剣一つあれば良いと言ったな? 作:【風車之愚者】
□■【魔剣聖】ソード
ソードです。
森の中で倒れてます。
ソードです。
自力で動けません。
ソードです。
手も足も出ません。
ソードです。
助けを呼ぶ声が出せません。
ソードです。
というか手も足も口もありません。
ソードです。
<エンブリオ>が孵化したら剣でした。
誰かに運んでもらわないと動けません。
ソードです。
デンドロ
ハードモードにも慣れました。
ソードです。ソードです。ソードです……。
ふざけてる場合じゃねえわ。
急いで新しい所有者を探さないと。
このままでは野晒しで錆びてしまう。
『Gu?』
だからな、通りすがりのゴブリンくん。
俺を手に取れ。頼むから持ってくれ。
よーしよしいい子だ。その調子。
『GuGyaGya!』
おいコラ闇雲に振り回すな。
もっと丁重に扱えやダボ。
『ha?』
いや待て。ナマ言ってすんませんした。
だから鼻クソほじった手で触るのやめて。
パンツに突っ込んだ手はそのまま戻して。
地面に落ちてるクソはそのままに、な?
『GyaGu、dada!』
うおぉぉぉぉい!?
ツンツンすな! アホか!? アホだわ!
あー! いけません駄目です(暫定)ご主人様!
ご無体な! 殺生な! んぐあーっ!?
◇
ソードです。
遊んで捨てられました。
ソードです。
汚れちまった悲しみです。
ソードです……。
◇
アホご主人様に捨てられて半日。
そろそろ本格的に危機感を覚える。
誰か来てくれないかな。来ないな。
当たり前なんだよな。森の中だし。
一人で動けない俺が森にいる理由?
前の所有者が運んでくれたのよ。
正確には前々所有者か。前のクソゴブリンをカウントするかは議論が分かれるところだが。
誰とも話せないと脳内ひとりごとが捗るぜ。
前々所有者は悪くない奴だった。
やっぱり<マスター>がいいよな。
そんで女の子だったら最高だ。
今からでも回収しに戻ってこーい。
「これは……」
うわまじで来た。
茂みから女の子が現れた。
背中に羽が生えているから妖精さん?
だが、身長は人間と同じくらいだ。
手のひらサイズがデフォルトの種族にしては超大柄だと言えるんじゃないだろうか。
「冒険者の遺品か? だが贅沢を言ってもいられん。悪いが借りていくぞ」
彼女は見窄らしい姿だった。
傷ついて汚れて弱っていた。
だが、立ち振る舞いはとても綺麗だった。
「寄る辺の無い私には、剣一つあれば良い」
『マジ? やったー! 新しいご主人様だー!』
「ッ!」
妖精さんは飛び上がって周りを見渡した。
『おー聞こえてるね? いやよかった! やっぱ握ってもらうなら美少女に限るわ!』
「何だ? この低俗で品の無い声は」
『新ご主人様ひどくね。オレオレ、ここよ俺』
「剣が念話を……魔剣の類いか」
『インテリジェンスウェポンってやーつ。そんな感じでよろしく頼んます』
俺の《念話》が聞こえるのは所有者だけ。
だから手に取ってもらう必要があった。
『早速で悪いんだけど、最寄りの街に運んでくれん? 妖精さんティアンでしょ。正式なご主人様としては選べないかなーって思ってぇ』
人間相手なら交渉ができる。
とりあえず最寄りの街に行って、次の所有者を探してくれたら十分です。
没交渉で捨てられるとゴブリンの二の舞なんで、妖精さんを説得しないといかん。
『大丈夫。俺は良い剣だから! 信じて! トラストミー! プリーズギブミーチョコレート!』
「……」
『あ、これダメなやつ?』
彼女、うさんくさいって顔してるわー。
別に命とか魂とか吸わないよ?
「……街には戻れない」
妖精さんは俯いた。訳ありのご様子。
決して俺の説得がカスだからじゃないはずだ。
『妖精さん。お名前は?』
「名は、捨てた。今の私は何者でもない」
『なら妖精剣士さん。略して妖精さんね』
「何が『なら』……? 略してもいないが」
細かいことはいいじゃんね。
俺のご主人様はすべからく剣士だぜ。
だから妖精の剣士で妖精剣士さんだ。
『俺はソード。またの銘を……っと、その前に』
近づいてくる敵の気配がする。
なぜなら《殺気感知》が反応した。
「しまった。追手か」
『追手?』
「何でもない。剣よ、しばし貴様を使わせろ。丸腰では些か心許ないのでな……」
【クエスト【共闘――妖精剣士 難易度:四】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
敵は一人。
プレートアーマーの騎士。
特徴は身の丈を超える巨大な両手剣だ。
いやデカすぎんだろ。よく装備できるな。
本人は妖精さんと変わらない体格なのに。
「よりにもよって貴殿か。【
「こちらの台詞ですな。残念ですぞ。おひいさま」
「抜け抜けと……!」
背景事情を知らないやり取りが交わされる。
第三者の感想的に、悪者はあっちっぽい。
明らかに強いのもあっちっぽい。やべえ。
『妖精さん妖精さん。おひいさまって何?』
「……」
『シカト? まあいいけど。あの【巨神剣】って超級職よな。妖精さん勝てそ?』
「剣ならば黙っていろ」
うーん。戦うのは別にいいけど。
妖精さんに死なれると困るな。
また所有者不在で野晒しは嫌でござる。
『妖精さん妖精さん』
「折るぞ」
『ちょい待ち。判断が早い』
俺が折れたら妖精さん素手じゃん。
勝ち筋を自分で潰しにいくのはやめよう? 本当によろしくないと思います。
『手伝おうか?』
「……何のつもりだ」
『いやだから言ってるべ。どこでもいいから街に運んでほしいのよ。妖精さんに死なれると困るわけ』
「私でなく奴に頼む事もできよう」
『えー? あれ男じゃん。妖精さんがいいー』
騎士が両手剣を掲げる。
なんか怒ってそう。今の聞こえるわけないけど。
「ふざけるのはよせ。ここは死地だ」
『や、真面目な話。俺は妖精さんがいいの』
だってねえ。
『剣一つあれば良いと言ったな?』
妖精さんは見る目がある。
『――大正解。
なぜってば、俺がいる。
《鉄血炉心》――励起。
「……っ! なんと悍ましい気配」
剣は剣でも呪われた魔剣ってなーんだ。
答えは俺。おーれ、オレオレ。
刃で吸った血液と怨念を解放する。
蓄積したリソースで
其れは
「おひいさま、貴女は……一体どうして何を持ち出したのだ!?」
「っ、私が聞きたい!」
騎士の大剣が唸りをあげた。
重量感からは想像できない速度の振り下ろし。牽制がそのまま必殺になる斬撃だ。
まともに受けたら真っ二つにへし折られる。
だから受けず、いなす。
イメージするものは風に舞う蝶。
しかして折れず軋まず歪まない刃。
あるべき理念を骨子に添え、俺は自分の構成材質を根っこの部分から組み換える。
だが万人にとって最高の剣なんて存在しない。
するはずがない。なにせ戦い方も、太刀筋も、使い手次第の千差万別であるからだ。
『同調開始』
だから妖精さんの『最高』になる。
彼女の体格、重心、筋力、構えの癖。
それらすべてを解析する。
あとは剣の腹で逸らして、返すッ!
「体がひとりでに……」
『システムアシストってやつよ』
しかし、なるほど。こうなるか。
妖精さんにチューニングした俺は。
俺は白銀の片手剣に変形していた。
細身の刃はロングソードとレイピアの中間ぐらいで、美術品みたいな妖しさを纏っている。
耐久性と軽量化を両立した見事な出来だぜ。
『とばすぞ妖精さん。ついて来れるか?』
「無論!」
気合いを入れ直し、大剣と切り結ぶ。
刺突をメインに回避を織り交ぜて。
防御の隙間を縫い、綻びを的確に攻める。
てか妖精さん合わせるの上手くね?
俺は各ステータス強化バフと、速度と身軽さを高める風属性のレア魔法《シルフィード・サークル》で戦闘をサポートしているが。
妖精さん、多分だけど背中の羽で風を読んでるわ。風っていうか攻撃の気配的なやつを。
「速い。そして巧い。ですが」
後手に回る中、騎士は兜の下で嗤った。
「お忘れか? 貴女に剣を教えたのは誰か」
防御を捨てて力を溜める姿勢。
一見隙だらけだが、あの構えはまずい。
『大技が来――』
「《クレセント》」
爆発的に加速した大剣の薙ぎ払い。
たったそれだけの攻撃で
前方数キロをまとめて両断する斬撃。
巨大な剣の扱いに特化した【巨神剣】の技は、水平に三日月の軌跡を刻む。
見てからの防御や回避は不可能だった。
「それは知っているッ」
妖精さんは地面に転がり、横薙ぎの下をくぐり抜ける。這い這いから飛び起きて返す刀を、
「でしょうな。ですが、こちらは?」
――既に。
振り下ろされた大剣が待ち受けている。
◇◆◇
■【巨神剣】について
剣スキル特化上級職【剣巨人】から派生する、巨大武器の取り扱いに長けるジョブ。
身の丈を超える大剣を自在に振るうために上級職から習得できる固有スキルを【巨神剣】は継承する。
それは《ジャイアント・マニピュレーター》。
仮想の補助腕を展開するスキル。
重く不安定な武器を支えるためのものだが、当代【巨神剣】は一歩先の応用を編み出した。
通常、大剣は攻撃後に隙が生まれる。
重量で速度と威力を発揮する武器だ。
遠心力に負けて武器に
物理法則から完全に脱却するのは難しい。
では、支える手を更に増やしたら?
ただ振るうのではなく、振り抜いた武器を即座に引き戻す事ができるなら?
攻撃の途中で太刀筋を変えられるなら?
本来は補助腕……所詮は補助輪でしかないスキル。
それを推進装置、制御装置として利用する。
このスキルならざる技巧を当代【巨神剣】は考案し、自らの四肢より自在に《ジャイアント・マニピュレーター》を駆使するための修練を積んだ。
故に彼の斬撃は縦横無尽。
神速無拍子の切り返し。
さながら、空飛ぶ燕を捉えるように。
虚を突かれた敵は、返す一刀で地に落ちる。
◇◆◇
この攻撃は避けられない。
でも受けたら死ぬ。迎え撃つしかない。
《夢幻の剣生》――起動。
必要なのはジャイアントキリング。
狙うは一撃必殺。致命の刃。
切り札が届くまでの道筋を組み立てる。
そのために仮初の
今回は【魔剣聖】の奥義をベースに。
一振りの《リーダーブレード》を魔改造する。
この国、レジェンダリアに溢れる自然魔力を吸い取ってそのまま出力する形式だ。純粋な魔法属性、あるいは魔力属性とでも呼ぶべき力の奔流。
ただ、俺という剣を通したことで無色の魔力は怨念染みた呪詛が混ざってしまう。
黄昏色の光刃を妖精さんは扱いきれない。
「疾ッ」
『轟!』
直撃はわずかに逸れて【巨神剣】に刺さる。
盾代わりに大剣で身を守るスキル?
くそ、あいつ直前で防御に変えやがった。
お互い攻めてたらこっちの勝ちだったのに。
反撃で妖精さんは崩され、俺を手放す。
「やってくれましたな」
妖精さんは反動で気絶している。
所有者のいない剣は自力で動けない。
「しかし我輩の勝ちは揺るがない。おひいさま、どうぞごゆるりと霊樹の根元に還られますよう」
『妖精さん起きろ! 寝てる場合じゃねえ! ……って装備してないと話せないじゃん!?』
「ガタガタと……不気味な剣ですな」
せめてもの抵抗で小刻みに震える俺。
【巨神剣】は顔を顰めて、傷口に刺さった俺を引き抜こうとする。
彼は剣を握りしめた。
見方を変えるなら、俺を
『《
――ここで切り札をひとつまみ、と。
騎士は血を吐いて膝をついた。
「ぬぅ……!?」
ヨッシャ作戦ど〜り!
『あんた知らねーの? 古今東西、魔剣の持ち主は破滅するんだぜ』
俺はソード。
またの銘を【伴人魔剣 ダインスレイヴ】。
TYPE:フュージョンアームズなる<エンブリオ>と常時融合してる男だ。一刃同体である。
俺の必殺スキルは装備者の命を代価にする。
だからご主人様候補は<マスター>なのだ。
デスペナで済むから。俺はその場で置き去りになり、今回のように地面に刺さるわけだが。
『恨みは無いが死んでもらう。恨んでいいよ』
所有者が二転三転するのはそのせいだな。
歴代所有者の怨念が俺の力になる……!
「おぉ……呪いあれ……災いあれ……」
死にかけの騎士は血涙と共に呪詛を吐く。
「予言の子、世を乱す凶兆よ……お前の行先に平穏は訪れぬ。我ら森の同胞が決して逃さぬ。朽ちよ、滅びよ。霊樹の枝下に集う全てはお前の敵……おぉ……背教者に呪いあれ……災いあれ……」
最期まで騎士は恨み言を止めなかった。
誰も聞いてないけどな。俺以外。
安らかに……は、まあ無理だろうか。
念仏くらい唱えてやろう。なんまんだぶ。
後は追われる身っぽい妖精さんと、一人じゃ何もできない俺が残されたわけだが。
他の追手登場が先か、妖精さんが意識を取り戻すのが先か。はてさて、どうなることやら。