王子の気を引くキーワードだよ、使える単語は恐らく……『友人』だ」
「友人……? セルヴァン王子には一杯いますけど……?」
「心から友達と呼べる人間がどれだけいるかなんて、本人しか分からないよ……で、俺の予想ではセルヴァン王子は割とその友人が少ないと思うんだ、だからその単語は揺さぶりに使える」
答えから逆算する過程、これほど簡単な問いもない。
「“セルヴァン王子って友達少ないですよね、友達になりませんか? ”って言えばいいのさ、これはあんまりにも単刀直入だが」
「えっ、私の声?!」
「俺の魔法はこういう事なら応用が効くんだよ」
俺の変身魔法は女性限定だ、更に変化の振れ幅も小さい、声帯くらいならかろうじて可能だ、顔や体は無理だ、つくづく使いにくい、パーティグッズ並みの魔法だよ。
「さて、打ち合わせだ、原稿も必要かな、君が望むなら衣装も貸そうか?」
「え、え、え、え? あー、はい! やります!」
おお、何も分かってないけどとりあえずやる気だけはあるよって顔だな、その心意気は素晴らしいので、やる気にさせた俺も責任重大だな!
3日後、俺の提案した計画を実行に移すことになった。